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第百七十六話 幕間 コンビニ大合戦その⑥



「――ハッ!? こ、ここは一体、どこなのですか?」



 カルタロス王国女王――サステリア・カルタロスは、高級なラグジュアリーソファーの上で目を覚ました。



 目覚めてすぐに、自身の脳細胞に直接アクセスを試みる。サステリアは急いで、直前までの自分の記憶を呼び覚まそうとした。



 そうだ……!

 私は魔王軍の幹部達によって、誘拐されてしまったのだ!



 あの白いドレスを着た銀髪の美少女と。魔王軍の踊り子将軍に強制的に連れ去られて。


 きっと私は拉致されてしまった味方の騎士達と同様に。あの巨大な魔王城の中に、連れ込まれてしまったに違いない。



 慌てて、周囲をキョロキョロと見回してみると。


 そこは自分が住まうカルタロス王国の居城よりも。遥かに内装が豪華で、見た事もないような高級家具が沢山置かれている場所だった。


 天井に吊るされている、キラキラと光り輝く黄金のシャンデリア。広大なホールの床は、光沢を放つ美しい大理石のタイルで、びっしりと埋め尽くされている。



「ここが、あの巨大な魔王城の中なのでしょうか? 何と美しく、洗練された場所なのでしょう……」



 サステリアは、周囲のあまりにも美し過ぎる光景に。

 思わず感嘆の声を漏らしてしまう。



 ……いけない、いけない!

 美しい調度品に見惚(みと)れていては、ダメだ!



 ここが、あの魔王城の中という事は――。


 自分が今いる場所は、コンビニの魔王に仕えている邪悪な者達が暮らす、敵の巣窟(そうくつ)の中という事ではないか。


 ふと自分の体を見ると。手足に拘束具のような物は、何も付けられていないようだった。


 だから、自由に周辺を動き回る事も出来そうだが……。ここは右も左も分からない見知らぬ魔王城の中だ。おそらくたった1人だけで、ここから逃げ出す事など到底出来るはずもない。



 それに、おそらくこれからこの魔王城を統べる存在。


 きっとコンビニの魔王に仕える者達を支配する魔王軍の大幹部が、自分の元へとやってくるに違いない。


 敵は連合軍の総大将である、カルタロス王国の女王と認識をして私をここに連れ去ってきたのだ。だから今すぐに私を殺害するという事はないだろうが、危険がすぐ目の前にまで迫っているという事には変わりない。


 考えられるの可能性としては、他の騎士達と同様に。この私に対して、身の毛もよだつような恐ろしい凄惨な拷問を加えて。私の体と精神をぐちゃぐちゃに破壊した上で、そのまま懐柔(かいじゅう)し。

 自分達にとって都合良く動く手駒へと変貌させて。カルタロス王国を、魔王軍の手中に収めてしまおうというつもりに違いない。



 サステリアはそう考えて、これから自身の身に迫る危険に対しての警戒感を強めた。


 だが……そう覚悟をしていても。両手の指先はガタガタと震えてしまう。小さい頃に行儀が悪いからと母親に叱られて以来、一度も行う事のなかった全身の身震いが止まらない。


 ソファーの上で足を何度もガクガクと震わせて、(ひたい)からは冷や汗が滝のように流れ出ていた。



 まさか指を1本1本、順番に切り落とすなんて事はしないだろうか?


 それとも、おぞましい形をした寄生虫のような魔物を強引に私の口の中に放り込み。その寄生虫に脳組織を内部から食い破らせて、徐々に精神を(むしば)んでいくのだろうか?



 ああ……お願いです、女神様!

 どうか、どうか……この非力な私にお力を貸して下さいッ!



 カタカタと震える前歯を、何度もぶつけさせながら。


 サステリアは自身で考えつく限りの恐怖の拷問内容を次々と頭の中に思い浮かべて。少しでも、その恐怖が現実のものとなった時の、衝撃とショックを和らげようと心の中で努めた。



 すると――。

 そこに、カツンカツン……と足音を立てて。



 高いハイヒールの靴底を、白い大理石の床の上に響かせながら。ゆっくりとこちらに向けて、歩いてくる人物の足音が聞こえてきた。



「――ようこそおいで下さいました、カルタロス王国の若き女王陛下。その若さで、20万人を超える世界連合軍を率いていらっしゃった勇気ある貴方(あなた)様を、我がコンビニ共和国は大切な客人として歓迎をさせて頂きます」



 サステリアの目の前に現れたのは、灰色の綺麗な服を全身に着て。髪の色が全てピンク色に染まっている、信じられないくらいの美貌を持った若い女性だった。


 そのあまりの美しさに見惚れて。一瞬だけ、心の中に抱いていた恐怖心を忘れてしまいそうになるサステリア。


 でもすぐに首を左右に振って、警戒心を呼び戻す。



 なにせ敵はあの魔王軍の大幹部なのだ。姿、形を自由に変化させて、こちらを惑わせようとしているのかもしれない。


 それにしても。こんなにも美しい美貌を持った女性が、現実の世界にいるなんて……。まさにこの美しい女性は、『女神様』と呼ぶに相応しい外見をしていると、サステリアには思えた。


 特に『魅了(チャーム)』の魔法をかけられた、という訳でもないはずなのに。

 既に顔が火照っていて、(ほお)は強い赤みを帯びてしまっている。


 そんな自分自身の変化に驚き……。サステリアは魔王軍の大幹部が持つ、その魅惑的なまでに怪しい外見の魅力にたじろいでしまう。


 純朴そうで、都会慣れしていない田舎娘の風貌だ……と世間から評判の自分には。とても手が届かない、完璧な美を備えた大人の女性が目の前に立っている。


「カルタロス王国の若き女王、サステリア様。貴方様に我がコンビニ共和国が扱う、異世界の珍しい食品をぜひ味わって頂きたいのです。そして貴方様のお力で、コンビニの食品の美味しさを世界中の人々に広めてもらい、ドリシア王国と共に。コンビニ共和国と世界の国々とを繋ぐ架け橋のような存在になって頂けたらと私は願っています」


「……だ、誰が、コンビニの魔王が支配する領土の食べ物などを口にするものですかっ!! その怪しげな毒物の入った食べ物を我が国の騎士達に無理矢理食べさせて、未来ある有望な若者達の心を洗脳してしまったように……! 私や、世界中の罪なき人々を、これから魔王の手下にしてしまおうと画策をしているのでしょう!」



 サステリアは声を荒げて。ピンク色の髪の女性――レイチェルの提案に強い拒絶の反応を示した。


「そうですか。それは、とても残念です……。こんなにも甘くて美味しい、異世界でも人気の高い高級スイーツをお持ちしましたのに……」


 レイチェルはその手に、黒いチョコレートケーキを1切れ持ってきていた。


 それは『料理人(クックマスター)』の勇者である琴美(ことみ)さくらが昨晩、心を込めて作ってくれたものだ。


 異世界では『オペラ』と呼ばれている――2種類のクリームと生地を何層にも重ねて。最後に光沢を放つチョコレートで表面をコーティングした、ほろ苦さと洋酒の風味が香る。濃厚で大人の味わいがする、まさに魅惑的な味わいのする甘いケーキだ。



 だが、異世界の料理を全く知らないサステリアからすると。


 魔王軍の大幹部が手に待っている、黒い食品は――。人間の脳組織を破壊する、魔王軍お手製の黒い寄生虫の塊にしか見えなかったのである。


 せっかく、さくらが腕によりをかけて作ってくれた美味しいチョコレートケーキだ。

 世界連合軍の総大将であるカルタロス王国の女王に食べて貰うのだと。さくらは昨晩、気合を入れてこの美味しいチョコレートケーキを作ってくれたらしい。


 その真心のこもった最高級のスイーツを客人に食べて貰えない事は……。レイチェルにとっては、あまりにも残念で悔しい事だった。


 なので、ここは多少の強行手段に出たとしても。絶対にサステリアにさくら特製の『チョコレートオペラ』を食べて貰おうと、気合を入れて意気込む事にする。


「――分かりました。では、サステリア様にはぜひ一緒にご覧になって頂きたいものがあるのですが、こちらに来て頂いてもよろしいでしょうか?」


「えっ……私に? な、何をですか……?」



 絶対にあの黒い毒物を、無理矢理食べさせられるのだと思っていたのに……。


 ピンク色の髪の女性が急に後方に振り返って。ツカツカとそのまま歩き始めてしまったので……。サステリアは少しだけ戸惑ってしまう。


 別に自分は両手両足を敵に拘束されている訳ではない。だから、逃げ出そうと思えば、いつでもここから走り去る事だって出来る。


 でも……たとえこの場から上手に逃げ出せたとしても。

 きっとその先は、敵の手によって再び捕まるだけだ。


 そもそもここがどこなのかも分からないのだから。闇雲に逃げ回っても、外に出られるとは到底思えない。

 そしてそんな事は全て分かっているからこそ、あの美しい女性は自分を拘束していないのではないかと思う。でなければ、あそこまで余裕のある態度ではいられないはずだ。


「くっ………」


 サステリアは、渋々ソファーから立ち上がり。

 謎の女性の後について行く選択をする事しか出来なかった。

 


 ピンク色の髪の女性が、立ち止まっている場所にまで向かうと。そこには――目を疑うような、信じられない光景が広がっている。



「なっ……これは!? そんな……! 一体、どうしてこんな事が!?」


 サステリアが立っている場所は――コンビニホテルのスイートルームが広がっているスペシャルエリアの区画だった。


 そこからは長いエスカレーターが、コンビニホテルのロビーがあるエントランスホールにまで続いている。


 レイチェルとサステリアは、ホールの(すみ)で手すりを掴み。広大なコンビニホテル全体の光景を、ちょうど上の階からぐるりと見渡せる場所に立っていた。


 そして、そこから見える。目の前に広がっていた信じられない光景に――サステリアは思わず絶句をしてしまう。



 広大なコンビニホテルの空間内を、数百人を超えるカルタロス王国の若き騎士達が、楽しそうに笑顔を浮かべて歩き回っていた。

 接待をしているコンビニガード達の手厚いおもてなしを受けながら……。皆、快適そうにリラックスをして。ホテル内でそれぞれ自由に過ごしていたのだ。



 ワイングラスを片手に、同僚達と高級ソファーに座りながら雑談を楽しむ者。


 黒いタキシードを着ながら、髪を現代風にオールバックにセットして。エントランスホールで開かれている立食形式のパーティに参加して楽しんでいる者。


 そして、ホールの横に設置されているマッサージチェアに座りながら。100インチサイズの大画面のテレビに映し出されている異世界のテレビ番組を見て、笑いながら楽しむ者達。


 もはや、誘拐された騎士達はそれぞれ完全に異世界の生活様式に馴染みきっている。

 そして、カルタロス王国内にいた時よりも、遥かに幸せそうな笑顔を浮かべて。リラックスをしながら、コンビニホテルでの滞在生活を心ゆくまで満喫していたのである。



「な……何て、恐ろしい事を!! 我が国の騎士達をあんなにも大勢……。既に身も心も、完全に洗脳を終えてしまったという事なのですか!?」


 サステリアにとっては、眼下に広がる光景は恐怖でしかない。


 既に――ここは『街』と呼べるほどの規模で。

 カルタロス王国の騎士達が大勢、この魔王城の広大な空間内で、敵の支配を受けながら楽しそうに生活を営んでいるのだ。


 もし、この恐ろしい洗脳スピードで。

 カルタロス王国や、世界中の国々の人々が『コンビニの魔王による支配』を受けてしまったとしたら……。


 この世界は、完全に終わってしまう。

 もう、コンビニなしでは生きられない、恐ろしい恐怖支配の時代が始まってしまうに違いないのだ……。



 そ、そんな事は絶対にさせてはならない……! 


 この恐ろしい事実を、何としても他国の首脳達に伝えて。世界にこの危機を広めなくては!!



「――いかがですか、サステリア様? カルタロス王国の皆様は、コンビニホテルでの快適な生活をとっても気に入って下さっています。コンビニが提供をする無限の美食生活も、大変好評を頂いておりますので。ぜひ、カルタロス王国の女王様であられるサステリア様にも、コンビニの魅力を味わって頂き。世界中に、その素晴らしさを宣伝して頂きたいと思っているのです」


「誰が、そんな恐ろしい計画に加担をするものですか! 私はカルタロス王国の代表である女王なのです。あなた達の邪悪な野望は、絶対にこの私が命にかえてでも阻止してみせますッ!」


 スイートルームのあるスペシャルエリアのホールを、全速力で走り去ろうとするサステリア。



 まずは、何としてでもここから逃げ出すのだ!


 そして、世界中にコンビニの魔王が企む恐ろしい計画と、その脅威を知らせなくては……! 取り返しのつかない事になってしまう。



 白い大理石の上を、走って逃げ去って行くサステリアの姿を見て。レイチェルは小さくため息を漏らした。


「やれやれ……。困ったお嬢様ですね。まだ経験の浅い若い女王様に、ここは少しだけ『大人の味』を私が教えてあげないといけないようですね」



 途端、レイチェルの体から『何か』が伸びた。


 全速力で逃げていたサステリアは、後方から伸びてきた何かによって手を掴まれて。

 そのまま勢いよく、ホールの奥にある壁にまで。自身の体を押さえつけられてしまう。


 気付いた時には、サステリアの両手は……。

 ピンク色の髪を持つ、美しい女性の手によって。頭の上に固定されて、完全に抑えつけられてしまっていた。


 その体は壁を背にして、全く身動きの取れない状態に拘束されてしまっている。



「――えっ……? ど、どうして……!?」


 いつの間にか壁に押さえ込まれてしまっていたサステリアが、驚愕の表情を浮かべて体を小さく震わせる。


 自分の見間違いだろうか……?

 今、ほんの一瞬だけ。この女神のように美しい外見の女性の手が、長く伸びたような気がしたような……。


 何が起きたのか信じられない、という面持ちで。

 目を何度もパチパチと瞬きさせている、サステリア。


 その顔のすぐ近くに、突然――。


 ”――ドンッ!!” と、壁を叩きつける大きな音が鳴り響いた。



 ピンク色の髪の女性が、自分の手の平を思いっきり壁に向かって――ドン!! と強くぶつけて。

 サステリアの顔のすぐ近くにまで。自身の彫刻のように美しい白い顔をそっと近づけてきていた。



 ”スゥーーーッ”


 2人の女性の吐く、お互いの吐息が……。目のすぐ下の辺りで静かに重なり合った。


 一体、どうしてなの……? 

 顔が火照(ほて)って、身体が熱を帯びてしまっている。


 こんなにも美しい顔をした女性に、唇が触れ合う寸前の至近距離にまで、顔を近づけられてしまうなんて――。


 あ、相手は……女性だというのに!

 それも魔王軍の幹部だというのにっ……!


 何でこんなにも私の心臓はドキドキして、胸が高鳴ってしまうのだろう?


 ドンドンドンドン……と。

 まるで太鼓でリズムを刻むかのように。激しく胸の奥が脈打ち続けてしまう、サステリア。


 レイチェルは、そんなサステリアの耳元に。

 『ふぅ〜っ』と息を吹きかけてから、甘い言葉で(ささや)きかけた。



「……もう、我慢をしなくてもいいのですよ? サステリア様」


「えっ……!? あっ……! どうして、私の上着を脱がそうとするのですか!?」


 レイチェルは『壁ドン』をしたその手で。

 サステリアが上半身に羽織っていた、薄い上着のボタンを優しく、1つ1つ丁寧に外していく。


「ふふ……。きっとこれから私が提供するたくさんの『モノ』を、その細い体の中で受け止めて。お腹が思いっきり膨れ上がってしまうでしょうからね……」


 小さくクスクスと笑いながら。

 レイチェルは、優しくサステリアに話しかけ続ける。


「男性ばかりが集まる、この荒々しい戦場の中で……。ずっと緊張をして、誰にも頼る事が出来ずに1人で孤独に耐えてきたのですよね? 誰にも負けないように。女王として誰よりも強い心を持たなくてはと、ご自分に必死に言い聞かせて、ここまでずっと頑張ってきたのですよね? でも、もう強がらなくても大丈夫ですよ」


 レイチェルの声は、まるでサステリアの内心を全て見透かしているかのように……。甘く切ない声で脳内に響いてくる。


「さあ……全てを忘れて、私にその身を全部委ねてしまって下さい。あなたの心は優し過ぎるのです。人々を統治する冷徹な女王様には、とても向いていない。だからもうこれ以上、1人で全てを抱えてしまう必要はありません。その小さなお口を開けて、今は私の全てを受け入れて下さい……」


「ああ……ダメですっ! そんな事は……い、いけません!」



 鼻先に、甘い大人の女性の甘美な匂いが広がっていく。


 もう、もう……。こんなにも甘い大人の匂いを間近で嗅がされてしまったら。抵抗なんて、出来るはずもない……。


 こんなにも美しい女性が、自分の卑しい顔を舐めるようにして。優しい吐息を鼻先に吹きかけてくれている。



 私はカルタロス王国の女王――サステリア。


 誰よりも強く。世界中の人々を平和に導かなければいけない重い使命を背負っている女なのです。


 でも、でも……。

 もう、とても耐えられそうにありません!



「――さあ、もうお口の中に入れますよ? あとは全部、私に任せて下さいね……」



 サステリアは、その場でそっと目を閉じた。


 もはやそこに立っているのは、世界連合軍の総大将を務めるカルタロス王国の女王などではない。


 21歳の、まだ精神的にも未熟な若い女性として。

 自分の全てを受け入れてくれる、包容力があり。甘く魅力的な年上のお姉様に、身も心も全てを委ねてしまいたいと密かに願う……。


 1人のか弱き少女が、そこにはいるだけだった。




 そして――。



「はい、『アーーン』して下さいね、サステリア様☆」




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「……レイチェルさん、大丈夫かなぁ?」


「静かにしていなさいよ! 今、敵の女王様とレイチェルさんが、代表者同士の直接首脳会談をしているんだからね!」



 コンビニホテルのスイートルームの一室に。

 コンビニ共和国に所属をする、異世界の勇者達が全員集まっていた。


 スイートルームがある、スペシャルエリアのホールで。世界連合軍の総大将を務めるカルタロス王国女王であるサステリアと、外交会談をしているというレイチェルの様子を見守ろうと。


 異世界の勇者達全員が、スイートルームの室内から聞き耳を立てて、外の様子を静かに見守っている。


 この会談が無事に上手くいき。カルタロス王国とコンビニ共和国との間に和平が成立すれば……。晴れてコンビニ共和国は、押し寄せてきた世界連合軍による侵略という危機を乗り切る事が出来る。


 だから全ての運命は、コンビニ共和国臨時大統領であるレイチェルの外交手腕にかかっていると言っても良い状況だった。



「まあ、レイチェルさんの事だから大丈夫でしょう。昨日までだって、カルタロス王国の騎士達をみんなコンビニの熱烈なファンにする事に成功をしているんだしさ。相手が堅物(かたぶつ)で真面目な女王様だとしても、上手くやるんじゃないのかな?」


 ワイワイガヤガヤと話し合いながら。レイチェルとサステリアの会談の結果を、室内でじっと待つ異世界の勇者達。



 そこに、外のホールから大きな声で。

 女性が何かを叫ぶような声が聞こえてきた。



「ああ〜〜っ!! ら、らめえええぇぇぇぇ……!! もう、それ以上は……ダメです、お姉様ぁぁっ!! 私、おかしくなっちゃう〜〜!!」


「……大丈夫ですよ、サステリア様。まだまだいけます! さあ、もっとお口を大きく開いて。次は至高の牛ヒレ肉のステーキですよ。熱い肉汁がこぼれ落ちないうちに、そっと舌の奥に全てを流し込むのです」


「ああっ……! そんなっ! もう、らめええぇぇぇ! 舌が、私の舌が、嬉しくて舞を踊っています! もう……耐えられないっ! もっともっと私にソレを下さい、お姉様っ! 私は何でもお姉様のいう事を聞きますから! サステリアはもう、お姉様なしでは生きられない体になってしまったのです。だからどうか私にソレをもっともっと食べさせて下さい! お願いですううぅぅ、お姉様ぁぁぁ!!」



「…………………」



 一斉に沈黙をする、異世界の勇者達。


 うん……。

 どうやら、和平交渉は上手くいったようだ。



 勇者達はホッと息を漏らして安堵したが……。


 その後も、数時間は外からサステリアの甘い悲痛な叫び声が聞こえ続けてきたので。


 男性陣があまり興奮しないようにと、秋山早苗(あきやまさなえ)のクレーンゲームの能力によって。

 強制的に声の届かない遠い場所にまで、室内にいた男の勇者達は強制転移をさせられてしまった。



 この日、レイチェルとサステリアによる2人きりの密室での外交会談は夜通し行われ続けたようで……。



 次の日の朝には、まるで恋人同士のように。


 レイチェルの体を後ろからずっと抱きしめながら。コンビニホテルのスイートルームの一室から、レイチェルと一緒に部屋の外に出てきたサステリアの姿が目撃されたらしい。


 その顔は、恍惚な表情で真っ赤に染まっていて。

 最後までサステリアは、レイチェルの手を離そうとはしなかった。

 


 そしてカルタロス王国の女王であるサステリアは、翌日にはコンビニ共和国から無事に解放をされた。


 ホテルに滞在していた、1000人を超えるカルタロス王国の若い騎士達をサステリアは全員引き連れて。


 カルタロス王国の親衛隊が待つ、自国の陣地にまで戻っていく。



 自国の陣地に無事に戻ったサステリアは――。


 さっそくコンビニ共和国に侵攻をした世界連合の諸国の首脳と、今後の方針を決める為に臨時会議を開く事にした。


 その会議の場で。カルタロス王国は、『コンビニ共和国』を正式に国家として認定し。

 コンビニの豊富な商品を自国に輸入する通商協定を結んだとの発表を、諸国の首脳陣に向けて発表したのである。


 更には非公式ながら――。カルタロス王国はドリシア王国とも同盟を結び。2国間でコンビニ共和国との貿易ルートを確保して。手厚くコンビニ共和国との、交易ルートを保護していくとも宣言をした。



 そんな、サステリアの突然の宣言に――。


 もちろん会議に出席をしていた他の世界連合の首脳陣達からは、ものすごい勢いで罵声と非難が浴びせられる。



 カルタロス王国の女王はコンビニの魔王に捕まり、洗脳をされてしまったのだ!


 カルツェン王国のグスタフ王をはじめ、世界の首脳達はカルタロス王国のサステリアを次々に責めたてたのだが……。



 その時――。突然の報告が、世界連合軍の首脳達が集まる会議の場にもたらされる。


 そしてその報告を聞いた、世界の首脳達は……。

 カルタロス王国の裏切りを非難する事をやめて。慌ててそれぞれの国に、騎士団を連れて引き返していく事となった。



 会議の場もたらされた突然の報告とは、次のようなものだった。



 ――『緊急報告』――。


 グランデイル王国を出発した、グランデイル女王クルセイスの軍勢は……魔王領には向かう事なく。突然その進路を変えて。進行途中にあった『カディナ自治領』を圧倒的な武力によって軍事制圧した。


 そしてカディナ自治領では、抵抗する数万人を超える市民達が……。グランデイル軍によって虐殺されてしまったという――驚くべき内容のものであった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] "あなたの心は優し過ぎるのです。" というセリフは適当に言ったのか、それがわかるほど情報収集した後だから言えたセリフなのかが気になりました。 兵士達から聞いたのかな。 それとサステリ…
[気になる点] 武者震いの使い方が間違ってませんか? 武者震いは、何かに挑戦する時の緊張感と高揚感で震えるのと認識しています。 サステリアが震えたのは、過去の恐怖体験のフラッシュバックとこれから自身…
[気になる点] そしてカディナ自治領では、抵抗する数万人を超える市民が……グランデイル軍によって虐殺されてしまったという――驚くべき内容のものであった。 >> ざまあ・・と言いたいですが、これが本当…
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