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第二百四十八話 幕間 コンビニ共和国の進化


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「生活担当大臣様〜、ちょっと聞いて下さいよ〜!」



「んー? 今度は一体、何だよー!? まーたマンションで何か問題でも起きたのか?」



 コンビニ本店の事務所で、インテリ風の黒ぶち眼鏡をかけながらデスク勤務をこなす『火炎術師(フレイムマジシャン)』の杉田勇樹(すぎたゆうき)のもとに。

 コンビニマンション1号棟の管理人を務める男が、血相を変えて駆け込んできた。



「大臣様、聞いて下さいよ! 2号棟のマンションの奴らがまたゴミ出しの日を守らずに、ゴミ捨て場付近の土地にゴミを置きっぱなしにしていったんです! 大臣様からも2号棟の連中に注意して下さいよ〜! アイツら俺らが何回注意しても、平気な顔してルールを破るんですから!」


「はぁ〜〜、またかよ〜! 分かった、分かった、俺が後で2号棟の管理人には厳重注意をしておくからさ!」


「もう……ホントに頼みますよぉ〜、大臣様ぁ〜〜! じゃあ、私はちゃんとお願いはしましたからね!」



 不機嫌そうに『バタン!』と、白いドアを閉めて。

 1号棟のマンションの管理人がコンビニ本店から出ていく。


 その後ろ姿を無言で見送り、コンビニ共和国に住む住民達のクレーム対応を一手に引き受けている、生活担当大臣の杉田が『ぷはぁ〜〜』と、重過ぎるため息を吐き出し、机の上で思わず両手で頭を抱えてしまう。



「くうぉあぁぁ〜〜!! 何でこんなにも住民同士の揉め事が頻繁に起きちまうんだよぉぉ……! そんなのは全部、当事者同士でジャンケンでもして勝手に解決してくれよ〜! 俺は異世界に、お役所勤めの公務員になる為に召喚されて来たんじゃないんだぞ〜!!」



 コンビニ共和国の住民達が引き起こす問題の、全てを押し付けられ。

 今、現在……共和国内で最もブラックな職場環境にあると噂されている、生活担当大臣専用オフィスのある、通称――『杉田デスク』と呼ばれているコンビニ本店の事務所。


 そこでは24時間不眠不休で、住民達のクレーム相談を受け付ける心優しい大臣が勤務している……というのは、あくまでも建前で。


 深夜に杉田デスクを訪れた住人は、鬼のような形相で頭から溶岩を噴火させている大臣の姿を、何度も目撃した事があると、国中の噂になっていた。


 その為、杉田デスクは現在この世界で最も忙しい、24時間フル稼働の超絶ブラック企業状態と化していたのである。



 以前は杉田の嫁であるルリリアが専任サポーターとして、大臣の仕事を手伝ってくれていた。


 ところが現在、妊娠7ヶ月目に入っていたルリリアは、安静の為にコンビニホテルのスイートルームへと移動している。


 その為、最も信頼の出来る嫁のルリリアのサポートが受けられなくなり。杉田デスクは、効率よく仕事を回す事の出来ない猪突猛進タイプの杉田だけでは、回らなくなってしまっていたのだ。



 その為、ルリリアに変わる大臣の補佐役の確保が、緊急で必要となっていた。


 沢山の候補者の中から、生活担当大臣である杉田が、そのパートナーとして選んだのは……最終的には2人の候補者達だった。



「……あらあら、そんなに頭に血管を浮かべながら仕事をしていたら、疲労で倒れてしまいますよ? 適度に休憩を挟むのは大事なんですからね、杉田さん」



 仕事で多忙を極める、生活担当大臣の座る机の上に。

 

 同じく『杉田デスク』の中で、杉田と共に共和国の生活担当補佐官を務めてくれているソシエ・メルティが、お茶のペットボトルと、ポテトチップスを差し入れてくれた。



「あ、区長さん、どうもありがとうございます!」


 杉田は事務所の中で共に働く、温和で優しい老婦人に感謝の言葉を伝えて頭を下げる。そして行儀悪く机の上に乗っけていた脚を、慌てて引っ込めた。


 生活担当大臣の杉田を補佐する補佐官として。共に住民達の困り事や、クレームなどの対応や相談役を新たにこなしてくれる事になったのは、ソシエ・メルティという名の老婦人だった。


 彼女は住民達から『区長』さんと呼ばれ、親しまれている。


 そう、ソシエ・メルティは元々はカディナの壁外区で住人達のまとめ役をこなしていた老婦人でもあり、街の人々からの信頼が最も厚い人物だ。



 既に10万人を超える人口を抱えている、コンビニ共和国において。区長さんは、元カディナ地方の壁外区の住人達のまとめ役をしつつ、杉田の手伝いもこなしてくれていた。


 そして今では、新たにコンビニ共和国に住み着いた新規の住人達の相談役も積極的にもこなしてくれるようになり。内務仕事に追われる杉田は実に頼れる補佐官として、正式に彼女を杉田デスクの一員に迎え入れて仕事の手伝いをして貰っているのだ。


 温和でほんわかとした、天然の優しさを持つ区長さんに、杉田はいつも癒されっぱなしだった。



 でも、ただ1つだけ気掛かりな事もある。


 区長さんは結構なご年齢にも関わらず――いつもぽりぽりと、コンビニのポテトチップスばかりを食べている事に杉田は内心、冷や冷やさせられていた。


 ポテトは塩分過多なので、控えめにして下さいね……と、それとなく区長さんには伝えてはいるのだが。区長さんは平気な顔をして、ポテトを食べてしまう。


「あら……私はコンビニのポテトチップスを食べ始めてから、体がとっても健康的になったんですよ! 前は足腰がいつも重かったのに、最近はランニングもこなせるようになったんですから!」



 ――と、自信満々に笑顔で答える区長さん。


 ええっと……ポテトチップスって、そんな健康食品としての効能もあったっけか?



 杉田としては、苦笑いを浮かべる事しか出来ない。


 実際に異世界コンビニのポテトチップスには、もしかしたらそういう特殊な効能があったりする可能性も完全には否定出来ないので、区長さんが大好きなポテトについては深く言及出来ずにいた。



 そして、通称『杉田チーム』と呼ばれているコンビニ共和国内の生活担当補佐官職には、もう1人の頼れる新人補佐官が現在は勤務してくれている。



 事務所内にある、地下シェルターの扉が勢いよく開き。床下から褐色の肌をした、健康そうな黒髪の女の子がスッと顔を出した。



「杉田様ーーっ! 地下シェルター内のパソコンで、今月の新規住人1500人分の住民票登録が全て終わりました! ファイルはエクセルで作成して、全て大臣様のパソコンにメールで送信しておきましたので、ご確認をお願い致します!」


「うええぇぇーーっ!? ターニャ、もう新規住民のデータをエクセルで作成し終えちゃったのかよ。いやいや、有能過ぎるにも程があるだろ……」



 地下シェルターの中に置いてあるサブパソコンで、短期間で、完璧に仕事をこなしてしまう砂漠の民の少女。

 黒髪の元気娘こと、ターニャの活躍ぶりに杉田は思わず驚愕する。



 コンビニの勇者である秋ノ瀬彼方(あきのせかなた)が、魔王領から引き連れてきた砂漠の民の一団。


 彼らはコンビニ共和国に到着するやいなや、その豪華絢爛(ごうかけんらん)たる街の繁栄ぶりに、目を見開いて全員が驚きの声を上げた。



「こ……ここは、何という豪華な街なんだ!? 夜でもまるで真昼のように、街中が光り輝いているぞ!」


「ねえ、見て見て〜、お母さん〜! 街の中をたくさんのお水が流れているよ〜。空から雨が降ってきた訳じゃないのに、こんなに綺麗なお水がいつも溢れているなんて、本当に凄いね〜!」


「ああ……これが、神々の住まう街なのか。さすがはコンビニの勇者様の作られた街だ。ここではもう、(めぐみ)の雨を待たなくても、いつでも水が手に入るのか」


「みんな、アレを見てくれ! 何だ、あの巨大な建造物は……まるで山じゃないか!? あのような巨大な建造物が3つも建っているなんて、この街は一体どうなっているんだ?」



 魔王領から浮遊動物園に乗ってやって来た、砂漠の民達。彼らはコンビニ共和国が誇る、巨大なコンビニマンションを見て。

 そのあまりの迫力に、全員が腰を抜かしてしまった。


 何世代にも渡って、魔王領の砂漠の中だけで生き続けてきた彼らにとって、コンビニ共和国は近代的な電気設備と水道設備と、下水施設をかね揃えた超近代的な大都市であり。まさに神々の住まう街と、見間違うほどの発展ぶりであったのは間違いない。



 近代的なコンビニ共和国での暮らしに、初めは戸惑っていた砂漠の民達だが、彼らがコンビニ共和国内での生活に馴染むのは早かった。


 それはひとえに、社交的であらゆる分野の知識を瞬時に吸収してしまう天才少女、ターニャの活躍があったからだ。



 ターニャはコンビニ共和国内に移住するとすぐに、水道設備や、街を照らす電気の仕組み、巨大ゴミ箱や、ストーブなどの家電製品の仕組みを完全に理解する。そして、まだ近代的な都市生活に慣れていない砂漠の民に、それらを丁寧に教えて回る仕事をこなしてくれた。


 おかげで新参住人である砂漠の人々は、たったの1ヶ月で、コンビニ共和国での生活スタイルに慣れる事が出来たのである。



 その優れた知性と、コミュニケーション能力の高さを認められて。ターニャは現在、生活担当大臣である杉田の補佐官として、コンビニ本店の杉田デスクの仕事を任せられるようになっていた。


 おかげで杉田は、頼れる補佐官2人に囲まれて。何とか杉田デスクでの仕事をこなす事が出来ている。



 コンビニの勇者の秋ノ瀬彼方とティーナが、バーディア帝国領へと出発し。

 

 カフェ大好き3人娘達や、玉木紗希達がそれぞれグランデイル軍の侵攻を食い止めるべく。各地で戦いを繰り広げていたこの時期――。



 コンビニ共和国は、以前とは比べられないくらいに大発展を遂げていた。


 現在のコンビニ共和国は、『防御壁(アーマー・ウォール)』の勇者である四条京子が作り上げた、水道設備を備えた用水路と、簡易的な下水道が街の地下の隅々にまで行き届いている。


 初期の頃は、カディナの壁外区からやってきた住人達を中心に、おおよそ3000人くらいしか共和国内で暮らしている人はいなかった。

 彼らは主に、コンビニの勇者によって建設された巨大コンビニマンションの中で生活を営んでいた。



 だがその後、共和国の住人の数は瞬く間に増えていく事になる。


 人口爆発の最大の要因としては、グランデイル軍による世界侵攻の影響が強い。


 今、この世界はグランデイル軍の侵攻により、各地で大規模な被害が続出している。戦争によって大きな被害が出た国々を、大量の物資によって支援しているのがコンビニ共和国とドリシア王国だ。


 中でも、無限に物資を生み出す事の出来るコンビニ共和国の物資供給量は凄まじかった。


 日常品、衣料品、食糧品、生活支援物資。

 そして武器の供給に至るまで、全てがコンビニ共和国から世界各地に向けて輸出されていく。


 復興支援に必要な全ての物資を無料で供給し、機械兵であるコンビニガード達を派遣して、破壊された街の復興支援も行う。


 コンビニ共和国によって運び込まれた物資に救われた人々は、この世界で今、最も安全な場所は……コンビニ共和国に違いない。コンビニの勇者様が統治をしているコンビニ共和国こそ、この世界で最も栄えている街なのだと考えるのは当然の事だった。



 その結果、戦争の災害地から凄まじい数の人々が、一斉に共和国に押し寄せたのである。



 人が集まれば、商人も集まる。

 商人が増えれば街も大きく賑わう。


 当初3000人程度だった共和国の人口は――今では、10万人を超える人々が暮らす、大都市へと変貌を遂げている。



 大量に押し寄せた新規住人達の流入によって。共和国の内部にそびえ立つ3棟の巨大なコンビニマンション居住スペースは、すぐに満室状態となってしまった。


 生活担当大臣である杉田は、コンビニ本店のレイチェルに急いで連絡を取り。

 急遽、共和国内にコンビニマンション以外の居所スペースを大量に作り上げる事にした。


 建設能力のある四条が共和国の敷地内に、大量の石造りの住宅地を建設し。街の中には用水路や街路を照らす電球、下水設備などが次々と建設されていった。


 快適なコンビニマンション内の部屋と、同様とまではいかないが。

 街の中に新たに建築された石造りの家々には、コンビニで発注の出来るようになった新型の家電製品が大量に運び込まれている。


 新規住人の為の家には、簡易ベット、机、椅子、カーペット、カセットコンロ、フライパンなどが常備され。


 そして、外の寒さや暑さをしのぐ為に。各住居に、灯油ストーブ、扇風機が1台ずつ標準装備される事になった。


 更には街中に無数に張り巡らされた電線によって、大量の豆電球が、共和国の夜を近代都市のネオンのように、煌々(こうこう)と街中を照らし出す。


 共和国内を流れる水道施設も、大量の明かり灯す電球も。全て3棟の巨大なコンビニマンションから、ホースや電線を繋いで無限供給させている。



 生活担当大臣の杉田、いわく。



「……ホントに彼方の生み出したコンビニマンションって便利だよなぁ。マンション内の水道の蛇口からホースで繋いで、外に大量の水を流し続けても水道代は全部無料(タダ)だし。電気だって無限に供給されてるから、電気代も全て無料だし。つくづく無限の勇者ってのは、チート性能だと俺は思うぜ」



 ――と、彼は親友の秋ノ瀬彼方(あきのせかなた)のコンビニの能力を感心しつつ。



 自分の仕事が増え続けている事への愚痴も、彼方に対してこぼし続けていた。



 これらの近代設備を次々と建設して、発展していくコンビニ共和国は、今この世界で最も栄えている街といっても過言ではない。


 新たにコンビニ共和国の住人となった、人々はきっと思ったに違いない。

 今、自分達の暮らすこの国は――この世界で最も活気に満ち溢れた素晴らしい街なのだと。



「……って、全部口で語るのは簡単だけどよー。実際は、ホントに街の人口が爆発的に増えて大変だったんだぞ〜! 彼方の奴、大変な仕事を全部俺に押し付けやがって……」



 ぶつぶつぶつと、事務所で愚痴をこぼし続ける杉田を『まぁまぁ……』と優しく慰める区長さん。


 そんな杉田デスクの面々が集うコンビニ本店の事務所に。

 普段は滅多に顔を出さない、コンビニ共和国の暫定大統領でもある、ピンク色の髪をした美しい女性が珍しく訪れた。



「――杉田様、メルティ様、ターニャ様、お久しぶりです。皆様にぜひお見せしたいものがございますので、ぜひ私と一緒にコンビニホテルに来て頂けませんか?」



 それはコンビニホテルの支配人でもある、レイチェル・ノアからのお誘いであった。


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