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第二百二十二話 混沌の魔女


 俺の放った『青双龍波動砲セルリアン・ツインレーザー』が、帝都の空に青い閃光を輝かせて消えていく。


 気付いた時には――皇帝の寝室の半分以上が、瞬時に消し飛んでいた。



 改めて思うけど、やっぱり凄い威力だよな、俺の守護衛星から発射されるツインレーザー砲って。



 無数の瓦礫(がれき)が崩れ落ちた寝室の外からは、冷たい風が室内に入りこんできている。

 寝室の窓には巨大な横穴が開き。穴の外から部屋の中が、丸見えな状態になっていた。



「皇帝陛下、大丈夫ですか? お怪我はないですか?」


 俺は腕に抱えている、皇帝の顔を恐る恐る(うかが)ってみる。


 さっきはかなり失礼な態度を取ってしまったからな。怒ってないかな……と、つい不安になってしまう。


「…………」


 皇帝は上から覗き込む俺の顔を見ずに。顔を赤くして俯きながら、大人しく黙っていた。


 ――大丈夫かな? さっきまでの子猫のような暴れっぷりが嘘みたいに、今は大人しくなっているけど。あまりに静か過ぎて、逆にこっちが心配になってしまうくらいだった。


 皇帝が何かメンタル的なショックを受けて、放心状態になっているのなら大変だ。後でククリアにちゃんと皇帝の容態を診て貰う事にしよう。


 さっきから顔色も、ずっと赤く熱を帯びてような気がするし。敵の襲撃を受けて、心が激しく動揺しているに違いない。


 俺が熱がないかを調べる為に、皇帝の(ひたい)を手でそっと触ろうとした、その時――。



「あらあらあら〜! もう〜、コンビニの勇者って本当に昔から容赦無いわよね〜! 今のビーム砲1つで、一体何人の人間の命を奪ったのかしら? やっぱり育ちは違っても、辿り着く未来は同じって事なのかしらね、おーっほっほっほぉ〜〜!」



 寝室の窓側に開いた、巨大な大穴のある場所に。


 薔薇色のドレスを着た、クルセイスの親衛隊長であるロジエッタが平然と立っていた。



 こいつ……。俺のレーザー砲の直撃をまともに食らったはずなのに、まだ生きていやがるのかよ。


 ニヤニヤと笑いながら、こちらを見つめている薔薇女の笑顔に、俺は恐怖さえ覚えた。


 やはりこいつは、只者ではないようだな。


 何か隠されている恐ろしい能力と、内に秘めた邪悪な気配(オーラ)が、プンプンと溢れ出ているのが分かる。



「ロジエッタとか言ったな……。お前は一体、何者なんだ? どうしてそれだけの能力を持っていながら、クルセイスなんかに仕えている? お前がグランデイル王国に味方をしている理由は何だ?」


 俺は寝室の窓側に立つ、薔薇女に問いかけてみた。


「あらぁ〜。ワタシが愛しの大クルセイス女王陛下にお仕えをするのが、そんなに不思議なのかしらぁ〜? クルセイス様は立派な女王様よ〜! 時々、暴走をして破茶滅茶な事をしでかしたりするけど、その行動の全てがワタシの『タイプ』なの。きっと相性が合うのね、だからゾクゾクしちゃうのよ〜!」


 身悶えるように体を揺らす薔薇女に、俺は指を指しながら告げてやる。


「ロジエッタ。お前はおそらく、この世界で永遠に生き続ける不老の存在――『魔女』なんじゃないのか?」



 俺の言葉を聞いたロジエッタは突然、目をキョトンとさせて。

 くねくね揺らしていた体の動きを、ピタリと止めた。


 そして不審者を見つめるような目つきで、俺の事を鋭く凝視してくる。



 もし、俺の勘が当たっているのなら。

 このロジエッタという女は、おそらくは『魔女』だ。


 魔王となった異世界の勇者の肉体から生み出される『魔王種子』を奪い取り。永遠に歳を取らない存在となった、女神教の不老の魔女達。


 この世界の過去に召喚された、もう1人の玉木でもあり。女神教のリーダーでもある枢機卿(すうききょう)や、灼熱砂漠(ファイアーデザート)の魔王モンスーンを倒した、あのチョコレート色の魔女のカヌレと、同じ雰囲気をこの女からは感じるんだ。


 この世の法則と(ことわり)から外れた者。


 この世界にバグをもたらす存在――無限の勇者インフィニット・シリーズと同じように。世界に混乱と不調和もたらすイレギュラーな存在である魔女達。


 きっと目の前にいるこの女は、恐ろしいくらいに長い年月を、この世界で生き続けてきてきたのだろう。


「ふーん。どうしてワタシが『魔女』だとあなたにバレちゃったのかしらね〜? と〜っても不思議だわ。まあ、いいけど。あなたにはもしかして、人の秘密を探知できるような、不思議な能力でもあったのかしらね?」


「お前はさっき、俺と以前に会った事がある……と言っていたな。それはもしかして、大昔にこの世界に召喚された『コンビニの大魔王』の秋ノ瀬彼方(あきのせかなた)の方なのか?」


 俺の問いかけに対して。ロジエッタは嬉しそうに頬を赤らめながら、ハァ〜ハァ〜と深い吐息を漏らす。


「おーーほっほっほぉ〜! そうよぉ、そうよぉ〜! もう5000年近く前の事になるかしらねぇ〜。過去のあなたはそれはそれは、凛々しいお顔をしていて。ちゃ〜んと、みんなに期待された通りの『異世界の勇者』を演じていたわよ〜。ああ、本当に懐かしいわね〜! アレはどこの街だったかしら? コンビニの勇者は街の人達みんなに握手を求められる、まるでアイドルのような存在だったわね〜!」



 俺はロジエッタの語る話を慎重に聞き、注意深くその内容を脳内で分析する。


 落ち着け。これはコンビニの大魔王である、過去の秋ノ瀬彼方の情報が得られる最大のチャンスだぞ。


 この薔薇女が嘘を言っていないのだとしたら。この世界の秘密を探れる、これが唯一の機会かもしれない。

 なにせ永遠の時を生きる魔女がまさに生き証人として、この世界の過去に起こった出来事を直接、話してくれているんだからな。


「もし、お前が本当に当時のコンビニの大魔王に出会っているのなら。お前は現在の女神教のリーダーである枢機卿よりも、長い年月を生きている事になる。それだけの実力を持った魔女が、どうして女神教と敵対するグランデイル王国の味方をしているんだ?」


 俺の問いかけに、ロジエッタはニンマリとした笑顔を浮かべると。


「……枢機卿? ああ、あの女神アスティアと仲良しの女の子の事ね。そうねぇ〜、ワタシは確かにコンビニの大魔王がこの世界を滅ぼした、その遥か前の時代から生きているわ。でも不老の魔女が、みんな女神の仲間だとは限らないのよ? ワタシみたいに女神を裏切って、好き勝手に生きている魔女もいるの。だってぇ〜、アスティアがやろうとしている事を知ったらワタシ、心底ガッカリしちゃったんだもの〜!」


 ロジエッタは女神教が信仰する女神、『アスティア』とも親交があったらしい。そしてそのアスティアを裏切って、今は好き勝手自由にこの世界を生きているという事なのか。

 


 ん? まてまて、そうなると……。


 女神アスティアというのは、やはりこの世界に実在する『人間』という事になるのだろうか。

 

 もし女神がこの世界の神様のような存在で、普通の人には触れる事も出来ない概念的な存在なら。

 直接会ったり、話したり出来ないはずだ。それに今、コイツは枢機卿が女神アスティアと、仲が良いと言っていたような。


「女神アスティアとは、一体何者なんだ? そしてお前達魔女は、異世界から召喚された勇者を魔王にして、そこから生み出される魔王種子を奪い取り続けて、一体何を企んでいるんだ!」


「あらあらあら〜! もう〜! 盛りのついた猫みたいに、がっつかないでよぉ〜! 無知なコンビニ勇者2号くんは、色々と知りたい事が沢山あるのは分かるんだけどぉ〜。女性を攻略する時は、順序を追って丁寧に攻めていかないとダメよ〜! 今日、あなたにワタシから与えてあげれるエサはここまで。……後は、ちゃんと自分で調べなさいよね〜」


 ロジエッタはそのまま後ろを振り返り、寝室の窓側に開いた大穴の壁に手をかけた。


 そして、外に向かって飛び出そうとする。


「――ま、待て……! 俺はまだ、お前に聞きたい事がたくさんあるんだ!」


「うふふふ、残念〜〜ん! ワタシはコンビニの勇者にはまだ生きていて欲しいから、いったんこの場から退く事にするわぁ〜。でも、皇帝を殺さないと大クルセイス女王陛下に怒られちゃうから、嫌がらせにワタシの直属の部下、『鏡騎士(ミラーナイト)』を数人ここに残していくわねぇ〜〜!」



 俺は慌てて、ロジエッタを止めようとしたのだが――。


 突然、左右から迫り来る『何か』の気配を感じて、慌てて立ち止まった。



 ”ガシャーーーーーン!!”


 それは、剣と剣が重なり合う金属音だった。


 俺の目の前で、赤い火花が線香花火のように激しく炸裂する。



「――何だ、これは!?」


 俺は皇帝の体を抱えながら、後方にバク宙をして。いったん見えない『何か』から距離を取る事にした。



 目をよく凝らして見ると、そこには確かに『何か』が立っている。


 まるでモザイクのように光を屈折させ。半透明化したような姿の騎士が数名、寝室の中に立っているのがかすかに見えた。

 

「おーほっほっほぉ〜〜! 頑張って皇帝を守り抜いてね、白馬の王子様。ワタシはこの世界が混乱して、乱れるのを眺めるのが、大好きなの! あの真面目っ子のアスティアが困る姿を想像するだけで、もうホントに大興奮しちゃうわ〜! だから最後までこの世界を大混乱に導いて頂戴ね、コンビニの勇者様〜! おーっほっほっほぉ〜〜!!」


 薔薇のドレスを着たロジエッタは、高笑いをしながら外に向かって大ジャンプをする。


 そしてあっという間に宮殿の外に消えていき。

 その姿はもう、完全に見えなくなってしまった。



 そして寝室の中には、ロジエッタが残した透明の騎士。鏡騎士(ミラーナイト)達だけが、残されている。


「……どうやらあの薔薇の魔女は、鏡か光を用いる能力者の可能性があるな。透明の騎士の姿は、かろうじて視認は出来るけれど、敵の姿をしっかりと捉えられないのはマジで厄介だぞ」


 ロジエッタの置き土産である、鏡騎士(ミラーナイト)達は、その姿が透明化していて見えづらくなっている。


 完全に背景と同化して。薄っすらとそこにいるようには見えるけれど。

 スマホの画面に張る、透過率97%超えのガラスフィルムくらいの透明さがあるからな。


 うっかりボ〜っとしていたら、いつの間にか接近されて斬り殺されてしまう危険性がある。これはガチで真剣に挑まないといけないな。



 寝室内の空気が、わずかに小さく揺れたのを感じた。


 それと同時に鋭利な刃物が、風を切るような音を発して。勢いよくこちらに流れてきているのが分かる。



「うおおおぉぉぉーーーっ!!」



 見えない透明の騎士が振るう剣を、俺はコンビニ店長専用ロングコートを闇雲に振り回して何とか弾き返す。



 ”カキン!! カキン!! カキン!! カキン!!”


 金属音が……連続で4回は聞こえた気がする。

 おそらくこの室内に、透明の騎士は4人いるらしい。


 俺は素早く敵に反撃を試みる。透明の騎士が攻撃をしてきた方向に、回し蹴りを放ってみるも――全て空振りして、虚しく空を切った。


 クソっ、ダメか! 想像よりも敵の動きはだいぶ、素早いようだな。やはり姿が見えていない状態では、こちらから直接攻撃を与えるのは難しい。



「……コンビニの勇者よ。我を抱えていては動きが取りづらいであろう。我の事は構わず、自身の好きに行動をするが良い」


 お姫様抱っこをしていた皇帝が、上目遣いにそう声をかけてきた。


 確かに、両手が塞がっている今の状態じゃ動きが取りづらい。でもだからといって、敵の狙いが皇帝である以上、迂闊に手放す訳にもいかないからな。


 皇帝を自由にした途端に、見えない騎士達は集中的に皇帝の命を狙ってくるのは目に見えている。


 ……っていうか、俺。

 皇帝の体をずっと腕で抱えていた事を、すっかり忘れていたっけ。だって皇帝の体は思ったよりもずっと軽かったからさ。


 うーん、大丈夫かな。さっき魔女のロジエッタと、だいぶヤバめな会話をしてしまっていた気もするけど。あれ、全部皇帝に聞かれていたよな……。


 後でちゃんと順序立てて説明をしないと、色々とまずい事になるような気もする。

 でも、まずは目の前の敵。ロジエッタの配下である、鏡騎士達を倒す事に集中しないと。



「――皇帝陛下、分かりました。いったん陛下の体を離します。ですが少しだけ、陛下の体を(おとり)として、利用させて貰っても良いでしょうか?」


「我を敵を引きつける為の、(おとり)として使うというのか? フン……別に構わぬぞ。貴様の好きなように、自由に我の体を扱うが良いわ……って!? こ、こら! 何をするか!?」


 皇帝から許可を貰った俺は、いきなり皇帝の体を床に無理矢理押し倒した。


 そして『床ドン』をするような姿勢で、身動きの取れなくなった皇帝を床に倒して。

 ギリギリまで俺と皇帝の体を密着させながら、その場で待機する。


「くっ、敵に囲まれているこのような場所で、このような破廉恥(はれんち)な行為を堂々と……。貴様は我に、一体どれだけの恥ずかしめを強要したら、気が済むというのだ!」



 床の上で仰向けに寝かされている皇帝が、俺の体の下でジタバタと暴れている。


 だが俺は、それを力づくで押さえ込み無視する。


 そして頬を真っ赤にしている皇帝の顔を、直視しながら。静かに室内の空気の振動と、わずかに風を切る小さな音を読む事だけに集中した。



 ……来てるな。やはり敵はこちらに向かって、近づいてきている。



 鏡騎士(ミラーナイト)達の狙いは皇帝だ。


 室内にいる4人の鏡騎士達が、一斉に飛びかかるようにして。床に寝ている皇帝の体に向かって、獣のように襲いかかってきているのが分かった。



「よし、今だッ! 出でよッ!! 『コンビニ支店4号店』ーーーーッ!!」



 大きな穴の空いた寝室の上空に、俺は巨大なコンビニ支店4号店を出現させた。


 重さ約50トンを超える、鉄筋コンクリート製の超重量級の建物が、一気に皇帝のいる場所に向けて降下をしてくる。



「――なっ……!?」


 巨大な落下物が真上から迫ってくる光景を見て、恐怖で体を硬直させてしまう皇帝。


 怖い思いをさせてしまって、すまないな。

 でも、大丈夫だ。安心してくれ! 俺がちゃんと救い出してみせるからな。


 俺は黒いロングコートを左右に伸ばし、自慢の脚力で、床を思いっきり蹴り飛ばす。


 そして落ちてくるコンビニが、寝室の床に直撃をする寸前に……。瞬時に皇帝の体を抱えて、横っ飛びにカエルジャンプをした。



 ”ズシャーーーーーーーン!!!”



 巨大なコンビニ支店4号店が、皇帝の寝室に直撃した。



 さっき『青双龍波動砲セルリアン・ツインレーザー』で、半壊させたばかりの寝室を、また更に派手にぶち壊してしまったな。


 超重量級のコンビニの落下によって。皇帝の体に目掛けて群がってきていた、透明な鏡騎士(ミラーナイト)達はコンビニの下敷きになり。完全に押し潰されてペシャンコになった。


 正直、透明な敵とまともに戦っても。攻撃は当てられないだろう。


 例えもう一度、守護衛星からのレーザーを放ったとしても。透明な敵に見事に命中させられるかどうか怪しかったからな。


 それなら、広範囲に一気に重圧をかける事の出来る、必殺の『コンビに落とし』を鏡騎士(ミラーナイト)達に食らわせてやろうと俺は考えた訳だ。


 コンビニ支店2号店と3号店は、今はそれぞれアイリーンとセーリスに持たせている。

 だけど俺はコンビニ支店4号店だけは、カプセル状にして直接ここに持ってきていた。


 そいつを、皇帝の体を床に押し倒したタイミングで上に投げつけ。鏡騎士(ミラーナイト)達が、周囲に寄ってきたのを確認してから。タイミングを見計らって上空に出現させた。


 後はあらかじめ、皇帝の体を抱えて。

 落下ギリギリのタイミングまで敵を引きつけていた俺は、カエル飛びでコンビニが床に直撃する寸前に、脱出する事に成功をした訳だ。

 


 ふぅ。どうやら作戦は上手くいったみたいだな。


 跡形も残らないくらいに、皇帝の寝室をめちゃくちゃに壊しちゃったけど。ちゃんと皇帝を守りきる事が出来たのだから、そこは許して欲しい。


 もし、これで外交問題にでもされてしまったら。コンビニ共和国とバーディア帝国との友好条約なんて、永遠に結べないような気がして、少しだけヒヤヒヤしちゃったけどな。



「陛下、ご無事ですか? それと、おーーい! フィートもちゃんと生きてるかーー?」


「おーーい! じゃねぇーーよ!! あたいの事を、皇帝のついでみたいに扱いやがって。ちゃんと生きてるよ! 全く、寝室がめちゃくちゃじゃないかよ。どれだけ破壊しまくるつもりなんだよ、この破壊魔人お兄さんめ〜!」



 良かった。暖炉に隠れていたフィートもちゃんと無事らしい。


 ……って、破壊魔人って何だよ! 


 ちゃんとレーザー砲も、コンビニ落としも。全てフィートのいる暖炉には当てないように、俺はずっと配慮をしながら敵と戦ってだんだぞ。


 俺のもふもふへの果てしない愛情を疑うなんて、何て不届きなもふもふ娘なんだ。



「………ううっ」


 頭を押さえながら、皇帝もゆっくりと目を開けた。


 どうやら皇帝も無事らしいな。


 見たところ目立った外傷も無いし。俺は何とか皇帝を守りきる事が出来たみたいだ。


 だが、ゆっくりと3人で和やかに談笑しているような時間の余裕は無いらしい。



『『うおおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!』』



 全壊した寝室の外では、既に帝都に侵入してきた無数のグランデイル軍と、帝国軍との間で激しい戦闘が開始されていた。


 どうやら帝都を取り囲んでいた、10万人を超えるグランデイル南進軍が、一斉に帝都への侵攻を開始したようだ。


 既に皇帝のいる宮殿の周囲には、無数のグランデイル兵が押し寄せてきている。

 宮殿の周囲に配置されていた黒い戦車隊は、白い鎧を着た魔法戦士隊によって破壊されてしまったのだろう。


 宮殿の警護兵達もグランデイル軍によって倒され、完全に沈黙している。

 おそらく放っておけばすぐにでも、この最上階の寝室に、グランデイル軍は殺到してくるだろう。



 宮殿の最上階にある、この全壊した寝室から見える帝都の光景は……。もはや完全に、帝国側の敗北の色に染まりきっているように見えた。


「陛下、この状況下でここに残り続けるのは危険です。俺と一緒に、ここから脱出をする事に同意をしてくれますか?」



 俺はおそるおそる、宮殿の下の様子を確認している皇帝に尋ねてみた。



 皇帝は外の光景を見つめながら、静かに口を開く。



「……構わぬ。我を連れていくが良い、コンビニの勇者よ」


 皇帝は無表情のまま、俺の呼びかけに同意してくれた。


 良かった。最後までここに残って戦うとか、皇帝として、誇り高く玉砕をするだとか言われたらどうしようかと思った。

 でもまあ、例えその場合でも。俺は無理矢理にでも皇帝を連れ出そうと思っていたけどな。



 俺の不安そうな顔を察したのか。皇帝は少しだけ口角を吊り上げて、自嘲気味に笑ってみせた。


「心配をするな。我が生きて立っている場所こそが、バーディア帝国の『帝都』である。すぐにでも周辺都市の軍を集結させて、必ずや帝都は取り戻す。グランデイルの雑兵共などに、これ以上我が帝国の領土を踏みにじらせる訳にはいかぬからな!」



 皇帝は強い意志で、固い決意を表明した。


 よーし、それならすぐにでもここから脱出をするぞ!


「コンビニのお兄さん、でも……さっきの衝撃で、暖炉の中の隠し通路も壊れちゃったみたいどけど、これからどうするんだ?」



 フィートが心配そうに尋ねてくる。


「大丈夫さ。全部コンビニの勇者のこの俺に、任せておけって!」


 俺はコンビニ支店4号店の屋上から、シールドドローン3機を離陸させる。


 そして素早くコンビニ支店をカプセルに戻すと、シールドドローンを合体させて、ホバリング能力を持つ大きな三角形の形をした飛行ドローンを作成した。


 その上に、フィートと皇帝を順番に乗せて。


 3人でドローンの上に乗りながら、空中飛行をして帝都の上空へと飛び立つ事にする。



 俺達が大空へ飛び立ったのと、ほぼ同時に。


 宮殿を制圧したグランデイル軍が、最上階の寝室にまで殺到して来たのが上空から見えた。



「危なかった。ぼぼ、間一髪だったな……」


 上空から見下ろす帝都の様子は、あちこちから煙が上がっていて。大混乱に陥っているのが分かる。



 自分が治めている国が、敵国に蹂躙されている様子を空から見つめて。

 皇帝は1人で静かに、体を震わせていた。


 俺とフィートと皇帝は、帝都の空を飛行している飛行竜戦艦バトル・ドラゴンシップの間を、掻い潜るようにして。



 何とか無事に、陥落した帝都から皇帝を連れて脱出する事に成功をした。


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[気になる点] さすがにお姫様抱っこでバク転は無理ですw バク転は床に手を着くことが大前提ですのでw バク宙の間違いかと思いますが
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