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第百七十三話 幕間 コンビニ大合戦その③


 世界連合軍がコンビニ共和国を、10万人近い大兵力で半包囲した次の日。



 各国の騎士団は、コンビニの魔王軍の戦力を正確に把握出来ていなかった為。敵の奇策によって、大混乱に陥ってしまった初日の反省を活かし。

 魔王城から降り注ぐ、赤い砲弾の射程距離には決して入らないようにいったん距離を取り。再び、敵の防壁の正面にそれぞれ布陣し直す事にした。


 

 しかし、連合軍の中で最大戦力を誇るバーディア帝国は、相変わらず後方の森に単独で陣を構えたままだ。

 帝国軍は現在も、今回の遠征に参加しようとする気配を全く見せないという状況が続いている。



 そんな、カルタロス王国女王のサステリアが率いる世界連合軍と、コンビニの魔王軍との睨み合いが続く中……。



 開戦の初日には無かった――『ある不思議な光景』が、前線の騎士達の目に入り込み。魔王軍を半包囲する世界連合軍の騎士達を、更なる混乱へと陥れている。



「――あ、アレは、一体何なんだ……!?」



 騎士達の目に映った、その驚くべき光景とは……。


 10万人近い騎士団に囲まれているというのに。コンビニの魔王の領土に住まう者達が……最前線で楽しそうに宴会を催しているのだ。

 それは、異世界の食べ物を美味しそうに(ほお)ばり。楽しく踊り狂うという異様な光景でもあった。


 丁度、コンビニマンションから降り注ぐガトリング砲の射程距離、ギリギリの内側ライン。

 侵略者である世界連合軍を阻む、大きな穴のすぐ近くで……。コンビニ共和国の住人達が、異世界の食べ物や飲料水を片手に、盛大な異世界料理フェスをそこで開催していたのである。



 美味しそうな肉料理を、野外で楽しそうに焼きながら食べている住民達の姿を見て。

 世界連合の騎士達は、ただただ驚愕をして。その不思議な光景を見つめながら、首を傾げる事しか出来なかった。



 一体、あの者達は……敵の大軍に囲まれたこの戦場のど真ん中で、何をしているのだろう?



 おまけに、楽しそうに食事をしている彼らの背後には――。


 見た事もない、(きら)びやかな衣装を全身に着て。

 黒い小さな棒を片手に、段差のある大きな舞台(ステージ)に1人で立ちながら。この戦場全体に響き渡るような美しい歌声で歌っている若い女性の姿も見えた。


 この聞いた事のない綺麗な歌声は……どうして、こんなにも大音量でここまで響き渡ってくるのだろう?


 人間の歌声はここまで大きな音響で。それも野外にいる全ての人々の耳に聞こえてくるような大音量の声量で、歌えるものなのだろうか……。


 一部の者達は女性の歌声に合わせて、怪しげに光るスティックを振り回しながら、その場でジャンプをして掛け声を繰り返している。


 コンビニの魔王に付き従う人間達には、頭のおかしな連中ばかりが揃っているのだろうか?

 楽しそうに歌い、笑顔で踊って。そして、香ばしい匂いのする食べ物を、飢えた我々の目の前で美味しいそうに腹一杯食べているだなんて……。



 よく見ると敵の陣地には、大きな白い垂れ幕のようなモノが、こちら側に見えるように広げられていた。



 そこには、遠くから見ても分かるように。大きな文字が書き記されている。



 騎士達は目を凝らして、その大きな垂れ幕に書いてある文字を読んでみると――。


『――歓迎、世界連合軍様☆ 遠路はるばる、コンビニ共和国へようこそ!! 美味しい異世界の食べ物や、飲み物がいっぱいここにはあります。ぜひ武器を置いてこちらに遊びにて下さい! 戦闘意思の無い方には、私たちは攻撃を一切加えません。我々は皆様のご来訪を、心より歓迎致します!』

 


 ――と、怪しさ満点な内容がそこには書かれていた。



「……な、何なんだ……!? あの怪しさ全開過ぎる、アホな誘い文句は……!」


「あんな罠丸出しの、怪しい文章に釣られる奴がいるのか? 俺……あんなに胡散臭い文章は、初めて見たぞ。カディナの壁外区にあるぼったくり飲み屋でも――今時、もっとマシな誘い文句が書いてあるというのに。あんな言葉を信じてホイホイと近寄っていったら、敵にとっ捕まって殺されるに決まっているじゃないか……!」


「で、でも……! 何だか美味しそうな匂いは確かにするよな……。昨晩出された夜飯と、今日の朝飯として軍から支給された食事の量はマジで少なかったし……。うちの軍の食糧庫は、敵に襲撃をされてかなりヤバい状態になっているともっぱらの噂だぞ。もし、敵に投降をしたら。本当に、あの美味しそうなご飯をたらふく食べさせて貰えるのかなぁ」


「――バカッ!! 相手は魔王軍なんだぞ! もし投降でもしたら、それこそこっちが魔物達に丸ごと食べられてしまうに決まっているだろ! きっと俺達の体は切り刻まれて、あの美味しいそうな肉料理の材料にされてしまうのがオチに決まっているじゃないか!」



 怪しげな宴会を野外で催し。コンビニの魔王陣営が奇妙な行動をしているという報告は、すぐに世界連合軍の総大将である、サステリアの耳にも届けられた。



「――何ですって!? 敵が巨大な穴のすぐ内側で、私達に見せつけるように宴会を開いて、バカ騒ぎをしているというのですか?」


「ハイ。ちょうど3つの魔王城からの攻撃射程、ギリギリのラインで。コンビニの魔王に(くみ)する人間達が、真っ昼間から怪しげな催しをしているようです。その宴会には、我らの投降を歓迎するという誘い文句が書かれた、大きな垂れ幕も掲げられていたようです!」



 ザワザワと動揺をする、カルタロス王国の主要幹部達。


 その中の1人が、女王であるサステリアに判断を尋ねてみた。


「おそらく……それは敵の罠である事は間違いないでしょう。私達を甘い言葉で油断させて、巨大な穴の内側に誘い込み。一気に魔王城からの攻撃で、こちら側の兵を全滅させるつもりなのだと思います!」


「たしかに、その可能性が一番高そうですな。では、敵陣への総攻撃はいったん避け。十分な距離をおいた場所から、弓兵と魔法部隊による遠距離からの攻撃を加えてみる――というのはいかがでしょう、サステリア様?」



 カルタロス王国内の騎士団幹部達が、若い女王にそう助言をする。


 軍事経験に乏しいサステリアにとっても。

 騎士団が進言してきた内容は、正しいように思えた。


 問題は、コンビニの魔王に付き従う人間達に本当に危害を加えてしまっても良いのか……という問題だが。


 彼らが自ら進んで魔王陣営に加担している者達である以上――。彼らは人類の敵であり。世界の平和を妨げる陣営に味方している事は間違いない。


 ここは、心を鬼にして……。

 世界を平和に導く統治者として、責任ある判断を下すべきだと若いサステリアも決心をした。


「分かりました。では、全ての弓兵隊、魔法部隊に攻撃命令を出して下さい! 我が軍の目の前に突出をして。呑気(のんき)(うたげ)を開いている、コンビニの魔王に洗脳されてしまった人々への攻撃命令を許可致します!」


「ははーーっ!! 畏まりました、サステリア様!!」


 カルタロス王国女王の了承を取り付けた騎士達は……さっそく3000人の弓兵隊と、300人の魔法部隊を敵陣の前に整列させた。


 コンビニの魔王の本拠地を囲む防壁から外に飛び出し。魔王城からの攻撃射程ギリギリの場所で、歌を歌いながら宴会を開いている者達への攻撃準備を、騎士達はすぐに整えていく。



 実はこの時、外で野外フェスを開いているコンビニの魔王軍の陣営の中には、大きなサーカス用のボールの上で片足立ちをして、口から炎を吐き。


 大声でこちら側に向けて何かを叫んでいる『謎の男』の存在が、戦場に整列している弓兵隊達からは確認されていたのだが……。


「うおおぉぉ〜! さあ、かかって来やがれよ〜!! これぞ、名付けて『真田丸』作戦だぜーーっ! コンビニ共和国の生活担当大臣のこの杉田様に目掛けて、ガンガン総攻撃をして来やがれよ〜〜! おらぁ〜〜!」



 連合軍の弓兵達は、視界に入ったこのアホそうな外見の男の存在を完全に『ただの奇行者』として認定し。


 総大将のサステリアには報告する事もなく。全く相手にされなかった事を当の本人は、まるで理解していなかったらしい。

 


「全軍、構えーーっ! 弓を引けーー! 前方でバカ騒ぎをしている連中に向けて一斉に矢を放つんだー!」



 コンビニの魔王軍に所属する住民達に向けて。


 数千本を超える矢が、一斉に放たれた。

 そして同時に魔法部隊による火球攻撃も、一斉に放たれる。


 殺傷能力の高い鋭い無数の矢の雨が、空に向けて放物線の軌道を描きながら。まるで雨雲から降り注ぐ豪雨のように、一斉に野外フェスを催している場所に向けて降り注いできた。



 ”――ドシュ、ドシュ、ドシュ、ドシュ!!”

 


 空から降り注いでくる、鋭利な矢による殺人豪雨。


 弓兵隊による一斉射撃は、魔王陣営に(くみ)する邪悪な者達を一掃し。その命を容赦なく全て奪い去るかと思われたのだが……。



 世界連合軍が放った、数千本を超える矢も。

 魔法部隊による、火炎球による攻撃さえも……。


 その全てが敵に命中する前に、『目に見えない透明な結界』によって弾かれてしまった。



「ななっ!? そんなバカな………っ!!」


 目の前で起きたあり得ない光景に驚愕する騎士団達。

 弓を放った弓兵達も、訳が分からずにその場で大混乱に陥いっている。


 連合軍の指揮官は弓兵隊の動揺を収める為に、追加で再度の攻撃指示を出した。



 ”――ドシュ、ドシュ、ドシュ、ドシュ!!”


 再び一斉に放たれる、殺人を目的とした数千本を超える凶器の大豪雨。


 しかし、数千本を超える無数の矢による遠距離攻撃は……。


 遠距離恋愛の甘く切ない恋を、心を込めて歌った――『アイドル』の勇者の展開する、広範囲な透明結界によって全て弾かれてしまう。



「はっはっはー! バーカ、バーカ! うちの野々原(ののはら)の結界能力はレベルアップをしたんだよーーッ!! 野々原は敵と認定した者による低級の遠距離攻撃を、全て弾き返す事の出来る物理防衛結界も張れるようになったんだぜー!! どうだ、すげーだろーーッ!!」



 頼んでもいないのに、意味不明な大声で説明をしてくる『口から火を吹くだけ男』の妄言は――。


 再び、騎士団によって完全無視をされてしまった。


 だが、矢による攻撃が全く通じなかった事実に、連合軍は動揺し。ザワザワと不安の声を漏らしながら、どよめき立ってしまう。


 錯乱した騎士達の一部の部隊は、無謀にも剣を振り上げて。

 巨大なコンビニの魔王の居城に向けて、サステリアの攻撃指示も受けずに。勝手に魔王城への一斉突撃を開始してしまう者達もいた。


 それを見た、連合軍からアホ認定をされてしまった男が、すかさず魔王城に向けて指示を出す。



「よーし! ガトリング砲全門一斉発射だーーッ!! 向かってくる敵の正面に向けて、ぶちかましちまえッ!!」



 口から火を吹くだけの男が、そう叫ぶと――。



 ”ズドドドドドドドドドドドドドドドド――!!”

 ”ズドドドドドドドドドドドドドドドド――!!”

 ”ズドドドドドドドドドドドドドドドド――!!”

 ”ズドドドドドドドドドドドドドドドド――!!”



 再び、3つの巨大な魔王城のから。6000門の5連装式自動ガトリングショック砲が……一斉に赤い光弾を正面の騎士達に向けて吐き出す。


 突進を開始していた騎士団の目の前に、赤い光弾の弾幕射撃の雨が再び降り注いできた。



「さ、下がれーーッ!! いったん後方にまで下がるんだッ! このまま進むと、全滅してしまうぞーーッ!」



 目を覚ましたかのように、慌てふためき。

 一斉に後方に撤退をしていく、世界連合軍の騎士達。


 そうだった。巨大な魔王城から降り注ぐこの赤い光弾の雨がある以上――を敵の領土には絶対に近づく事を騎士団は思い出した。


 慌てて後方に退いた、騎士団の真上から。

 昨日と同じように、無数の黒い飛行物体が突如として襲来する。


 モクモクとした白煙を大量に地上に散布する黒い飛行物体によって。連合軍はその視界を再び封じられ、指揮系統が機能不全となり大混乱に陥ってしまう。


 そこへ、ぬう〜〜っと。昨日も姿を見せ、連合軍を恐怖のどん底に突き落とした、『超巨大クマ』がまた出現した。



「クマだーーッ!! 巨大クマがまた現れたぞッ!!」



 右も左も見えない、モクモクした濃い白煙の中で。


 煙の頭上から見えている、高さ70メートル級の超巨大クマの威圧感に、騎士達は混乱して逃げまどう事しか出来ない。


 そんな大混乱に陥っている連合軍の最前線に……1人の女性の勇ましい声が響き渡った。


「皆さん、落ち着いて下さい! あの巨大なクマは決して動きません。その場で立ち止まっているだけです。弓兵隊は矢に火を付けて、落ち着いてあの巨大クマに向けて火矢を放って下さい! 味方に命中しないよう、落ち着いて頭上のクマの胴体部分に正確に命中をさせるのです!」


「おおーーッ! サステリア様が前線にまで来られているぞ!!」



 総大将であるカルタロス王国のサステリアが、最前線に駆け付けてくれた事で。混乱していた連合軍の指揮系統が、次第に統率を取り戻していく。


 前線に集結していた3000人の弓兵隊は、一斉に煙の中で立ちはだかる、超巨大クマへと攻撃を加え。燃え盛る炎による激しい火攻めを開始した。



 ”――ドシュ、ドシュ、ドシュ――!!”


 数千本の火矢が、勢いよく茶色い巨大クマの表皮に突き刺さっていく。


 超巨大クマの表面の体毛は想像以上に柔らかく。燃えやすいポリエステル繊維や、綿素材で出来ていた。


 なので一度、火矢によって柔らかい毛に火が付くと。あっという間に、その表面繊維に火は燃え広がり。巨大なクマの体全体が激しい炎によって包まれていく。



「見ろッ!! 巨大クマの体が炎に包まれていくぞ!」


「おおーーっ、やったぞ! 流石はサステリア様だ!」



 予想外の弱点を突かれて。

 燃え盛る激しい炎に包まれる超巨大クマ。


 そのクマの巨体に、轟音を轟かせながら空を飛ぶ黒い鉄の箱が急接近をしていく。


 連合軍には、その黒い大きな飛行物体が一体何なのかは、分からなかったが……。


 大きな黒い羽を回転させて空中に浮かぶ飛行物体は、巨大クマの手に乗っていた1人の若い女性を回収すると。そのままコンビニの魔王の居城に向けて急いで帰還をしていった。



 超巨大クマを火矢で仕留めた事によって。その脅威は消え去ったのだが……。

 依然として騎士団は、頭上から大量の煙をばら撒いてくる小さな黒い飛行物体からの攻撃を受けている。


 周囲の視界が全く見えない状況下で、前線にいるサステリアの元に、部下達からの緊急の報告が入ってきた。



「――サステリア様、大変です!! 昨日に引き続き……再びコンビニの魔王軍の幹部達が、我が軍の食糧庫に攻めて参りました。黒い鉄の箱車から降り立った無数の小さなクマ達が、我が軍の食糧を強奪しているようです!」


「そんな……!? 襲撃に備えて、食糧庫の位置は昨晩のうちに変更させていたのに。敵にはなぜ、私達の食糧庫の場所が正確に分かるのでしょう。くっ……! あの茶色いクマ達には火が有効なはずです! 弓兵隊に火矢を使って、食糧庫を狙う襲撃者達を撃退するようにと伝えて下さい!」


「それは無理です、サステリア様……! 食糧庫を襲っているクマの群れは、その大きさが小さ過ぎます! 白い煙によって視界も遮られているこの状況下では、火矢を正確にクマ達に当てるのは困難だと思われます……」


「うう……。それでは私達は、また襲撃者に対してなす(すべ)も無く。ただ見守っている事しか出来ないという訳なのですね」


 悔しそうに唇を噛み締めるサステリアと、カルタロス王国軍の幹部達。


 敵は、特にカルタロス王国軍の食糧庫に(まと)を絞って襲撃しにきているのは明白だ。


 おそらく今回の遠征軍の総大将であるカルタロス王国軍を、率先して崩壊させようと画策しているのだろう。



 一方、その頃――。


 完全に盗賊団と化した、コンビニ共和国所属の異世界の勇者達の一団が――。カルタロス王国が場所を移した食糧貯蔵庫の隠し場所に装甲車10台で乗り付けていた。


 彼女達は、白煙に包まれた敵陣の中を装甲車で進み。


 300匹を超える、小さな茶色いクマのぬいぐるみ達を引き連れて。カルタロス王国の食糧貯蔵庫への襲撃を敢行していた。



「到着ーーっ! さあ、クマさん達ー! 今日も仕事をするわよ! 敵の食糧庫から、じゃんじゃん食べ物を奪ってきてちょうだいねーーっ!」


 藤枝みゆきの指示を受けて。10台の装甲車から、ワラワラと茶色いクマのぬいぐるみ軍団が地面に降り立っていく。



「おいおい、本当にここで場所はあってるんだろうなー? 随分と昨日の場所よりも遠くに来ちまったけどよー!」



 花嫁騎士のセーリスは、装甲車を運転している『撮影者(フォトグラフ)』の勇者である――藤堂(とうどう)はじめの頭を小さく小突く。


「……だ、大丈夫ですよ! 僕の念写の能力はパワーアップをして、精度が格段に上がっているんです。遠距離にある目標物の場所を特定して撮影が出来る能力が、今の僕には身についていますから。ここが敵の食糧庫である事は間違いないです!」


 ガッツポーズで答える藤堂の頭を、ゲラゲラと笑いながらセーリスが撫で回した。


「おーし、それならOKだぜー! さぁ、非戦闘員はちゃんと装甲車の中に隠れているんだぞー! 後は、盗賊団の首領(ドン)である踊り子のねーちゃんと、副首領のアタシに全部任せておけって!」


「だーれーがー、盗賊団の首領なのよーっ! 私は全然こんな役なんてやりたくないんだから、勘弁してよねー!」


「ぎゃっはっはっはー! めっちゃ似合ってるじゃねーかよー!」



 腹を抱えて笑うセーリスに、藤堂が装甲車の運転席から頭を下げて懇願(こんがん)する。



「――ぼ、僕も……戦えます! 外に出て、ぜひ2人と一緒に敵と戦いたいです!」


 真剣な表情で見つめる藤堂に、外から藤枝みゆきが注意をした。


「ダーメーよーーっ! 外に出て、うっかり敵の流れ矢に命中でもしたら大変なんだからっ! ここには回復能力を持った美花ちゃんも居ないんだし。もし、藤堂くんが大怪我をしちゃったら、共和国で待ってるレイチェルさんが悲しむでしょー? だからちゃんと安全な装甲車の中に隠れていてよね!」


「ぎゃっはっは! そーだぜー、そーだぜー! 踊り子ねーちゃんの言う通りだ。お前には敵の食糧庫を特定する大事な仕事があるんだから、怪我されたらこっちが困るんだよ。外で騎士達と遊ぶ仕事は、全部アタシらに任せておきなって!」



 今度はポンポンと優しく藤堂の肩を叩いて。笑いながらセーリスは装甲車の外に飛び降りていく。



 装甲車から飛び降りた2人を――すぐさま、カルタロス王国の食糧庫守備隊の騎士達が一斉に取り囲んだ。


 昨日の食糧庫襲撃事件を警戒して。カルタロス王国軍は女王であるサステリアの指示で、食糧貯蔵庫を味方の陣の最後尾の位置に移動させていた。


 だがそれでも、多彩な能力を揃える『コンビニの勇者と愉快な仲間達』の人材の豊富さには、一歩及ばなかったらしい。



 移動をさせた臨時食糧貯蔵庫の場所は、『撮影者(フォトグラフ)』の能力を持つ、藤堂はじめによってあっさりと看破(かんぱ)されてしまっていたのだ。



「ねーねー! そういえば、麻衣子(まいこ)が乗ってた『超巨大クマのぬいぐるみ』が敵の火矢で燃やされちゃってたけど……。麻衣子(まいこ)、大丈夫かなー?」


 装甲車に群がる騎士達を、双剣で流れるようにして打ち倒し。藤枝みゆきが敵を次々と気絶させていく。


「さっき、共和国からアパッチヘリが飛び立って、巨大クマの手の平に乗っていたぬいぐるみのねーちゃんを無事に回収してたみたいたから、きっと大丈夫だろー! まあ、無敵のぬいぐるみ軍団にも思わぬ弱点があったって事だなー。これに懲りて、あのねーちゃんも、より精進(しょうじん)をしてレベル上げに(いそ)しむといいんじゃねーのかー?」


「何でアンタが、上から目線で語ってるのよー!」


「うっせーな! おっ、そろそろ次の作戦が始まるみたいだぜ!」


 食糧庫を守る騎士達を蹴散らしながら、藤枝みゆきとセーリスがコンビニ共和国の方角を一緒に見つめる。



 ぬいぐるみの勇者の小笠原麻衣子(おがさわらまいこ)が操る、『超巨大クマのぬいぐるみ』の戦力を失ったコンビニ共和国軍ではあったが……。


 ある意味、コンビニ共和国にとっては最終兵器とも言える。最強の攻撃が、今……まさに始まろうとしていた。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「……さ、サステリア様ッ! 空から、きょ……巨大な『手』のようなモノが、地上に向かって降りてきています……!」


「な、何ですって……!?」



 最前線で、魔王城からのガトリング砲の攻撃射程ギリギリのラインに待機をしていた騎士団の元に。



 突如として、天から3本の巨大な『アーム』が地上に降りてきた。


 それは異世界ではお馴染みの、クレーンゲーム用の『アーム』であったのだが。サステリア達、カルタロス王国の騎士団には、一体それが何なのかは……全く見当もつかなかった。



 天から降りてきた、3本の巨大アームは……。


 最前線で密集している、世界連合軍の騎士達の集団の中から――数十人の騎士達を、ごっそりとその大きなアームで掴み取っていく。


 そして、そのまま空高くにまで。大量の騎士達を大きな手で掴んだまま、クレーンゲームのように引っ張り上げていった。



「ぎゃああああーーっ!! た、助けてくれぇぇーーっ!!」


「嫌だああああぁぁーー!! 誰か、助けてぇぇーーッ!!」



 この世のものとは思えない程の、恐怖に打ち震えて。


 阿鼻叫喚の叫び声を上げながら、巨大アームに捕まれた騎士達は、遥か空の彼方へと連れ去られて消えていく。


 そのあまりにも恐ろしい光景を、地上から震えながら見上げていた連合軍の騎士達は……。

 全身から冷や汗を垂らして、一斉に沈黙をする。彼らは既に、叫ぶ悲鳴の声さえも失っているようだった。



 空から降りてくる巨大な3本のアームに掴まれて。味方が次々に雲の上に連れ去られてしまうという、あまりにも禍々(まがまが)しい恐怖。


 このような恐ろしい事は……。まさに神だけが為しえる事の出来る、神話の中で語られているような所業ではないだろうか?


 騎士達は、今までに体験した事のない理解不能な恐怖に。その精神はとっくに限界を突破して、大パニックに陥ってしまった。


「に、逃げろーーッ!! 全軍撤退するんだーー!!」



 最前線にいる騎士達は戦意を完全に喪失して。

 脱兎の如く、全速力で戦場から逃走を開始していく。



 その頭上から無情にも――再び3本の巨大アームが地上に向けて降りてくる。



 それはまさに、地獄絵図のような光景だったと言えるだろう。


 無力でひ弱な、アリの如き小さき人間達を弄ぶ。

 神々の(たわむ)れとも呼べる、恐ろしい『ゲーム』。


 空から何度も降り注いでくる巨大アームは、地上で逃げ惑う小さな騎士達を――次々とその手で掴み取り。


 そのまま遥か高い空の彼方にまで、連れ去ってしまう。

 


 その絶望的な光景を目の当たりにして。

 カルタロス王国女王のサステリアは、味方のこれ以上の戦意喪失を防ぐ為にも……。


 2日目の魔王城への攻撃は断念をして。急いで全軍に、後方の陣にまで総撤退をするようにとの指示を下すのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりのクレーンゲームの登場 クレーンゲームで指揮官だけ転移させたら一気に崩壊しただろうから、じわじわ恐怖を刷り込む為にあえて狙わないのは良い作戦。
[気になる点]  遠距離恋愛の甘く切ない想いを、心を込めて歌っていた――『アイドル』の勇者が展開する、広範囲の透明結界によって全て弾かれてしまう。 「――はっはっはー! バーカ、バーカ! うちの野々原…
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