第百七十八話 駆けつける援軍達、そして……
空から急降下してくるモンスーンに、俺は高らかに『ざまぁ』宣言をしてやった。
罠にかかったのはお前の方なんだぜ……ってな!!
「なああぁにいいぃぃぃーーーッ!?」
拳を強く握りしめながら、不審そうに眉根を寄せるモンスーン。
そんなモンスーンの表情を見つめながら、俺は地上で大きな叫び声を上げる。
「いったん、この場から消えるんだーーッ!! コンビニ支店3号店、4号店よーーッ!!」
俺の叫び声に応じて。黄色い巨大サソリの大群に制圧されていた2つのコンビニ支店が……一瞬にして、その存在をこの世界から『消失』させる。
「…………なんだとッ!?」
突然、コンビニが姿を消した事に驚き。モンスーンの野郎が空中で両目を見開いた。
さっき俺が2つのコンビニを外に出した時だって、何もない場所に突然、異世界のコンビニを出現させたのだから。
コンビニが俺の意志で、自由に外に出したり、しまったり出来るって事は……よーく考えれば分かりそうなものだけどな。
脳みそが既に腐りかけている、狂戦士野郎のモンスーンには、そこまでの思考や発想力は無かったらしい。
俺のコンビニが突然姿を消した事に驚き、一瞬だけ空中で怯み、落下の体勢を崩してしまうモンスーン。
俺はそのわずかな隙を、絶対に逃したりはしない!
すかさず左腕のスマートウォッチを操作して。
上空に待機させていた残存ドローン部隊から、一斉に小型ミサイルを地上に向けて発射させた。
ドローンから発射されたミサイルは、空から落ちて来るモンスーンではなく。
全弾、俺の立っている地上部分に狙いを定めて発射させている。
””ズドドドドドドーーーーーーーンッ!!!””
無数の小型ミサイルの雨が降り注ぎ。
モンスーンが降下しようとしていた着地ポイント周辺の地面が、凄まじい爆音を轟かせて大爆発を引き起こした。
ミサイル着弾の爆風によって、大量の砂埃と黒煙が巻き起こる。
空から降下してきたモンスーンは、その視界を黒煙によって遮られ、完全に俺の姿を見失ってしまう。
俺だけに狙いを定め。勢いよく急降下してきていたモンスーンは――その強烈な右ストレートパンチを、煙の中で盛大に空振りし。
俺がさっきまで立っていた地面に、巨大クレーターのような大穴を作り出した。
「チイイィィッ………!! クソ野郎がああぁぁ!! どこに消えやがったああぁぁッ!?」
空から振り下ろした、全力の一撃が空振りに終わり。
怒りで鼻息を更に荒くしたモンスーンが、キョロキョロと地上で周囲を見回す。
俺はそんなマヌケなモンスーンの姿を、奴の”真上”から静かに見下ろしていた。
「……俺は、お前の頭上にいるぜ! 魔王のくせに、敵がどこにいるのかも把握出来ていないようだな、この単細胞野郎がああぁぁッ!!」
ミサイルの着弾を、ロングコートの防御力だけで完全に防ぎきった俺は――。
降下してきたモンスーンの繰り出す特大パンチを、ギリギリのタイミングでかわす事に成功した。
そしてそのまま、着弾したミサイルの爆発による爆風の勢いを借りて。モンスーンが立つ場所の遥か上空へと、自身の体を大きく跳躍させる事に成功している。
流石に、俺の身体能力が大幅に向上しているといっても。これだけの高さに、自分の筋力じゃ飛び上がれないからな。
だから俺自身もダメージを負いかねない、ドローンのミサイル攻撃を地表に全弾ぶつけるという荒技をやってのけ。
その爆風でモンスーンに俺の場所を見失わせておいて。なおかつ、そのまま爆発の勢いも借り。
一気にモンスーンのいる場所の上空にまで、俺自身の体を浮かび上がらせたという訳だ。
おかげで俺は、モンスーンと上下のポジションを瞬時に入れ替えるという事に成功出来た。
これで立場は完全に逆転したな、モンスーン!
今度は俺が有利なポジションを取った事に。
砂漠の魔王は、一瞬何が起こったのかが分からずに――目をパチパチとさせて動揺していやがる。
全く頭の回転の鈍い奴だぜ。
でも、だからこそ今が絶好のチャンスなんだ。
俺はここから、一気にお前に攻撃を畳み掛けてやるからな。
覚悟しろよ、砂漠の魔王ッ!!
「よーし、一気に畳み掛けてやるぜぇぇーーッ!! 『青双龍波動砲』ーーッ!!!」
地上でまだ動揺をしているモンスーンに向けて。
上空から落下をしながら、青い光のレーザービームをぶちかましてやる。
”ズドーーーーーーーーン!!”
巨大サソリの大群をも一掃する、強力な青いレーザーが、地上にいるモンスーンの体に直撃をした。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉーーッ!?」
真上から放たれた青い光のレーザーに、モンスーンは瞬時に反応した。
レーザーの直撃を受ける寸前で、自身の身を守る黄金色のシールドを目の前に展開し。俺が放つ青双龍波動砲の直撃を必死に食い止めている。
さすがは、レベルがカンストしているだけあるな。
まさかこの状況で俺の攻撃に瞬時に対応出来るなんて、流石は魔王だぜ。
上空から降下しながら発射をした、俺の青いレーザービームは全て……。モンスーンが展開した黄金のシールドによって防がれてしまったらしい。
レーザーの威力を全て相殺しきったモンスーンは、両手をプルプルと震わせてるが。その体にはかすり傷一つ付いている様子は見られない。
俺が放った青双龍波動砲は、奴の体にダメージを全く与える事が出来なかったようだ。
敵の奇襲を見事に防ぎきったモンスーンが、ニヤリと口角を吊り上げて余裕の笑みを見せる。
……だが、まだ甘いぜ、モンスーン!
それくらいですぐにドヤ顔をするようじゃ、対『コンビニの勇者』対策としては、まだまだ全然不十分なんだよッ!
シールドを張って、青双龍波動砲の威力を全て防ぎきったモンスーンに、俺は……改めて『本命』のプレゼントをお見舞いしてやる事にした。
「いっくぜーーーっ!! こっちが本命チョコだから、しっかりと食らって、そのまま粉々に砕けちまえよーーッ!! 必殺、『無限コンビニ落とし』ッ!!!」
俺は今度は立て続けに、コンビニ支店3号店と、4号店を空中に出現させ。それを2つ同時に、地表に立つモンスーンに向けて一気に急降下させた。
「なああぁぁーーッ!? てめえぇぇーーッ!?」
目を大きく見開き、焦りの表情を浮かべるモンスーン。
それはそうだろう。俺の青双龍波動砲は威力が高いが、連続で発射する事が出来ないという大技だ。
だが、モンスーン……。お前のそのシールドバリアーも、連続で展開する事は出来ない仕様だって事を、俺は知っているからな。
今、俺のレーザービームを完全ガードしたばかりのお前には……。立て続けに空から落ちてくる俺の『無限コンビニ落とし』を防ぐ事は――絶対に出来ない!
””ズドドドドドドドドドドーーーーーーーン!!!””
空から落ちてきた、超巨大建造物の下敷きとなり。
砂漠の魔王であるモンスーンは……落下してきたコンビニにその体を押し潰されて。その体は粉々に砕け散ってしまった。
2つのコンビニが地面に衝突をした威力で、大地には大きな振動が巻き起こり。
先ほどのミサイル攻撃以上の粉塵と大量の土煙が、周囲に巻き上がる。
それと同時に、倒壊したコンビニの瓦礫の周囲には……衝撃でバラバラに飛び散ったモンスーンの両手、両足が無惨にも散乱していた。
おそらくモンスーンの体はもう、完全にバラバラになってしまったのだろう。
コンビニの残骸の隙間からは、大量の赤い血が流れ出てきている。
俺は黒いロングコートを左右に大きく伸ばし。
モンスーンがバラバラになって絶命した大地の上に、ゆっくりと舞い降りた。
周囲の状況を冷静に確認し、やっと勝利を確信する。
そして両手でガッツポーズを決めて、大きな声で叫び声を上げた。
「よっしゃああーーっ! ざまぁみやがれ、モンスーン! てめえはコンビニの勇者の攻略法を見誤ったようだな。いいか、よーく憶えておくんだぞ。コンビニの勇者が突然、不自然に空高く舞い上がった時には大抵、切り札のコンビニを空から大量に落としてくる時だからな! そこん所は次のテストにも出るからちゃんと復習しておくんだなッ!」
モンスーンに『次』の機会がない事を、よーく知っている俺は。コンビニの勇者攻略の裏情報をわざわざ口に出して叫び。余裕たっぷりに高らかに勝利宣言をしたやった。
もうこれで、砂漠の村々の人々の命を弄んだ灼熱砂漠の魔王は消え去った。
その証拠に、モンスーンが砂漠地帯から生み出して続けていた無限のサソリ軍団が……全て消滅している。
巨大サソリ達は、『天気の勇者』であるモンスーンが生み出していた砂の魔物だ。
そのモンスーンが生き絶えたのだから、魔物達も全て消え去ってしまったのだろう。
今回のコンビニ落とし作戦で俺が学んだ事は……。
俺が自分の意思で消したコンビニ支店のカプセルは――持ち主である俺の手に、自動的に戻ってくるという事だ。
新しく加わったそれぞれのコンビニ支店は、小さなカプセルとして普段は持ち運ぶ事が出来る。
でも、それを消した時に……。もし、カプセルがそのまま地面に落ちてしまい、紛失してしまったら大変だ。
仮に砂の上でコンビニ支店をカプセルに戻したとして。そのままカプセルが砂の中に埋もれてしまったりたら、探し出す事なんて絶対に不可能だろう。
当たり前だが、コンビニの能力にそんな欠陥システムは絶対に無いだろう――という確信が俺にはあった。
モンスーンを挟むようにして、森の中に建てておいた2つのコンビニ支店を消した後……。元の形に戻った2つのカプセルは、自動的に俺の手元へと戻ってきてくれた。
おかげで、青双龍波動砲を放った後――すぐに俺は空中で『無限コンビニ落とし』の大技を披露する事が出来たからな。
空から落ちてきたコンビニ支店に、押し潰されて死んだモンスーンの血が大量に溢れ出ている場所を確認しながら……。
俺はふと、ある違和感に気付いた。
「ん……? でも、どうして黄色いサソリ達は全部消えてしまったんだ?」
たしか……魔王領に住んでいる多くの魔物達は。過去にこの世界に存在をしていた古い魔王達によって生み出された魔物が、その魔王の死後も――そのままこの世界に残り続けてしまっているのだと俺は聞いた事がある。
という事は……。魔王が死ねば、その魔王に仕えていた守護者達は消え去るが。生み出された魔物や建造物などは、そのままこの世界に残り続けるという話じゃなかったのか?
それこそエルフ領に住んでいたエルフ達なんかも、過去の魔王によって生み出された存在の末裔という話になっていたはずだ。
だとしたら、砂漠の魔王であるモンスーンが生み出した黄色いサソリ達も、この世界に残り続けてもおかしくはない気がするのだが……。
何かそういう既存の枠組みとは、異なる例外的な魔物達だったりしたのだろうか?
倒壊したコンビニ支店の残骸の上を歩きながら。
俺はふと空を見上げてみると――。
”――ポタッ――”
突然、冷たい雨の滴が俺の顔の上に落ちてきた。
雨……?
いや、空には雨雲なんて1つも無かったはずだぞ!?
”――ポタ、――ポタ、ポタ、ポタポタポタッ………”
雲1つない晴天の青空から。無数の青い水滴が、地面に向けて大量に降り注ぎ始めている。
その量は尋常ではない。これじゃあまるで、局地的なゲリラ豪雨だ。
ザザーーーーーッ!! と、青くキラキラと光る大量の雨水が……。コンビニ支店の残骸の隙間に、もの凄い勢いで流れ込んでいく。
青く光る雨水は、地面の上に大量に流れ出ていたモンスーンの赤い血を全て吸収し。瞬く間に周辺一帯に、溜め池のような大きな水溜まりを作り出していった。
「ヤバいぞ!! まさか………これは、モンスーンの野郎がまだ生きて………」
こういう時の悪い予感ってのは、大体的中してしまう事があるよな……。
俺は慌ててコンビニ支店3号店、4号店の残骸をしまう事にした。
「いったん元に戻れッ!! コンビニ支店3号店、4号店ッ!!」
倒壊したコンビニの残骸を、元の小さなカプセルの形に戻すと。俺は慌てて、青い水溜まりが広がっている場所から後方に下がって距離を取った。
そして、青い光の水で満たされた溜め池の中からは――。
「……この世全ての理を覆し、大地の嘆きと渇きを癒せ――『慈愛の回復豪雨』!!」
空から落下してきた巨大コンビニの下敷きとなり。
衝撃で両手両足が、バラバラに吹き飛んでしまったはずのモンスーンが……。
筋肉ムキムキの肉体美を青い雨に濡らし。キラキラと光る陽光に照らされた、五体満足の元通りの姿で。
空に向けて拳を振り上げた状態で、その場に立っていた。
「――そんな、馬鹿な!? コンビニに押し潰されて間違いなくバラバラに砕け散っていたのに。そこまで完璧に肉体の復元が出来るなんて、そんなのはもう……とても『人間』の出来る技なんかじゃないぞ!」
おいおい、やめてくれよな……。
まさかゾンビとか吸血鬼みたいに。首とか脳みそを完全に破壊しないと、死なないクソ設定とかじゃないだろうな?
もし魔王に、そんなクソ仕様があるのだとしたら、本当に勘弁をして欲しい。魔王はあくまでも『不老』の存在であって、絶対的な『不死』の存在では無いと俺は聞かされていたんだぞ……。
さすがにそれは、インチキ過ぎる性能じゃないのか?
「ふうううぅぅぅ〜〜。たしか、コンビニの勇者が不自然に空に舞い上がった時は、上から大量に『コンビニ』を落としてくる時なんだってなあああぁぁ? しっかりと学習をさせて貰ったぜ! まぁお前にはもう、さっきみたいに空からコンビニを落とすような機会は、2度と与えてはやらないけどなああぁぁ……!!」
ダメージを受けた気配を、全く感じさせる事なく。
口からフシュ〜! と白い思い吐息を吐きこぼしながら。猛獣のモンスーンが殺気に満ち溢れた表情で、俺の事をギロリと睨んできやがる。
あの目の色は……もう、完全に俺を『殺す』目つきだな。
モンスーンはこれから決して油断をする事も、その力を出し惜しみするような事もないだろう。
ただ1点。コンビニの勇者であるこの俺を殺す為だけに、モンスーンはこれから、全力で行動を起こすつもりだ。
「この俺様が、これだけの大ダメージを受けたのは本当に久しぶりだぜええぇぇぇ!! このクソ野郎がああぁぁぁ!! マジでぶち殺すッ!! 一瞬で殴り殺す!! てめえも、てめえの守ろうとしている砂漠のカス人間共もッ!! 今から全部まとめて、この俺がぶち殺してやるからなああぁぁーーーッ!!」
モンスーンが凄まじい勢いで、俺に向かって迫ってくる。
右の拳を振り上げて。今までで一番速いスピードで、俺を殴り殺す為だけに、全力で猛突進をしてきている。
こいつは、マジでヤバいぞ!
今まで通りの黒いロングコートの防御だけでは……アレはきっと防ぎきれない。俺の本能がそう訴えかけてきている。
あの状態のモンスーンは、暴走する巨大な機関車だ。しかもその威力とスピードは、リニアモーターカーレベルにまで上昇している。
あんな突進をもし、まともに食らったなら……。
今度は俺の体の方が、粉々に砕け散ってしまうに違いない!
上空のドローン部隊のミサイル残弾はなし。
シールドドローンを呼び寄せて、空中に逃げるにも時間がなさすぎる。
どうする? 中途半端にジャンプをして避けようものなら、超スピードで走ってきているモンスーンも一緒に跳躍をして、そのまま空中で俺は奴に殴り飛ばされてしまうかもしれないぞ……。
俺は咄嗟に冷静な判断をする事が出来ずに。
唇を強く噛み締めて。
その場から一歩も動けないでいると――。
「店長ーーーーーッ!!!」
駆け寄るモンスーンと俺との間に。俺にとってはまさに救いとなる『援軍』の叫び声が聞こえてきた。
突進するモンスーンの体の不意をついて。
横から飛び出したコンビニの青い騎士――アイリーンが、黄金の剣でモンスーンの右腕を一気に切り落とした。
振り上げていた右腕を奇襲によって失ったモンスーンは、突進を止めてその場で絶叫し。そのまま、体を反転させてアイリーンへの反撃を試みる。
……だが、その攻撃を巧みに避けたアイリーンは、今度は体を素早くバネのように回転させて。
立ち止まっているモンスーンの左足を、黄金剣で更に一刀両断にしてしまう。
「ぐがおおぉぉあああぁぁぁあああーーーッ!? こおおのおぉぉクソアマがあああぁぉぁーー!!! 『暴風嵐乱陣』&『慈愛の回復豪雨』――ッ!!」
奇襲をかけたアイリーンの体が、モンスーンの体から吹き荒れる激しい暴風によって弾き飛ばされる。
俺はすぐさま、アイリーンの側へと駆け寄った。
「アイリーン!! 大丈夫か……!?」
「……店長、私は大丈夫です! ですが、本当に申し訳ありません……。少し寄り道をしてしまったので、この場への到着が遅れてしまいました。ティーナ様達の乗ったコンビニ支店1号店は、無事に安全な森の外へと誘導をして参りましたので、どうかご安心下さい」
アイリーンは全身に軽い打撲症を負っていたけれど、特に大きな傷を受けたという訳では無いようだ。
良かった……。うちの青い姫騎士様を傷物になんてしやがったら、この俺が絶対に許さないからな!
「良いタイミングで来てくれて本当に助かったよ、アイリーン! 正直、俺の予想よりもずっとモンスーンの野郎は化け物だったらしい……。だからもう、打つ手が無くて困っていた所だったんだ」
「それでしたら、ぜひ私と2人であの化け物と戦いましょう! 店長はレベルアップによって、今は高い戦闘能力を手に入れています。ですが、相手は何といってもあの『魔王』なのです! 一筋縄ではいかない、強敵である事は間違いないはずです」
俺とアイリーンは共に戦闘態勢を整えて。
無敵の魔王であるモンスーンを見つめて警戒する。
その間にモンスーンは、空から降り注ぐ青い光の集中豪雨によって。既にアイリーンに斬られた右腕と左足の再生を、完全に終えてしまっていた。
いや、マジで化け物過ぎるだろ……。
コンビニの下敷きにして。グシャグシャに体をすり潰しても平気な顔をして生き残っているような奴なんだぞ。
一体どうすれば、アイツを倒す事なんて出来るんだよ。
「おいおいおいぃぃーーッ!! まーたさっきの守護者の援軍かよおおぉぉ!! てめえはホントにサシで戦う事の出来ない臆病者の勇者みたいだなああぁぁ? コンビニの勇者よおおぉぉぉーーーッ?」
「何とでも言いやがれ! てめえがガチで強い本物の化け物だって事を俺は認めてやってるんだぜ? 正直に言って、こっちは俺とアイリーンの2人がかりでも、お前を本当に倒せるのか怪しくなってきているんだからな」
俺が少しだけ弱音を吐いた事に、モンスーンの野郎は満足そうに笑みを浮かべると。
その場で腹を抱えて大笑いを始めた。
「ハーーッハッハッハッ!! やっと俺様の強さを理解しやがったのかよぉぉ!! おせーーんだよッ!! このクソ雑魚勇者があぁぁ!! てめーがさっさと降伏をしないから、こっちにも頼んでもいない『援軍』が勝手に来ちまいやがったじゃねえかよおおぉぉぉ!!」
「――は……!? 援軍だって!?」
俺とアイリーンは、慌ててモンスーンが指差す方向へと振り返る。
俺達の立つ場所の後方――。
おおよそ30メートル程の距離がある、小さな丘となっている場所の上に。
「……な、何なんだよ、アイツらは!?」
俺は今までにこの異世界で――。こんなにも心の底から『恐怖』をした事は無かったかもしれない。
丘の上には、”2人の異様な姿をした人物”が、いつの間にかそこに立っていた。
1人は全身が骸骨の姿をしている、黒い騎士だ。
その顔は白い髑髏の顔をしていて。それが仮面なのか……本当に髑髏の顔をしているのかは、遠くからではよく分からない。
骸骨騎士は黒い大きな馬の上に乗っていて、颯爽と黒マントを風になびかせていた。
周囲にはおおよそ1000体はいそうな、全身が骨だけで構成されている骸骨歩兵をたくさん引き連れている。
そして、何よりも俺を恐怖のどん底に陥れたのは……。
もう1人の、真っ白なドレスを着ている長い黒髪の女だった。
黒髪の女は車輪の付いた、車椅子のような形をした椅子に腰掛けている。そしてその車椅子ごと、空中にゆらゆらと浮遊していた。
目元には黒い目隠しが巻かれていて。その表情からは何も感じ取る事が出来ない。だがその様子は、深淵の奥に潜む暗黒の『虚無』そのもののように感じられた。
その黒い目隠しの下で、一体何を見ているのか。何を考えているのかさえ……全く分からない無機質な存在。
ただ、その浮遊している車椅子の女を見つめると。
全身がザワザワと震えて、呼吸が出来なくなってしまいそうになる。体の表面温度が一気に10度は冷えてしまったかのような、恐ろしい寒気を感じる。
ダメだ……! あの黒髪の女は『視界に入れた』だけで、下手をするとこちらが死んでしまう危険性がある。
空に浮かぶ太陽を裸眼で直視する事は出来ないように。
あの浮遊する車椅子の黒髪女を見ただけで、一瞬で意識を失ってしまいそうになる。そのまま見つめ続けると、恐ろしい寒気と、心臓が止まりそうなほどの恐怖で、呼吸をする事さえも忘れてしまう。
アレは本当にヤバい。ヤバ過ぎる化け物だ!
モンスーンなんかとは、比べ物にならないほどの、別次元に存在する本物の『化け物』だ。
「うおおぉぉおおーーーい!! 俺様は援軍なんて全然求めていねえぞおおぉぉ!! いくら『魔王同盟』があるからと言っても、勝手に俺の獲物を横取りにくるんじゃねええぇぇぇーーッ!」
モンスーンが、丘の上に立っている2人の人物に対して大声で呼びかけた。
――魔王同盟だって?
という事は、あの丘の上にいる2人の人物は……。
魔王領に住むという、残り2人の『忘却の魔王』なのか?
たしか、灼熱砂漠の魔王モンスーン以外の魔王の名前は……。
『暗黒渓谷』のシエルスタ。
『虚無』のカステリナ。
――だったと思う。
あそこに立っているどちらが、どっちの名前なのかは分からないが……。
あの視界に入れただけで、こちらの息が止まりそうになる超絶ヤバい化け物も、魔王領に住む魔王の1人という訳なのかよ。
「……モンスーンよ。お前は砂漠の軍団の戦力を失い過ぎた。自身の身を守る守護者達を全て失っておいて――。この先どうやって、自分の領地を守っていくつもりなのだ?」
丘の上に立つ、骸骨騎士が大声でそう呼びかけてくる。
ん……? 予想よりも声が高いな。どうやらこれは女性の声らしい。
あの骸骨騎士の中身は女性という事なのか……。という事は、あの髑髏の顔をした騎士は、やはり顔に仮面を被っているだけなのだろうか。
「はああぁぁぁ……!? 守護者を全て失っただとおおぉぉ!? 何を寝言をほざいてやがるんだ! 俺様の守護者は、たしかに2人は、ここにいるクソ雑魚のコンビニの勇者にやられちまったけどよぉ! 残りの2人は砂漠の防衛に向かわせて……」
話の途中で、モンスーンがいきなり、ハッ……と、驚きの表情を浮かべて口籠る。
そして慌てて、両目を見開き。
両耳に手を当てて、キョロキョロと周囲を見回した。
「な……そんな、バカな事が………ッ!? たしかに、赤の神官『サラキッシュ』と、白の神官『パナエスタ』の反応が感じられない。これは一体、どうなっちまったんだよおおおぉぉぉーーッ!! まさか2人とも、敵にやられちまったでもというのか? ――ぐぼああああっぁぁぁぁッッ!?」
モンスーンが突然、口から大量の血を吐いてその場に倒れ込んだ。
な、なんだ……?
今度は一体何が起こったっていうんだ!?
モンスーンの首には、いつの間にかに。
『赤い血の色をした鎖』が巻きついていた。
その鎖には、バラの花に付いている無数の棘のように。鋭く先の尖った金属の棘が散りばめられている。
赤い鎖はモンスーンの首をきつく締め付けながらりその皮膚を強引に削り取り。大量の出血をその体から搾り出していた。
「ハイハーーイ! 魔王の皆様ーーっ! お久しぶりのこんにちはです! 3人揃って勢揃いをするのなんて、何百年ぶりの事かしら? 今日はとっても良き良きかなかなの日です! みんな大好き女神教の魔女様、『右手中指』のカヌレが、わざわざ直接魔王狩りをしに来てあげましたよーーっ! ぜひ、感謝感激で血の涙を流して大喜びしちゃって下さいね!」
モンスーンの体に伸びた赤い鎖が、今度はモンスーンの両手両足を一気に切り刻み始めていく。
元々、真っ赤な色をしていた鎖が……モンスーンの体から噴き出る血によって、さらに濃い朱色に染まっていた。
「……血塗れのカヌレか。厄介な奴が来たものだ。おまけに『カヌレの騎士』までここに引き連れて来ているとは……」
丘の上の骸骨騎士が、そう呟くのが俺の耳にも聞こえてきた。
俺はモンスーンの体を切り刻んでいる、赤い鎖が伸びている方向を見つめてみると――。
そこは、2人の魔王達が立つ丘の上とは反対側の方向。
白い大きな日除け傘の下で。コーヒーカップを手にした茶色いドレスと帽子を被った小さな少女と。
全身がピンク色に染まっている重装鎧を着た、300人程の騎士達がそのすぐ後ろに陣形を構えて大整列をしていた。
「カヌレの騎士団、全員抜剣ーーっ!! 今なら期間限定で魔王が狩り放題の大チャンスです!! さあ、全員残さず、この場で狩り尽くしちゃいなさーーい!!」