第百九十四話 浮遊動物園 対 3本指の魔女
俺とラプトルのいる地下10階層の大きな扉を開き、地上階で待機していたはずのアイリーンが慌てて駆け込んできた。
どうやら遠くの空からこの浮遊動物園目がけて、高速飛竜に乗った敵の騎士団が迫ってきているらしい。
そしてそれは、動物園の魔王を追撃する為に女神教が放った『魔王狩り』の最精鋭の騎士団のようだった。
「……予想よりも来るのがだいぶ遅かったな。まあ、この辺りで接触するだろうとは思っていたがな」
ラプトルはそう呟くと、地下10階層の壁にプロジェクターのような巨大スクリーンを出現させる。
白いスクリーンには、浮遊動物園を後方から追撃してくる敵の様子が映し出されていた。
こちらに迫って来ている敵は、銀色の光を放つ鎧を着た巨大飛竜に乗る騎士の一団と、黒い飛竜に漆黒の鎧を着た騎士達が乗る翼竜騎兵団達だ。
彼らは高速スピードで空を飛行しながら、こちらに向かって全速力で追撃してきている。
「――ふむ、銀色と黒色の飛竜騎兵団か。女神教の中でも武闘派の魔女として恐れられている、3本指の魔女達が直々にここにやって来たらしいな。おそらくは『右手小指』のオペラが率いる銀色翼竜騎兵団と、『左手薬指』のエクレアが率いる、黒色翼竜騎兵団だろう」
スクリーンに映し出された映像を見ながら、ラプトルが淡々とその様子を解説をしていく。
何でもラプトルがいうには、女神教の魔女の中にも階級や序列を示す呼称のようなものが存在するらしい。
そしてそれは、人間の右手と左手を顔の前に広げた指の位置によって示されているようだ。
『右手小指』は、ナンバー5の序列の魔女。
『左手薬指』は、ナンバー7の序列の魔女。
女神教の魔女達の序列は、右手の親指から左に順番に数えていく方式になっているらしい。
ちなみに、女神教の実質ナンバー1の統率者である枢機卿は『右手親指』。
この前、砂漠の魔王であるモンスーンを倒したのが、ナンバー3で『右手中指』の呼び名を持つ血塗れのカヌレだ。
全部で9人いる不老の魔女達のうち。
実戦能力を持って、敵と戦闘の行える魔女は枢機卿を除くとわずか3人だけしかいない。
ナンバー3の血塗れのカヌレ。
ナンバー5の銀色翼竜騎兵を率いるオペラ。
ナンバー7の黒色翼竜騎兵を率いるエクレアの3人だ。
彼女達は女神教の不老の魔女達の中でも『3本指』と呼ばれ。主に魔王狩りを率いる、実戦的な戦闘部隊として恐れられている。
残りの魔女達は女神アスティアの下で、共に魔法の研究に明け暮れている魔法研究者がほとんどらしい。
つまり女神アスティアは、不老の寿命を与える『魔王種子』の多くを、共に魔法研究に携わる研究者達に分け与え。古代より何かしらの目的を持った、魔法探究に力を注いでいるとの事だ。
「おい、ラプトル! 女神教の襲撃を予想していたって、それは一体どういう事なんだよ……!」
冷静に状況分析をしているラプトルに対して、俺は詳しい説明を求める。
だが、ラプトルはあくまでも冷静に、事実をありのままに俺に告げてくるのみだった。
「カナタ、ここは魔王領と人間領との境界線上にある山岳地帯なんだぞ? コンビニ共和国から侵入した勇者一行が、再び魔王領の外へと出る時に備えて。女神教の魔女達がこの辺りの境界線付近で網を張って、待ち伏せをしていたという訳なのさ。そこにこの浮遊動物園が、ノコノコと空を飛行しながらやって来たものだから、待ち構えていた魔女達に見つかってしまったんだろうな」
「どうしてそんなに落ち着いていられるんだよ! この浮遊動物園が、敵から攻撃を受けているんだぞ。もしこちらからも反撃をするのなら、俺も動物園を守る為に手伝わせて貰うからな!」
俺の提案に対して、ラプトルはビックリするくらいに大きな怒鳴り声を上げて叱りつけてきた。
「ダメだ!! カナタはこのは様を連れて、急いでここから逃げるんだ!」
ラプトルに叱られた俺は、キョトンとした顔を浮かべ。その場で訳が分からずに固まってしまう。
そんな俺の様子を見つめながら、ラプトルは真剣な面持ちで丁寧に説明をしてきた。
「いいか、カナタ。良く聞くんだ。地下1階層には外に脱出する事の出来る緊急用の脱出口がある。そこから上にいる人間達やお前の仲間達を連れて、一刻も早くここから逃げるんだ。このは様の体の入ったブルークリスタルも、既に地下1階層に移してある。だからカナタ、みんなを守る為にすぐにここから脱出を開始してくれ!」
「冬馬このはの体を既に移してあるって。じゃあ、このブルークリスタルに入っているのは……誰なんだ?」
「ここに置いてあるのは、もちろん『ダミー』の方さ。本物のこのは様の体はカナタをここに呼ぶ前に、地下1階層に先に移動させておいた。そこに控えている巨大な飛竜の背中に本物のブルークリスタルを括り付けてある。浮遊動物園の外に出たら、竜達には真っ直ぐにコンビニ共和国を目指すようにと命じておいた。だから外にいる人間達も、全員無事にカナタの仲間が待っている場所へ辿り着く事が出来るだろう」
そんな……。今まで俺は冬馬このはの体が入ったクリスタルの前で、ラプトルと話し合っていたと思っていたのに。
既に冬馬このはの本体は、地下1階層に移動をさせていたというのかよ。じゃあ、ラプトルはこうなる事を全て事前に分かっていて、先に逃走用の準備を全て終えていたというのか。
「……おい、ラプトル! そんな説明で俺が納得をするとでも思っているのか! お前は女神教の魔女達が魔王領の境界線上で網を張っている事を知っていて、ここにわざわざ飛び込んだっていうのかよ」
激昂して説明を求める俺に。
”ギロリ” とラプトルが鋭く睨みつけてくる。
ラプトルの目は曇りの無いくらいに、真っ赤に染まり。今まで一度も俺に見せた事が無い、恐ろしい表情をして睨みつけてきた。
「カナタ、オレは魔王軍のリーダーである黒魔龍公爵なんだぞ? オレにとっては人間の命なんてものは『ゴミ』よりも遥かに軽い存在でしかない。この浮遊動物園の中に残っているそのゴミ共を、全員強制的に地上に振り落とす事も可能だという事を忘れるなよ? オレは今、おまえに『お願い』をしているんじゃない。早くここから出て行けと『命令』をしているんだ」
チッ……! まるでホラー映画に出てくる、悪魔人間みたいな目つきをしやがって。
眼球が全て赤一色に染まると。人間の顔ってのは、こんなにも不気味に見えたりするんだな。
……だけど、俺にそんな表情を見せて凄んだ所で俺が無様に怖がったりすると思うなよ、ラプトル。
お前の考えている事や願いは、おそらく俺は誰よりも正確に分かっているつもりなんだ。
でも、今が一分一秒を争う緊急事態だという事は分かった。
だからここは言い争うような事はせずに、素直にラプトルの提案を受け入れる事にしよう。
「――分かった。村人達みんなを急いでここから外に連れ出す事にする! 冬馬このはの事は全部俺に任せておけ。ククリアと一緒に、最後まで責任を持って守り抜くと約束するからな!」
「ああ、それは本当に頼んだぞ、カナタ!」
「じゃあな、ラプトル! 俺はお前と話せて本当に良かったよ!」
地下10階層に残るラプトルに軽く手だけを振って、振り返る事なく無言でその場から走り去る事にする。
俺とアイリーンは、急いで地下10階層の大階段を上に向けて駆け上がっていった。
本当は『また会おうぜ』とか、『絶対に死ぬなよ!』って言葉をかけてから、走り去っても良かったのかもしれない。
でも、不思議とそんな言葉が俺の口から出るような事は無かった。
なんていうか、そんな陳腐な言葉をアイツは今……望んでいないような気がしたんだ。
たぶん、ラプトルが一番俺に言って欲しかったであろう言葉、それは……。『冬馬このはの事は任せろ!』という力強い言葉だったのだろうと俺は信じてる。
だからそれだけは、最後にアイツに伝えられて良かったと思う。
くそっ……! 今は感傷に浸っているような時間もないな。
外で待っているみんなの為にも急がないと!
俺とアイリーンが大階段を駆け上がり、浮遊動物園の地下1階層にまで辿り着くと。
そこには既に、地上階にいたはずのマイラ村の村人達1500人と。ティーナや玉木、雪咲と香苗の4人が俺とアイリーンの到着を待ち構えていた。
「彼方く〜ん、良かった〜! 無事だったのね!」
「玉木、これは一体……? 外のみんなもう、全員この地下1階層に避難をしていたのか?」
「うん。飛んでいる動物園の後ろから、飛竜に乗った女神教の騎士団が追ってきたみたいなの〜! もの凄く長い槍をいきなり後ろから投げてきて、それが動物園に命中した途端に激震が走って、動物園を包んでいた透明なステルス迷彩が解けちゃったのよ!」
玉木の説明によると、敵の攻撃を受けた浮遊動物園は進路を北の方角へ向けて急転進したらしい。
そして飛行速度を上げて。追撃してくる女神教の飛竜部隊から逃れようとしたらしいが……。
女神教の飛竜騎士団は獲物を逃すまいと、猛追撃を開始してきた。その様子を見て動揺したみんなのもとに、人間の言葉を喋るリザードマンタイプの魔物が話しかけてきて、現在の状況を詳しく説明してくれたようだ。
このまま地上部分にいるのは危ない。玉木達は、トカゲ姿の魔物による誘導を受けて、地上にいた砂漠の村人達と共に急いでこの地下1階層へと避難してきたらしい。
「――彼方様、既にここにいる皆さんの脱出の準備は出来ています。トカゲの魔物さんが、外に出られる脱出口を開いて準備を整えてくれていたんです」
地下1階層を見渡すと、ターニャも1500人近い砂漠の人々も。全員が紫色の小型翼竜の背に乗っていて、既に外に飛び立つ準備が完璧に整っているようだった。
どうやら、こうなる事態を予見していたラプトルの手下達によって。砂漠の人々をコンビニ共和国へ向けて逃す準備と段取りは全て整えられていたようだな。
俺は地下1階層に待機している紫色の飛竜達の中で、一番大きな姿をしている飛竜の元へと近づいていく。
そしてその大きな背には、冬馬このはの体が入っている青いブルークリスタルが付いている事を確認した。
「これが本物の冬馬このはの本体のようだな……。ラプトル、お前の意志はちゃんと俺が引き継いでやるからな。後は全部、俺に任せてくれ!」
ブルークリスタルを乗せた紫色の巨大飛竜の大きさは、その全長が30メートルくらいはある。
見た目はアッサム要塞攻略戦の時に、赤魔龍公爵が乗ってきた飛竜と同じタイプのようだ。
俺はすかさずその巨大飛竜の背中に飛び乗ると。地下1階層に集まって不安そうな表情を浮かべている砂漠の村々の人々に向けて、大声を出して呼びかける。
「みんな聞いてくれーーッ!! 今から、この浮遊動物園の外へと脱出を開始する! みんなの乗っている飛竜は、決して人を襲ったりはしない。だから安心してくれ! 外に飛び出たら落ちないように、しっかりと飛竜にしがみつくんだ。そうすればすぐに安全なコンビニ共和国に辿り着けるから! コンビニの勇者であるこの俺が保証する。誰1人として犠牲を出さずに、安全にみんなを仲間達が待つ国へと連れて帰ると約束をするから、みんな俺を信じてついてきてくれ!」
俺とティーナ、玉木はブルークリスタルを乗せた巨大飛竜の背に乗って。
そして他のみんなは、それぞれ小型の紫色飛竜の背にしがみつき。
地下1階層の横壁に開いている巨大な脱出口から、一斉に俺達全員は外に向けて飛び出して行く。
飛竜に乗って浮遊動物園の外に飛び出した俺は、すぐさま外の様子を確認してみた。
すると、北に向かって飛行をしている動物園の後方に。およそ500騎ほどの飛竜に乗った騎士団が、空を飛行しながら追撃してきている姿が目に入った。
アレが女神教の『3本指』の魔女達が率いているという飛竜騎士団なのか。
銀色の巨大な飛竜がおおよそ100騎。そして、黒色の騎兵が400騎といった編成のようだ。
グランデイル王国や西方3カ国連合の騎士団が数万単位の兵団を率いている事を思えば、女神教直属の騎士団は決して数の上では多いという訳ではない。
だが、浮遊動物園を追撃してくる飛竜騎士団の……特に、銀色の鎧をまとった騎士の姿は、その見た目があまりにも異様だった。
アレがおそらく『銀色翼竜騎兵』を率いている3本指の魔女の1人、『オペラ』の率いる飛竜騎兵団なのだろう。
全身に銀色の鎧をまとった騎士達が乗っている飛竜は、黒色騎兵団の飛竜よりもサイズがかなり大きい。
全長が15メートル程はある中型サイズの飛竜。異様なのはその中型サイズの飛竜の全身にも、隙間なく銀色の鋼鉄の鎧が装着されている事だ。
アレじゃまるで……鋼鉄の飛空船みたいじゃないか。
全身に銀色の鎧を装着させた大型の飛竜に乗る騎士達は、その背に長さ15メートル級の大槍を10本以上も背負っている。あの巨大な槍は全て、敵を倒す投擲用に装備をしているらしいな。
あんなにも重い鎧を飛竜の全身に装着して、空中を高速飛行出来る飛竜騎士団。
その様子は、見るからに只者じゃ無い奴らだという雰囲気がビシビシとこちらに伝わってくる。
「彼方様、見て下さい! 動物園の外壁にたくさんの『穴』が開いていきます!」
「えっ、動物園の外壁に穴だって?」
ティーナに声をかけられ、俺は慌てて上空を見つめると。
俺達が外に飛び出した後の、浮遊動物園の外壁に動きがあった。
魔物出撃用のカタパルトらしき出口が、外壁の表面に次々と出現し始めている。
そしてそこから、翼を持った無数の飛行型の魔物達が外に向けて飛び出していった。
その総数は数万を超えるほどの大群となって、後ろから追撃してくる女神教の飛竜騎士団に目掛けて、魔物達は一斉に突撃を開始していく。
「……どうやらラプトルの奴が、外へ脱出をした俺達の姿をカモフラージュする為に。動物園の地下階層に待機させていた魔物軍団を、一斉に出撃させてくれたみたいだな」
浮遊動物園から飛竜に乗って外に飛び出した俺達は、北に進路を変えた動物園とは別の方向に向かい。真っ直ぐにコンビニ共和国の方角へと向けて飛行を開始している。
このままだと動物園から外に飛び出した俺達の姿は、明らかに別方向に向けて逃走しているように見えてしまい。追撃してくる女神教の飛竜部隊からも怪しまれてしまうだろう。
おそらくそれをカモフラージュする為に。ラプトルは動物園から大量の魔物軍団を出撃させて、一斉に女神教の飛竜部隊に突撃をさせる事で……先に動物園から飛び出した俺達の存在を魔女達の目から隠そうとしてくれているのだ。
ラプトル……本当にすまない!
お前の願い通り、俺は必ず冬馬このはを女神教の連中から守りきってみせるからな!
「よーし、みんな絶対に竜から振り落とされるなよ! このまま俺達はコンビニ共和国へと全速力で帰還を開始するぞ!」
ブルークリスタルを背に乗せた、巨大飛竜に乗る俺から発せられた大号令のもと。
1500匹を超える紫色の飛竜に乗った砂漠の村人達の一団は、一路、山岳地帯を飛び越えて。コンビニ共和国へと向かって全速力で大空の飛行を開始していく。
紫色の小型飛竜達は、既に目的地を正確にインプットされているらしい。その為、手綱を握って難しい飛行操作をするという騎乗技術は必要なかった。
魔王領の中で数百年に渡って灼熱砂漠の中に閉じ込められ、砂漠の魔王によって数世代にも渡り過酷な環境下で飼われてきた人間達の末裔の部族。
そして、100年に渡る魔王軍との戦争を生み出した元凶である『動物園の魔王』――冬馬このはの本体を俺は抱えて。
俺達は真っ直ぐに、仲間達が帰りを待ってくれているコンビニ共和国へと向かい――。
大空を飛竜に乗って、風を切るように前進していく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「どうやらカナタ達は、無事に脱出出来たようだな」
「そのようですな。黒魔龍公爵様――」
浮遊動物園の地下10階層では、外の映像を巨大スクリーンに映しながら。
その様子を静かに見守るラプトルと、黒魔龍公爵の側近である魔王軍の幹部の魔物達が集合をしていた。
「フン……。全く『勇者』というのは面倒くさい存在だな。人間の1人や2人くらい死んだ所で、別に大した事はないというのに。1人も残さずにちゃんと救い出さないと人々からは英雄と呼んで貰えないのだろう? 全く呆れてしまう愚かな論理ではないか」
「ですが……冬馬このは様が異世界の勇者様としてご健在の時には、ラプトル様も誰1人としてこの世界の人間を犠牲にしないようにと尽力されていたのを憶えていますよ。きっと異世界の勇者という存在は、そういうものなのではないでしょうか?」
トカゲ姿をした側近の魔物に指摘をされ。
ラプトルは苦笑しながら、肩をすくめてみせる。
たしかに遠い過去には、そんな時もあったかもしれない。
その意味では当時――誰よりも人間を守ろうと。
優しいこのは様の願いを叶える為に、一生懸命に魔物と戦っていたのは、オレ達の中では緑魔龍公爵だった気がするな。
「……ミレイユには悪い事をしたと思っている。アイツは誰よりも精神が幼く、そして心が純粋だった。大好きなこのは様を追い詰めた人間達が許せず、その復讐をする為に魔王軍を率いて最も多くの人間達を殺す残忍な4魔龍公爵へと変わり果ててしまったのだからな」
ラプトルは黒いソファーに座りながら、遠い目で地下10階層の寂れた天井を見上げる。
そうさ。自分達は誰よりも心の優しい『動物園の勇者』様にお仕えしていた4人の守護者達だった。
それがこの100年間余り、どれだけ恐ろしい行為をして、この世界の人間達を大量に殺害してきてしまったのだろうか。
「いつか……もし。このは様が再び目を覚まされるような時があったとしたら、その時にオレ達はこの世界にはいない方が良いのだ。そうでないと、心優しいこのは様はオレ達が過去に行った行為を知って、罪の意識に苛まれてしまうだろう」
目を閉じて、遠い過去の記憶に想いをはせていたラプトル。
そんな彼に、部下であるトカゲ姿の魔物が、既に外で始まっている女神教と魔王軍との戦闘の状況を冷静に伝えてきた。
「黒魔龍公爵様、出撃させた魔王軍の飛空部隊の半数以上が、既に敵によって壊滅させられてしまったようです。女神教の飛竜部隊は更に速度を上げて、この浮遊動物園を目がけて猛追撃をしてきています」
「ほう。さすがは女神教が誇る『3本指』の魔女達だな。どうせ倒すなら『右手中指』のカヌレと戦いたかったが。格下の魔女達でもなかなかやるではないか。面白い……世界中を震撼させた動物園の魔王軍の力を、特と見せてやろう!」
ラプトルは黒ソファーから立ち上がると。
部下の魔物達に向けて、指示を飛ばす。
「浮遊動物園に残る全魔王軍に告げる! 全軍、総攻撃を開始せよ! 無限の数を誇る動物園の魔王軍の力を女神教の犬共に味合わせてやるのだ。追撃してくる敵を最も残忍な方法を用いて殺害せよ。その体を食い尽くし、骨さえもこの世に残さぬほどに蹂躙してから蹴散らしてやるのだ。女神アスティアに仕える不老の魔女共を、1人でも多くあの世へと送り込んでやるぞ!」
浮遊動物園から、次々と翼を広げた大量の魔物軍団が外へ出撃を開始していく。
その数は、数万を超える大群に膨れ上がっていた。
飛び出した魔物の群れは、大空を埋め尽くすかのようにして……一斉に接近してくる女神教の軍勢へ突撃していく。
コンビニ共和国の西に位置する、魔王領との境界となる山岳地帯において。
今――魔王軍と女神教の魔女達が率いる飛竜騎士団との間で、最後の激戦が始まろうとしていた。