第二十話 暗殺者の能力
「――で? どうしてお前がここにいる訳なんだよ? 玉木?」
「ふぁっ!? 今、ちょっと待ってて! 腰にシップを貼っている最中だから~」
コンビニの事務所の簡易ベッドの上で今、玉木が腰に白い布を貼っている。
……っていうか、シップって何だ?
そんなサロン○スみたいなの、この異世界にもあったのか? ちなみに俺のコンビニにはもちろん置いてないぞ。
玉木が腰に貼っている布は、どうやらこの世界での薬草みたいなモノらしい。薬剤を染み込ませた布を、乾燥させて患部に貼る。ちょっとしたすり傷とか、捻挫などにもよく効く、痛み止めみたいなモノのようだ。
「ん~~もう! 突然、驚かすから屋上から落ちて、怪我をしちゃったじゃないの! 全部、彼方くんが悪いんだからね!」
「いや、そんなの俺は知らんぞ……。むしろ、コンビニの屋上に虫みたいに勝手にへばり付いている方が悪い。まさかそんな所に居るとは思わなかったから、こっちの方がビックリしたじゃないか」
簡易ベッドの上で、温かい毛布の感覚を懐かしみ。玉木はベッドの上からなかなか起きようとしなかった。
さっきからもぞもぞと、子犬のようにずっとベッドの中で、全身をシーツに擦り付けてクンクンしている。
「何よ~? 私がここに居たら何かいけない訳? そんなの、彼方くんを追ってここまで来たに決まってるじゃないの! 勇者育成プログラムの訓練中に、レベルが上がって新しく『索敵追跡』の能力を手に入れたから、急いで街を飛び出して来たのよ〜。そしたら目当てのコンビニを見つけたけど、入り口が混んでたから、とりあえず屋上で一休みしていたんじゃないの〜!」
「……索敵追跡? 何だソレ? それってもしかして、俺の居場所が遠くからでも分かったりするような能力なのか?」
「ふふ~ん。索敵する人物の、手がかりになるような持ち物を持っていればね。目当ての人がどんなに遠くにいても、その人の現在居る方向を辿って、追いかけていく事が出来る超便利能力なのよ〜!」
つまりは発信器の場所を追跡する、レーダー探査みたいなものなのか。
さすがは暗殺者のチート能力者。それっぽい能力をけっこう持っているんだな。
「……にしても、よくここまで来られたな。夜のソラディスの森は魔物だってけっこう出るのに。1人で歩いてここまで来たのか?」
「そうよ~。もう、聞いてよ! 私、超怖かったんだから! 夜になると狼みたいな魔物が、群れを作って追いかけてくるし。明りだって全然ないし! 本当に洒落にならないくらい怖かったんだからね!」
「まあ、俺もそれは経験した道だからよく知っているけれど……。俺のコンビニみたいに隠れる場所もないのに。ここまで1人で来るなんて、お前本当にスゲーな」
ニンマリと玉木が、こちらに向けて得意気な笑顔を向けてくる。
……あ、この顔は何かまた自分の新しい能力を自慢してくるつもりだな。よし、ここは思いっきり無反応でいる事にしよう。
「それはね~、ふふ~ん。私の新能力、『隠密』を使ったのよ〜! 気配を完全に消しながら、透明化をして。相手から姿をくらます事が出来るんだよね~。だから、魔物に追われても逃げ切る事が出来たって訳なの!」
「ふーん、そっか。それは良かったな」
俺はリアクションゼロの能面顔で、棒読みの返事を玉木に返してやる。
「ええっ、それだけ~!? もっとスゲーな、とか! 感動したっ、とか! 俺の嫁になってくれ〜!! とか、そういう感想はないの~?」
「最後のはよく分かんなかったけどな。でも別に、そんなものなんじゃないのか? そこそこ良い能力を持っているからお前は1軍メンバーに選ばれたんだろう? だから別に特に驚くような事じゃないだろ」
まあ、これは本当は全部嘘だ。
――索敵追跡?
――隠密?
何ソレ? 超羨ましいぞ!!
どれも戦闘向けな格好良い能力ばっかりじゃないか。俺なんてレベルが上がったら、『ツナマヨおにぎりが増えました~!』とかなのに、何なんだよこの違いは、絶対におかしいだろ!
「そんな事よりお前がここにいるって事は、また勇者育成プログラムの修行から抜け出して来たって事だよな? 本当に大丈夫なのかよ?」
「えへへ~。育成プログラムからも、グランデイルの街からも逃げ出して来ちゃいました~。てへっ☆」
「てへっ☆ じゃないだろっ!」
まったくこいつは……。
俺はハァ、と大きめな溜息を漏らす。
「ただでさえ、永久追放された俺なんかの所に来るなんて、リスクしかないのに……。これじゃあ玉木だってグランデイル王国には、もう戻れなくなってしまうんじゃないのか? もし、逃亡犯みたいな扱いになっていたら、どうするつもりなんだよ!」
「だって~、勇者育成プログラムって、どんどん内容が厳しくなっていくんだも~ん! 実戦形式だって増えていくし~。私、もう、ついていけないんだも〜ん!」
「もうついていけないんだも~ん……って。そんなんで、肝心の魔王退治の方は順調に進んでいるのかよ?」
俺がジト目で玉木を見つめると、
「それは大丈夫だよ〜! だいたい委員長の倉持くんを中心に4人くらいの選抜勇者パーティが出来上がってきているみたいだし。私なんかいなくても、きっと大丈夫でしょ〜♪ あははは〜」
まるで他人事のようにあっけらかんとして、玉木が笑った。
あまり笑い事ではないような気もするけれど……。玉木はニャハハと、猫のようにお気楽な笑みを浮かべてシーツをスリスリしている。
まあ、玉木のいつも通りの明るい笑顔が見られて、俺もなんだか少しホッとした感はあるな。
俺がグランデイルの街から追放された後、玉木が無事に過ごせているのか気になっていたし。でもこれだけ元気そうならまあ、大丈夫だろう。
「……そういえば、俺がいなくなった後って、一体どうなったんだ? 街のみんなはちゃんと元気にやっているのかな?」
明るく笑っていた玉木の顔が、一瞬だけ曇る。
それは、どういう風に俺に伝えようか。言い方を悩むような表情だった。
「……う~ん。みんな元気と言えば、元気なんだけど」
「――けど?」
なんだか少し言いづらそうな雰囲気だな。
余計に心配になってきたぞ。
よくよく考えれば俺の事ってクラスのみんなは今、どんな風に思っているんだろうな。
公式には王国から犯罪者認定されて、永久追放までされた無能の勇者扱いだ。クラスのみんなの俺への評価が、気になると言えばやっぱ気になるよな。
そんな俺の不安そうな表情を察してか、玉木が俺の事を擁護するように話してくれた。
「街にいる3軍のみんなは、彼方くんの事……凄く心配をしてたよ。彼方くんがそんな事を絶対にするはずがない! 無実の罪を着せられて、本当に可哀想だってみんな怒ってたもの!」
「ほうほう、そうなのか。それはちょっとだけ嬉しい話だな」
俺の濡れ衣をクラスのみんながちゃんと理解してくれているなら、気持ちも楽になるってもんだ。
みんなにまでお前は、強盗だの、強姦者だの後ろ指差されていたら、流石の俺だって嫌な気持ちになる。
「でも、みんなはもう、倉持くんには逆らえないから……。今では女王様のクルセイスさんに次いで、グランデイル王国で最も偉い立場にいる人だって、みんな分かっているし」
「……そっか」
まあ、それはそうだろうな。
偉い立場の奴には、一般庶民は逆らえっこないさ。
権力者に逆らうって事は、国の保護を受けながら街で安住に暮らせる権利を放棄するって事だ。だから表立って倉持に意見するような奴はいないだろう。っていうか、むしろしないで欲しい。
俺なんかの為に、みんなまで一緒に街から追放されたりなんてしたら元も子もないからな。
「それで、王宮にいる1軍や2軍の連中の様子はどうなんだ?」
玉木が目線を泳がせながら下を向く。
なるほど。言いづらかったのは、王宮にいる奴等の反応のようだな。
「……王宮にいる1軍や2軍のみんなは、彼方くんが追放された事件の事に、あまり関心を持ってないというか。みんな知らんぷりをしている感じなの。王宮で暮らしている人は、今はそれぞれ貴族としての地位や役職もあったりもするし。中には自分の領地の運営までしている人もいるから、街で暮らす3軍のみんなの事にまで、関心は持てないのよ……」
なるほどな。
1軍や2軍の連中は、もうグランデイル王国の貴族としての立場や責務が既にあるって事か。
上流階級の人間同士で毎日社交界とかやってそうだしな。そんな利権にずぶずぶの立場にいるような連中からしたら、きっと自分の周りの事でもう手一杯なのかもしれないよな。
「うん。だから、倉持くんの話をそのまま信じ込んでいる人も結構いて。街にいた彼方くんが何か悪いことをしたから、王都を追放されたんだ、くらいにしか思われていないみたいなの」
「まあ、それはしょうがないだろう。元々、1軍や2軍の連中とは、俺達が街に放り出された時からあまり交流が取れていなかったしな。俺だってもし1軍に選ばれてたら、3軍の奴が街で何かをやらかしたって噂を聞いても。ふーん、としか思わなかったかもしれないし」
玉木の話を要約すると。
俺の存在は、街で一緒にいた3軍の連中には惜しまれているが。王宮の中にいる連中からは、割と無関心に扱われているという感じか。
同じクラスメイトでも、立場や境遇でだいぶ差が出ちまったもんだよな。
「街にいる3軍のみんなはね……。彼方くんが居なくなって、本当にお通夜みたいに静かな状態になってるの。みんなで楽しく集まれる憩いの場所を失って。みんなそれぞれ今は、自分の家で大人しくしているみたいなんだけれど。全員どこか元気が無い感じだし……」
「そっか。それは、俺もちょっと辛いな」
俺のコンビニは3軍のみんなにとっては、心の拠り所みたいになっていたしな。
まあ、みんな一時的にはガッカリはするだろうけれどさ。
でも時間が経てば、きっといつかは立ち直れるさ。なにせ、それぞれにこの世界では有益なチート能力を持っている訳なんだし。
与えられたチート能力を活かしてこの世界で自立をする。そういう方向にみんなが向かってくれるのが今は一番良いと思う。
俺が居なくなった事が、みんなのそういう前向きな気持ちに繋がってくれたら良いのだけど。
「でも、中にはね……。また宿屋に引き篭もって外に出てこなくなっちゃった子も結構いるの。きっと彼方くんのコンビニがあるから、救われてたって人も多かったと思うの」
「そうか。でもそこは難しい所だよな。俺はもうグランデイルの王国には、二度と戻れそうにないし。みんなの助けになってやる事も、きっと出来ないだろうからな……」
再び引き篭もり生活に戻ってしまった仲間を救う為に。コンビニを提供するというのは、もう無理だろう。
俺がグランデイル王国に入る事は禁じられている。だから、こればっかりはどうしようもない。
何かみんなの心の中に、自立出来るようなキッカケが湧き起こってくれるのを今は願うしかない。
「ねえねえ、そういえば彼方くん。朝霧冷夏ちゃんの事、知ってる?」
「――朝霧冷夏? もちろん知ってるけど? 俺達のクラスメイトだろ? いっつもクラスの隅っこで1人で過ごしている事が多い奴だったから、あまり強く印象には残ってないけれど……」
たしか。髪型がショートボブで小柄な女の子だった気がする。
クラスではけっこう浮いている存在だったような。あ……別にイジメられていたとか、そういうのじゃないぞ。外見だけで言うと、クラスの女子では3位内に入るくらいには、けっこう可愛い子だったと思うし。
なんて言うか、その……。
どこか近寄りがたい、ミステリアスな雰囲気がする子だったな。いつも1人で難しそうな本ばかり読んでいた気がするし。
こっちから話しかけても全然喋らないし。たまに話す時もほとんどが独り言で、しかも内容は意味不明な感じのものが多かった印象だ。
「――で、その朝霧冷夏が一体どうしたんだ?」
「うん……。冷夏ちゃん、今、グランデイルの街で行方不明者扱いみたいなの。ちょうど彼方くんが街を離れた時くらいから、冷夏ちゃんの行方を誰も分からなくなっちゃったみたいで」
「行方不明? おいおい、それってどういうことなんだよ? まさか、街の外に1人で出て行ったとか……そういう事じゃないよな?」
玉木が嘆息しながら、肩を下ろすような仕草をした。そして俺の目を見つめると、無言で首を縦に振る。
……えっ、マジなのか。って事は、本当に朝霧は本格的な消息不明になってるって事なのかよ。
「私達はそれぞれに住んでいる場所も違ったけれど、王宮の人が定期的に現在の状況のチェックはしてくれていたでしょう? 冷夏ちゃん、街の宿屋に1人で篭っている事が多かったみたいなんだけど、ある日、突然、そこから居なくなくなっちゃったみたいなの……」
「何かの事件に巻き込まれたとか? そういう可能性は無いのか?」
「うん。私もね、それは疑ったんだけど……。実は冷夏ちゃんを街で最後に見かけたって人がいて」
「最後に見かけた奴? 誰なんだだそれは? 俺達のクラスの中の奴なのか?」
グランデイルの街の人が朝霧を最後に見かけたとか、そういう類の情報なら信憑性は低い気がする。
元々、俺達は余所者の異世界人だしな。まして、宿屋にずっと篭ってた朝霧の顔を、しっかりと憶えている街の人なんて、ほとんど居ないだろう。
そういえば朝霧って、たしか3軍のメンバーだった気がするけど。それなのに俺のコンビニには一度も顔を出した事が無かったな。
「最後に冷夏ちゃんを見かけたのはね。……実は、水無月くんなの。たまたま、早朝に散歩をしていて、街の入場門の近くで、冷夏ちゃんを見かけたらしいんだけど」
「入場門? じゃあ、やっぱり街の外に出て行こうとしてたって事なのかよ?」
「冷夏ちゃん。そこで水無月くんにこう告げて、外に一人で出ていっちゃったみたいなの」
『――あ、水無月くん。丁度良かった! 誰にも挨拶をせずに街から出て行くのは、流石に気が引けたから。良かったらみんなに伝えてくれない? 私はこの街から離れる事にしました。私の観測対象である秋ノ瀬くんも、街から出て行っちゃったし。だからもう、私もこの街でやる事がなくなっちゃったの。これからはこの世界を好きに旅する事にしたから、みんなには心配しないでって伝えてくれる? それじゃあ、後はよろしくね、水無月くん!』
「……は? 何だソレ? 全然意味が分からんぞ、っていうかそもそも朝霧って、そんなに饒舌に話をする奴だったっけか?」
「私だって全然分からないわよ~! だから彼方くんにも聞いているんでしょう? 冷夏ちゃんが水無月くんに話した内容からしても、もしかして彼方くんを追って外に出て行った可能性もあるのかな……って思ったから。彼方くんなら何か分かるかなって」
「朝霧が俺を? いやいや全然知らないぞ。そのニュースだって今、初めて知ったくらいだしな。森の中でも、この壁外区の中でも。俺は朝霧と会った事は一度もない。っていうか、それって本当に大丈夫なのかよ? 朝霧は3軍メンバーだろう? どんな能力を持っているんだっけ? 外は魔物がたくさん居て危険なのに、たった一人で生きていけるのかよ」
夜になれば、この世界では魔物が容赦なく人に襲い掛かってくる。
魔物だけじゃない。あの盗賊達みたいに理性の欠片もない蛮族だって、沢山この世界にはいるんだ。
もし、朝霧があのソラディスの森の中を1人で歩いているのなら。それは本当にヤバイ事になるぞ。
「冷夏ちゃんは、たしか『叙事詩』の能力者だって聞いているよ。でも、私もそれがどんな能力なのかは聞いていなくて……」
「名前だけだと、明らかに戦闘向きな能力ではなさそうだな。そうだ、お前の『暗殺者』の能力――索敵追跡で、朝霧を探せないのかよ?」
俺のコンビニの能力じゃ、朝霧を捜すことは出来ない。せいぜい見つけたら、キンキンに冷えたコーラを振舞ってやる事くらいしか出来ないからな。
「私だって、それが出来るならしたいよ~。でも、私……冷夏ちゃんの持ち物を持っていないし。探す人物の持ち物を何か持っていないと、索敵追跡を使って追いかける事は出来ないんだもの」
うーん、そうか……。
だとすると、それはマジでお手上げだな。
この広い異世界で、朝霧を手掛かりもなく探し出すのは、正直かなり厳しいと思う。
俺はたまたま、森の中で生き残る事が出来たけど……。
朝霧がどこかでピンチになっていて、それこそ命を落としてしまっている可能性だって、完全には否定出来ないぞ。
流石に俺も今回は、玉木に『お前の能力は肝心な所で使えないよなぁ~』みたいな、空気の読めない発言は出来ない。
だって、クラスメイトの安否がかかっているんだ。副委員長でもある玉木は、きっと人一倍朝霧の事を心配をしているだろうからな。
うーん。かと言って、今から森の中を闇雲に捜しに行く事も出来ないしな。
「私もここに来る時に、何か冷夏ちゃんの手がかりがないかな……って、捜しながら来たんだけどね。ゴメン、何も見つけられなかったの」
「別に玉木が謝るような事じゃないだろ。まだ安否は不明だが、どこかで元気にしている可能性だって十分あるんだ。俺みたいな無能なコンビニの勇者でも、こうして何とか生き残ってるくらいだからな。朝霧だって何かしらのチート能力を持っている訳だし。正直、今は無事を祈る事しか出来ないと思うぜ」
そういえば約3ヶ月前に、森の中で最初に黒狼の群れに襲われた時は、俺がクラスで最初の脱落者になるのかよ……って思ったりもしたっけな。
何だかんだ言っても、クラスメイト達には全員無事で生きていて欲しいと俺は思っている。
それがあのムカツク倉持や、金森であったとしてもだ。
せめてグランデイルの街に居てくれさえすれば、王宮の保護もあるし、安全は確保されていたんだがな。
でも街を離れてしまったとなると、難しいな。
しかも、今回は何か事件に巻き込まれたという訳ではなくて。自分の意志で街を離れて行った可能性が高い。
せめて何か、どこかの街で見かけたとかの噂話とか。そんな目撃情報でもあればこちらから探しに行けるのだけど。
――そうだ。
ここは、商人であるザリルの部下達の情報網を利用させて貰うとするか。
アイツ等なら朝霧に関しての何かしらの情報を入手出来るかもしれない。ただでさえ、俺のコンビニを利用して儲けているんだ。
それくらいの見返りを、アイツ等にしてもらっても別に構わないだろう。
「玉木。俺の知り合いにこの辺りの情報に詳しい奴がいるんだ。そいつに頼んで朝霧の事を探して貰う事にするよ。だから少しは安心していいぞ」
「……えっ、本当!? ありがとう、彼方くん! 私も異世界の事は全然分からないから、もうどうしたらいいのか本当に困っていたの」
「おう、任せろ! そいつは結構頼りになる奴だからな。多分、大丈夫だと思うぜ」
俺がガッツポーズを見せると、玉木も安心したように微笑んだ。そして少しだけ涙ぐみながら。ゆっくり言葉を漏らす。
「彼方くん……。冷夏ちゃんの事、真剣に心配をしてくれるんだね」
「――ん? 当たり前だろう? 同じクラスメイトだぞ。俺はクラスの全員が無事で、みんなで生きて元の世界に戻りたいからな」
一瞬、玉木がキョトンとした顔を見せた。
そして、すぐに、
「そっか! うん、そうだよね! みんなで元の世界に無事に戻らないとだものね!」
嬉しそうに何度も頷いて、俺と同じようにガッツポーズをする。
やっといつもの玉木らしい、満面の笑顔に戻った気がするな。心なしか顔の赤みが少しだけ増した気がするけれど。
うーん、これは、もしかするとなんだが……。
この玉木の反応を見るに。
クラスの他の連中は、特に王宮にいる他のクラスメイト達は、あまり朝霧の事を真剣に心配してくれなかったのかもしれないな。
街から追放された俺の事についてだって、無関心な連中がいるくらいだ。
俺と同じ3軍で、しかもあまり周囲とコミュニケーションが取れていなかった朝霧の事なんて、特に倉持達は心配をしなかったのだろう。
玉木はクラスの副委員長でもあるし。みんなの事を心配する優しい性格の持ち主でもある。
だからきっと人一倍、朝霧の事を心配していたんだろうと思う。
まあ、こいつは元気が取り柄だしな。
朝霧の事はたしかに心配だが、今ここで1人で悩んでいてもしょうがないだろう。
もちろん、ザリルには朝霧の捜索を後でお願いするが、今は無事に玉木と再会出来た事を喜ぶとしよう。
あれからもう3ヶ月は経ってしまった訳だけど。やっと玉木に約束のコーラだって、たっぷりと飲ませてやれる訳だしな。
「そうだ、玉木! お前にいいものを見せてやるよ!」
「いいモノ? 何々~? 私、超気になるよ~~!」
朝霧の事で安心をしたせいか、玉木が嬉しそうに反応する。
「ふっふっふ。まあ、かな〜り期待しとけって! 俺もお前と別れてからだいぶレベルアップをしたからな」
もう、鮭おにぎりと昆布おにぎりしか置いてない、簡素なコンビニだなんて言わせない。
俺のコンビニは今、スゲー事になっているんだぜ!
俺は玉木に新しく追加されたコンビニの新メニューを見せびらかすべく、事務所のドアを開けようとした。
だが、ちょうどそのドアノブに手をかけた所で――。
ふと、頭に小さな疑問が湧き起こった。
「――アレ? そういえば、お前の索敵追跡って、対象者の持ち物を持っていないと使用出来ないんだったよな?」
ベッドの上で玉木が『ギクッ!』と分かり易い反応をして、背筋をピーンと伸ばす。
「お前……。俺の持ち物って、一体何を使ってここまでやって来たんだ?」
「……そ、それはね~~。あはははっ。さあ、一体何でしょうねぇ~~?」
何だ?
玉木の奴、顔が真っ赤だぞ。
うーん。俺の持ち物で玉木が持っているモノ?
何だろう? 別に俺が何か特別なモノを玉木にプレゼントしたような記憶は無い気もしたけど……。小物とかなら、中学の時によくあげた事もあったかな。
玉木はずっと無言で俯いたままだ。
別に俺としては、特に深く追求するような気はなかったんだけどな。ただ、ふと気になったから聞いてみただけだし。
俺がじ~~っと見つめ続けると、玉木はどんどん顔をゆでタコ状態にしてしまう。もうそれ、お弁当箱のタコさんウインナーくらいに赤くなってるぞ。
はて、こんな玉木の反応も珍しいな。
何か俺に隠している事でもあるとか、なのか?
「……………」
しばらく謎の沈黙状態が、2人きりの部屋の中で続いた。
俺は玉木をただじっと見つめるだけ。
玉木もじっと俯いて無言でいるだけ。
だから、事態は何も進展しない。
そして、そんな沈黙を――。
突然破る大声が、俺達の後方から聞こえてきた。
事務所のドアが突然開き、大声を発した人物が部屋の中に入ってくる。
「――彼方様! お店の閉店時間になりましたので、お店を閉めてきました。今日の疲れを癒して、また明日も頑張る為に。さあ、今夜も2人で一緒にベッドで寝ましょうね!」