第二百二十一話 皇帝救出
俺が大声で叫んだ『皇帝救出宣言』に対して。
皇帝の寝室にいるグランデイルの白い騎士達が、一斉に目を点にして、こちらに振り返ってきた。
よーし、まずは掴みは上々みたいだな。
正直な所、俺はまだ緊迫したこの場の状況を、全て理解出来ている訳じゃない。
多分、あそこでグランデイルの白い騎士達に囲まれているネグリジェ姿の赤髪の女性が、帝国の皇帝、『ミズガルド・フォン・バーディア』でいいんだよな?
ククリアから聞いていた外見にも、よく似てるし。
そもそもあの赤髪の女性以外、この部屋には女性がいない。後は全てグランデイル王国の騎士の格好をしているから、たぶん間違いないと思う。
これでもし違っているのなら、もう皇帝は既に敵に殺されてしまってる事になる。
だからここはもう、俺は自分の直勘を信じて。あの赤髪の若い女性を救う事だけに、全力を注がせて貰う事にするぞ!
「あらぁ〜、あらぁ〜、あらぁ〜!? ここでまさかの『コンビニの勇者』の登場なのぉ〜? さすがにワタシもそれは想定外よ〜! こんな土壇場でお姫様を救い出す白馬の王子様が突然、現れるなんて……もう! 本当に憎い演出をしてくれるじゃないのよぉ〜!」
皇帝を取り囲む、白い鎧の騎士達の後方に。
ワイン色のドレスを着た、やたらと顔の化粧が濃い女が1人立っていた。
薔薇の花を頭に沢山付けているみたいだけど……。アレって、頭皮に薔薇の棘が直接突き刺さって痛くないのかな? なんか日本の高級クラブにいそうな、妖艶な雰囲気の怪しいキャラが突然現れたけど、大丈夫なのか?
そんな俺の訝しむような視線など、全くお構いなしに。
薔薇の花を全身に付けた女は、こちらをずっと熱い視線で見つめながら、興奮気味に話しかけてきた。
「お〜〜ほっほっほぉ〜〜! こうしてアナタと再会するのは、本当にどれくらいぶりかしらぁ? 相変わらず見た目は普通なのに、目つきだけはいつもギラギラしてる所が本当にス・テ・キ、よねぇ〜〜!」
「……ん? お前は一体、誰だ? 俺はお前みたいな胡散臭い格好をした奴とは、今までに一度も会った事はないぞ。誰か他の奴と勘違いしてるんじゃないのか?」
俺が淡白に薔薇女にそう伝えると。
女はなぜか嬉しそうに、ニヤニヤとその場で身悶え始める。
そしてスリットの入ったスカートの隙間から、色白の生足を露出させると、妖艶な表情で高らかに笑う。
「あらぁ、あらぁ〜! そうだったわね〜、ゴメンなさい〜! ワタシが会ったのは『アナタ』の方じゃなかったわ。別のコンビニの勇者の方だったわね〜。だって外見が全く同じだから、ついつい勘違いしちゃったのよ〜。おーほっほっほ〜〜っ!」
「別のコンビニの勇者だって? ――おい、それはどういう意味なんだ?」
「お〜っほっほっほぉ〜〜! 大丈夫、大丈夫〜。ただのワタシの勘違いだから深く気にしないで頂戴ね〜!」
こちらが呆れ返るくらいの大声で、狂ったように笑い続けている薔薇女。
一体何なんだ、コイツは?
グランデイル王国には、こんなイカれ女キャラが控えていたのか? 今までこんな奴、一度も見かけた事は無かったけど、一体どこに隠れていたんだ。
「では、改めてコンビニの勇者様に自己紹介をさせて貰うわね〜! ワタシは大クルセイス女王陛下様にお仕えをしている親衛隊長、薔薇の騎士のロジエッタという者よ〜。以後、ぜひお見知り置きをして頂戴ね〜、コンビニの勇者様!」
薔薇の騎士を名乗る女は丁寧に、そして優雅な動きで。俺に対して、騎士道精神をちゃんと持ち合わせているような態度で急に頭を下げてきた。
まあ、それも全部。そのおかしな衣装のせいで台無しだけどな。
ニヤニヤと笑うロジエッタの様子を見て。
俺は思わず全身に鳥肌が立つくらいの、大きな身震いをしてしまう。
人は時として、その外見や態度だけでは推し量る事の出来ない、秘められた内面を隠し持っている事がある。
俺はこのロジエッタという謎の女に出会って。
その恐ろしさを、全身の肌で敏感に感じ取っていた。
こいつは、かなりヤバい奴だぞ……。
それは性格や格好がどうこうという意味ではなく。おそらくこの女の持つ潜在的な能力は、他者を凌駕する凄まじい強さがあるのは間違いない。
この女が、皇帝の寝室に侵入してきているグランデイル軍を束ねるリーダーなのだろう。
あのクルセイスの直属の親衛隊長と聞いただけでも、ヤバさは全開だけど。その性格や言動も、かなりぶっ飛んでいるキャラみたいだしな……。
でも、こいつとずっとここで話していても埒が明かない。ここはまず窮地に陥っている皇帝を救出する事に、俺は専念させて貰う事にしよう。
「フィート! お前はそのまま、暖炉の中に入ってちゃんと隠れているんだぞ! 今からこの部屋は凄く危険な状態になる。俺が良いと言うまで、決して外に出てくるんじゃないぞ!」
「分かったよ、あたいはここで避難路の確保をしておくから、後は頼んだぜ、お人好しのお兄さん!」
フィートがちゃんと暖炉に隠れたのを確認して。
俺は皇帝の寝室の中で、いきなり大ジャンプをした。
まだ呆然としているネグリジェ姿の赤い髪の女性と、白い鎧の騎士達との間に、空中から割り込むようにして俺は降り立った。
「えーと、あなたがバーディア帝国の皇帝陛下でいいんですよね? 何か騒々しい場所でのご挨拶になっちゃったけど、俺はコンビニの勇者の秋ノ瀬彼方といいます。後の事はもう大丈夫ですから、安心して下さい! この俺が全部何とかしてみせますから!」
別にヒーロー気取りを意識した訳じゃないけれど。
俺は赤髪の皇帝の顔を見ながら、自分の胸を力強く右の拳で叩いて安心アピールをする。
なにせ、こんな危機的な状況の中に飛び込んでしまったんだ。
ここは正義の味方である異世界の勇者らしく。美しい女皇帝を、俺が華麗に救出する場面に違いないだろうからな――!
ところが俺の異世界の勇者としての登場の仕方が、お気に召さなかったのか。
それともヒーローとしての俺の外見が、あまり好みじゃなかったのか。
よくは分からないけれど。皇帝ミズガルドは全然嬉しそうな顔をせずに、むしろ不快感全開な表情で、俺を侮蔑する言葉を吐き捨ててきた。
「誰だ貴様はッ!! 貴様のような下賎な者の手助けなどいらぬわ! この程度の雑魚共など、我の力だけで十分に制圧する事が出来る。部外者は即刻、この部屋から立ち去るが良い!」
「ええっ!? 何でそんなひどい言い方するんだよ! 下賎な者って、これでも一応、俺は異世界の勇者なんですけど……」
「異世界の勇者など知らんッ! 我は誇り高き神聖バーディア帝国の皇帝にして、この帝国領全てを統治する専制君主であるぞ! 貴様のような外部の者の手助けなど求めたりはせぬ。この程度の有象無象、我の剣術だけで成敗してくれるわ!」
赤い長い髪をなびかせながら、皇帝ミズガルドが勢いよく、グランデイルの白い騎士達に向かって斬りかかっていく。
これじゃあせっかく俺が皇帝の盾になろうと、敵との間に強引に割り込んだ意味が無いじゃないか。
若いから血気盛んなのは分かるけどさ。どう見てもここは多勢に無勢だぞ? 少しは人の手を借りた方が良いと、俺は思うんだけど……。
「消え失せるがいいッ!! 下劣なるクルセイスの僕共めがーーッ!!」
皇帝の振るう白銀の長剣によって、白い鎧の騎士の1人の首が、瞬時に斬り落とされた。
そして周囲の騎士達から嵐のように降り注ぐ剣撃を、白銀の剣による剣さばきでだけで、皇帝は華麗に弾き返していく。
おおっ、たしかに強いぞ……! 皇帝ミズガルドの剣の腕は、間違いなく一流だ。
ちょっと強面で、気軽に話しかけづらい威圧的な態度をとってくる、女上司って感じの印象だったけどさ。
その外見に負けないくらい、彼女が凄腕の剣士である事が戦いぶりを見てよく分かった。
コンビニ陣営に所属する、『剣術使い』の雪咲詩織が振るう剣の太刀筋にもよく似ている。
それを特殊な能力を持たない、生身の人間が行っているのだから、皇帝は相当な実力者だと思う。
だが、申し訳ないが……。今の皇帝の力だけでは、この寝室にいるグランデイルの白い騎士達全員を排除する事は不可能だ。
皇帝の周囲を囲むグランデイルの騎士達は、今度は一斉に、皇帝目掛けて魔法の『火炎球』を放ってきた。
皇帝はとっさの判断で、後方にバク転をする。
俊敏な動きで、ギリギリ魔法攻撃を回避する事が出来たが……。着地点には既に、別の騎士達が剣を振り上げて待ち構えていた。
「クッ……。おのれぇ!!」
ほーら、言わんこっちゃない。
もうこのまま黙って見ている訳にはいかないな。
例え下賎な者と罵られようと。こんな所で大切な帝国の皇帝の命を失わせる訳にはいかない。悪いが無理矢理にでも、俺は加勢させて貰うからな。
皇帝に斬りかかろうと背後から群がってきた、白い騎士達の正面に俺は素早く躍り出る。
そして、無数に迫り来る敵の剣撃を……。
”ガキ、ガキーーーン!!”
片足1本だけで、見事に全て防ぎきってみせた。
「なっ、貴様は……!?」
俺の後方で、皇帝が驚きの声を上げたのが分かった。
これで少しは俺の事を見直したかな? でも悪いけど、今はそこでじっとしておいてくれよ!
「いっくぞぉぉーーーッ!! うおおおおぉぉぉぉッ!!」
俺は渾身の回し蹴りを、敵のグランデイル兵達に向けて繰り出す。
長い左脚が光の円を描くようにして、見事に敵の体を捉え。そのまま相手を順番に弾き飛ばしていった。
皇帝の周りを取り囲んでいた、白騎士達を全員を一瞬にして遠くにまで蹴り飛ばし。そのまま俺は、皇帝をガードする態勢をとる。
俺の蹴りをまともにくらった連中は、寝室の壁際にまで弾き飛ばされ。全員、壁の中に深く体をめり込ませながら、全く動かなくなった。
先ほどまでの騒ぎが嘘のように。
一斉に、シーンと静まり返る室内。
帝国の皇帝も、グランデイルの騎士達も。まるで呼吸をするのを忘れたかのように。
片足立ちで蹴りのポーズをとっている、黒いロングコート姿のコンビニの勇者をマジマジと見つめている。
「あらぁ〜、もうヤダ〜! 超イケメンじゃない〜! さっすがコンビニの勇者よね〜! でも、こっちも見惚ればかりじゃいられないわ。さあ、みんな〜。白馬の王子様の事は放っておいて、そこにいる皇帝の首を落とす事だけに全員、集中して頂戴ね〜!」
薔薇女の指示で、室内に残っている白騎士達が一斉に動き出す。
目標はもちろん俺ではない。
全員、真っ直ぐに皇帝の命だけを狙って襲いかかってくる。
「クッ……この程度で我が屈すると思うなよ、下郎共が!!」
皇帝ミズガルドが、再び白銀の剣を構えて。白い騎士達に向けて、臆する事もなく自らの意思で飛び掛かっていく。
もう、だーかーらー!
敵は完全に皇帝1人を標的にしてるんだから、無闇やたらに飛び出さないでくれよな。全く、アンタの身を必死で守ろうとしている、こっちの身にもなってくれよ。
よーし、こうなったら仕方がない。
俺は飛び出した皇帝の体を、後ろから片手で抱きかかえるようにして空中にジャンプした。
「き、貴様……! 一体何をするつもりだ!? 放せっ、放さんか! 我を誰だと思っている!? 我の体はお前のような下賎な者が触れて良い体ではないのだぞッ!!」
「……いや、大人しくしてくれないお前の方が悪い。もうこの状況じゃ、いい加減に1人では勝てないって事実を理解するんだ!」
俺は叱りつけるようにして、皇帝に忠告をした。
だが……俺に体を掴まれた皇帝は、ひたすらにジタバタと、もがき続ける。とにかく暴れる。
子供のイノシシくらいの迫力で、足を思いっきり振り回し続けている。
まるで、本当に子供だな。
頼むからそんなに動くなって。こっちは片手が塞がっているから、動きが取りづらいんだぞ。
むにゅ、むにゅ。
――ん? 何か今、柔らかいものを思いっきり手の平で掴んでしまったような……。
なんだろう、まあ、気のせいか。今はそれを気にしている、余裕なんて無いし。
「き、貴様ッ!! 一体、どこを触っておるのかッ! この下劣なハレンチ者め! は、放さんか……ッ!!」
「いや、本当に危ないから。そんなに暴れるなって!」
皇帝が俺の腕の中で暴れている間にも。
俺は10人を超えるグランデイルの白騎士達を、片足だけで華麗に蹴り飛ばし続けていた。
ドガッ!! バキッ!! グキッ!!
白い騎士達の剣をへし折り。その体を思いっきり蹴り飛ばして。壁に1人ずつ順番にめり込ませていく。
そして無数に飛んでくる火炎球を、黒いロングコートを振り回して、全て弾き返してやった。
まだ反抗期の子猫に、腕をガリガリされているような状態だけど。俺はちゃんとやるべき仕事はこなしているからな。
……しばらくして。
何とか俺は、皇帝に群がってくる敵全てを撃退する事に成功をしたらしい。
うん、我ながら良くやったと思うぞ。
全く本当に世話のかかる皇帝だよな。せめてもう少し、大人しくしてくれたら助かるのに。
けれど、敵はこちらを休ませてくれる時間なんて与えてはくれなかった。寝室の天井に空いている大穴から、次々と新手の敵の援軍達が室内に入り込んで来る。
俺は既に20人近い白騎士を蹴り飛ばしたけど、敵はまだまだ減りそうな気配が無い。
しかも全員、グランデイル軍が誇る最強の魔法戦士部隊だからな。まだまだ、こにらも油断する訳にはいかなさそうだ。
「仕方ない、ちょっと荒っぽい事をさせて貰うけど。ちゃんと歯を食いしばっていてくれよな、皇帝陛下!」
「な、何だと……。何をするつもりなのだ!?」
寝室に侵入してきた、もの凄い数の白騎士達。
そいつらが360度の全方位から、一斉にこちらに向かって襲いかかってくる。
流石に俺も、皇帝を右手に抱きかかえたままでは体勢が悪い。だから仕方なく、いったん皇帝の体を真上の天井に放り投げる事にした。
いきなり天井に投げられて、自分の体が宙に浮かんでいる事に驚愕の表情を浮かべる皇帝。
……すまんな。すぐに受け止めるから、一瞬だけそこで我慢していてくれよな!
皇帝の体が、天井付近に浮かんでいる。
その、僅かほんの数秒の間に――。
俺は頭を床に付けて、両脚を使ってストリートダンスを披露するかのように。
逆立ちをしながら床の上で体を回転させ。上段回し蹴りを高速スピードで、敵に向かってかましていく。
「おらおらおらーーッ!! 全員一気に蹴り飛ばしてやるぜーーッ!!
大体、20人くらいを蹴り飛ばした辺りで、俺は逆立ち回転蹴りをピタリと止めた。
そして今度は、上から落ちてきた皇帝の体を、そのまま無言でガシッと、お姫様抱っこの姿勢で優しくキャッチした。
落下の衝撃はそんなに無かったはずなのに、思わずブルルっと体を震わせる皇帝ミズガルド。
皇帝は一瞬、自分の身に何が起きたのか分からなかったらしい。パチパチと瞬きを繰り返し、真顔でじっと俺の顔を下から見つめている。
でも不思議な事に、俺にお姫様抱っこされているという事に対しては、全然抵抗してこなかった。
さっきまでの暴れっぷりがまるで嘘みたいに。
皇帝は急に頬を紅く染めて、黙り込んでしまった。
ほっ……良かった。
どうやら、やっと落ち着いてくれたらしいな。
皇帝が俺に身を任せて、大人しくなってくれれば。それだけで、俺は本来の力を十分に発揮出来るようになれるからな。
よーし、後は一気に敵を蹴散らしていくぞ!
「あらぁあらぁ〜! やっぱりコンビニの勇者は強いのねぇ〜。でもうちの白い兵隊さん達はまだまだ沢山いるから安心してね〜! さあ、そのお姫様抱っこをしたままの状態で、どこまで皇帝陛下を守り切れるのかしらぁ〜? お〜っほっほっほぉ〜〜!」
ロジエッタと名乗る薔薇女が、高笑いをしながらこちらを嘲笑してくる。
それと同時に寝室には、更に数十人を超える白い鎧の騎士達が侵入してきていた。
俺達は新たに出現した騎士達によって、あっという間に周囲を取り囲まれてしまう。
あの薔薇女の言動はイカれてるが、その発言だけは的を射ていた。
敵の増援がこのままずっと増え続けるのなら、流石にそれはマズイ事になる。俺はもう、皇帝を守りきれないかもしれない。
だからここは、そうなる前に。早めにカタをつけて、この場からさっさと脱出をした方が良いだろう。
「フィート! そのまま暖炉でじっとしていろよ! えーと、皇帝陛下も……うん。そのまま俺の腕の中で、大人しくしていて下さいね」
「……………」
俺は目線を下に向けると、すぐそこに、皇帝ミズガルドの顔があった事を思い出し。少しだけ緊張してしまう。
さっきまで子猫のように暴れていた皇帝は、今ではすっかり大人しくなって。俺に無言でお人形さんのように大切に抱きかかえられている。
腕の中からじっと、俺の顔を見上げていて。
何も抵抗するような反応をしてこなかった。
えーと。急にそんなに大人しくなると、逆にこっちが緊張してやりにくいんですけど。
とにかく俺は、いったん皇帝を抱えたまま。
寝室の端っこの方にまで、ジャンプをして移動を開始する。
今度は寝室の壁を背にして、グランデイル軍の白騎士達に背後に回り込まれないようにした。
そして俺の両肩に浮かぶ、2つの銀色の球体を急いで稼働させる。
「皇帝陛下は目を閉じていて下さいね! 今から俺、もの凄い威力のある必殺技を敵に向けて、全力でぶっ放しますから!!」
「…………」
コクコクと頷いて。俺に抱きかかえられている皇帝は、素直にその場で両目を閉じる。
よーし、後は照準をあの薔薇女と、白い騎士達のいる方向に向けて固定させるだけだ。
勢い余って寝室を全壊させちまうかもしれないけど、今の俺には弁償なんて出来ないから、勘弁してくれよな!
「これでもくらいやがれッ! 『青双龍波動砲』ーーッ!!」
俺の両肩に浮かぶ銀色の守護衛星から、青い聖なる閃光が放たれる。
あらゆる敵を消し飛ばす事の出来る強力なレーザーは、一直線にグランデイル軍の騎士達と、それを統率する薔薇女の方に向けて直進していく。
そして――。
””ドゴーーーーーーーーン!!!!””
凄まじい破壊音と共に。
バーディア帝国の皇帝の寝室が、一瞬にして消し飛ばされた。
轟音を立てて倒壊する天井、崩れ落ちてくる固い大理石の残骸。モクモクとした白煙と粉塵が、寝室の中を一瞬にして埋め尽くしていく。
しばらくして、俺と皇帝が目を開けた時には……。
さっきまでそこにあった寝室の半分以上が、俺の放った青いレーザー砲によって吹き飛ばされていた。
倒壊してむき出しになった寝室の向こう側には、宮殿の外に広がる、真っ青な空の景色が見えている。
皇帝の寝室は、その半分以上が消し飛び。
どうやら薔薇女と、その配下の白騎士達をまとめて排除する事に俺は成功したようだった。