第二百三十一話 幕間 カルツェン王国の動乱②
黒い悪魔の上空に出現した無数のロケットランチャーが、一斉に地上に向けてロケット弾を発射させる。
カルツェン王都の王都、サイフェアルビーの外に集結していた金森準率いるグランデイル北進軍。その、合計約1万5000人の頭上に――。
大量のロケット弾の雨が、猛烈な豪雨のように降り注いできた。
””ズドドドドドーーーーーーーン!!!””
””ズドドドドドーーーーーーーン!!!””
””ズドドドドドーーーーーーーン!!!””
「ぐっぎゃあああぁぁぁぁああーーーーッ!!」
「あびぃぃいぃーーッ、ふごおぉぉっーー!!」
「か、金森様ぁぁ!! ぐびゃああぁーーっ!」
突如として、阿鼻叫喚の地獄に叩き落とされるグランデイル軍の騎士達。
降り注ぐ激しいミサイルの雨によって。大地には無数の轟音が鳴り響き。激しい爆発と爆風によって、グランデイル軍に所属する騎士達は、次々と体をバラバラにされて爆死していった。
その光景は、かつて旧ミランダ領での戦いにおいて。
バーディア帝国が引き連れてきた黒い戦車隊の砲撃により。粉々に吹き飛ばされてしまった、連合軍の騎士達が辿った悪夢の再来ともいえた。
王都の外壁に集結していたグランデイル軍の騎士達のうち。おおよそ10分の1に相当する数の騎士達が、一瞬にして粉々に吹き飛ばされてしまったのである。
「全軍、撤退だーーーッ!! 黒い悪魔がやってくるぞーーーッ!!」
「ひいいぃぃぃーー!! 殺されてしまうーー!! た、助けてくれーーっ!!」
もはや、グランデイル軍は総崩れとなっていた。
それも当然だ。空からロケット弾が落ちてくるたびに。味方の騎士が数十人単位で、一瞬にして吹き飛ばされてしまう地獄のような状況なのだから。
それは魔法の攻撃などという、生易しいものではない。地獄の悪魔によって開催された、爆音の轟くヘビーメタルコンサートだ。
16ビートのリズムで、大地に爆音が鳴り響くたびに。無抵抗な騎士達は逃げる場もなく、体を木っ端微塵に爆砕されて哀れにも吹き飛ばされていく。
非力な人間達に向けて、太古の黒い悪魔が執行をする無慈悲な天罰。
上空から降り注いでくるミサイルの豪雨を、回避出来るような術など……人間にはあるはずもない。
しばらくして、ようやく爆音は鳴り止み。
上空から降り注いできた、ミサイル攻撃が停止した。
悪魔によって開催された、地獄の業火にまみれた宴をなんとか生き延びた騎士達は、恐怖で体が硬直して。その場から、もはや一歩も動けないようになっていた。
全軍の約10分の1。おおよそ1500人ほどの騎士達が、一瞬にして、体を粉々に吹き飛ばされてしまったのだ。
それでもまだ、1万人を超える騎士達が王都の外壁には取り残されている。
彼らは単純に、逃げ遅れてしまった者達と。
ゆっくりとこちらに向けて、歩みを再開した黒い悪魔の姿に恐怖して。
蛇に睨まれたカエルように。足をすくませて、その場から動けなくなってしまった者達が大半だった。
「ひっ、ひいいいぃぃいいーーーっ!! あ、悪魔がこっちにやってくるぞ!! 殺されるーーっ!! 俺達は皆殺しにされてしまうぞ!!」
「どうする……!? 白蟻魔法戦士隊も既に全滅しているし。もう、俺達はあの無慈悲な悪魔に殺されてしまうしかないのかよ」
絶望と恐怖に完全に飲まれて。正気を失ってしまっている騎士達の前に、突然……『ボコン!!』と、大きな音がした。
そして彼らの正面にある地面の一部分が、不自然に盛り上がり始める。
騎士達が、不思議そうにその場所をじーっと見つめてみると。
盛り上がった土の中から、8本足をにゅるにゅると大地に這わせて。地中からゆっくりと這い出てきた、金森準の姿が見えてきた。
「か、金森様だぞーーーっ!!」
「おおっ!! 金森様が生きていらっしゃったぞ!!」
まるで砂浜に埋まり込むヤドカリのように。8本足の金森はとっさに危険を察知して。
空からミサイルの雨が降り注いでくる直前に器用に足を使い、土を掘り返して自身の体を地面の下に隠していたらしい。
そして、ようやく爆発音が収まったこのタイミングで。臆病者の彼は、ノコノコと地中から顔を出してきたのだろう。
「……あれ? さっきの爆発はもう、終わったの?」
周囲をキョロキョロと見回して。
現在の状況を確認しようとする、金森。
そんな金森の姿を見て。救いを求めるように、グランデイル北進軍の騎士達がワラワラと周囲に群がってくる。
「か、金森様ーーーっ!! どうか、あの黒い悪魔を倒して下さいっ! このままでは我が軍は、全滅をしてしまいます!!」
「異世界の勇者である金森様なら、あの黒い悪魔を倒せるはずです! さあ、どうかあの地獄からやって来た悪魔を撃退して、我々をお救い下さいませ……!!」
「金森様はおっしゃっていましたよね! いざとなったら、黒い悪魔など簡単に退治して下さると! さあ、今こそ出番でございます! その自慢のタコ足を使って、どうかあの黒い悪魔を打ち倒して下さい……!」
恐怖で体が硬直し。足がすくんで、痙攣してしまっているグランデイル軍の騎士達が、必死にすがりつくようにして、自分達のリーダーである金森に直訴する。
自分の部下達を見捨てて、自分だけは素早く地中深くに隠れて難を逃れていた金森にとっては……。部下の命など、本当は心底どうでもよかった。
だが、ここまで期待の眼差しで見つめられてしまうと。金森の中にある、無駄に他者を見下したがる高圧的なプライドが、ついついくすぐられてしまう。
「ん〜? まったく仕方ないね〜! 白アリ達も思ったよりも役に立たなかったみたいだし。ここは『水妖術師』の勇者であるこの僕が、あの黒い悪魔を軽く成敗してやろうじゃないか〜!」
『『おおおおーーーっ!! 金森様が、異世界の勇者様が、あの黒い悪魔を討伐して下さるぞーーっ!!』』
グランデイル軍の騎士達から、大喝采が巻き起こる。
彼らにとっては、頼みの綱であった最強の白蟻魔法戦士隊が全滅し。自分達の身を守ってくれる最後の切り札は、異世界のタコ勇者である金森準しかいなかったのだ。
そして実際に、金森の強さはここにいる全ての騎士達が理解している。
金森は今までも常に戦場の最前線に立ち。カルツェン王国を守る守備隊を、異世界の勇者の特殊な能力を用いて、圧倒的な力によって排除してきた。
でも実際には、金森がただ弱い者いじめをしたかっただけ、という事も騎士達は知っている。
彼の性格には、問題がある事も全て知っている。
見た目も、性格も、その変態的な食事の仕方も、全てが到底尊敬など出来ない。むしろ嫌いだ。気持ち悪い。
だが……この絶体絶命のピンチな状況において。
グランデイルの騎士達が頼れるのは、正義の味方などではない。自分達の身を守ってくれる、圧倒的な力を持った絶対的な強者が必要なのだ。
「さあ、金森様が出陣されるぞ!! 皆の者、道を開けるのだ!」
グランデイル北進軍の守備隊が、ゆっくりと左右に道を開けて。
黒い悪魔の進行方向の正面に、彼らの総大将である、『水妖術師』の勇者が姿を現す。
その光景を見ても。王都に向けて、ゆっくりと歩みを進める黒い花嫁は、何も動じる気配は見せなかった。
彼女にとっては、目の前に立ち塞がる人間など。路上に転がる石ころと、なんら変わりないのかもしれない。
「ふーん。あなたが黒い悪魔ですか。空からロケランで攻撃してくるなんて、全く持って規格外なステータス持ちの女の子のようですね〜。ですがあなたのようなSS級のゲームキャラは、今までも散々、僕は廃課金ゲームの中で攻略してきましたからね。もちろん、その攻略法も全て心得ていますよ〜! ふっふっふ〜」
自信満々に宣言する金森の言葉に。
後ろに控えていた騎士達から、『おおおーーーっ、さすがは金森様だ!!』と大歓声の声が上がる。
その大きな声援を受けて。ますます自尊心が高揚したらしい金森は、その場で両手を広げる。
そしてまるで、戦隊モノのヒーローのような決めポーズを味方の騎士達の前で披露した。
そのポーズは超絶ダサかったけれど。
他にすがる者のない騎士達は、大声援を金森に送り続けるしかなかった。
そして、とうとう8本足の異世界の勇者がにゅるにゅると前に向かって歩きだす。目指す敵は、森からやって来た黒い悪魔と呼ばれる少女だ。
「まずは小手調べといきましょう! あなたのような攻撃力に能力特化させたSSレアキャラは、実は防御力が低いというのセオリーなのです。猪突猛進型の攻撃キャラが、敵の反撃に対していかに無力であるのか。古今東西の対戦ゲームを全てやりこんでいるSSゲーマーの僕が、それを今から証明してあげましょう〜!」
金森が両手を天に向けて、大きく掲げてみせる。
すると、その頭上には――。
おおよそ100枚を超えるであろう、大量の水の円盤カッターが生み出された。
ミランダでの戦闘で、戦車隊による砲撃の直撃を受け。自身の下半身を全て失ってしまった金森は、まさに生き絶える寸前だった。
その時に、たまたま森の小道を通りかかった赤い薔薇のドレスを着た魔女と、グランデイル女王のクルセイスのコンビによって拾われたのである。
その後、自分の体に何をされたのかは……よく憶えていない。
だが、瀕死の状態にあった金森は、なぜか生き延びる事が出来た。
目を覚ました時には、失った下半身の代わりに。見た事もない、8本の異形のタコ足が自分の体にピタリとくっ付いていた。
槍で切り落とされた手はちゃんと復元していたのに、足だけが魔物化してしまっていたのだ。
変わり果てた自らの下半身を見た金森は、そのままベッドの上で……数時間以上も大声で、発狂をするように笑い続けた。
死ぬほど笑って、笑い続けて。
散々笑い転げた後で――。
金森は、『人間』である事をやめた。
自身の命を救ってくれた、グランデイル女王のクルセイスに改めて永遠の服従を誓い。その命が尽きるまで、人間成らざる者、異世界に巣食う凶悪な『魔物』として、とことん暴れ回る生き方を彼は選んだのだ。
自分は醜いモンスターなのだと、認めしまえば。
何とも清々しい快感が、麻薬のように心地良く脳内を満たしていく。自分の外見は誰がどう見ても、明らかに気色の悪い『モンスター』だ。ならばもう、人間として品行方正に振る舞う必要は無い。
醜悪なモンスターとして、思う存分に楽しんで。
これからは好き勝手に暴れ回って、この世界を楽しく生きていこうじゃないか!
「ひゃっはっはぁぁ〜!! 死に晒せよ、この目障りなゴミ虫女が〜!! ぜんぶ、ぜ〜〜んぶ、この僕が汚いゴミ共をまとめて、お掃除してやるよおおぉぉ〜!」
金森が100枚を超える水の円盤カッターを、一斉に黒い悪魔に向けて放つ。
パワーアップした金森の円盤カッターは、固い岩さえも切り裂く殺人兵器へと変貌している。
この恐ろしい能力を使って、金森はカディナの壁外区に住む住人達に対して、大量殺戮を行ったのだ。
異世界の勇者である、金森が行った残虐な蛮行により。女神教が広めた異世界の勇者信仰は、完全に人々の中から消え去った。
そして女神教がその勢力を衰えさせていく、直接の要因ともなったのだ。
その意味では、やはり金森は……クルセイスとロジエッタによって。いいように利用されただけの存在といえるのかもしれない。
”シュン、シュン、シュン、シュン“
水中を泳いで襲ってくる、無数のピラニアの群れのように。
大量の水の円盤カッターが、黒い花嫁衣装の少女の体に四方八方から食らいついていく。
そして……。
“ガギギギギギギィィーーーーン!!“
100枚の円盤カッターは、鋼鉄の金属板に命中したような金切り音を立てて。
黒い悪魔の体に命中する前に、少女の体を覆う透明な球体シールドによって、全て弾き返されてしまった。
「……ええっ、何でだよぉぉ!?」
金森は思わず、素に戻って。
だらしなく口をあんぐりと開けて、驚きのあまり目を見開いて呆然とする。
いや、そんなバカな……!
だってああいう攻撃特化キャラは、防御力が弱いってのがゲームのセオリーじゃないか。
じゃないとただ、ゲームバランスを崩すだけのチートキャラになってしまう。
せっかく課金をし続けてきたのに、一気にプレイヤーのやる気を無くさせてしまう。新登場の人権キャラみたいな事になってしまうぞ!
金森は脳内で、激しく不満をぶちまけ続ける。
この時の金森は、まだ黒い悪魔の本当の恐ろしさに全然気付けていなかった。
そう、コンビニの大魔王に仕える『花嫁騎士』の本来の姿とは――。
むしろ完全防御特化型の、地上最強の防衛シールドを装備した最強の守護者なのだ……という事を。
そんな事を何も知らない金森は、必死に円盤カッターを空中に連続で生み出し続け。それらを、黒い悪魔に向けて連続で放ち続けた。
だが当然、前に向かって歩み続ける花嫁騎士の動きを止める事は出来ない。
それどころか彼女には、相手にさえされていないという雰囲気がプンプンと漂っている。
一言で言い表すのなら、花嫁騎士にとって金森の存在は、まるで眼中に無いといった所であろう。
おそらく彼女にとっては、金森は道端に落ちている石ころ以下の存在でしかない。
石ころならばまだ、うっかり踏んでつまづくという事もあり得る。だが黒い花嫁は、金森というゴミ虫以下の存在に、足をつまづかせる事は決してない。
「このこのぉ、くっそおおおぉぉ〜〜っ!! なら、僕の必殺技を食らっても平気でいられるか、試してやるよおおぉぉ!! 必殺、『暗黒水流』ーーッ!!」
金森の立つ地面から、大量の水が洪水のように放出された。
勢いを増す激しい水流は、黒い悪魔だけを狙い撃つように。凄まじい轟音を響かせながら、彼の目の前にある全て物を押し流していく。
「ひゃっはっはっ〜! ほーら、やっぱり防御力は弱いんじゃないですか〜! 一時的に僕の水の円盤カッターを防げたとしても。押し寄せる水流を止める事までは出来なかったようですね〜! ざまぁみろですよ! ひゃっはっはっ〜〜!!」
「おおっ、さすがは金森様だ!! あの黒い悪魔を水の力で押し流して下さったぞ!!」
「やったぞーー!! 異世界の勇者様、万歳ーー!」
金森の背後で、様子を見守っていたグランデイル軍の騎士達が、大きな称賛の声を上げる。そして、これで自分達の身は助かったのだ……と、ようやく心から安堵をした。
金森の流す水流は、止める事なく流れ続けている。
あの黒い花嫁は、一体どこまで流されてしまったのだろうか?
もしかして、あの森の遥か奥にまで押し戻されていったのかもしれない。
配下の騎士達に対して、異世界の勇者としての面目を何とか保つ事が出来た金森。
そして全く尊敬していないタコ足の上官だが、無事に悪魔を退けてくれた事に、心のこもらない感謝をするグランデイルの騎士達。
その両者が共に……。
ほぼ、同じタイミングで。一斉にギョッとした。
金森が流す水流を、かき分けるようにして。
透明シールドに包まれた黒い悪魔が……。平然とした顔で、金森のすぐ目の前にまで迫って来たのが見えたからだ。
「えっ、ちょっとちょっと。それってチート……!」
『――どけ! “ゴミ虫以下の存在“ よ――』
黒い花嫁は、手に持っているロケットランチャーを目の前にいるタコ足人間に向ける。
そしてそれを、全くためらう事なく発射させた。
“ズドーーーーーン!!“
「グギャアアアァァァーーーーっ!!!」
金森の足元で、至近距離から放たれたロケランが炸裂し。一度に3本のタコ足が、同時に吹き飛ばされる。
黒い悪魔は、更に追い討ちをかけるようにして。
連続でロケットランチャー攻撃を繰り出し。金森のタコ足がもう2本、続けて吹き飛ばされてしまう。
8本あったタコ足のうち、5本を爆発で吹き飛ばされた金森は……。
慌てふためくようにして、口から泡を吹きながら。
黒い花嫁の前から必死に逃げていく。
残っている3本のタコ足を器用に使い。大急ぎで、自分の立っている場所の大地を掘り返し。
砂浜のヤドカリが砂の中に沈み込むように、体を土の中にめり込ませていった。
そして気付いた時には、一瞬にして……。
その場から忽然と、金森は姿を消してしまっていたのだ。
「えっ、金森様……!?」
その光景を見て驚いたのは、金森の背後に控えていたグランデイル軍の騎士達だ。
彼らは、あまりに一瞬の出来事に。
一体何が起きたのかを、すぐには理解する事が出来なかった。
そしてようやく。自分達の上官が、黒い悪魔に恐れをなして。
部下である自分達の事を放り捨てて、自分だけ敵前逃走したのだという事を理解した。
「に、逃げろーー!! 総撤退だーーーっ!!」
グランデイル北進軍の騎士達は、脱兎の如く。慌てて戦場から逃走を開始していく。
もちろん、後方にあるカルツェン王国の王都にではない。彼らには、王都に残る住民達を守ろうという気持ちは、1ミリたりとも無かった。
『――栄光あるコンビニ帝国に歯向かう、ゴミ虫の群れよ。その存在ごと全て消え去るが良い!!』
撤退するグランデイル軍の背後から、黒い花嫁はロケットランチャーを構えて狙い撃つ。
グランデイルの騎士達は、中途半端に黒い悪魔を怒らせてしまった金森の、とばっちりをまともに受けた形となってしまった。
だが、彼らは死に物狂いで走り。戦場から全力で撤退を開始した為。
……たったの、わずか5分ほどで。
黒い悪魔の正面には、誰1人として王都を守る守備隊が残っていないという。無人の状態がさらけ出されてしまった。
黒い悪魔は何事も無かったかのように、ゆっくりと前に歩み続ける。
目的地は、まだ大量の人間達が取り残されている、カルツェン王国の王都――サイフェアルビーだ。
どうやら黒い悪魔は、人間が大量に密集している場所に向けて進んでいるらしい。
彼女にとって人間は、『処分』すべき攻撃対象としか見えていないのかもしれない。
王都に駐留していたグランデイル軍が総撤退して。
それを指揮する金森準もモグラのように地中に潜り、戦場から離脱をして。
数十万人を超える人々が暮らしている、カルツェン王国の王都を守るものは……もはや、誰も残っていなかった。
王都に残る人々には、これから想像を絶するような、恐ろしい惨劇の運命が待ち受けているだろう。
絶望しかない、そんな悲劇の運命がゆっくりと王都に向けて近づいていく……その途中で。
“ズドドドーーーーーーーーン!!“
突如として、黒い悪魔の身を包む球体シールドに、大きな爆発音が鳴り響いた。
ずっと止まらずに歩みを進めていた黒い悪魔が、初めてその足をピタリと止めて、立ち止まった。
黒い花嫁衣装を着た、太古の昔のコンビニの守護者の前に立ちはだかったのは――。
同じく花嫁衣装を着る、銀色の髪の美しい少女だ。
正面に立つ少女は黒い悪魔とは対照的に。
純白で美しい、天使の羽のような色合いをしたウエディングドレスを着ている。
悪魔の正面に立つ、銀髪の白い花嫁騎士。
白い花嫁騎士は、右手にロケットランチャーを構えながら。黒い悪魔に対して、大きな声で宣戦布告をする。
「よう〜、アタシの姉妹ッ! 悪いけど、ここから先に通す訳にはいかねーんだよ! アタシのロケランで吹っ飛ばされたくなかったら、とっとと自分の巣に戻って永遠に北極クマみたいに冬眠でもしておくんだな!!」