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第二百二十三話 帝都陥落


 大陸で最も広い領土を持ち、最強の軍事力を所有していると噂されたバーディア帝国の帝都ロストテリアがグランデイル軍に攻められ陥落した。


 グランデイル南進軍は勢いにのり、帝国の残りの全領土の制圧に向けて動き出そうとしている。



 この衝撃的なニュースは、瞬く間に世界中の人々に伝えられていく。

 


「まさか、あのバーディア帝国の帝都が、グランデイル軍に攻め落とされるなんて……」


「おいおいおい! グランデイル王国ってのはそんなに強かったのかよ? 何でこんなにも一方的に、世界中の国がグランデイル軍に攻められて、しかも負け続けてるんだよ!?」


「あのクルセイスとかいう、若い女王が王位についてから。急速に国内の軍事力を拡大していたなんて噂もあるみたいよ。召喚した異世界の勇者も、数人味方の陣営に引き入れているみたいだし」


「どちらにしても、一つの時代が終わったって感じじゃな。あー、まったく長生きなんてするもんじゃないのぅ。帝国がグランデイル王国に攻め落とされてしまうような、歴史の瞬間に立ち会ってしまうなんてのぅ」



 グランデイル軍は、バーディア帝国の帝都さえも攻め落とせる、圧倒的な軍事力と強さを持っている。


 今回の事件はその事実を、改めて世界中の人々に知れ渡らせる結果となった。



 だが、幸いな事に帝国の皇帝はまだ無事だ。


 帝都から脱出するのは、流石に大変だったけどな。


 帝都の空にはグランデイル王国の魔法戦士達を運ぶ、輸送用の巨大竜がたくさん飛んでいたし。その間を避けるようにして、俺達はシールドドローンに乗って逃走飛行を続けた。


 帝国の黒い戦車部隊が、グランデイルの白い魔法戦士隊に制圧されて。地上からの対空砲火を受けなかったのは唯一の救いだった。

 流石に俺も、皇帝とフィートを乗せた状態で、砲弾を回避する曲芸飛行をするのは厳しかったからな。



 帝都の空から脱出をした俺は、すぐさま近隣の山中で待機している、コンビニ支店1号店の場所へと向かう。


 そう、皇帝さえ健在ならバーディア帝国がまだ滅びた訳ではないんだ。


 きっとすぐにでも、帝都の周辺都市の兵力を再集結させて。皇帝は帝都を奪還し、グランデイル軍を帝国から追い出す為の復讐戦に乗り出すだろう。


 もちろん、その時にはコンビニ共和国として俺も最大限の援護をするつもりだ。

 なにせ帝国には今……コンビニの勇者であるこの俺が、直接乗り込んでいるんだからな。



「――よし、コンビニ支店1号店はたしかこっちの方角だな」



 俺はコンビニ支店1号店に残るティーナと、スマートウォッチで連絡を取り合う。


 そして何とか無事に、帝都の外の山に隠れていたコンビニ支店1号店の場所にまで辿り着く事が出来た。



 シールドドローンを山の斜面に不時着させ、俺はすぐに出迎えに来てくれたティーナとの再会を果たす。



「――彼方様、良かった! ご無事ですか!?」


 ティーナがコンビニの入り口から飛び出してくる。

 そしてもの凄い勢いで、俺の胸の中に飛び込んできてくれた。


「ああ、大丈夫だよティーナ、安心してくれ。怪我はしてないし、ちゃんと無事に戻ってきたからさ」


「良かったです! 彼方様とフィートさんが隠し通路に侵入をした後に、帝都の周辺を包囲していたグランデイル軍が突然、街の中に攻め込んだので。ご無事なのかと本当に心配をしました」


 ティーナが心底、安心したように。俺の胸の中に強く顔を埋めてくる。


 ……うん、やっぱり温かいな。心と体の両方の意味で、俺も温かくなれた気がするよ。



 俺とティーナが感動の再会を、2人だけで喜びあっていると。

 


 ”ガチャリ――”

 

 突然、背後から剣を突きつけられる音がした。



「か、彼方様……危ないですっ!!」


 ティーナが、俺の体を横に弾き飛ばすようにして前に出る。


 弾き飛ばされた俺が後方を振り返ると。そこには、白銀の長剣をこちらに向けて突き付けた、赤髪の皇帝ミズガルドが立っていた。

 


 ティーナは俺と皇帝の間に入って、両手を広げて俺を守ろうとしてくれていた。


「な、何者なのですか……!? あなたは、この方がこの世界の救世主である『コンビニの勇者様』と知って狼藉(ろうぜき)を働いているのですか!」



 ティーナが激昂するように、皇帝に対して強く詰め寄る。


 帝都から脱出した状況を詳しく知らないティーナは、目の前の人物が誰なのか分かっていないようだった。


 俺も逃走の連絡を入れただけで、皇帝を連れて来ているとまでは報告していなかったからな。だからまさか、この赤髪の騎士が皇帝本人だとは流石にティーナも思わなかったようだ。


「ティーナ、大丈夫だよ。その人はバーディア帝国の皇帝陛下だから」


「えっ!? このお方が、皇帝陛下なのですか……?」



 驚きの顔で、俺と皇帝ミズガルドの顔を交互に見回すティーナ。


 うん、驚くのは分かるよ。俺だって今、びっくりしているからな。何で命を助けたはずの皇帝に、俺は剣を向けられているんだろう、ってな。


 白銀の剣を突き付けてきている皇帝が、鋭い目つきのまま。静かに俺達に対して話しかけてくる。


「……コンビニの勇者よ。我を帝都から救い出した事に関しては礼を言おう。だが、あのグランデイルの薔薇女と話していた内容については、我は到底看過(かんか)出来ぬ! 貴様は一体何者なのだ!? この世界の過去に君臨したという大魔王と、お前は一体どういう繋がりがあるのかを説明せよ! 回答次第では、帝国の皇帝として我は決して容赦はせぬぞ!」



 皇帝ミズガルドが、恐ろしいほどに鋭い目つきで俺の顔を睨みつけてくる。


 たしかに『バーディアの女海賊』と周囲の人々から恐れられているだけあるな。


 まだ年の若い女皇帝とは聞いていたけど。その野獣のように鋭い双眸(そうぼう)は、見た者を震え上がらせる程の迫力がある。



 まぁ、それも今の俺に対しては効かないけどな。


 俺は本物の『邪悪な眼差し』に見つめられる、という恐怖の体験を知っている。


 既に魔王領でそれは経験済みだ。そう、それはピンク色の髪をした灰色ドレスの女が放つ……この世全ての邪悪を詰め込んだような、破壊的な威圧感のある恐ろしい眼差しだった。


 目つきの威圧感をもし動物に例えるのなら、灰色ドレスの女が猛獣のライオンで、今の皇帝の睨み方は可愛い子猫のようなものだ。

 あの時は本当に俺も、ヘビに睨まれたカエルのように動けなくなってしまったからな。


 うーん。だけど、ここはどうしようか。


 皇帝に事情を説明をしたいのは山々だけど。どこから、そしてどの程度の内容を、皇帝に話すべきなのか俺は迷ってしまう。


 この世界の異世界召喚の仕組みや、過去に起きた出来事。女神教の狙いや魔王領の事など、皇帝にとってみたら分からない事ばかりだろうからな。


 皇帝と直接対面をして、外交交渉をしたいとは俺も願ってはいたが。もう少し落ち着いた環境でそれをしたかった……というのが本音だ。



 こうも不審感を(あら)わにして睨み付けられては、俺が何を話しても、信用して貰えるのかどうかが不安になる。


 シールドドローンに乗って、一緒にコンビニに戻ってきた盗賊のフィートは……。ちゃっかりと木の枝に登って、自分の身の安全だけは確保をしていた。

 どうやら安全な木の上から、俺達の様子を高みの見物と決め込んでいるらしい。さすがは盗賊なだけあって抜け目のない奴だな。



 俺が皇帝に対して、まずは何から説明すべきかを悩んでいると……。


 後方から、救いの手を差し伸べてくれる者が現れた。



「――そこまでにしましょう、皇帝陛下。ここは、このボクに免じて、剣を下げては頂けないでしょうか?」



 皇帝と俺との間に入ってきてくれたのは、ドリシア王国女王のククリアだった。紫色の髪を束ねた、小さな外見の女の子が皇帝の目を真っ直ぐに見つめながら、呼びかける。


「む……。貴様は、ドリシア王国の女王ではないか。 なぜ貴様が、我が帝国の領内におるのだ?」


 皇帝はドリシア王国の女王であるククリアが、この場にいる事に不審そうに目を凝らす。


「ボクはドリシア王国と軍事同盟を結んでいる、コンビニ共和国のリーダーでもあり。そしてこの世界を救う救世主でもあるコンビニの勇者様と共に、帝国の皇帝陛下と会談をする為にこちらに参りました。ですが、帝都が敵に包囲されてしまっていた為……。やむなく強硬手段を用いて、コンビニの勇者殿が先に帝都の宮殿内に侵入し。陛下の救出に向かわれたという訳なのです」



 ククリアは俺を、異世界の勇者としてではなく。


 『コンビニ共和国のリーダー』である事を強調をして、皇帝に俺の紹介をしてくれたような気がする。


 おそらく今、皇帝が無礼にも剣を突き付けている相手は、コンビニ共和国という強大な力持つ国家の代表者であるという事。そして窮地に陥った皇帝を救い出してくれた、恩人である事を理解させて。

 激昂している皇帝に、少しでも冷静さを取り戻させようとしているようだった。



 ククリアにじっと見つめられた、皇帝がゆっくりと口を開く。


「……フン、よかろう」


 赤髪の皇帝ミズガルドが、静かに突き付けた剣先を下ろした。

 そして自らの持つ、剣の鞘に白銀の長剣を収める。


 皇帝が剣を収めるまで、ティーナは一歩も引かずに。体を張って俺を事を守ろうとしてくれていた。



 俺はそんなティーナの肩に手をかけて、感謝の言葉をかける。


「ティーナ、ありがとう! もう、大丈夫だよ」


 ティーナは最後まで、皇帝が剣を再び抜かないかを警戒していたようだが……。

 やがてその場に静かに腰を落として、ようやく場の緊張感は緩和された感じになった。



 何はともあれ、良かった。


 俺は思わず、ホッと一安心する。


 元々、ここに来たのは帝国の代表である皇帝と会談をする為だったしな。そしてもし知っているのなら、遺伝能力(アンダースキル)を持つ者の隠された能力を引き出せるという『女神の泉』の場所を皇帝から聞き出したかった。


 だから帝国の皇帝とは、もう少し落ち着いた状態でお互いに会談をしたかった。



 まあ、事態があまりにも急だったしな。


 俺も、過去のコンビニの大魔王の事を知っているという、あの薔薇の魔女のロジエッタと出会って、少し気持ちが高ぶってしまったと思う。


 あの会話を全て皇帝に聞かれてしまったのだから、何も知らない皇帝が、俺に対して不審を抱くのも当然の事だろう。


「そこにいるコンビニの勇者が我に働いた、数々の破廉恥な行為や屈辱の振る舞いを、我は決して許した訳ではないぞ。だが……この場はドリシア王国の女王に免じて、それは不問に処す事にする。しかし……もし、我が納得するような答えを………貴様の口から、得られぬような時は………、うぅ………」



 皇帝が急に呼吸を乱して。

 その場にバタリと倒れ込んでしまった。


 俺はとっさに、倒れ込む皇帝の体を抱きしめる。


「おいっ! 大丈夫なのか!? 一体、どうしたんだって、……熱ッ!? 凄い高熱が出ているじゃないか!」


 皇帝の額に手を触れると。尋常じゃないくらいの高熱を、皇帝が体から発しているのが分かった。


 汗も大量にかいているし、これは……マズイぞ! やっぱり寝室にいた時から、皇帝は体調が悪そうだったけど、かなりの高熱を出していたらしい。


「ティーナ、急いでコンビニの事務所に皇帝を運んでベッドに寝かそう! 先に事務所に行って、濡れタオルを用意しておいてくれないか!」


「分かりました、彼方様……!」


 ティーナが急いで、コンビニ支店の中へと駆け込んで行く。


「おい、フィート! お前もそんな木の上に隠れていないで、こっちに来て手伝ってくれ! 皇帝の体を一緒にコンビニの中まで運ぶぞ!」


 ガサガサ……っと、小枝を掻き分けて。

 もふもふ娘のフィートが、木の上から慌てて飛び降りてきた。


「まったく、コンビニのお兄さんはホントに人使いが荒いよなぁ! ほら、あたいが皇帝の右肩を持つから、お兄さんは左肩の方を支えておいてくれよ!」


 俺とフィートは共に、ぐったりとして意識を失っている皇帝ミズガルドの両肩を抱きかかえて、コンビニ支店の中へと運び込んでいく。


 帝国との外交交渉も、皇帝との会談も、全ては後回しだ。


 まずは皇帝の発熱をちゃんと完治させないと!


 ここに『回復術師(ヒールマスター)』の勇者である香苗美花(かなえみか)がいないのは痛手だが、しょうがない。

 コンビニで扱っている市販の風邪薬や、熱冷ましの常備薬等を使って皇帝の看病をしよう。



「ククリア……皇帝は、大丈夫そうなのか?」


 俺は博識のククリアに皇帝の症状を尋ねてみる。


 まさかとは思うが、あの薔薇の魔女のロジエッタが何かしらの『呪い』みたいなものを、皇帝に仕掛けていたなら大変だからな。

 正直、そういった呪いの(たぐい)を解除出来るような能力は、今のコンビニには無い。


 あまりにも症状が重いようなら、急いでコンビニ共和国に連れ帰って、香苗に皇帝を診てもらう必要があるだろう。


「コンビニの勇者殿、どうか安心して下さい。皇帝陛下は発熱をしていますが……。それは一種の風邪の症状によるもので、命に別状はありません。しばらく安静にして体力を回復出来れば、きっと目を覚ますでしょう」


「そうなのか!? 良かった……! それを聞いて安心したよ」


「ええ。おそらく帝都に攻め寄せてきたグランデイル軍の事や、失ってしまった帝都の事。そしてコンビニの勇者殿の事で頭がいっぱいになり、体調を崩されてしまったのでしょう。一度、休息をとって頂き。後でゆっくりお話をする事にしましょう。ですが、今すぐこの場からは移動を開始した方が良いと思います」


 たしかにな。帝都がグランデイル軍に攻め落とされた以上、その近くにある山の中に籠っているのは危険な気がする。


 グランデイル軍の追撃部隊が皇帝の身柄を追って、この辺りにまでやってくる可能性もある。


「分かった! コンビニ戦車を移動させて帝都から離れよう。グランデイル軍へ反撃をするにしても、いったんこちらの態勢を整える事が今は先決だ」


「ハイ。それが良いとボクも思います。そして、コンビニの勇者殿……。皇帝陛下も仰っておられた『薔薇の女』の事について、ボクにも詳しく聞かせて頂けますでしょうか? ボクは一度、その女とは世界会議の場で出会った事はあるのですが……。何か新しい事が分かったのなら、ぜひ教えて頂きたいです」



 ククリアが俺の目を見ながら、そう尋ねてきた。


「ああ、分かった。皇帝を救出する時に、俺はとんでもない『化け物』に出会っちまったんだ。もしかしたら女神教の枢機卿(すうききょう)よりも、その女の方が、この世界の闇について詳しく知っているのかもしれないんだ。なにせ化石級に、大昔からしぶとく生きてる魔女みたいだからな」



 俺はククリアにその事を話そうとして、ふと疑問に思った。


「――ん? でも、ククリア。君なら『共有(パートナー)』の能力を使って、ある程度俺の体験してきた記憶のデータベースに、直接アクセスする事が出来るんじゃないのか?」



 俺の問いかけに対してククリアは、静かに顔を左右に振った。


 そして神妙そうな顔つきで、俺に返答する。



「実はコンビニの勇者殿、その事もいつかお話をしようと思っていたのですが……。ボクの『共有(パートナー)』の能力は、段々と衰えていっているようなのです。今のボクには、コンビニの勇者殿の体験された新しい記憶に触れる事は出来ません。どうやらボクの体は、紫魔龍公爵(メリッサ)と完全同化する方向に向かっていっているようなのです」


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