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第二百三十三話 幕間 カルツェン王国の動乱④


「チィーーーーーッ!!」



 セーリスは大きく舌打ちをして、上空に向けて大ジャンプをした。


 黒い悪魔は、自分と対峙しているセーリスとアイリーンの2人を無視して。

 上空に浮かべている大量のロケットランチャーによるロケット弾攻撃を……。いきなり、カルツェン王国の王都サイフェアルビーに向けて開始したのだ。


 その行動は黒い悪魔にとっては、いかに効率よく沢山の人間を抹殺するという目的の為に。

 人間がより多く集まる王都に向けて、最優先に攻撃を加えたいという意図があったからなのかもしれない。



 だが、もしかしたら……。


 ”正義”の陣営である、コンビニの勇者に仕えている2人の守護者達が――多くの人々の暮らす王都を、自分の身を(てい)して優先的に守るだろうという、邪悪な狙いがあったのかもしれなかった。


 どちらにしてもセーリスとアイリーンは、大量のロケット弾が空から王都に降り注ぐのを、黙って見ている訳にはいかない。



「うおおおおおぉぉぉーーーッ!!!」


 黒い悪魔が発射させた無数のロケット弾が、白煙の糸を引きながら王都の防壁に向かって飛んでいく。


 その軌道上に飛び上がった花嫁騎士のセーリスは、空中でコマ回しのように、体を超スピードで高速回転させる。


 回転する花嫁騎士の純白のスカートの中から、無数の手榴弾が大量に空中にばら撒かれた。

 そして空に散らばった手榴弾の群れは、王都に迫るロケット弾を迎撃する、弾幕の防御壁を形成する。



 ”ズドドドドドドーーーーーーン!!!”



 約300発を超える大量のロケット弾が、セーリスのスカートからばら撒かれた、無数の手榴弾の弾幕に直撃した。



 強力な威力を伴う爆発物同士が引火し合い、空中で大量の連鎖爆発を引き起こす。


 それはまるで、爆発のドミノ倒しのようだった。


 手榴弾の爆発が、周囲のロケット弾の起爆を誘引し。次々と強制的な引火爆発を巻き起こしていく。


 連発する凄まじい轟音と共に、夜空に明るく輝く花火のように。カルツェン王国の王都、サイフェアルビーの防壁の上空には、ロケット弾と空中にばら撒かれた手榴弾が爆発する轟音が、連続で鳴り響き続けた。



 花嫁騎士のセーリスが、スカートの中から大量にばら撒く手榴弾による弾幕障壁。だが、その密集した弾幕の防御をも通過して。サイフェアルビーの防壁に着弾してしまうロケット弾も一部あった。


 この世界の街の防壁は石造りのものばかりだ。


 鉄製でもない、石を積み重ねただけの防御壁は、ロケット弾の着弾の爆発によって、脆くも崩されてしまう。



 そして数発のロケット弾が、とうとう王都サイフェアルビーの中心部にまで到達した。



 ”ズドドドーーーーーーーーン!!!”



 黒い悪魔の発射した大量のロケット弾によって。

 カルツェン王国の王都の街中には、大きな爆発と爆風が巻き起こり。街の住人に、決して少なくない被害者や犠牲者を出してしまう。


 その光景を見た花嫁騎士のセーリスは、味方のアイリーンに対して大声で呼びかけた。



「アイリーン!! アタシが防御弾幕を空に張り続けている間に、野郎に直接攻撃を加えてくれーー!!」



 手榴弾を大量に上空でばら撒き続ける、セーリスの叫びに応じて。コンビニの青い守護騎士であるアイリーンが素早く返答する。



「了解です! 街の事は頼みます……セーリス!」



 黄金の剣を両手で強く握りしめ。

 コンビニが誇る、最強の美少女騎士が全速力で大地を駆ける。


 両手を大きく振り上げ。黒い悪魔の目前まで、一気に急接近をしたアイリーンが、そのまま黄金剣を真下に振り下ろした。



 ”ガギギギギギィィッッ―――ッ!!!”



 アイリーンの黄金剣が、黒い悪魔の周囲に張られた銀色の球体シールドに直撃して。光り輝く、無数の火花の閃光を巻き散らす。


 上空に大量に浮かぶ、無数の浮遊ロケットランチャーとは別に。黒い悪魔は自身の両手にも、近接戦闘用のロケットランチャーを装備した。


 そして急接近してくるアイリーンに対して、躊躇(ためら)う事なく反撃を加えてくる。


 アイリーンはそれらのロケラン攻撃を全て、被弾するギリギリのタイミングでかわしていく。

 そして高速スピードで、黄金の斬撃を無敵の球体シールドに向けて何度も刻み込み続けていく。



「くっ……、硬い!! やはり、私の剣では花嫁騎士(ウエディング・ナイト)のシールドを壊す事は出来ない……!」



 黒い悪魔の体を守る銀色のシールドを、アイリーンの黄金の剣で斬り裂く事は出来なかった。


 それでも、アイリーンは諦める事なく。黒い悪魔が放つ近距離からのロケラン攻撃を回避しつつ、攻撃の手を緩める事は決してしない。


「おっしゃーーッ!! いいぞ、アイリーン!! そのまま5分間、野郎に連続で攻撃を加え続けるんだ! そして『鋼鉄の純潔(アイアン・ヴァージン)』の耐久時間が限界に達した時点で、一気に野郎をぶった斬ってやれーーッ!!」


 カルツェン王都へ迫る無数のロケラン攻撃を、空中からの手榴弾の散布によって、必死に防ぎ続けているセーリスがアイリーンへ声援を送る。



 本当ならば、コンビニの守護者2人がかりで、集中的に黒い悪魔に攻撃を加えたい所だが……。王都の防衛に全力を注いでいるセーリスには、アイリーンを援護する事が出来ない。


 だからここは何としてでも。仲間のアイリーンに、黒い悪魔を打ち倒して貰うしかない。



 黒い悪魔の周辺の地面からは、無数のロケットランチャーがあちこちから出現してくる。

 ロケランはまるでキノコのように、地面の中から砲身の先っぽだけを外にさらけ出し。銀色の無敵シールドに斬りかかる青髪の騎士に向けて、迎撃射撃を連続で放ってくる。



「うおおおおぉぉぉーーーー!!」



 コンビニの守護騎士であるアイリーンは、地中から放たれるロケラン攻撃を見事全てかわしてみせた。


 どんなに予想外の場所から、ロケット弾が発射をされようと。

 青い髪をなびかせながら、黄金の剣で斬りかかるアイリーンは、決して黒い悪魔の側から離れる事は無い。


 敵に密接して、悪魔の近くに必死に喰らいつく。

 強靭な牙で、食らいついた獲物は決して離さぬライオンのように、獲物の喉元(のどもと)を噛みちぎるまでは決して逃がさない。



 そして、おおよそ――4分半近い時間が経過をした時。


「よっしゃーー! アイリーン、あと少しだぞ!! そいつのシールドはもうすぐ限界点に達する。それまで絶対に攻撃の手を緩めんじゃないぜええぇぇーーッ!」


「了解です、セーリス!! お任せ下さい!!」



 約5分近く、黒い悪魔の防御シールドに肉迫をし続けたアイリーン。


 そしてようやく、たったの15秒間だけしかない。無敵シールドを展開する黒い悪魔への、攻撃チャンスを再び手に入れられると思われた、その時――。



『『えっ………!?』』



 アイリーンも、セーリスも。

 同時に驚きの声を漏らしてしまう。



 カルツェン王国の王都を攻撃していた、上空に浮かぶ無数のロケットランチャーの群れが……その攻撃をピタリと止めていた。



 そして、数百を超える真っ黒なロケランの砲身は。


 一斉に、真下に立つコンビニの青い騎士に対してその照準を向き直した。



「しまった……!! そこから逃げるんだ、アイリーンーーー!!!」



 花嫁騎士のセーリスが慌てて叫ぶが……もう、間に合わない。

 


 黒い悪魔は、もう少しで銀色のシールドを張り続ける事の出来る時間限界を迎える……という、その寸前に。



 突然、先ほどまで続けていた王都への攻撃をピタリと止めて。

 

 空中に浮かぶ全てのロケットランチャーを、自身の近くにいるアイリーンに向けて。全砲門から、一斉攻撃を開始させたのだ。



「――――!?」


 チャンスを逃すまいと、黒い悪魔にとどめを刺す為に、銀色の球体シールドに接近していたアイリーン。


 完全に無防備となっていた彼女には、上空から一斉に降り注ぐロケット弾の豪雨をかわせる余裕など無い。


 無敵のシールドがまだ展開されている、ギリギリの時間で放たれたロケット弾の豪雨。

 それらは黄金剣を振り上げていたアイリーンの上空から、黒い悪魔の体を目掛けて。


 一斉に空から降り注いできた。


 無敵シールドに守られている黒い悪魔は、降り注ぐロケット弾が被弾をしても……全くダメージはない。むしろ攻撃がダイレクトに命中をするのは、シールドに接近していたアイリーンだけだ。



 ”ズドドドドドドーーーーーーン!!!!”



 無数に降り注ぐロケット弾が、大地に命中し。


 黒い悪魔の周辺にある地面が大爆発を起こして、凄まじい轟音と衝撃で大きく揺れ動いた。



「アイリーーーーーーン!!!」


 

 その様子を見たセーリスが、絶叫する。



 カルツェン王国の王都の外で、大地を揺るがすほどの大きな爆発音が鳴り響く。


 それはこの日、連続で鳴り響き続けた爆発音の中で。最大級の大音量を伴う轟音だったのは間違いなかった。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「みなさん〜〜! こっちです! 早く街から避難して下さい〜!」



 壁の外から、轟音の鳴り響くカルツェン王国の王都、サイフェアルビーの中心部。


 そこでは、コンビニの勇者の仲間である『暗殺者(アサシン)』の勇者の玉木紗希(たまきさき)と、クレーンゲームの勇者である秋山早苗(あきやまさなえ)が、街に住む人達を外に避難させる誘導役を務めていた。


 王都の街に迫って来ているという黒い悪魔。


 その黒い悪魔とは現在、コンビニの勇者に仕える2人の守護者達が、街を防衛する為に激戦を繰り広げている。


 人口密集地である王都の中に、大量殺戮兵器と化した黒い悪魔の侵入を許す訳にはいかない。

 カルツェン王国の王都に住む人々も、街の外で起きている異変を敏感に感じ取っていた。


 その主な理由としては、王都を占領していたグランデイル軍が全て、突然街の外へ出て行った事。

 そしてその直後から、凄まじい爆発音や轟音が街の防御壁の外から聞こえるようになったからだ。


 更には黒い悪魔に恐れをなして。グランデイル軍の騎士達が、一斉に王都から離れるようにして、遠くに逃げ去っていく光景を街の人達は目撃した。


 王都の人々はこの時、自分達の身に危険が迫っている事を、ようやく察する事が出来た。



 リーダーである金森がトンズラした事を知ったグランデイル北進軍の騎士達は……。後方にある王都へと戻り。中に住む街の人達を守る、というような行動は一切取らなかった。


 彼らは、知っていたのである。


 黒い悪魔が人間を多く殺す為に。たくさんの人達が暮らす、人口密集地であるカルツェン王国の王都に近づいて来たのだという事を。


 ならば、たくさんの住人達が暮らしている王都の中に逃げ込むのは得策ではない。

 だからグランデイル軍の騎士達は、王都の住人達を全て放り捨てて。一斉に街を離れて、どこか遠くの場所へと走り去ってしまったのである。



 王都で暮らす人々は、事情を何も知らされないまま。完全に街の中に放置された形となってしまった。


 そんな住人達の前に、突然現れたのが――異世界の勇者である玉木と秋山のコンビだった。



 彼女達は、自分達がこの世界を救うと期待されている『コンビニの勇者』陣営に所属する、異世界の勇者なのだと説明をした。


 そしてカルツェン王国の王都が、現在置かれている危険な状況を、住人達に必死に説明して回ったのである。



「皆さん、森からやって来た黒い悪魔は王都のすぐ目前にまで迫ってきています! 私達の仲間が今は必死に外で戦ってくれていますが……。万が一に備えて、ここから大至急、避難をして下さい!」



 広場に集まった聴衆に呼びかけた玉木の言葉は、瞬く間に王都の住人達に拡散されていった。


 もともと、外で何が起きているのかを一番知りたがっていたのは王都の住人達だった。それが、救世主として期待されているコンビニの勇者陣営のメンバーから直接知らされたのだ。


 住人達は、全てに納得がいった表情をして。お互いに顔を見合わせて、力強く頷く。そして全力で街の外へと逃げ出していった。



「コンビニ共和国の勇者様方ーーっ! 街に迫る危機を教えて下さり、本当にありがとうございますっ!!」


「どうか、この街を守って下さいーー!! 外から迫る黒い悪魔を撃退して下さい! お願いします!!」



 グランデイル王国の侵略部隊の中でも、最も残虐で、非道を極めていると評判の金森率いるグランデイル北進軍に占領されていた、カルツェン王国の王都の住人達。


 彼らは、大陸中央部でグランデイル軍に対して反撃作戦を開始している、解放軍の噂をよく聞いていた。


 解放軍を率いるコンビニ共和国を中心とした、コンビニ陣営の勇者達の活躍の報せを聞いて。いつかはコンビニの勇者様が、このカルツェン王国も救って下さるに違いない……と、強い期待を抱いてその到着を待ち侘びていたのだ。



 だからこそ、コンビニ共和国に所属する玉木達の言葉は疑われる事なく。住人達の耳に、すんなりと届いたのである。



「早苗ちゃんは高台の上に登って、街全体を上から見渡して! もし、まだ逃げ遅れている人を見つけたら、早苗ちゃんのクレーンの能力で救出をして欲しいの!」


「……分かった……。私に任せて………」



 引っ込み思案な秋山は、玉木の言葉を素直に聞いて小さく頷く。そしてそのまま、街で一番高い建物を目指して向かっていった。


 玉木は、『暗殺者(アサシン)』としての能力をフル活用し。全速力で街の大通りを駆け巡っていく。

 そして、まだ逃げ遅れている人や、高齢の為に家から動けないでいる老人の救出を行う為に、ずっと走り続けていた。



 そんな玉木の耳に、突然悲鳴のような叫び声が街の中心部から聞こえてくる。



「きゃあーーッ! 誰か、た、助けてえぇぇーーッ!」



「えっ、今の叫び声は何!? もしかしたら、まだ逃げ遅れた人が大通りにいたのかしら?」



 玉木は(きびす)を返して、急いで叫び声の聞こえてきた方向へと向かう。



 もう、街の人達の大半は……黒い悪魔が迫って来ている方角とは、逆の出口へと向かっているはず。

 

 だからこの辺りには、ほとんど人は残っていないはずなのに……。



 玉木は胸の奥が高鳴るような、胸騒ぎがした。


 先ほど聞こえてきた悲鳴は、その叫び方があまりにも尋常ではないように感じられたからだ。


 もし、逃げ遅れてパニックになっているだけなら。断末魔のような恐怖に満ちた悲鳴は上げないはずだ。



「もしかして逃げ遅れた人が、盗賊や強盗に襲われているのかしら! もしそうなら、早く助け出さないと!」



 あり得ない話ではないだろう。

 どこの世界にも、火事場泥棒という存在はいる。


 混乱の騒ぎに便乗をして、無人の家屋に侵入し。お金や金品を強奪しようとする悪い人間。そういった犯罪者に、逃げ遅れてしまった住人達が見つかり。今、この瞬間にも命を狙われているのかもしれない。



 玉木は全速力で街の大通りを走り続ける。


 今の自分の力を持ってすれば、例え盗賊が数人いようと勝つ事は容易(たやす)いだろう。


 『隠密(ステルス)』の能力を用いれば、玉木は敵の目からは完全に姿を消す事が出来る。特殊な能力(スキル)を持たない、ただの一般人に。姿の見えない透明な暗殺者である玉木と、正面から戦って、勝つ事など決して出来ないだろう。



 走りながら、大通りの十字路を横に進み。


 叫び声の聞こえてきた場所にまで辿り着いた玉木は、そこに存在していた『恐ろしい生き物』を目撃し。思わず自分の手で口を押さえつけて驚愕する。



 玉木の視界に入ってきた、そのおぞましいモノの正体とは――。



 体の下半身に巨大な3本のタコ足が付いている、黒髪長髪のメガネ男だった。


 その恐ろしい生き物は、街に残るカルツェン王国の住人を襲って、下半身についている大きな口で、人間を丸呑みにして『食事』をしようとしていた異世界のタコ勇者……金森準(かなもりじゅん)だった。


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