第百八十八話 幕間 城塞都市カディナの終焉②
「た、た、大変だーーーッ!!! グランデイル王国軍が、カディナの市街地に侵攻して、街を武力占拠したらしいぞッ!」
「……何だって、どうしてそんな事に!? この壁外区は、大丈夫なのかよ!?」
「そんなの知らないわよ! 危ないと思ったなら、さっさとここから出ていけばいいじゃないのッ!!」
魔王領への遠征途中に、軍事物資の補給をする為。
約10万人を超える大軍を引き連れて、グランデイル王国を出発したグランデイル軍は、その行軍途中に商業自治都市のカディナへと立ち寄った。
しかしその遠征軍は突然、城壁に囲まれたカディナ市街地に大挙して侵入を開始する。
そして街を武力によって軍事制圧したという知らせは、すぐさまカディナの街の南側に広がる、壁外区の住人達の元にも届けられた。
「一体、何でそんな事になったんだよ……。アイツらは以前にも、壁外区に軍隊を勝手に送りつけて来た事があったというのに、カディナの上層部の連中は何をしていたんだ!」
「全くだ! カディナ市民の商人連合達は何でグランデイル軍なんかを壁の中に入れやがったんだ! 元々、グランデイル王国とは国交を断絶していたはずじゃなかったのかよ!? あんな胡散臭い連中なんて、絶対に信用してはいけなかったのに!」
「――お、おい……!? あまり大声を出すんじゃない! グランデイル軍の奴らが、カディナの次はこの壁外区にも向かってくるかもしれないだろ!!」
グランデイル軍のカディナ制圧の知らせを聞き、街の南に住む壁外区の住人達は大混乱に陥っていた。
飛び交う情報は二重三重にも錯綜し、危機を感じて慌てて壁外区から逃げ出す者。財産を強奪されないようにと、武装して自分の家に立て篭もる者。
また、混乱に乗じて空き家となった他者の家に押し入り、金目のものを強奪しようと企む者……。
壁外区の住人達はお互いに意思疎通が全く取れず。各自が勝手に判断をして、元々スラムのように荒れ果てていた壁外区は、更なる大パニックを引き起していた。
壁外区に住まう住人達は元々、壁の中の大商人達から仕事を貰う事でかろうじて生計を立てている、貧しい住人達がほとんどだ。
それが今回、自分達の雇い主である商人達が暮らすカディナ市街地がグランデイル軍に占拠され。
これから自分達の将来は一体どうなってしまうのだろう……という不安が、より一層彼らを深刻なパニックへと追いやっていた。
せめてこの場に『壁外区のお母さん』と皆に呼ばれ。住人達全員に慕われていた壁外区の区長、ソシエ・メルティがいれば、壁外区がこれほどまでの大混乱に陥る事は無かったかもしれない。
だが、壁外区の区長であるソシエ・メルティは、コンビニの勇者を信奉する者達の一味として、壁外区から既に追放されてしまっている。
その結果、必然として壁外区には住人達を統率する事の出来るまとめ役が不在となり。
グランデイル軍がカディナを武装占拠するという大混乱に、冷静な対処の出来る危機対応力が失われてしまっていた。
そして更に悲しい事に、その事が壁外区の住人達が大量虐殺されてしまうという悲劇にも繋がってしまったのだ。
グランデイル軍の今回のカディナ制圧の目的が全く分からず、壁外区の中で大混乱に陥っていた住人達の元に――。
壁の中からグランデイル騎士団を引き連れた1人の男が我が物顔で壁外区へと侵入してきた。
その男は、眼鏡をかけた細身の外見をしていた。
壁外区の住人達を見下すようにニヤニヤと笑い。その陰気そうな表情は、見る者全てに不快感を与える印象をしている。
「あっはっは〜〜! さあさあ、薄汚く貧しい住人達が密集しているという場所はここですか〜? せっかく壁に囲まれた美しい街を占拠したというのに、その周辺がゴミで汚れていたら綺麗な街の景観も台無しになってしまいますよね〜! これはしっかりとこの僕が『お掃除』をしてあげないといけませんね〜!」
騎士達を引き連れてやってきた、その人物の姿を見た壁外区の住人達は、思わずギョッとしてしまう。
街に侵入してきた男の外見には、見る者全てを唖然とさせる、明らかに異質な部分があったからだ。
男の下半身には、8本の長い『触手』が付いていた。
まるでタコのように、ジメジメと湿った長い触手を器用に動かしながら。長い黒髪の男は地面の上を8本足でゆっくりと歩いてきている。
上半身は普通の人間の姿。
だが、下半身には8本のタコ足が付いている『タコ足人間』。
その異様な姿を見て、彼が自分達と同じ人間の仲間なのだと共感出来るような者はまずいないだろう。彼の外見は明らかに魔物よりだった。上半身にだけ人間の体が付いている、気色の悪い外見をした魔物なのだと誰もが思った。
そんな壁外区の住人達の視線など、気にする素振りもなく。
8本のタコ足を付けた男は、陰気な顔をニヤリと歪ませて大笑いを始める。
「ふっふっふ、さぁ〜! お楽しみのショータイムの始まりですよ〜! 壁外区では好きに暴れて良いと女王様からのお墨付きを貰っていますからね! この世界を救う異世界の勇者であり、救世主でもあるこの僕――復活を遂げた『水妖術師』の金森準が、カディナの壁外区に住まうゴミ虫達の大掃除をしてあげますよ〜!」
金森がニヤ〜っと陰気な笑い顔を浮かべると。
その背後には、水色の円盤カッターが無数に浮かび上がった。
「さぁさぁ〜、大掃除を始めましょう〜! 異世界人の皆さん、僕から早く逃げないと殺されちゃいますよ! 今から楽しい楽しい殺戮ゲームの始まりです〜!」
シュン、シュン、シュン――!!
金森の背後に浮かん無数のだ水の円盤カッターが、一斉に壁外区の住人達に目掛けて放たれる。
”――グサッ、ズシュ、ガシュ――!!”
「ぎゃあああああぁぁーーッ!?」
「いやああああぁぁぁーー!!」
「うぎゃああぁぁぁーーッ!!」
「みんな、ここから逃げるんだッ!! ここにいたらあのタコ足の醜い悪魔に全員殺されてしまうぞ! ぐぎゃあああぁっ!?」
壁外区の住宅地に侵入した水妖術師の勇者は、視界に入る人間達を次から次へと水の円盤カッターによって切り刻んでいく。
そこには一切の慈悲は存在しない。
金森はその醜悪な外見に相応しい、人間の心を完全に捨ててしまったのではないかと思えるほどの残虐ぶりを発揮した。
壁外区の中で、殺人マシーンと化した金森から逃げ惑う人々による大波が起こる。
逃げ遅れて地面に転んだ者の体を、後ろから押し寄せた別の人々が踏み潰し。更なる二次被害の犠牲者を増大させていく。
「ハッハッハ〜! 哀れなゴミ虫さん達〜! みんなで僕から逃げる事が出来るかどうかを試すゲームをしましょうよ〜! ねっ、実に楽しいでしょう〜? 異世界の勇者がどれだけ優れた存在なのかを、しっかりとその目に焼き付けて下さいね〜!」
金森はゆっくりとタコ足を器用に動かしながら、壁外区の中を歩き回る。そして異能の能力を使って老若男女関係なく、視界に入った壁外区の住人達を次々と殺害して回った。
この日、カディナの壁の外にある壁外区の中で――。
グランデイル王国軍の先頭に立つ、水妖術師の勇者である金森準が行う殺人ゲームの犠牲となった者は、合計で数千人を超えたという。
もちろんその蛮行は、金森の手だけによって行われたのではない。
金森が引き連れてきたグランデイル騎士団も、壁外区に住む住人達を無差別に殺害し。家屋に立て篭もる人々を焼き討ちにして、街から強制的に追い出していった。
この事件によって、グランデイル王国に所属する異世界の勇者の評判は地の底にまで落ちたのは間違いない。
世界の希望と噂されたグランデイル王国に所属する異世界の勇者パーティの名声も。魔王領に隠れ住む魔王を倒してくれると尊敬されていたグランデイル遠征軍への期待も……。
カディナの壁外区から必死に逃げ出した、数十万を超える避難民達によって。その醜悪な蛮行と悲劇が、世界各地へと伝えられていく事になったのである。
壁外区に解き放たれて、傍若無人に暴れ回ったタコ足人間の金森が率いる殺戮部隊とは別に。
カディナの市街地を軍事占拠したグランデイル王国軍は、カディナの政治の中枢にいた主要な大商人達の始末を完了し。事実上の支配者として、自治都市カディナを完全に掌握する事に成功をした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「――ロジエッタ様、我が軍はカディナ市街地の完全制圧に成功致しました。自治都市に潜む自警団は壊滅し、主だった大商人達とその家族は全て抹殺を完了しております!」
「あらあらあらーーっ! それはとーっても、良い事だわぁ。みんな本当にご苦労様ぁーーっ。これで商業自治都市カディナは完全に大グランデイル王国のものになったわ。これからこの街は、偉大なる大クルセイス女王陛下が統治をしていくのよ。今日はとっても素敵な1日になりそうね〜! ほーほっほっほー!」
部下からの報告を受けた、グランデイル王国軍の親衛隊長はその場で高笑いをした。
全身に無数の薔薇の花びらを付け、深いワイン色のドレスを着た厚化粧の女――ロジエッタは満足気にカディナの市街地を歩いていく。
東の人間領ではこの100年余り。西の魔王領から押し寄せる、『動物園の魔王』である冬馬このはの生み出す魔王軍との戦いにずっと明け暮れていた。
その為、世界各国の間で互いの領土を奪い合うような侵略戦争が行われるような事などは決して無かった。
それが今日をもって、歴史は大きな転換点を迎える事になる。
旧ミランダ領での戦闘の後、魔王軍の4魔龍公爵の1人である緑魔龍公爵が討伐され。魔王軍は東の人間領から逃げ去っていった。
これにより、やっと平和な時代が到来したのだと世界中が期待していた、その矢先に……。
グランデイル王国による、商業自治都市カディナの軍事占拠という大事件は起きてしまったのだ。
東の大国グランデイル王国は、大陸で最も経済力のあるカディナ自治都市を制圧した事で、その軍事力、経済力の全てにおいて、大陸で最も力が有るとされる南のバーディア帝国と対抗しうるほどの、巨大な領土を所要する大国家となった。
それも『コンビニの魔王の本拠地』に攻撃をかけるという作戦に賛同した、世界各国がそれぞれ軍隊をエルフ領に向けて送り込み。
カディナを始めとする周辺諸国の警備が手薄になった隙に、軍事侵攻を開始するという――極めて卑劣な手段を用いてである。
「ほーっほっほっほーっ! ほんとに笑いが止まらない素敵な1日よねぇー! きっと大クルセイス女王陛下も心からお喜びになっていらっしゃるわ。これから偉大なる大グランデイル王国が、世界各地に蔓延る女神教の魔女共の支配を排して、この世界全てを完全支配していくのだから、ああ、本当に素敵よねぇ〜!」
「……ほう、そいつは聞き捨てならないな。お前の主人であるクルセイスにぜひ、俺達を会わせて貰おうか!」
カディナの中央広場で上機嫌に笑い続けていたロジエッタの周辺を、いつの間にかに黒い衣装をまとった複数の男達が取り囲んでいた。
「ロジエッタ様! 危ないですっ!! ――ぐふッ!?」
ロジエッタの周囲に立っていた騎士達が何者かによって切り刻まれ、一瞬にしてその場で絶命する。
既にグランデイル王国軍によって、完全に占拠されているこのカディナの市街地の中で。
グランデイル王国軍の陣頭指揮をしている、親衛隊長のロジエッタの身を取り囲み。謎の黒装束姿の男達は、殺意を隠す事なく戦闘態勢を取っていた。
「あらぁ、あらぁー? や〜っと出てきてくれたのね〜〜! 女神教に仕える『魔王狩り』の皆さん達! 嬉しいわぁー! どうせこのカディナの街にも複数人くらいは潜んでいると思っていたけれどぉ。なかなか姿を現してくれないから、寂しかったのよぉー!」
ロジエッタの身を取り囲んでいるのは、3人の男達だった。
グランデイル王国軍の中でも最精鋭である、薔薇の騎士に所属する騎士達を一瞬にして斬り伏せ。
親衛隊長のロジエッタを瞬時にして取り囲むその者達は、かなりの手練れである事は間違いなかった。
――だが、騒ぎを聞きつけたグランデイル王国の騎士達は、すぐさま隊長であるロジエッタの危機を救う為に、広場へと集まってくる。
そんな騎士達に向けて。親衛隊長のロジエッタは余裕の笑みを浮かべながら手を振って、その場を動くなと部下の騎士達に命令を出した。
「あらあらあらーっ! みんなーっ、この人達に攻撃をしちゃダメよぉ〜〜! ここにいる人達は女神教に仕える『魔女候補生』の皆さんなの! だから普通の人よりもちょ〜っとだけ強いみたいだから、手を出したら怪我をするわよ〜! まぁ、ワタシや大クルセイス女王陛下に比べたら、全然相手にもならない雑魚さん達ばかりなんだけれどね〜!」
ニンマリと笑い顔を崩さないロジエッタに対して。
女神教の魔女候補生である3人の男達は、その表情に一切の余裕が無い。
ここで仮にグランデイル王国の親愛隊長を倒せたとしても……。既にカディナの街は敵に制圧をされている状況だ。わずか3人だけで、この街から脱出するのは至難の業だろう。
それでも、枢機卿に仕える女神教の魔女候補生達には意地がある。せめてこの薔薇のドレスを着た敵の大将だけでも討ち取っておかなければ、例え女神教の本部に戻れたとしても居場所はないのだ。
「――いいか! このグランデイルの雌猫の能力と正体だけでも掴んでから、パルサールの塔へと帰還を果たすんだ! 枢機卿様の為に役に立つ情報を得られないような状態で、おめおめとこの街から逃げ出すなんて出来ないからな!」
3人の男達はそれぞれ武器を手にして。じわりじわりと、薔薇のドレスを身にまとうロジエッタとの距離を詰めていく。
事前に知り得た情報では、このグランデイル王国に所属する親衛隊長は、『鏡』を使う能力を用いる遺伝能力者だという。
この世界に生まれた遺伝能力者のほとんどは、まだ幼い時に女神教によって目をつけられ。枢機卿のいるパルサールの塔に連れて行かれて、女神教による洗脳教育を受けさせられる。
だから、同じ遺伝能力者として……。3人の男達にとっては、目の前にいるロジエッタの存在は異質であり、決して理解が出来ない存在だ。
どうしてこの女は、遺伝能力を持ちながら女神教の陣営に与せず、グランデイル王国に所属をしているのだろう?
それにグランデイル王国のクルセイスは、この能力者をどこから呼び寄せ味方に引き込んだのか?
その辺りの情報が、彼らには全く分からなかった。
「……あらぁ、あらぁ、あらぁー! 余所見なんてしていても良いのかしらー! このワタシを倒すなら、せめて実戦能力を持つ3人の魔女の『3本指』を連れてこないと厳しいんじゃないのかしらぁ? 他の魔女達は、女神アスティアと共に異世界に渡る為の魔法研究に明け暮れている、頭でっかちな学者ばかりだし〜? せめて血塗れのカヌレくらいは、ここに連れてこないとダメよぉ〜〜!」
「……き、貴様、なぜそれを!? 一体何者なんだ!」
3人の魔女候補生が、一斉にグランデイル王国の親衛隊長に向かって斬りかかる。
この女は女神教の内部情報に精通し過ぎている。この場で確実に暗殺をしておかなければ、後に必ず女神教にとっての脅威となるに違いない。
「うふふ〜! 良いわぁー、良いわぁー! 魔女候補生達が一生懸命に頑張っている姿を見れるのはとっても素敵よ〜! でもあなた達じゃあ、ワタシには勝てないの。残念でした!」
「なっ……!?」
女神教の魔女候補生達は、驚愕する。
彼らの視界に映る、全身に薔薇をまとった女の姿が……。
まるで万華鏡の中を覗いたかのように、視界の中で無限に増幅されて見えてしまう。
それは分身したように見える、という生やさしいレベルのものでは無かった。
視界に隅々にまで、赤いロジエッタの姿が溢れかえってしまっている。男達の周囲にも、足元にも、そして目の前にも……果ては空の上にまでも。
数百、数千を超えるロジエッタの姿が、無数に溢れかえっていて、それ以外の物を見る事が全く出来ない。
視界の全てが、薔薇で完全に埋め尽くされてしまっているのだ。
「ぐぎゃあああぁぁーーーッ!?!?」
3人の魔女候補生達はたまらずその場に倒れ込み。
必死に自分達の目を閉ざそうと試みる。
もう目を開ける事は決して出来ない。もし瞳を開けば……そこにはあの、薔薇の女が溢れ出してくるのだから。
そして――。
「うぐぅ……!?」
「ぐふッ……!?」
「がはっ……!?」
女神教に所属する3人の魔女候補生の男達は、グランデイル王国親衛隊長のロジエッタの手に握られた短剣によって。
全員がその喉を、横一文字に掻き切られて、一瞬にして絶命した。
目を開けられない者に、目の前の敵と戦う術なんてあるはずもない。
黒装束を着た3人の男達も、遺伝能力を持ち、枢機卿の元で厳しい訓練を受けてきた優れた暗殺者ではあったのだろう。
だが、その能力を発揮する事なくあっさりと。
グランデイルの女王クルセイスに仕える、親衛隊長のロジエッタの手によって、その命は刈り取られてしまった。
「あらぁ、あらぁ、あらぁ〜! ほーーんとに弱いのねぇ〜っ! その程度の力で、偉大なる大クルセイス女王陛下に歯向かおうとするなんて、ホントに笑えちゃうわぁ〜〜! ほーほっほっほーっ!!」
上機嫌に笑い続けるロジエッタの元に、部下の騎士から追加の報告が入った。
「ロジエッタ様。カディナ大商人の1人、交易商のサハラ・アルノイッシュの宮殿で現在、大きな火事が起こっているようです!」
「あらぁー? そうなのぉー? で、ちゃんとその商人とその家族は始末出来たんでしょうね?」
「ハッ……! 燃え盛る炎が強すぎて……。その死体までは確認は出来ませんでした。ですが白亜の宮殿からは大量の焼死体が発見されていますので、おそらく死亡は間違いないと思われます!」
ロジエッタは少しだけその場で考える素振りを見せたが……。
すぐにニッコリと笑みを取り戻し。大きく笑いながら声を上げる。
「ふーーーん、まぁどうでも良いわぁ〜! どうせ生きててもこの街からは逃げ出す事は出来ないでしょうし。それよりも壁の外で暴れている、あの醜いタコ男をそろそろ止めてきちゃってねぇ〜! あの気色の悪い男はちゃんと止めてあげないと、いくらでも壁外区の人間を殺し続けちゃうでしょうからね〜!」
「畏まりました! ですが……本当によろしかったのでしょうか? 異世界の勇者が大量殺人をした事が世界に知れ渡ってしまえば……。我が国が抱える『不死者』の勇者パーティーへの期待も失われてしまうのでは……」
心配そうに告げる部下の言葉を、ロジエッタは愉快そうに笑い飛ばす。
「それで良いのよぉ〜〜! そろそろ『異世界の勇者信仰』とかいう女神教のアホみたいな教義を壊しておく必要もあったから〜。これでもう、人々は二度と女神教の教えを信用する事はなくなるわぁ。ワタシ達はこの世界を支配して。女神アスティアとその取り巻きの不老の魔女達も全て抹殺するつもりなんだから、これで良いのよぉ〜! そしていずれは北の禁断の地にも侵攻して、この世界全てを偉大なる大クルセイス女王陛下が完全に支配するの! 今日はその記念すべき第一歩を踏み出した日なのだから、盛大にお祝いをしましょうね〜〜! ほーっほっほっほーっ!」
……この日。
カディナを制圧したグランデイル王国軍は。
商業自治都市カディナだけではなく、その周辺に点在していた小さな村々や宿場町全てを武力によって軍事制圧していった。
世界征服への野望を隠す事もなく、グランデイル王国は世界に向けて堂々と宣言をしたのである。
それは、この世界は今後グランデイル王国が覇権を握り。
逆らう国々はことごとく、武力によって滅ぼしていくという強いメッセージでもあった。