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第十九話 順調なコンビニ運営


 ティーナが、壁外区にある俺のコンビニにやってきて。そして2人で一緒に、コンビニで働き始めてから約2ヶ月の月日が経過した。



 あれから、俺のコンビニはというと……。



 相変わらず、”超、超、超、超” 大繁盛をしている!



「いらっしゃいませー! 皆さん、順番に列に並んで下さいねー! ただ今、異世界コンビニへの入場時間は2時間待ちとなっておりまーーす!」


 俺は今日も大声を出し。炎天下の中、汗水を垂らして。販売サービス業という名の、肉体労働に全力で奉仕している。


 自分で言うのも何だけどさ。グランデイルにいた時は、ほとんど引き篭もりニート状態だったのに、今はまるで別人のような変わりっぷりだよな、俺……。


 もうすっかり、ベテランの社畜社会人と言っても過言ではないだろう。



「彼方様、今日もお疲れ様です!」


「うん、サンキュー! ティーナ!」


 俺はティーナの差し出してくれたタオルを受け取って、首筋を伝う汗を拭き取る。


「彼方様、もしよろしければ事務所で少し休んでいて下さいね! レジはしばらく私が守りますから」


「ああ、いつも助かるよ! じゃあ……俺、ちょっとだけ休憩してくる! ティーナもあまり無理はしちゃダメだぞ!」


「ハイ、私にお任せ下さい!」



 俺は沢山のお客で溢れかえっている店内からいったん離れ、休憩の為に事務所に向かう。


 さっきからずっと商品の品出しと、客の並ぶ列の整理をしていて、かなり疲れていたからな。ここはティーナの言葉に甘えて、少しだけ休ませて貰う事にしよう。



「ふぁっ〜〜。今日も疲れた〜……っと」


 欠伸(あくび)をしながら同時に背筋の伸びも行う。


 俺は事務所の椅子にどっしりと腰を下ろし、つかの間の休憩を取る。


 お店は相変わらず忙しいが、こうして少しでも休憩が取れるのは、ティーナがいてくれるおかげだ。

 以前は1人で店の全ての作業をこなしていたから、なかなか休憩なんて取れなかった。


 本当にティーナにはいくら感謝をしても、足りないくらいだ。それに実際の所、俺の信頼出来る相棒はマジで有能だった。



 ……いやさ、それが本当に凄いんだよ。


 さすがは商人の娘というか。多分、元々の地頭(じあたま)がティーナは良いんだろうな。


 コンビニを初めてこの壁外区にオープンした時もそうだったけど。基本、俺のコンビニ経営は常に無計画で、行き当たりばったりな運営スタイルだ。


 商品の値段を、全部銅貨1枚だけにしたのも。

 ある意味、俺が何も考えていなかった証拠みたいなもんだしな。


 俺とコンビニで一緒に働き始めたティーナが、まず最初に着手した事。それは、前日の商品ごとの売上や、売れ筋商品の傾向を数値化して分析する事だった。

 

 今、何が一番コンビニの商品の中で人気で、何が一番多く売れているのか? 

 それらを細かく分析する事で、商品ごとの発注数や、商品棚に陳列するスペースの調整も行っていく。



 俺はそういう小難しい事は、全然気にしていなかったからな。


 ただ何となく、この商品がよく売れているのかな? ぐらいのどんぶり勘定でしか考えてこなかった。だから、パソコンで翌日分の在庫を適当に発注するくらいしかしてなかった。


 それに対してティーナは、店の商品ごとの細かい売上グラフを、閉店後に毎日、手書きで作り上げてくれる。

 そして、そこから次の日にはどの商品がどれくらい売れるのかという営業分析を行い、計画的に商品の発注を行うようになった。

 


 そのおかげで今は、売り切れや欠品という状況がほとんど起きなくなった。

 前日から予め補充用の商品を大量に準備しておくことで、当日の商品補充もスムーズに行えると言う訳だ。

 


 そして、それに伴ってティーナの主導で、コンビニのレイアウトの大改装も行われた。


 俺は何となく元の世界のコンビニのイメージのまま、商品を置く陳列棚とか、そういうのは元々店に置いてあったレイアウト通りに使用していたんだが、ティーナに言わせると、それらは効率性の無駄でしかないらしい。


 確かに、3段とか4段に細かく分かれているコンビニの商品棚に、順番におにぎりやサンドイッチを綺麗に並べていくのは、結構面倒くさかった。

 おまけに商品数だってまだそんなに多い訳ではない。同じ商品を大量に並べるだけなら、陳列棚なんて無いほうが遥かに効率が良い。


 ――という訳で。


 通行の邪魔になる大きな陳列棚は、全部撤去されて。それらは全て店の倉庫行きになった。


 後は、大量の商品を一気に入れられるプラスチックトレーを山積みにして、売り場の通路に順番に並べて置くスタイルに変更した。


 なんだか、もう見た目は食品工場のライン作業現場みたいになってしまったけどな。でも、店の効率性を最重要視した結果がコレという訳だ。


 トレーの中の商品が空になったら、客が自主的にトレーを横によけて置いてくれるし。商品の補充も、倉庫から台車に新しいトレーを何段も積み重ねて運び。在庫の少なくなった売り場のトレーの上に、そのまま積み重ねていくだけで良いので、作業が格段に楽になった。


 おかげで今は1日の売上数も来客数も、以前の3倍くらいに跳ね上がっている。


 元々、需要に対して供給の方が圧倒的に間に合っていない状態だったからな。それも主に人的な要因でだ。

 ティーナという頼りになるしっかり娘を従業員として迎え入れた事で、俺のコンビニは間違いなく格段にパワーアップを遂げたと言えるだろう。



 うん。やっぱ、商売の知識のある子は凄いよな!


 俺みたいな適当にやってますオーラ全開の元引き篭もりとは、発想も行動力も全然違う。そこはまさに、ティーナ様々って感じだ。


 ちなみに……俺のコンビニ商品の、現在の売上ナンバー1は『チキンカツサンド』だ。


 やっぱり手軽なのに、ボリューミーかつ美味しい所がヒットの要因だな。しかも、銅貨1枚で簡単に買う事の出来る、贅沢品って所が人気らしい。


 基本、この壁外区の住人にとっては、『肉』を食べるという事自体が、『超』が付くくらいに贅沢なことらしい。

 ここの住人の食事は、小麦を使ったパンが主食だ。だが、一般家庭ではそれさえも、毎日食べられる量が限られているくらいな状態らしい。


 そんな貧困な環境下に、突然登場したのが異世界コンビニだ。


 銅貨1枚(日本円で10円)で美味しい食べ物が、何でも買える便利店。おまけに品切れも絶対に起きる事がない。


 それはここの住民達が、みんな殺到する訳だよな。

 今まで1年に1回でも食べられたらラッキー! くらいの状態だった贅沢品のお肉が、この壁外区で毎日食べられるようになったのだから。


 最近では、真面目に客からの要望が1番多かった『1人、1日5品まで』のルールを7品までに変更しようかと、ティーナと今は真剣に話し合っている。


 ……まあ、その辺の計算はティーナ先生に全部お任せしようと思っている。


 本当にどっちが店長なんだろうかってくらい、今の俺はティーナに頼りっぱなしの状況だ。うん、出来の良い女房に完全に尻に敷かれているダメ亭主状態だろうな。


 でも、何でだろうな。

 今の俺……割と居心地がいいんだ。



 本当に信頼の出来るパートナーに出会えると、こんなにも心が充実するものなんだって、よーく分かったよ。


 もう俺は、この異世界で1人で寂しいと感じる事が無くなった。


 つらい事や困った事も、何でも2人で相談出来るし話し合える。そう……楽しい事や面白い事だって、何でも共有し合えるから、いつもより2倍に感じるんだ。

 

 今では商品の発注も、洗濯機の使い方も、何でもティーナは知ってくれているし。俺よりも遥かに上手に使いこなしている。


 乾燥機能とか、タイマーのボタンとかも、完全に熟知してるし。説明書なしでよくあれだけ使いこなせるなぁ、と。ホントに感心をしてしまうくらいだ。


 ……あ、ちなみにパソコンのモニターに映し出されている文字も、家電に表記されている文字も。基本は異世界言語で書かれているから、ティーナにとっても使いやすいらしい。



 そして、今日も何とか忙しい1日を無事に終えて。


 コンビニを閉店した後、俺とティーナは一緒に夕食をとる事にした。


 外の戸締りもして、ステンレスパイプシャッターも閉じて防犯対策もバッチリだ。この後は事務所で明日の準備をちゃんとしてから、ゆっくり寝る事にしよう。



「彼方様、明日のオープンに備えて今日はチキンカツサンドを500個ほど発注しておきますね!」


「うん。いつもありがとう! でも、今夜はもう遅いから、ティーナも早く寝ておくんだぞ」


「ハイ! 今日の売上数値を、このパソコンの『エクセル』って所に入力をしてから寝る事にしますね。すぐに終わりますから安心して下さい」



 ええっ、マジかよ……!?


 いつの間に、エクセルまで使いこなせるようになったんだ、ティーナさん。

 俺の嫁、ちょっとハイスペック過ぎやしませんかね?


 まあ、俺ももう大概の事には驚かなくなってきたんだけど……。

 ティーナが優秀過ぎるってのは、イヤというくらいに思い知らされている訳だし。そのうちホームページとか、イン◯タとかでうちのコンビニを宣伝し始めたりはしないよな? 異世界にはネット環境が無いから、それは無理だろうけど。



 俺は、そのまま事務所の床に敷いた布団の中で、先に眠りにつく事にした。


 ちなみに事務所に元々置いてあった簡易ベッドの方は、ティーナに譲っている。だから俺は、床の上でいつも1人で寝ているという訳だ。



「さて……と……。私も、そろそろ寝ますね……」


 布団の上で毛布にくるまっていた俺の寝耳に、パソコンでの作業を終えたティーナの、小さな呟き声が聞こえてきた。



 俺は寝息をスーハー、スーハー…と立てながら、そっと毛布の中で警戒態勢を取る。

 


 そして……。



 ティーナのゆっくりとした足音が、俺の布団の近くにまで聞こえてきて……。

 そのままそこで、ピタッと足音が止まった。



 やがて俺の体にかけられている毛布が、足元から静かに少しずつめくられていく。


(ううっ、……寒っ!)


 むき出しになった足先が、少しだけ肌寒く感じるな…。



「彼方様……。私が今、彼方様のお身体を直接温めて差し上げますので、安心して下さいね……」


 ティーナの細い指先が、俺の足を這うように、ゆっくりと体の上に向かって進んでいき。



 そして―――。



「甘ーいッ!! せいやああぁぁ〜〜!!」


「ええっ!? か、彼方様? きゃああぁっ〜〜!?」



 ”ビシィッッ!!”



 俺は寝床に侵入してこようとした金髪娘の頭に。軽いチョップを食らわせて、布団から飛び起きる!



 不法侵入を試みた少女は俺の布団の横で。頭を両手で押さえながら、のたうち回っていた。


「――な、何でですかっ! 彼方様! 私はただ、彼方様と一緒の布団で寝ようと思っただけなのに……」


「ダーメだ! 寝る時はちゃんと別々の場所で寝る。それがここで一緒に暮らしていく上での唯一のルールだって約束をしただろう? ちゃんとルールは守らないと駄目だぞ、ティーナ!」


「そ、そんなぁ。だって、グスッ、グスッ……」



 ティーナが目に小さな涙を浮かべて泣きじゃくる。



 出たな。必殺『乙女の涙』攻撃!


 ――だが、全然甘いぞ。


 俺はもう、以前のように無様に狼狽(ろうばい)したりするような事は無いのだ。甘く見て貰っては困るのだよ。


 だてにもう2ヶ月も、ティーナと同じ屋根の下で一緒に暮らしている訳ではない。

 この涙が俺を落とそうと、計算高い策略の上で流されている事実を、俺は既に学習済みだ。



 ……そう。

 俺はティーナの事を、よーく知っている。


 この天使のように可愛い子は、頭がとても良い。

 正直、良すぎるくらいに賢くて。性格も素直で従順。まさに絵に描いたように純粋な良い子ちゃんだ。


 だが、いわゆる『そっち』方面に関しては――。


 『超』が付くくらいに積極的で、俺をたびたび誘惑しようと夜な夜な襲撃してくる。


 普段の大人しくて真面目なティーナの表情からは想像も出来ないけどな。

 一度、誘惑モードに入ったティーナは、あらゆる小悪魔的な策略を弄して、俺に何度も色仕掛けを試みてくるんだ。



「チッ……。どうやら今日も失敗のようですね」



 思いっきり、舌打ちが聞こえていますよ。ティーナパイセン。

 まったく油断も隙もないよな。むしろ、今まで俺はよくこの子の誘惑に耐えてきた方だと思うぜ。


 俺が仕事終わりに着替えようと、事務所のドアを開けると――。ほぼ100%、着替え中の全裸ティーナに遭遇をしてしまうし。


 ……アレ、明らかに俺がドアを開けるタイミングを見計らって待ち受けているよな? 

 絶対にラッキースケベってタイミングじゃないぞ。あまりにも不自然過ぎるし。


 一緒に手を繋いだり、食事中に「アーン」をするくらいなら俺もまだ許容範囲なんだが……。

 さすがに、『そっち』方面のの誘惑だけは、まだ勘弁をしてくれと俺は断り続けている。――まあ、何ていうか。俺の理性がそれ以上先に進んだら、きっともう戻れなくなるぞ、って警鐘を鳴らしているんだよなぁ。


 ただでさえティーナはスタイルも良いから。俺みたいな清純童貞には、普段着姿のままでも目に毒なのに。きっと『童貞を殺すセーター』とかを着られたら、マジで俺は死んでしまうと思う。



 まあ、そんな感じで。何だかんだでリア充全開な同居生活を俺とティーナは楽しく続けていた。


 異世界に来てから、俺がやっと手に入れる事の出来た充足した時間。幸せで安らかな日常。



 そんな日々の中で。

 それは、ある日突然に――。



 いきなり、俺の頭の中に聞こえてきた。



『――ピンポーン! コンビニの勇者のレベルが上がりました』



「―――はぁ?」


 それは普段通り、コンビニを通常運営している最中の事だった。



 なっ、まさかのレベルアップ音だと……?


 別に盗賊に襲われたとか、魔物の襲撃を受けた訳でもないよな? 一体どういうことなんだよ、コレ?



 俺は急いで、自分の能力の確認を行ってみた。



「――能力確認(ステータスチェック)!」




名前:秋ノ瀬 彼方 (アキノセ カナタ) 

年齢:17歳


職業:異世界の勇者レベル4


スキル:『コンビニ』……レベル4


体力値:8

筋力値:7

敏捷値:5

魔力値:0

幸運値:8


習得魔法:なし

習得技能:なし

称号:『壁外区の女神様』


――コンビニの商品レベルが4になりました。

――コンビニの耐久レベルが4になりました。


『商品』 


焼きおにぎり イクラ醤油おにぎり

たまごサンドイッチ チキン南蛮サンドイッチ

エナジードリンク ウーロン茶

食パン メロンパン

ポテトフライ(コンソメ味)

プリン


が、追加されました。


『雑貨』


白Tシャツ

Yシャツ

トランクス(男性用)

靴下


が、追加されました。


『耐久設備』


魔法障壁付防火シャッター

低級魔物除け匂い散布機

索敵偵察用ドローン


が追加されました。




 おいおいおい……。



「敵と戦わなくても、レベルって上がっちゃうのかよ!?」


 普通に商売をしてて、繁盛したらレベルが上がるって。そっちの方が全然いいに決まっているじゃないか!


「マジかよ……」


 俺はついつい感嘆の息を漏らしてしまう。

 

 あ、別に悲しいとか、そういう訳じゃないぞ。

 どっちかって言うと普通に嬉しかったさ。


 だってこれからは、魔物と戦ったり命を失うような危険を冒さなくたっていい可能性が出来たんだ。


 こうして普通にコンビニで客商売をして、店が繁盛をするだけでもレベルが上がる――って、分かったのだから。もちろん、魔物と戦闘をするのに比べたら遥かに経験値が上がるペースは遅いのかもしれないけどな。なにせ3ヶ月ぶりのレベルアップだし。


 俺はティーナにいったんお店を任せて、コンビニの新商品を確かめることにした。


「ティーナ、すまない! 俺、ちょっと事務所に戻るよ。しばらく店を任せてもいいかな?」


「ハイ。私に彼方様の貞操もお店の運営も全てをお任せ下さい。彼方様が戻るまで、ちゃんと私がお店を切り盛りしていますので」



 ……ん? いや、普通にお店の運営だけでいいんだけどさ。


 俺はティーナの手を握り、軽くハグをして頭を撫でてから事務所へと向かう。


 うん、リア充万歳!


 もう自分のリア充っぷりに、俺はツッコミを入れない事にしたからな。でも、だからといって、後でコンビニごと爆発させたりするのはやめてくれよ。


 それにしても……。


 いやいや、マジで今回のはビックリしたな。追加された新商品の内容も何だか凄い事になっているし。


 コンビニの事務所に戻った俺は、パソコンで発注ボタンの新項目を確認してみた。



「うおおおおおおっ! マジで取扱い商品がめっちゃ増えてるぞ!!」


 興奮してテンション爆上がりな俺。


  おにぎりや、サンドイッチの新メニューが増えたのはもちろんだが。なんといっても、今回は新たに『パン』や『お菓子』、『デザート』の種類まで増えている。


「ポテトフライかぁ……。やばい、マジで泣きそうだ。異世界でまたスナック菓子を食う事が出来るなんて、本当に夢にも思わなかったぜ」



 おまけに今回は『プリン』まで追加されている。


 とうとう甘いデザートが、うちのコンビニでも食べられるようになったんだ。後でティーナに食べさせてあげよう。きっと喜んでくれると思う。


 食品以外の項目だと、雑貨の中に今回は新たに『衣類』が加わっていた。


 種類は決して多くはないが、YシャツやTシャツもある。それに下着や靴下だってある。俺がこの異世界に召喚された時に着てたのは、学生服だけだったからな。


 これで元の世界の衣服を、久しぶりにまた着る事が出来そうだ。

 コンビニで衣類を扱えるようになると、壁外区の住民もきっと大喜びしそうだよなぁ。まともな衣服を着る事の出来ない子供達だって、大勢住んでいるし。



 パソコンの画面を眺めながら、新商品の項目を確認していた俺は――。

 画面の右下部分に『ドローン』という、謎のアイコンが追加されている事に気付いた。



 そっか。耐久設備も色々と、追加されていたんだっけな。え~と、なになに……。



 今回、新たに追加された設備は――。



 魔法障壁付防火シャッター

 低級魔物除け匂い散布機

 索敵偵察用ドローン



 ……の、3つだった。


 魔法障壁付防火シャッターって、なんだか名前が凄いよな。


 今まではなんだかんだ言っても、コンビニに実装される設備は、元の世界に実際にあるモノが追加される事がほとんどだった。


 当たり前だけど、俺の暮らしていた日本では『魔法』なんてファンタジーなモノは存在しない。だから魔法障壁付きの設備なんてモノは聞いた事もない。


「――って事は、このコンビニにも異世界用にカスタマイズされた設備が、これからもどんどん出てくる可能性があるって事か」


 もう1つ新たに追加されていた設備。


 『低級魔物除け匂い散布機』も、まさにこの異世界専用の設備だった。


 俺達の元居た世界でも、蚊だとか、そういった虫除けの機械みたいなモノはあったけどな。魔物除けの機械なんて聞いた事がない。


「この『低級』っていう表記が、どの程度の魔物にまで有効なのかがよく分からないな。例えばソラディスの森の中で襲ってきた、あの黒狼(ゲオルフ)みたいな魔物も遠ざけたりする事が出来るのだろうか?」


 もしそうなら、かなりありがたいぞ。


 そして最後に追加されていた耐久設備は、なんと『索敵偵察用ドローン』だった。


 ドローンって、あのドローンの事でいいんだよな?


 小型のラジコンヘリコプターみたいな奴で、上空からカメラで写真とか動画を撮影出来る奴の事だよな?



 よし! よくは分からないけれど。

 とりあえず、このアイコン押してみよう!



 俺はパソコン右下のドローンアイコンを、ポチッ……とマウスでクリックしてみる。



 すると、急にモニターの画面が切り替わった。



 ”ヴィーーーーーン”



 コンビニの屋上で、何かのシャッターが開いたような音がした。



 パラパラパラパラ――。


 その後に、まさにラジコンヘリが上空に飛び立ったかのような飛行音が聞こえてくる。


「うおおおおおっ!! すげーっ!」


 俺の予想通りだ。本当にドローンが空から真下の景色を撮影している映像が、パソコンのモニターにリアルタイムで映し出されている。



 無秩序にテントが並び立つ、壁外区を真上から捉えた航空映像。


 小さな建物にたくさんの人々が列を作って並んでいる光景が、モニターの真ん中に映っている。


 ……って事は、これが俺のコンビニって事か。すげーな! まるで人間が豆粒みたいな大きさに見えるぞ。


 これはちょっと、感動しちゃうな。


 元の世界でもドローンの映像なんて。ニュースとか、テレビの中でくらいしか見た事がなかった。

 それをなんと……この俺がパソコンで実際に操作しているんだぜ? 


 『異世界の街並みをドローンで撮影してみました』なんてタイトルで、YOUTU◯Eにアップしたら、けっこうな再生数が稼げるんじゃないのかな? マジでネットに繋がってないのが残念で仕方ない。


 モニターの画面上には、ドローンを操作する為の操作バーも表示されていた。


 カメラの角度の調節から『広角・ズーム』の切り替え。動画のサイズや画質の調整。けっこういろんな操作が出来るみたいだ。

 


 今、ドローンは上空100メートルの高さで待機をさせている。

 

「これって、一体どこまでズーム出来るんだろうな?」


 俺はドローンのカメラのフォーカスを、コンビニの真上に合わせて、ズームボタンを限界まで押し続けてみた。


「おおっ、すげーっ! どんどん拡大されていくぞ!」


 モニターの画面上にはコンビニの屋上部分が、すぐ目の前にあるかのように拡大された映像が映っている。


 凄いな。屋上の細かな汚れや、その上に呑気(のんき)に寝ている『人』の姿まで、見事に鮮明に映し出されているぞ。



「――って、ん? 屋上に寝ている『人』だって!?」



 ドローンのズームカメラが、俺のコンビニの屋上にいる1人の人間の姿を捉えていた。


 シルエットから見てこれは女性だよな?

 何で俺のコンビニの屋上に、女性が寝てるんだ?



 俺はドローンカメラを更にズームさせてみる。


 モニターには茶髪ポニーテールの髪が映り……。そしてその女性の顔が鮮明に映し出されると――、



「………………」



 一体こんな所で、何をやってんだ? コイツは……?



 俺は急いで事務所の裏口を開けて外に飛び出た。


 コンビニの屋上にいるアホ娘が気付かないように、こっそりとハシゴを使って屋上に登る。



「――おい、そこで何をしているんだ? アホ娘!」


「えっ!? きゃあああああああっ――!?」



 ズドーーン!!! という大きな落下音。


 俺の声に驚いたアホ娘が、そのまま地面に転がり落ちた音だ。



「イタタタタっ……」


「おーい、大丈夫かー? 生きてるかー?」


 裏口近くに落ちた少女が、腰を押さえながらこちらを見上げる。


「もう、大丈夫な訳ないじゃないの〜! お尻をめっちゃ強打しちゃったわよ〜! 怪我して跡が残っちゃってたら、ちゃんと彼方くんに責任とってもらうんだからね〜!!」


 さっと立ち上がって、プンプンと怒っているその姿を見るに。どうやら大丈夫そうみたいだな。



 なぜか俺のコンビニの屋上に登っていて、そして今、地面に転がり落ちた人物。



 そう、それは――。



 俺達のクラスの副委員長。


 グランデイルの街で別れた、玉木紗希(たまきさき)だった。


 

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― 新着の感想 ―
【一言】 チキンカツサンド2000個!! バックヤードや倉庫のスペースが売り場店舗の何倍も有るんだろーなーと思わせます。 異世界の勇者の奇跡的な能力で空間拡張してたり数は確りあるが小スペース固定した場…
いつからいたの? というか「誰よその女」みたいな修羅場になるの?
[気になる点] 従業員の給料は? 無給ではないよね?
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