第百八十五話 マイラ村への帰還
「黄色いドレスの女だって……? それが一体、何者なのかはよく思い出せないというのか?」
「ハイ、森の中で突然、その女性は私の目の前に現れました。女性の印象は、なぜかほとんど思い出す事が出来ないのですが……。ただ、その黄色いドレスの女性がいきなりナイフを自身の手に突き立てて。私の前で自傷行為をした事だけは、鮮明に憶えています。その時の印象があまりにも強烈過ぎて、その前後の会話だけはかろうじて今も思い出す事が出来るのです」
しかし、その謎の女性と話した会話の全ては思い出す事が出来ない。アイリーンはそう俺に説明してくれた。
黄色いドレスの女性と、どういう会話をしたのか。そしてその女性の容姿さえも、なぜか記憶からはほとんど消えている。
でも、もしかしたらその会話の内容が、これから役に立つ事があるもしれないと思い。アイリーンは頭の中にしっかりと、女性の言葉を刻み込むようにしておいたらしい。
アイリーンがわずかに憶えているという、その女の不思議な話の内容とは――、
『――これは、決められたレールの上を進む歴史を、私の手で改ざん出来るのかどうかを試す最終実験なの。ここで失敗をしたら、あなたの仕えるご主人様は本物の『大魔王』となり。この世界も……やがては、召喚される前の元の世界さえも滅ぼす、とんでもない大悪魔と成り果ててしまうわ。だから心して聞いて頂戴ね!』
……というような、内容だった。
アイリーンがその後に聞かされた内容は、幻想の森に密かに隠されている緑色の光石の位置。そして、それが砂漠の地下空洞へ緊急転移の出来る転移装置となっている事。
この転移システム自体は、砂漠の魔王の配下であった『緑の神官ソシエラ』が作成したものであり。砂漠のあちこちに転移石を設置して、女神教の魔女達が襲撃をしてきた時に逃走する為のものとして構築されたらしい。
その転移装置の使用方法だけは、何とか憶えていたアイリーンだが……。他に女の語った細かな内容は、やはりどうしても思い出す事が出来なかった。
ただ、その黄色いドレスの女性と確かに出会った。
それだけは、記憶の片隅にしっかりと残っているとの事だ。
うーん……。アイリーンが話してくれた、その謎の女についての情報から推測すると。
その黄色いドレスの女性は、何かしら記憶を操作する事の出来る能力を持った、遺伝能力者の可能性が高いのかもしれないな。
肝心なその女性の容姿が全く思い出せず。会話もごく一部だけしか記憶に残っていないのでは、その人物が何者なのかを特定する事は難しいが……。
でも、おかげで俺とアイリーンは、生死を分けるギリギリのピンチから命を救って貰えた事は間違いない。
一体何者かは分からないが、その点に関しては深く感謝をしておこう。
「店長、まだ皆様には私達が遭遇をした、『もう1人のレイチェル様』についてのお話しはしていませんが……。いかが致しましょうか?」
アイリーンが小声で俺の耳だけに聞こえるように、そっと顔を寄せて話しかけてきた。
「それは、もちろんみんなにはちゃんと話さないといけないだろうな。きっと俺達にとっても……そしてコンビニ共和国の未来にとっても。今後の運命を分ける、それは最重要の問題になるだろうし」
あの悪夢のような現実からは、決して逃げる事は出来ない。
それにある意味、コンビニの勇者であるこの俺自身にも深く関わっている出来事だ。
この世界の謎は、未だに解明出来ていない事ばかりだけれど。俺と運命を共にするクラスのみんなには、全てを話しておくべきだと思う。
特にティーナには、身の回りで起きた出来事の全てを共有しておこうと、俺は心に決めている。
簡易ベッドの上から起きた俺は、まずはティーナが持ってきてくれたBLTサンドとミルクティーを少しだけ口に放り込む。
あまりにも色々な事が立て続けに起き過ぎた。
脳に栄養をちゃんと回さないと、とても思考回路が追いつきそうにない。
まあ、多分だけど。あんなにも凄惨な事件に遭遇した後だからこそ。ここはいったん気持ちを落ち着けたかったのかもしれないな……。
後で、少し落ち着いたら。久しぶりにコーヒーでも飲もうと思う。
簡単に軽食を覚ました俺は、俺とアイリーンが体験した出来事を、ここに集まっているティーナ、玉木、香苗の3人にも、ゆっくりと順を追って話していく事にした。
緑の神官ソシエラを倒した後……砂漠の魔王である『モンスーン』と遭遇をした事。そしてそのまますぐに俺は忘却の魔王と戦闘状態に入った。
俺は単独でモンスーンと、激しい戦闘を繰り広げたけれど。コンビニの能力が大幅にレベルアップをして、戦闘力の増した俺の力を持ってしても、やはり『魔王』であるモンスーンの強さと耐久性には及ばなかった。
そしてそんな劣勢のタイミングで、突然現れたのが……女神教の魔女の1人。茶色いドレスを着た幼い少女の『カヌレ』だ。
戦場にはモンスーンを援護する為に、魔王領に隠れ住む残りの『忘却の魔王』達、
暗黒渓谷の魔王、シエルスタ。
虚無の魔王、カステリナ
――の2人も、姿を現した。
結果、砂漠の魔王モンスーンは女神教の魔女カヌレによって倒されてしまった訳だが。
魔王種子であるモンスーンの『心臓』を、暗黒渓谷の魔王シエルスタによって破壊されてしまった魔女のカヌレは、魔王種子の奪取には失敗してしまう。
手に入れた者に『不老』の力を与えると言われている魔王種子が、実は魔王の体の中にある『心臓』であった……という事実も、今回初めて分かった新情報だ。
だが、そんな新情報を全て吹き飛ばすくらいに。
俺とアイリーンの2人を驚愕させたのが、新たに出現した『巨大なコンビニ』と。それを操る灰色のドレスを着たもう1人のレイチェルさんの存在だった。
この世界の過去に存在したとされる、伝説の大魔王。
その正体がコンビニの勇者であったという生きた証拠が……まさに俺達の目の前に、巨大な脚を生やして、向こうからやって来てしまった訳だからな。
巨大コンビニを操る灰色ドレスを着たレイチェルさんは、俺の知っているコンビニ共和国のレイチェルさんとは、全くの『別人』だった。
例え姿形は似ていても、その性格は残忍で凶悪。
まさに――『太古の悪魔』としか言いようがなかった。あの女神教の連中が、可愛いと思えてしまえるくらいに……。
灰色ドレスの女は、邪悪の権化と言ってもいいくらいにヤバ過ぎる存在だった。
もし、あんな邪悪な存在をこの世に野放しにしてしまったなら。この世界の全ての人々は、あっという間に大量虐殺されて、抹殺されかねないと思う。
あの女は人の命を、完全にゴミや虫けらとしか考えていない。それでいて恐ろしいほどに邪悪で強大な力を持った、本物の悪魔だ。
女神教の連中が信仰をする、女神アスティアに俺はまだ出会った事がないから分からないが……。
あの巨大コンビニを操る灰色ドレスの女は――神話に登場する『邪神』と呼んでもおかしくないほどに、禍々しい邪悪な存在だった。
あのピンク色の髪をした悪魔だけは、絶対にこの世界に存在をさせてはいけないんだ。そうでないと、俺達だけじゃない。この世界に存在する全ての生物にとって、未来永劫、安寧の日は訪れないだろう。
俺はコンビニの事務所に集まっているみんなに、全ての出来事を一通り話し終えた。
俺が今までに唯一話さなかったのは、女神教の枢機卿の存在についてくらいだろうか。
俺は枢機卿の正体が、この世界の過去に召喚をされた『玉木』であると、強い確信を持って信じているけれど。
その事を未だに玉木にだけは、話さないようにしている。
まだ絶対の証拠がある訳ではないからな。そんな不確定な情報を玉木に話して、悩ませてしまったり。苦しめたりするような事だけは絶対にしたくはない。
それが個人的なわがままだとは分かっていても、昔から俺は玉木にはいつだって、笑っていて欲しいと願っているんだ。
この俺でさえ、この世界の過去にもう1人の俺が召喚されていたという事実をまだ受け入れられず。心の整理が完全には出来ていないくらいだからな。
だから玉木には、枢機卿の事を気取られたくない。
でも、さっき俺が夢の中で見た、この世界の過去に実際に起きていたかもしれない遠い過去の記憶――。
あれがもし、本当に過去に起きた出来事だったなら。
召喚された異世界の勇者達のリーダーとして、この世界の過去に召喚されていた俺は、玉木と恋人同士になっていたらしい。
それが、一方は闇落ちをして邪悪な魔王となり。
守護者のレイチェルさんと共に、この世界の全てを恐怖と暴力で支配をする暗黒の時代を作り上げてしまった。
もう一方の玉木は、女神教に所属する不老の魔女へと変貌し。今もなお、この世界にただ1人だけ残って生き続けている。
そして現在は女神教を統べる代表として、異世界の勇者をこの世界に召喚しては、殺害を繰り返して魔王種子を回収しているのだとしたら――。
異世界の勇者である『コンビニ』と『暗殺者』の能力を持った恋人達は、何て悲しい運命を辿ってしまったのだろうと思う。
どうして2人は、そのような別々の道を歩んでしまったのだろう?
もし、この世界にある全ての謎を知ろうとするのなら……。その唯一の方法は、あの女神教の中心にいる枢機卿と直接対話をする事しかないのかもしれないな。
そしてそれが、本当に実現可能であるのなら。
きっと俺は……。この世界で起きた、悲しい過去の現実や真実の全てを、やっと理解出来る気がするんだ。
この世界で大魔王となり。過去に散々に暴れ回り、闇堕ちをしてしまったコンビニの大魔王の『秋ノ瀬彼方』は、一体最後にはどんな死に方を遂げたのだろう。
少なくともこの世界に残された玉木が、1人で女神教のリーダーをやっているくらいなんだ。
あの野原の上で、恋人の玉木に膝枕をされながら笑っていた過去の俺は、きっと幸せな死に方はしなかったのだろう、と思う。
でも、今の俺は過去の大魔王とは全くの別の存在だ。俺が今の俺として、ちゃんと存在していられる理由。
それはきっと、『ティーナ』がそばにいてくれたからなんだと思う。
グランデイルの街を追放された俺が、ティーナに出会って。異世界で生きていく事。人としてあるべき正しい生き方をする事。そして、他人に優しく接する生き方の全てをティーナに教えて貰えたから……今の『俺』があるんだ。
だから過去のコンビニの大魔王とは別の生き方を、今の俺は進んでいると信じている。
それにしても、あの過去の夢の中にいた玉木は、本当に幸せそうに笑っていたよな……。
小さな猫のキーホルダーを大切に持ってくれていた玉木は、どんな気持ちで女神教を統べる枢機卿として、あの時……ミランダの地で、この俺に再会をしたのだろうか。
あの時の枢機卿はたしか、めちゃくちゃ取り乱していたように思う。
それもそのはずだ。たった1人で、この世界でずっと玉木は何千年も孤独に生き続けてきたのだから。
「彼方くん、大丈夫……? 少し目から涙が出ているみたいだけど……?」
俺の話を全て聞き終えた玉木が、例の白いハンカチで俺の目を優しく拭ってくれた。
ハハ……。そのハンカチで目を拭かれると。余計に目から涙が溢れてきそうになるんだけどな……。
「とりあえず、大変な事がたくさん起きたのはよーく分かったわ。でも、彼方くん。1つだけ言ってもいい?」
「……ん? いいけど。いきなり改まって、どうしたんだよ、玉木?」
玉木が俺の目を見つめて、スゥ〜っと深く息を吸い込む。
そして俺の鼻先にビシッと指を突きつけて。高らかに宣言をした。
「その黒いロングコート、ロック歌手みたいで凄く格好良いわよ! うんうん、良い感じのイメチェンが出来て本当に良かったわ〜! 彼方くん、毎日ずっとコンビニの店長服ばかり着ていたでしょう? だからたまには別の服も着た方がいいのに〜って私、ずっと心配をしてたのよ〜!」
ガクッ、何じゃそりゃ……!?
これだけ色々な出来事が立て続けに起きて。
コンビニを取り巻く環境が、加速度的に恐ろしい事態に向かっている最中だというのに。
真っ先に突っ込む所が、そこなのかよ?
さすがは玉木だぜ……アハハ!
俺はついつい腹を抱えて笑ってしまう。
それに釣られて、事務所にいるみんなもクスクスと笑い声を漏らした。
……でも、それでこそ玉木だと思う。
もしかしたら天然と見せかけて、わざとこの場の重い空気を和ませようとしてくれているのかもしれないけどな。それこそ、どうして同じコンビニの勇者が過去にも呼び出されているのかとか、謎だらけの恐ろしい現実に直面したばかりだというのに。
玉木の一言のおかげで、ここにいるみんなに笑顔が戻った気がする。
昔から玉木はそんな優しい性格の奴だった。
それは、中学生の頃に初めて会った時以来、ずっと変わってない。
中学の時に、遠くの学校から転校をしてきたばかりの時は……。玉木は大人しい性格だったから、なかなかクラスの中に溶け込めないでいた。
たしか、あの時の玉木の外見はまだ地味な眼鏡っ子だったな。
だから俺と杉田で、転校生の玉木をゲーム部の部室に無理矢理連れ込んで。3人で楽しくゲームをして、放課後は遊んで過ごすのが俺達の日課になっていた。
それなのに、いつの間にか玉木は高校デビューをしてしまい。
眼鏡も外して、『超』が付くくらいの美少女に変貌してしまったもんだから。俺も昔みたいに、気軽には話しかけづらくなってしまっていた。
もう、学校の男子生徒みんなの憧れの存在みたいになってしまったからな。俺みたいな底辺隠れアニオタは、話しかけちゃいけない遠い所に玉木はのぼっていってしまった気がしたんだよ。
でも、やっぱり玉木は俺の知っている……心の優しい中学生時代の玉木のままなんだって、改めて思えた。
「……ってか、彼方くん〜? その肩の上に浮かんでる丸い物は何なの〜? まさかそれって、幽霊か何かなの〜!?」
「いや、違うって! これは『守護衛星』っていって、俺の身を守ってくれる武装兵器なんだよ。これを使って敵に対してビーム攻撃だって出来るんだからな」
「へぇ〜、そうなんだ〜! 凄いね、彼方くん。とうとうファン◯ルまで装備しちゃったんだね! だから顔つきもちょっとだけ凛々しくなったのかな〜? うんうん、私の独断と偏見に満ちた顔面偏差値グラフで、1割くらいはイケメン主人公に近づけたと思うよ〜!」
玉木基準の数値じゃ、いまいち信用がおけないな。
大体、顔面偏差値って何と基準に比較してるんだか……。
俺は胡散臭そうな玉木を、ジト目で見つめて訝しむ。
よし、もっと正しい審美眼を持つ。
商人の娘でもある、ティーナに鑑定をしてもらおう。
俺はティーナの顔を一直線に、じーっと見つめてみる事にする。
「彼方様、私もその服装はとても格好良いと思います!」
顔を赤らめたティーナが、微笑みながら答えてくれた。
……良かった。ティーナが満足をしてくれるファッションなら、きっと間違いないだろう。
「何でティーナちゃんが誉めた時だけは、素直に喜ぶのよ〜!」
玉木が両腕を胸の前で組んで、不満げに俺の顔を見つめてきた。
「だって商売の才能があるティーナに褒められるって事は、その服装はきっと、この世界の多くの人に受け入れられる価値のあるファッションって事になるだろう? いつかコンビニでこの黒いロングコートを販売出来るようなるかもしれないしさ。その時に大量発注をするべきかどうかの、参考にもなると思ったのさ」
『そっか、なるほどね〜!』と感心したように手を叩いて、玉木が納得してくれる。
え、そんな下手な説明で納得してくれるのかよ?
本当に玉木は天然なのか、それとも実は鋭いのかよく分からなくなる時があるよな。
「クスクスクス………」
香苗やアイリーンが、そんな俺達仲良し3人組のやり取りを見て笑い出す。
アハハ……。俺もつい笑ってしまったけど本当に不思議だよな。あんなにも恐ろしい、悪魔のように豹変をした別のレイチェルさんに遭遇をした後だっていうのにな。
コンビニの中で、仲間達と一緒に過ごすだけでこんなにも楽しく笑って過ごす事が出来るているなんて。
だからこそ、この大切な仲間達だけは絶対に失いたくない。何がなんでも守らないといけない……って今は強く思えるんだ。
「彼方様。これから私達はどうしましょう? 女神教の魔女達、そして新たに出現をした『巨大コンビニ』という第3の勢力。しかも大昔に存在したコンビニと、それを操るコンビニの守護者の女性は、彼方様の事を狙っているようですし」
ティーナが心配そうに俺の事を見つめてくる。
……そうだな。
まずは、これからの俺達の行動を決めないといけないだろう。
「うん、今後の俺達の行動についてなんだけど……。俺はまず最優先でコンビニ共和国に戻り、レイチェルさんと合流をするべきだと思っているんだ」
俺はみんなに、俺が考えている今後の方針を伝える事にする。
あの太古の悪魔である巨大コンビニ。そしてそれを操る灰色ドレスのレイチェルさんはマジでとんでもない『化け物』だ。
砂漠の魔王モンスーンと対峙して、戦闘能力が大幅に上昇して俺だからこそ分かるんだ。
あの巨大コンビニと、灰色ドレスの悪魔には、この世界に存在するどんなに強力な国家や軍隊であっても勝てない。
例えグランデイル王国や、世界の国々が結束して立ち向かっても無理だろう。それこそ数万を超える自爆ドローンが、世界中の空を埋め尽くし、空から人類抹殺攻撃でもしてきたらひとたまりも無い。
かろうじてこちらから反撃が出来る可能性があるとしたら、それは女神教の枢機卿――過去にコンビニの魔王を退治した経験があるかもしれない『もう1人の玉木』の力が借りられるなら、ワンチャンあの巨大コンビニと戦えるかもしれないが……。
それも望み薄である事は間違いない。
女神教の連中と共闘出来るような条件が、今の所、こちら側に揃っているとは思えないからな。
そもそも女神教の連中と手を組むとしたら、それなりの見返りを渡さなければ無理だろう。
俺達は女神アスティアが、一体何を目的に魔王種子を大量に集めているのかさえ、まだ正確には分かっていない状況だからな。
だから、今現在――。あの恐ろしい灰色ドレスの女に、この世界で唯一対抗出来る存在、それはコンビニ共和国にいる俺達の味方である本物のレイチェルさん以外にあり得ないんだ。
正直俺は、灰色ドレスの女の恐ろしさを目の前で見て。全身が震え上がったさ。
無理だ、あんなに恐ろしい悪魔に勝てる訳がないってな。――でも、気付いたんだ。
あの完全に闇堕ちしているレイチェルさんとは、異なるベクトル方向に存在している。コンビニ共和国にいる、もう一人のレイチェルさんが俺達にはいるじゃないか……ってな。
だからみんなの身を守る為にも。
俺達は第一優先で、共和国のレイチェルさんとの合流を果たす。
あの巨大コンビニが俺達を追ってくる可能性だってある。だから出来るだけ目立たないように、地下に隠れながら、コンビニ共和国へと帰還をするんだ。
もちろん、途中……。マイラ村にいる『剣術使い』の勇者の雪咲とも合流をしないといけない。
もう砂漠の魔王は、この世には存在しない。
砂漠に住む村々の人々も、そのまま魔王領に残しておく事は出来ないだろう。
ターニャをはじめとする、砂漠の村に住むみんなを。俺は全員、コンビニ共和国へと連れ帰ってあげようと思う。
俺は今後の行動方針をみんなに伝えると。急いで行動に移す事にした。
砂漠の上からではなく、このまま地下の空洞の中をゆっくりと進んで、一路、俺達はマイラ村を目指す。
マイラ村までの位置は、雪咲のいるコンビニ支店2号店から発せられている微弱な電波をアイリーンが探知する事で確認出来た。
コンビニ支店1号店に付いている戦車のキャタピラーで、砂漠の地下空洞の中をゆっくりと進むこと……おおよそ10日間ほど。
安全の為に、襲撃や追っ手を最大限に警戒しながらの超低速移動にはなってしまったけれど。
俺達はとうとう、無事にマイラ村にまで辿り着く事に成功した。
そこで、俺達を待ち受けていたのは……。
「勇者様ーーっ!! お待ちしておりましたーー!!」
「た、ターニャ……!? お待ちしていたって、この凄い人数は一体どうしたんだよ?」
マイラ村には砂漠に住む全ての村々の人々。
おおよそ――1500人ほどが、マイラ村の中に大集結を果たしていた。