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第二百六十七話 クルセイスの秘密


「グランデイル王国の秘密を知りたいだって? ……残念だけど、彼方くん。僕もその事については、それほど多くを知っている訳じゃないんだよ。僕はあくまでクルセイスによって、良いようにこき使われてきた操り人形に過ぎないんだからね」



 倉持が自嘲気味に首を左右に振った。


 そして、俺にグランデイル王国の内情を話す事に消極的な姿勢をとる。


 どうやら倉持的には、女王のクルセイスの事についてはあまり積極的に思い出したくはない、トラウマだらけの想い出なのかもしれないな。



 ……だが、俺は諦めずに倉持に問いかけ続ける。


 もし、倉持に再会出来たのなら。俺はその事について必ず聞きだそうと心に誓っていたからだ。


「――それでもだ。お前がグランデイル王家の中で見聞きした、世間にはまだ知らされていない秘密の情報や、隠された王家の謎があるのなら、それを全て俺に話して欲くれ。倉持、これは俺達の未来の為にも必要な事なんだ!」



 俺は真剣な表情で、倉持の瞳の奥をじっと見つめる。


 そして倉持の肩を両手をガシッと掴み。至近距離から倉持の目を真っ直ぐに見つめ続けた。


 半強制的に俺に自分の目線を固定されて。しばらく視線を左右に泳がせていた倉持は、俺のストレートな視線からは逃げられないと観念したのか。


 『ハァ……』と小さなため息を漏らしながら、やっと首を縦に振ってくれた。



「……分かったよ。昔から本当に、君のしつこさにはかなわないからね。僕の知っている事を、全て君に教えてあげようじゃないか」



 倉持は、俺が求める全ての要望に応えてくれる事をしぶしぶ約束してくれた。


 よし! やっぱり、俺の対倉持用の得意技――『視線固定』作戦はまだ有効らしい。


 子供の頃に、よく平気な顔をしてすぐに嘘をつく倉持から本当の事を聞き出す為に。俺はお互いの肩に両手を置いて『目線を先に逸らしたら負けゲーム』を、2人でしていた事があったからな。


 どうやらその時の記憶を、倉持もちゃんと覚えていたらしい。

 

 俺は倉持と名取に、俺が今までこの異世界で得た、グランデイル王国についての情報を全て伝えて。いったん3人で情報の共有を図る事にした。


 グランデイル女王のクルセイスは、この世界で最も影響力のあった女神教を裏切り。今は世界征服の野心をむき出しにして、単独で動き出している。


 どうやらクルセイスは、最初から女神教を出し抜く算段をずっと前から計画していたらしい。

 そしてその行動には、過去のグランデイル王家から脈々と受け継がれてきた、何やら不気味な怨念が絡んでいるという情報を俺はククリアからも聞いていた。



 コンビニの守護者である、うちの花嫁騎士のセーリスがグランデイル王城の地下に潜入した際に。異世界の勇者が元の世界に戻る為に必要な『ゲート』の存在をそこで確認している。


 そしてその近くの隠し部屋には、大量の白い(まゆ)が産みつけられていたらしい。おそらくそこで、白い鎧を着た魔法戦士のクローンが大量に作り出されているはずだ。



 今のグランデイル王国は、強力な力を持つ『白アリ魔法戦士(ホワイト・アンツ)隊』を大量に量産し続け。世界侵略への道を、一気に突き進んでいるかのように見える。

 だからクルセイスが何を企んでいるのかを知る事が、俺達にとって最も重要な課題の一つでもあるだろう。



「へえ……随分と、グランデイル王国の内情に詳しいようだね。さすがはこの世界の救世主である、コンビニの勇者の彼方くんだ」


「茶化すのはやめろ。お前と名取はグランデイル王国の内情について、かなり詳しい事を知る事の出来る立場にいたはずだ。特に倉持はクルセイスの元婚約者で、愛人でもあったんだからな。お前は一体、どこまでグランデイル王家の秘密を知らされていたんだ?」



 俺の問いかけに、倉持は神妙に考え込むような仕草をする。


 今の倉持は、グランデイル王国にとっての裏切り者だ。今更、俺を騙して。グランデイルに戻ろうと画策をする事はまず無いだろう。


 何より、倉持と名取は女神の泉に行き、自身達の体にかけられた呪いを、何としても解かないといけない立場だ。

 その為には、どうしてもコンビニの勇者である俺の協力が必要なはずだからな。



 だからこの()に及んで俺を騙して、嘘の情報を伝えてくるという事は無いと信じたい。



「……グランデイル王国に仕えている王族や大臣。そして騎士達の中でも、グランデイル王家の影に隠された情報を知り得ていた者はほとんどいなかったと思うよ。僕は最初、グランデイル王家に仕えていた宰相のドレイクという男と共謀をして、女王のクルセイスを影から操り。グランデイル王国の政治を一緒に牛耳ろうとしていたんだ。でもその時には、今のような世界征服を企んでいるだなんて話は、全く聞かなかったからね」


「……って、やっぱりお前はグランデイル王国の支配を目論んでいたのかよ。国家転覆罪でクルセイスに捕まったのは、ある意味正しかったんじゃないのか? まあ、その話はもう置いておくとして。でも、じゃあ……いつからグランデイル王国は今のような状態に変わってしまったのか、分かるか?」


 俺の問いかけに、倉持は顎に指を当てて。何かを思い出すような仕草を取った。


「それは多分……ミランダ領への遠征を始めた頃からだろうね。正確には、僕がクルセイスに逮捕された、アッサム要塞攻略後の祝賀会辺りから、様子が変わり始めていたと思う。あの時に、僕も初めてクルセイスの本性を思い知らされた訳だけどね。あの頃から王国内部には、白い鎧を着た魔法戦士達が暗躍するようになっていった気がするよ」



 ――そうか。グランデイル王国が、本格的に真の姿を現し始めたのは、ミランダ遠征が始まった頃からという訳か。


 ミランダ遠征では、クルセイスは森の中に集結した女神教の魔女候補生達を――奇襲をかけて多数、暗殺するという行動に出ている。


 つまりあそこで初めて、グランデイル王国は明確に女神教への反旗を翻した訳だ。


 あの戦場でグランデイル軍と女神教は、コンビニの勇者に魔王軍の緑魔龍公爵(グリーン・ナイトメア)をいったん始末させて。その後で、コンビニの勇者が魔王に変貌し。

 バーディア帝国の戦車隊を暴走させて、連合軍に多数の犠牲者を出させた――という筋書きを共同で企てて動いていたはずだ。



 まあ、実際には緑魔龍公爵は3人娘達が倒してくれたんだけどな。アレはマジで凄い、本当に大金星のような奇跡だったと思う。


「つまり、ミランダでの戦場に入るまでは、クルセイスは女神教にまだ歩み寄る姿勢を持っていた。おそらくギリギリまでは、枢機卿とも連携をして連絡を取り合っていたはずだ。……でも何かのキッカケがあって、その考えを途中で変えたのかもしれない。それこそ俺だけじゃなく、あの混乱した森の中で女神教のリーダーである枢機卿まで始末してしまおうとクルセイスが、密かに画策するほどの状況の変化があったのだと思う」


「参考になるかは分からないけれど。ちょうどその頃に、クルセイスの親衛隊を現在率いている、薔薇の騎士のロジエッタという女性がグランデイル軍に参加してきたのを憶えているよ。彼女が来てから、クルセイスは人前に姿をあまり現さなくなったからね」


「薔薇の騎士のロジエッタだって!? そうか……!」



 俺の頭の中で、バラバラに散らばっていた点と点がピタリと繋がって。一本の線になるのが感じられた。


 そうか、なるほどな。あの太古の昔から生きる混沌の魔女のロジエッタが、クルセイスに何か入れ知恵をしたのかもしれない。



 ロジエッタは、この世界を大混乱に導こうとしている奴だ。


 どうすればこの世界に住む人々を、より深い絶望と混沌に陥れる事が出来るのか。そんなふざけた目標を達成する為に永遠に生き続けている、正真正銘の『災厄の魔女』だ。


 そして不老の魔女でありながら、今は女神アスティアとも敵対しているみたいだからな。


 おそらく彼女は過去に存在したコンビニの大魔王の事や、女神教の枢機卿の正体をクルセイスに話した可能性がある。


 元々、グランデイル王家に代々受け継がれてきた、隠された野心を胸に秘めていたクルセイスは、きっとこのタイミングで女神教と決別する事を決めたのだろう。

 それか、クルセイスの親分である白アリの女王がそう指示を出したのかもしれないな。



「くっそ……! あの薔薇の魔女が絡んでいるのなら、全て納得がいく。この世界にコンビニの勇者が2人も存在している今が、あの魔女にとって最も世界を混沌に陥れる事の出来る最大のチャンスなんだろう。ずっと影で暗躍をするだけだったロジエッタが、急に世界の表舞台に出てきたのも納得がいったぜ……」



 だが、例えロジエッタが裏でクルセイスをそそのかしたのだとしても。

 元々、クルセイス自身にこの世界を支配しようとする野心がなければこの話は成り立たない。


 やはりグランデイル女王のクルセイスが、どのような人物なのか。その事についても俺達はもっと詳しく知らないといけないみたいだな。



「……なあ、倉持。お前はクラスのみんなの中で、一番クルセイスに近い場所にいた存在だ。お前が知っている、クルセイスのプライベートな事についてを俺に詳しく教えてくれないか? 例えば普段、クルセイスはどんな事を話していたのか、とかさ」


「あのクルセイスの内面を深く知りたいだって? アイツはただの拷問好きな化け物さ。人の腹をナイフで生きたまま引き裂き、その中から取り出した(ちょう)で、相手の首を絞めて殺すような最低最悪なサディストだからね」


「それは、マジでドン引きするレベルだな……。そんな殺され方をして死んだ奴は、きっと死んでも死に切れなかったろうな。もし俺がそれをされたら、あまりの恨みで化けて出るレベルだぞ」


「――いや。その殺され方をしたのは、この僕だよ。ほら、僕は殺されても生き返れる不死の能力があったからね」



 倉持の衝撃の告白に、一瞬だけ目が点になる俺。


「……は? えっと、そのエグい殺され方をクルセイスにされたのって。倉持……お前自身なのかよ。お前、本当にめちゃくちゃ酷い事をクルセイスにされてたんだな。マジで精神状態が心配になるレベルなんだが……」


 生きたまま、お腹を引き裂かれて。

 その中から取り出した腸で、相手の首を絞め殺すって一体何だよソレ……。まんま、猟奇系のホラー映画じゃないかよ。



 倉持に対して、そんな恐ろしい事をしておいて。


 ミランダの戦場で再会した時には、俺に対して『コンビニの勇者様、あなた様の帰りをお待ちしておりました!』なんて平気な顔で言ってきやがったのかよ、あの女は。


 正直あまりにもサイコパス過ぎて、流石に俺もついていけないぞ。


 そんな俺の哀れみの視線を感じたのか、倉持はまた前髪を颯爽とかき上げて。フンと吐息を漏らしながら、自虐的に話してきた。



「……まあね。君に同情して欲しいとは全然思わないけど、僕があの女に好き放題に痛ぶられていたのは事実だよ。あの女は最初から全てを知っていて、僕達を騙していたんだ。君も僕も、クラスのみんなも。まんまとあの女の演技に騙されていたという訳だよ」


「なあ、倉持。一番肝心な所なんだが……。クルセイスは二重人格というか、表面に出ているグランデイル女王としての姿とは、別の内面が裏に潜んでいるって事でいいのか?」



 俺はずっと疑問に思っていた事を、倉持に尋ねてみた。


 今はその能力を失ってしまったようだが。相手の記憶の一部にアクセスする事の出来る『共有(パートナー)』の能力を持っていたククリアが、クルセイスは表層に見えている人格とは全く別の一面があると言っていた。


 ここにいる倉持は、クルセイスの元愛人でもあった奴だ。ある意味、クルセイスのプライベートに至るまで、俺達の知らないクルセイスの隠された内面を知る事の出来る、唯一のポジションにいた訳だからな。


 それこそ、クルセイスの性癖から猟奇的な趣味に至るまで。何でも知る事が出来ただろう。



「まあ、そうだね。たしかにクルセイスには2つの人格がある。だが、それは二重人格とは少しだけ意味合いが違うんだ。彼女は『潜在者(ポテンシャル)』という遺伝能力(アンダースキル)を持つ能力者だ。表に出ている純真な少女の一面も、潜在意識の中に隠されている真の姿も、全てが彼女自身の本当の姿と言っていい」


「つまり、表のクルセイスも、裏のクルセイスも。全てが本物であり、1つという訳なのか。だが……その真の能力は、潜在意識に隠された影の人格の方が所持している。そうなると、表層に出ている純真なクルセイスの人格は、真の姿を隠す為の隠れ(みの)みたいな感じなのか? 例えばネットでメインアカウントの存在を隠して、裏で活動をしているアイドルのサブ垢みたいなものか?」


「うん。頭の出来の良くない彼方くんにしては、いい例えを思いついたものだね! それが一番あの女の内面を表現するには近いだろうね。メイン垢もサブ垢も操っているのはクルセイス自身だ。でも、メインのアカウントには100万を超えるフォロワーが付いていて、絶大な拡散力と攻撃力が備わっている、大インフルエンサーだと思ってくれていいだろうね」


「分かった。その潜在者(ポテンシャル)である真のクルセイスは今、一体何を考えて行動をしているのか。それがお前には分かるか?」



 倉持は少しだけ考え込むような顔つきをして、コンビニの事務所の床をじっと見つめる。


 そして、何かを思いついたように。俺に向けて語り出した。



「……これは僕の推測も混じっているんだけどね。おそらくグランデイル王家には、『遺伝能力(アンダースキル)』を持つ女王を最重要視する風潮が昔からあったのだと思う。そして、遺伝能力を持つ選ばれた女王だけが入る事を許された、秘密の場所が地下に存在していると、王宮の中で噂になっていたのを聞いた事があるよ」


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