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第二百五十七話 倉持との再会


 俺とククリアのいる部屋に大急ぎで入ってきたカラムさんが、衝撃的なニュースを知らせてきた。



「あの倉持が、俺との会談を求めているだって?」



 俺は思わず、その場で黙り込む。

 そして決して多くはない脳細胞をフル回転させて、全力で知恵を絞り出そうと必死に考えた。



「確かに……バーディア帝国領に侵攻している、グランデイル軍を指揮しているのは、あの倉持だと聞いていた。だからいつかは、倉持と対峙する事があるだろうとは思っていたけれど。まさか向こうからこっちに声を掛けてくるなんて、流石に予想出来なかったぞ」


「コンビニの勇者殿。『不死者(エターナル)』の勇者がコンビニの勇者殿がこの城にいる事を既に知っていたのであれば、何かしらの罠が待ち受けている可能性もあります。ここは慎重に考えて行動をした方が良いと思います」



 うん、ここはククリアの言う通りだ。


 コンビニの勇者がバーディア帝国領に滞在している事は既にもう、グランデイル王国にはバレている。


 帝都で俺は、薔薇の魔女のロジエッタと直接対面をしている。だから彼女から既に、グランデイル王国の本部には、コンビニの勇者が帝国領に出現したという連絡は入っているだろう。


 だが――この旧オサーム領。今はその息子のカラムさんが統治している場所に、俺が滞在している事までは連中も分かっていなかったはずだ。



 それなのに、倉持の奴が名指しで俺を指名してきているという事は……。


 もしかしたら倉持の方でも、俺の行方を独自に追っていて。帝国領内で様々な偵察活動を密かに行なっていたのかもしれないな。



「仮に俺が要求通りに、倉持との会談の席に向かうとして。問題はそこで俺を待っているのは、本当に『倉持だけ』なのかどうか……という事だよな」



 敵の陣で待ち構えているのが、あの倉持だけなら何も脅威は無い。


 昔はともかく、今では『不死者(エターナル)の勇者』と『コンビニの勇者』では、あまりにも実力に差があり過ぎる。


 上級魔法を多少扱える程度の倉持と、この世界の全てを制圧出来るほどの実力を兼ね備えた、最強のコンビニの勇者とでは……勝負にもなるはずもない。



 だが、倉持のバックにはあのクルセイスが付いている。そしてグランデイル南進軍には、薔薇の魔女であるロジエッタも控えている。


 太古の昔から生き続けている魔女のロジエッタは、おそらく他とは比べられない程の、別格の強さを持っているはずだ。

 倉持の軍勢がどの程度の戦力を持っていたとしても、あの薔薇の魔女さえいなければ何とかなると思う。



「どうしますか、コンビニの勇者殿?」


 ククリアが先に、俺の考えを尋ねてきた。


「そうだな……。ここはいったん、俺が飛行ドローンに乗って敵の様子を探りつつ。倉持に会ってこようと思う。もちろん周囲に監視ドローンを飛ばして、敵が少しでもおかしな動きを始めたら、全力で撤退出来る用意は整えておく、というのが大前提だけどな」



 当たり前だが、この会談にティーナを一緒に連れていく事は出来ない。


 朝霧が俺に話してきた内容、俺の大切な仲間が死んでしまうという『叙事詩(ポエマー)』の勇者からの警告。

 いいや、アレは警告ではないな。確定した未来を知っている神様からの『予言』なんだ。


 ここで俺が下手な行動をしたり、少しでも油断をすれば……。ティーナは確定された『死の運命』に飲み込まれてしまうだろう。


 つまりは、朝霧から未来の情報を教えて貰った俺が、本来の規定の行動から外れ。何か予想外な別の行動を取らなければ、『ティーナの死』という未来は予定通り現実になってしまう可能性があるんだ。


 今回の会談に関しては、倉持の思惑が分からないうちは……。ティーナを危険な場所に一緒に連れていく事は出来ない。

 逆にティーナを連れて行く事で、人質に取られてしまう危険性だってあるからな。


 かといって、倉持の提案を無視してずっと城に引き篭もっていても、結局は何も情報が得られず状況を不利にしてしまうだけだろう。


 今回は現在のコンビニメンバーの最大戦力でもある俺が偵察をかねて、一人で城を包囲している倉持に会いに行くのが得策だと思う。



 ティーナには、このカラム城に残って貰おう。


 だとすれば、俺の不在の間にティーナの身を誰かに守って貰う必要がある。現在この城を守備している味方の中で、最も頼りになる存在といえば……。



「――ククリア。実は俺の不在の間に、ティーナの命が敵に狙われてしまう可能性があるんだ。だからククリアには、ティーナの事を常にそばで守っていて貰いたいんだけど……頼めるかな?」


「ティーナさんの身に命の危険が……? それは、どういう事なのですか、コンビニの勇者殿?」



 俺は昨晩、元クラスメイトであり。黄色いチューリップの怪しげな神様でもある、朝霧冷夏(あさぎりれいか)に出会った経緯をククリアにだけは話しておく事にした。



「……なるほど。それで、食堂でコンビニの勇者殿の様子がおかしかったわけですね。分かりました。もし、そういう事情があるのでしたら、ボクは全力でティーナさんの身を守らせて頂きましょう」


「ありがとう、ククリア。本当に助かるよ……」


「ですが、ティーナさんに迫る死の危険の情報は、どこまで他の皆様に共有致しますか? コンビニの勇者殿」


「えっと、それはだな……」


 ティーナの身に迫っている危機は、あくまで俺の予想でしかない。大切な仲間を失うという朝霧の情報から、俺がそう推測をしているだけだ。



 そして、この事をあまり多くのメンバーに共有してしまうと。逆にティーナの身に危険が及ぶ可能性もあるだろう。



 例えば……もし、この城の中に、ティーナの命を狙おうとする暗殺者が潜んでいた場合。

 俺達がティーナの身に迫る危機に対して警戒態勢を強める事で、逆に計画の実行を早めるなどの強硬手段に出てしまう可能性だってあり得る。



「この情報に関しては、とりあえず俺とククリアの2人だけで共有しておこうと思う。必要最低限以上の人間には、この事は漏らさない方が良いと思うんだ……」


「分かりました。そこに関してはボクもコンビニの勇者殿と同意見です。身内に敵が全くいない……と完全に保証されている訳でもないですからね。少なくとも、コンビニの勇者殿が不死者の勇者と会談をしている間は、常にボクがティーナさんから目を離さないようにしますので、安心して下さい」


「……すまない。本当に助かるよ!」



 俺は少しだけホッとして、胸をなでおろした。



 ククリアは冬馬このはに仕える、紫魔龍公爵パープルインテリジェンスの力を引き継ぐ者だ。現在のコンビニチームの戦力の中では、俺に次いで最も頼りになる存在だと思う。そんなククリアにティーナの護衛をして貰えるのなら安心だろう。



 もちろん、万が一に備えて。コンビニ支店もここに残して置く事にする。


 城に迫るグランデイル軍との距離はそんなに離れてはいない。いざとなれば、コンビニの通話機能でやり取りも出来るし。要領の良いティーナなら、コンビニの地下シェルターに逃げるという選択肢もある。



 現在、コンビニ支店の地下シェルターには、ミズガルドやフィートには内緒にしているが――。『動物園(アニマル・ズー)』の魔王である、冬馬このはの体も隠してある。



 ククリアは地下シェルターの警護を、誰よりも厳重にしてくれるだろうし。きっとティーナの事を任せても大丈夫だろう。



「よし、じゃあ早速行ってくるとするか。久しぶりの再会となる妖怪倉持の所へ!」



 俺はククリアとの話を終えて。

 食堂にいるみんなにも、その内容を伝える事にした。



「――彼方様、本当に大丈夫ですか? くれぐれも、無理だけはしないで下さいね!」



 俺がグランデイル軍の中に単身でのり込み。敵軍の総大将と直接会談する事を聞いたティーナが、心配そうに俺に声をかけてくる。


「大丈夫だよ、ティーナ。むしろ俺がいない間に何かあったら、すぐに俺のスマートウォッチに知らせて欲しい。その役をティーナに任せちゃうけど、頼まれてくれるかな?」


「了解しました。フィートさんや、アリスさん達と一緒に、彼方様の帰りをお待ちしていますね!」



 ティーナはいつも通り天使の笑顔で、俺を送り出してくれる。その顔をしばらく見つめて、俺は少しだけホッとする事が出来た。



 さすがに朝霧の警告を、ティーナ本人には伝えられない。

 だから、ここは何としても……俺がティーナのこの笑顔を守り抜かないといけないんだ。



「……彼方、城を包囲している敵の軍勢はおよそ3万人くらいよ。決して多い数ではないわ。こちらには1万人の兵力が待機している。だから危険だと思ったら、すぐに城に引き返してね」


 ミズガルドも、心配そうに俺に話しかけてきてくれた。


「――分かった。大丈夫、無理はしないさ。今回は古い知り合いに会ってくるだけだし、危険がありそうなら、急いで城に引き返すよ。だから安心して、ここで待っていて欲しい」


「うん。でも、もし彼方の身に何かあった時は、私が必ずグランデイル王国を攻め滅ぼしてみせるから。バーディア帝国はいつでも、コンビニの勇者の力になるんだという事を帝国の皇帝として約束させて貰うわ。だから彼方も困った事があった時は、いつでも私を頼ってね!」



 ミズガルドがそっと俺の手に、自分の手を重ね合わせてくる。

 そして笑顔で、俺に優しく微笑みかけてくれた。


「ありがとう……ミズガルド。じゃあこれで、コンビニ共和国とバーディア帝国の正式な同盟関係は成立だな。コンビニはいつでも帝国の力になるし、夜月皇帝(ナイト・エンペラー)を退けて、ミズガルドが正式な皇帝としての地位を確立するのを俺は全力で支援させて貰うよ!」



 俺はミズガルドと、がっしりと固い握手を交わす。


 最初の想定とは、少し違った形に変わってしまったけれど。帝国とコンビニ共和国との関係はこれで安泰だ。


 少なくとも俺とミズガルドとの間には、確実な形で信頼関係が築けたと思う。俺が帝国にやって来た目的の一つ。バーディア帝国とコンビニ共和国との間に、強固な同盟関係を結ぶ事。



 それが今――確かに達成出来たのを俺は実感した。



 固い握手を交わす俺の耳元に。

 ミズガルドがそっと自身の口元を寄せてくる。


 そして他の人には聞こえないような小声で、俺にそっと告げてきた。



「彼方は、やっぱりティーナさんの事が心配?」


「えっ? そ、それは………」



 俺がしどろもどろに狼狽(うろた)えるのを見たミズガルドは、クスクスと小さく笑ってみせた。


 どうやらミズガルドは、俺が必要以上にティーナの事を心配そうに見つめている事に、朝からずっと気付いていたらしい。


「大丈夫よ。私が必ず彼方の大切なティーナさんを守ってみせるから。私は……物分かりの良い女だから、心配しないで! 彼方が好きな人は私が命懸けで守ってみせるわ。何か困った事があったり、辛くて苦しい時はいつでも私を頼ってね。私はそれで十分だから!」



 左目で軽くウインクをして。ミズガルドがそっと俺の元から離れて行く。


 そして、外に待機している帝国軍の赤い鎧を着た騎士達に向かって大声で呼びかける。


「――皆の者、コンビニの勇者が出陣をするぞ! 敵軍がこの城に押し寄せてくる動きを見せた時は、我らは全力でグランデイル軍を叩きのめす! 一兵たりとも帝国から生きて帰らせはせぬぞ! 栄光あるバーディア帝国軍の力を奴らに知らしめてやるのだ、良いなッ!!」



『『ハハーーーーーッ!!!』』



 皇帝ミズガルドの号令のもと。


 城の城主であるカラム率いる、バーディア帝国の赤い鎧を着た騎士団が大きな掛け声をあげた。


 その大きな掛け声は、おそらく外にいるグランデイル軍にも聞こえたのは間違いない。



 それは皇帝ミズガルドの元に集結している帝国軍の強さと団結力を、城を取り囲むグランデイル軍に知らしめる効果があっただろう。


 もし、半端な気持ちでこの城に押し寄せてくるなら。そして、コンビニの勇者にもしもの事があったなら。ミズガルド軍は全力でお前達を叩きのめすぞ……という強いメッセージをグランデイル軍に対して示してみせたのだ。



「ミズガルド……」



 俺はミズガルドに声をかけたかったのだが、既にミズガルドは鎧を着て。外にいる帝国軍を統率する為に、城主のカラムさんと共に城の正門に向かっていってしまっていた。



「へっへっへ〜、変態お兄さん頑張ってきてね〜! あたいはアリスたんと一緒に、マッサージ機に座りながらまったりここで帰りをまってるからにゃ〜!」


「コンビニの勇者様、どうかご無事で戻ってきて下さいね!」



 もふもふ娘のフィートと、黒髪のアリスも俺に声をかけてきてくれた。


「……ああ、フィートもアリスもありがとう! 俺、ちょっと行ってくるよ。お土産は持ってこないけど、ちゃんとここで2人とも良い子にして待ってるんだぞ!」


「にゃ〜!? グランデイル軍の食糧庫から美味しい魚をゲットしてきてくれるんじゃないのかにゃ? お土産がないなら、あたいのテンションはだだ下がりになっちゃうにゃ〜」


「分かったよ。倉持に特上寿司でも握らせるから、期待して待っててくれよ、フィート!」



 俺はみんなに手を振って。飛行ドローンに乗り、真っ直ぐに城の正面に陣取るグランデイル軍に向かって飛んでいく。



 そして、すぐに敵陣の中央に位置する……おそらく倉持がいると思われる、白い陣幕の近くに降り立った。



 空から颯爽(さっそう)と降りてきた俺に対して。グランデイル軍の騎士達は、誰も手を出してはこようとはしない。


 それどころか、ざわざわとざわめき合い。

 まるで俺から逃げるようにして、遠ざかっていった。


 どうやら、コンビニの勇者が相当ヤベー奴だという噂は、グランデイル軍の中にも知れ渡っているようだな。

 俺もその方が余分な戦いをせずに済むので助かる。



 グランデイル軍の密集する陣の中を、俺は堂々と歩いていき。たぶん、偉そうな奴が潜んでいそう白い陣幕の中に入り込んだ。



 すると、その中で俺を待っていたのは――。



「これはこれは、コンビニの勇者の彼方くんじゃないですか。ずいぶんと久しぶりですね……お待ちしていましたよ」


 

 偉そうな黄金の椅子に座って。


 ドヤ顔で腕を組みながら、俺をまちかまえていたのは。『不死者(エターナル)』の勇者である倉持悠都(くらもちゆうと)だった。



 そして、その隣には……。



「…………」



 メガネをかけた無言少女。『結界師(ディフェンサー)』の勇者である、名取美雪(なとりみゆき)も倉持のそばに控えていた。



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