第二百十話 第2次アッサム要塞攻略作戦③
3人娘達の冷徹な言葉を聞いた紗和乃は、思わずその場でゴクリと唾を飲む。
小笠原、野々原、藤枝の3人のクラスメイト達は、何の躊躇いもなく。
同級生の霧島正樹を『殺害する』と断言したのだ。
もちろんその選択肢も考慮しなればと、紗和乃も思っていた。
これは戦争なのだ。しかも霧島が侵略軍であるグランデイル西進軍の総指揮をしているという事実。例え彼を生きたまま捕えたとしても、容赦なく霧島は処罰をしないといけないだろう。
そうでなければグランデイル軍に殺されたアルトラスの街の住人達が報われないし、その家族達も決して彼を許さないだろうから。
だが……例えそうだとしても。
彼は自分達と同じ異世界の勇者で元クラスメイトだ。
それなのに、全く躊躇する事もなく。3人娘達が霧島は殺すという結論を迷いなく断言するとは、紗和乃にとってそれはあまりにも予想外の事だった。
「……だって、そんなの当然の事じゃん。霧島がした事の罪の深さを考えたら、絶対に許せる訳ないじゃん!」
アイドルの勇者の野々原有紀が、問答無用でそう霧島を断罪する。
「紗和乃さんや桂木くんは、後から来たから分からないかもしれないけどさー。私達は、霧島が指揮するグランデイル西進軍が、アルトラス連合領でどれだけ残忍な行為をしてきたのかを、全部この目で見てきたからねー」
舞踏者の勇者の藤枝みゆきも、真剣な表情でそう野々原に同意する。
――そう。
3人娘達は、ここまで花嫁騎士のセーリスと共に。
グランデイル西進軍との激しい戦いを勝ち抜いてきたのだ。
戦う相手は全て、生身の人間……グランデイルに所属する騎士達だった。
侵略者として街を支配していたグランデイルの騎士達は、街に住む人々をみせしめの為に。残虐な方法を用いて大量に殺害してきている。それはまさに、大虐殺といってよいほどの恐ろしい蛮行だった。
グランデイル国に所属をする騎士団が、組織的に盗賊や野党以上の残酷な殺戮行為を、各地で行っていたのだ。
グランデイルの騎士達に火をつけられて、生きたまま燃やされてしまった街の人々。
無慈悲にも大量の矢を背後から浴びせられて、逃げる途中で殺害されてしまった住民達。
そして敵に捕まり、残酷な拷問を受けて殺されてしまった街の自警団や領主の家族達。
そんな恐ろしい光景を直接戦場で見てきた、セーリスと3人娘達は……。
怒りに震える修羅の如く。反撃してくるグランデイル軍の騎士達を、異世界の勇者の能力を用いて蹴散らしていった。
小笠原の操るクマのぬいぐるみ達は、殺害したグランデイルの騎士達の返り血を浴びて、その全てが真っ赤な血に染まったくらいだ。
戦場を高速で駆け巡る藤枝みゆきの持つ双剣は、数えきれないほどのグランデイル兵達の首を、瞬時に切り落とした。
グランデイル軍から逃げまどう人々を守る為に、アイドルの勇者の野々原有紀は、声が枯れるまで歌い続け。避難民が押し寄せる街に、防御結界を一晩中張り続けた事もある。
一見すると、いつもと同じようにあっけらかんとしているように見える3人娘達だが……。彼女達は信じられない数の修羅場をくぐり抜けてきたのだ。
彼女達は戦場において。敵の騎士達を数えきれないくらいに蹴散らしてきた、解放軍陣営の英雄達なのだ。
魔物ではない、対人間との戦争において。3人娘達は他の異世界の勇者達とは、比べられない程の深い経験値を積み上げている。
そしてなぜか、このグランデイル王国との戦争においては――。無敵の力を誇るはずの『花嫁騎士』のセーリスは、敵と積極的には戦おうとはしなかった。
もちろんセーリスは、3人娘達のサポートを全力でこなしてくれてはいたのだが……。セーリス自身が怒りに身を任せて、グランデイルの騎士達を大量殺害するという事はなかった。
セーリスは、もしかしたら何かを察していたのかもしれない。
もし、セーリスが大量にグランデイル王国の騎士達を殺害するような事があれば……。コンビニの勇者である秋ノ瀬彼方のレベルが上がってしまう可能性もあっただろう。
その事を本能的に、セーリスは理解していたのかもしれなかった。
その為……今回のグランデイル西進軍との戦争においては、3人娘達が常に先頭に立って。戦場を駆け巡る解放軍の主力として、戦いに望んでいたのである。
「……つまりはそういう事ね。グランデイル軍に侵略された街の中には、霧島が放った氷の矢で貫かれた街の人の死体も沢山残されていたわ。アレを全部、霧島がやったのだとしたら。同級生だからといって、彼を許してあげる理由は全くないわ」
ぬいぐるみの勇者の小笠原麻衣子が、そう強く言い放った。
それを聞いた紗和乃も、桂木も。
ただただ、その場で黙り込む事しか出来なかった。
実際に戦場に赴いて。たくさんの返り血を浴びて戦ってきた3人に、反論するような事など出来ない。
彼女達は、実際に霧島に殺された人々を多数目撃してきているのだから。
「――分かったわ。もし、霧島くんを見つけたら。真っ先に彼を仕留める覚悟で私も挑む事にする」
紗和乃も覚悟を決めて、そう宣言した。
だが、この中で唯一……。裁縫師の勇者である桂木だけが、同じクラスメイトである霧島に温情をかけるような言葉を提案する。
「……みんな、少しだけ持って欲しいっす! たしかに霧島はヤバい野郎かもしれないけれど。もし話せるのなら、一言くらいはアイツにも弁明の機会を与えてやって欲しいっす! 説明を聞いて、それでもやっぱり霧島がクズなら、拷問でも何にでもかけて。最後は小笠原の操る超巨大クマの足の裏に縛り付けて、地面に擦り付けてやればいいっす!」
桂木の提案に、3人娘達は少しだけ考え込むようにして黙り込む。
そして、しばらくの時間が経つと。
「まあ、そうねー。もしかしたら、霧島のアホは誰かに操られていて全く意識が無い状態とかも、1割くらいならあり得るかもしれないしー。誰かを人質に取られていて、脅迫されているとかー。客観的に見て『やむを得ない状況』になっていると判断出来る場合には、少しだけ考えてあげてもいいかもねー」
「うーん、そうだとしても……。私にはやっぱり許してあげるのは無理だと思うけど〜。まあ、話すだけ話してみて。やっぱりクズ確定なら、その場で死刑確定でいいじゃん」
「そうね。委員長の倉持くん達は、何か私達の知らないグランデイル王国の裏の情報を知っているかもしれないし。だとしたら霧島を生け捕りにするのも良い提案かもしれないわね。でも、あくまでも余裕があった場合だけにしましょうね。霧島が敵の総大将である以上、彼を倒さないとこの戦争は終わらないのだから。殺害されてしまった多くの街の人達の無念を晴らす為にも、霧島を倒す事を最優先に考えましょうね!」
ぬいぐるみの勇者の小笠原が最後にそうまとめて。異世界の勇者達全員の意思は1つにまとまった。
小笠原の意見は、この会議に出席しているアルトラス連合領の諸将にも配慮をしただろう……と、紗和乃は理解をした。
自分達の国をめちゃくちゃにされて、たくさんの住人達を殺害したグランデイル西進軍総大将である『氷術師』の勇者を……。
異世界の勇者達が同じクラスメイトだからという理由で、温情をかけるような態度を取るわけにはいかない。
少なくともそれは、この会議の場で言うべき発言ではないのだ。
どちらにしても、新たに合流した異世界の勇者達を含めて。解放軍は主力であった花嫁騎士のセーリスが不在の中で、グランデイル軍が立て籠もるアッサム要塞を攻略しないといけない。
第2次アッサム要塞攻略作戦の会議は、カルタロス王国女王、サステリアをリーダーとして改めて行われる事となった。
そしてその翌日には、ドリシア・カルタロス王国の騎士団がアッサム要塞前の平野に、全軍を布陣させる事になる。
その陣容は――あまりにも『異様』としか言いようがなかった。
アッサム要塞の正面に立っているのは、たったの3人だけ。
今や連合軍の主力となっている、3聖姉妹将軍である、『ぬいぐるみ』、『舞踏者』、『アイドル』の勇者達だけが、グランデイル王国軍の正面に立ちはだかっている。
それ以外の連合軍の騎士達は全員、遥か後方の場所に陣取り。戦場か距離を置くような形で、後方から見守る陣形を取っていたのである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「大変です……! 『氷結将軍』様! 敵の軍勢が要塞前にまで攻め寄せて来ています!」
グランデイル西進軍が立て篭もるアッサム要塞の中。
作戦会議が行われている大きな石造の砦に、異世界から召喚された『氷術師』の勇者である霧島正樹はいた。
彼が座る大きな丸テーブルの上には、この世の贅の限りを尽くしたかのような、美食の料理が所狭しと並べられている。
「ハァ〜〜っ?? 何でこの要塞の目前にまで、敵に攻められちゃってんだよ! この無能なカス共がッ!!」
手に持っていた熱々のスープを、霧島は食器ごと思いっきり目の前で跪いている騎士の顔に向かって浴びせかけた。
「”ぐぎゃあああぁぁーーッ”!!」
熱した高温スープを顔にぶちまけられた騎士が、あまりの熱さに絶叫をしてその場で悶え苦しむ。
その様子を見た霧島は、『ギャッハッハ〜!』と腹を抱えて笑い転げていた。
異世界の勇者であるグランデイル西進軍の総大将――氷結将軍の野蛮な行動を咎めるような者はこの場には誰もいない。ただ黙って、霧島が椅子の上で笑い転げているのを見守り続けるのみである。
霧島の機嫌が悪いのは、ここの所……連戦連敗を喫している味方の軍勢の不甲斐なさに、強いストレスを感じていたという事もあった。
元々、霧島自身には、異世界での自分自身の生き方について、強い信念など全く無い。
ただ、自分がいつでも他者に対して偉そうに出来て。そして贅沢な生活が送れればそれで良いのだ。
異世界の勇者だと周囲からもてはやされ、悠々自適な生活が送れている事に霧島は満足をしていた。そして何より自分は『エリート』である1軍の選抜勇者だ。
優れた能力を持つ選ばれた人間なのだという誇りが、彼をこの世界に来てから傲慢な性格へと変貌させていた。
そんなエリート勇者である霧島の環境を一変させたのが、過去に行われたアッサム要塞の攻略作戦である。
第1次アッサム要塞攻略戦では、彼は味方の勇者達を捨てて。自分だけ助かろうとした委員長の倉持について行く道を選んでしまった。
そこには何の打算もなかった。ただその方が得で、自分が生き残れる可能性が高いと感じただけに過ぎない。
実際はその後に登場した『コンビニの勇者』によって、敵の4魔龍将軍は討ち取られ。アッサム要塞の攻略は大成功に終わったのだが……。
霧島はその後、クラスメイトだった1軍の勇者達からも、裏切り者として白い目で見られるようになる。
元々、同級生のメンバー達への仲間意識も低かった霧島は、『フン……』と鼻先で笑いながらも、内心では苦々しい思いを抱いていたのは確かだ。
だが、もうこうなってしまったら自分の所属する陣営の旗色は変えられない。
グランデイル王国に残った倉持達に付いていくしか道しか、霧島には選択肢が無かった。
霧島の他にも、杉田や香苗をはじめとして。グランデイル王国に残った勇者達も複数人いた。だから、霧島はそれほど疎外感や孤独感のようなものは感じなかった。
ただ……何となくムカつく。そんな表現のしようのないモヤモヤ感が、その時から霧島の胸中にはずっと渦巻いていた。
今まで自分がエリートなのだと信じていた土台を、いきなり外されてしまったような感覚。
自分こそが選ばれた選抜勇者なのだとチヤホヤされていたのに、急にどこからか別の勇者が現れて……。主人公の座を奪われてしまったような転落感。出世のハシゴを外されてしまい、落ちぶれてしまったエリート街道。
その後に、グランデイル王国に戻ってからの霧島の生活はかなり荒れていた。
とくに大きな役目も与えられず。ずっと自分の領地にある貴族の屋敷での待機生活。……あん? 魔王退治の方はどうなったんだよ? と、霧島は重要な情報を何も与えられない生活に、強いストレスを感じていた。
屋敷の従者達に当たり散らし。領地の住民達にも怒りの矛先を向けてストレスの発散をする。
もはや手につけられない子供のような暴君として、霧島は荒れ果てた生活をグランデイル王国の中でずっと過ごしていた。
そして――とうとうそんな霧島に、初めてスポットライトが当たる千載一遇のチャンスが訪れた。
それが今回の、グランデイル王国による世界侵略戦争だったのだ。
グランデイル女王であるクルセイスに召集された、グランデイル王国に所属する全ての異世界の勇者達。
彼らには、裏切り者のコンビニの魔王討伐及び、その支配に隷属をした旧女神教の幹部陣と世界中の諸国に対して――。
制裁を与える『正義の戦争』を行うと、女王のクルセイスは王宮で高らかに宣言をした。
霧島には5万人を超える、グランデイル正規軍の指揮権が与えられ、アッサム要塞周辺のアルトラス連合領、及びコンビニの魔王の味方をしているカルタロス、ドリシア王国制圧の大役が与えられたのである。
『――霧島様、あなた様の活躍にこの世界全ての命運がかかっているのです。どうか、人々の生活を脅かし。か弱き人々を苦しめ続ける、邪悪なコンビニの魔王を倒し。この世界を平和に導いて下さい。異世界の勇者様の中で最も優れた能力を持つ、氷結将軍の霧島正樹様……あなただけが頼りなのです!』
若き女王クルセイスから、霧島は頭上に黄金の冠を被せられた。
大勢の騎士達が見守る王家の謁見の場で、霧島正樹は栄誉あるグランデイル西進軍、総大将の冠が授与されたのである。
「うおおおおおおおっっ!!! 来たぞ、来たぞッ! 俺の時代がとうとうやって来やがったぜーーッ!!」
自分の屋敷に戻った霧島のテンションは、彼の人生の中で、一番の最高潮に達していた。
すぐに支度を整えたグランデイルの『氷結将軍』こと、霧島正樹は……。
他のグランデイル北進軍や、南進軍を率いている倉持や金森達に先駆けて。総勢5万人を超えるグランデイル西進軍を一斉に侵攻させる。
「倉持や、金森なんかに遅れをとってたまるかよ! この世界を救う伝説の勇者はこの俺様なんだぜ!」
コンビニの勇者ぁ〜? ハァ〜? 魔王に寝返って邪悪な力を手に入れたチート野郎の彼方なんて、俺の相手じゃないぜ! むしろ、ざまぁだぜッ!!
3軍の落ちこぼれ勇者共は、そんな反則でもしないと、エリートのこの俺様には勝てないと。底辺で嫉妬に狂って必死にもがいている姿が超絶笑えて、心底プギャーだぜ!
お前らみたいな、俺への嫉妬で魔王に魂まで売った裏切り者の勇者達が束になってかかってきても。この俺には絶対に勝てないって教えてやるよ!
なぜなら、この俺は……選ばれし『正義の勇者』様なんだからなッ!!
俺の手にかかれば魔王も、邪悪な女神教の狂信者達も。魔王に魂を売った裏切り者の敵対国も、全部、全部この手でなぎ倒してやるぜッ!!!
功を競うように飛び出したグランデイル西進軍は、最も早くアルトラス連合領全土の制圧に成功をした。
抵抗する住民達は、全て皆殺しにする。
……だってそうだろう? 俺は『正義』の勇者なんだからな。俺のやる事は、この世界を平和へと導く為の、正義の鉄鎚を下す聖なる行為となるんだぜ!
霧島は誰よりも先頭に立って、逃げまどう街の住人達の上から無数の氷の矢の雨を降らした。
飛び散る赤い鮮血が、より霧島のテンションをよりハイな状態にさせていく。
何だよ、やっぱり異世界って何でもアリなんじゃないかよ!
こんなの日本じゃ絶対に許されないだろ? だって無限に人間をゲームみたいに殺しまくれるんだぜ。やっべーーーっ! こっちの方が魔物退治より超楽しいに決まってんだろう!
オークや魔物達を串刺しにするより、こっちの方が遥かにスリルがあって、最高に楽しいぜーーッ!! あっひゃっはっはっはっはーーー!!
最速でアルトラス連合領を制圧した霧島正樹率いるグランデイル西進軍は、そのまま勢いにのってドリシア王国の国境にまで迫った。
「おらおらぁーー! 常勝無敗の『氷結将軍』様に敗北なんてある訳ねーだろうが!! いくぞーーーーッ! 全軍、俺様に続きやがれーーーッ!!」
結果として、この戦闘でグランデイル西進軍は……初めての大敗北を喫する事になる。
ドリシア王国だけではなく。カルタロス王国の援軍も駆けつけた国境付近の戦いでは……。見知らぬ土地で戦う地形の不利さと、数の劣勢も重なり。
無敵を誇ったグランデイル西進軍は、初めての敗北を味わい。後方に撤退せざるを得ない状況にまで追い込まれてしまった。
敵の騎士を数百人以上殺害した霧島も、飛んできた矢による手傷を負ってしまう。
そしてその傷の治療をする為に、いったんアッサム要塞にまで撤退を開始した。
グランデイル西進軍の総大将である霧島が、要塞内で傷の治療に専念している間――。
前線からは、連合軍によって占領したアルトラス連合の街が次々と奪還されているという、不愉快な情報ばかりが霧島の耳に入ってくる。
そうしてやっと、傷の完治を終えたばかりの霧島のもとに――。
とうとう、敵軍が自軍の拠点であるこのアッサム要塞の目前にまで押し寄せてきたという報せが届いたのだ。
「……チッ! 俺が居ないと敵を前線に食い止めておく事も出来ないのかよ! ホントに使えない雑魚共ばっかだなッ!! グランデイルの騎士団はよおぉぉッ!」
再びワイングラスを床に叩きつけた霧島のもとに、更なる続報が入ってきた。
「氷結将軍様! 敵が進軍を止めました。そして要塞の前に、敵側の味方をしている異世界の勇者3人が……こちらに向かって歩いてやって来ています!!」
「ハァ〜? 異世界の勇者がたった3人だけで、こっちに向かって来ているってのかよ! この要塞にはまだ3万人の騎士団が残っているっていうのにか!?」
「はい、何でも向かってきている敵の勇者は、『ぬいぐるみ』、『アイドル』『舞踏者』の能力を持つ女の勇者達という事です!」
「…………」
霧島は一瞬だけ、口をだらしなく開けてポカーンとした表情をする。
ハッ? 誰だっけそれ……?
うちのクラスに、そんな無能そうな能力を持った連中なんていたっけか?
そして思い出す。……と、同時に霧島の人生史上、最高沸点で。腹の底から火山が噴き出すかのような大笑いをした。
「ぶっぎゃっはっはっはっはーーーーっ!! おいおいおい、思い出したぜ!! それ、小笠原と野々原とみゆきの3バカ女トリオじゃねーーーーかよ!! あの3軍の落ちこぼれ底辺トリオ達、まだ生きていたのかよぉ!! ヤッベ! そいつは今世紀最高にウケるし、笑えるぜー! 異世界に大草原を生やして俺を笑わせに来たのかよぉぉ!! ぐひゃっはっはっはっ!!」
もはや霧島は、笑い死にするんじゃないかと心配するくらいに、腹を抱えて床に転がり込んだ。
異世界召喚された日に、『コンビニ』の能力だった彼方と同じくらいに無能で。上から目線でバカ笑いをしたのが……ぬいぐるみや、アイドルの能力を与えられた小笠原達だった事を霧島は思い出した。
そして自分は、何て恵まれた能力を与えられたのだろうと、心底ほくそ笑んだのも覚えている。
魔物の前に小さなぬいぐるみ出して、どうやって戦うんだよ……。いや、それは何のジョークなんだ? と内心で大笑いをした事はいまだによく覚えていた。
「よーーーし!! 面白いじゃないかよ! この氷結将軍様が直々に出陣してやる! 魔王に洗脳された3軍のバカ勇者共を、この俺様が華麗にぶち殺してきてやるよ! 見てろよ、この世界を真の平和に導くのは選抜エリート勇者の俺様だという事を、底辺クズの3馬鹿女共に思い知らせてやるからな! ヒャーッハッハッハ!」