第百七十話 幕間 動き出す北の勢力
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魔王領の東に位置する砂漠地帯。
灼熱砂漠の魔王、モンスーンが実効支配する乾燥した黄色い砂に覆われている広大な領土。
元々、この辺りには砂漠など存在していなかった。
砂漠の魔王モンスーンが自身の勢力を拡大する為に。勝手に魔王領の中に、乾燥した砂漠地帯をじわじわと広げていき。
今では魔王領の境界線付近に、いつの間にか無限に広がる大砂漠地帯を作り出していたのだ。
魔王領を監視している女神教の大幹部達や、その戦闘員達も。砂漠の魔王モンスーンを仕留める為に、この広大な砂漠地帯に何度も軍を派遣している。
だが、肝心のモンスーンは……。女神教の軍隊が押し寄せてくると、黄色い砂の中にすぐにその身を潜めて隠れてしまう。なので砂漠の魔王の命を奪う事が出来ずに、女神教徒達も仕方なく撤退する事しか出来ないでいた。
魔王領の中に徐々に拡大していく、モンスーンのテリトリーでもあるこの無限砂漠地帯を……。女神教の幹部達は、内心では忌々しく思いながらも、今では遠くから静観する事しか出来ないでいるのが現状だ。
そんなモンスーンの支配する砂漠の地に――。
大きな異変が起きたというニュースが、魔王領に滞在する女神教の幹部の元にもたらされた。
魔王領境界線の北部にある、広大な湿地帯。
『動物園の魔王』に仕える魔王軍の魔物達が、大量に人間領から逃げ込んできたこの地で。
女神教の精鋭部隊、『魔王狩り』の率いている大部隊が、動物園の魔王に仕える4魔龍侯爵の最後の1人――黒魔龍侯爵が統率する残存魔王軍の最後の勢力に対して、総攻撃を開始していた。
無限に増殖すると恐れられた、『冬馬このは』の生み出す強力な魔王軍も……。既にその数は、大きく減少へと転じている。
女神教の魔王軍討伐部隊は、魔王領の各地で魔王軍に対して勝利を重ね。
黒魔龍公爵率いる魔王軍は、今や壊滅寸前の状態にまで追い詰められていた。
だが……それでも動物園の魔王である『冬馬このは』と、黒魔龍侯爵が潜んでいると言われる敵の本拠地、肝心な動物園の場所を――。女神教徒達は、いまだに発見出来ずにいる。
「――『右手中指』のカヌレ様! 大変です!! 東の砂漠地帯で、大きな異変が起きているという緊急の報せが届きました!」
女神教の軍勢が集まる宿営地の天幕の中で。
白いコーヒーカップに注がれた黒い液体を、優雅に口に含む1人の女性が椅子の上に座っていた。
その女性のもとに、部下から緊急の知らせが届けられる。
女神教の魔王討伐軍がひしめく宿営地の中で。たった1人だけ白い豪華な椅子に座り。
巨大な白い日傘の下で。肌を焼く紫外線を完全にシャットアウトしながらコーヒーを飲む、とても小さな外見の女性だ。
体格に不釣り合いな、大きなチョコレート色のドレスを上から着込む彼女は……。同じくチョコレート色をした、つば広の麦わら帽子を被り。
腰の辺りにまで伸ばした茶色の髪を風になびかせながら、クスクスと一人で微笑んでいた。
「うーん。今日もブラックのコーヒーがとっても美味しいわね! 深煎りの美味しいコーヒーが飲める素敵な天気の日は、いつも決まって良い事が起こるのよ。うーん実に、良き良きかな。今日の私は本当に最高に気分が良いわ!」
茶色い瞳の色をした、見た目の幼いその女性は――。
女神教の幹部である、9人の不老の魔女の1人でもある。
この世界に召喚された異世界の勇者を、『魔王』へと変貌させ。その命を奪う事で得られる『魔王種子』を、女神アスティアから特別に授けられた、永遠に歳をとらない不老の魔女達。
彼女達、女神教を統率する9人の不老の魔女には、それぞれの地位を指し示す――特別な『呼び名』があった。
ちょうど両手を顔の前に広げた時に見える、手のひらにある合計10本の指。
その10本の指を、右から順番に数えていくと。
右手の親指、人差し指、中指、薬指、小指。
そして――、
左手の小指、薬指、中指、人差し指……。
最後には親指、の順番に並んでいる。
それぞれの指には、右から順番に。女神教内部における最も高い地位と役職が、指の順番に沿って任されていた。
女神教の幹部である不老の魔女達は、現在9人いる。
最後の左手の親指の役職だけは、空席となっていた。
10本の指のうち、最も地位の高い……女神教を全体を統括する『右手親指』のポジションには。
女神であるアスティアの信頼が最も厚いと言われている、枢機卿が就いている。
そして、魔王領内部において――。
動物園の魔王を討伐する部隊の全権を掌握している魔女。
このチョコレート色に染まった大きなドレスを着る、見た目の幼い女性の名は……『右手中指』のカヌレ。
女神教を統括するナンバー3の実力と地位を持つ。永遠に歳をとる事のない、不老の魔女の1人であった。
「――で? 砂漠の魔王の支配地で何が起きているというの? あの筋肉マニアで、脳みその細胞が全て筋肉で出来ているバカ男は、私が砂漠に攻め込むといつも砂の下に隠れてしまうじゃない。砂漠の地下空洞に空間転移の出来る逃走用の転移石を、部下のソシエラに大量に作らせているなんて話も聞くし。そんな逃げ足だけが取り柄の臆病者の魔王が支配している砂漠で、一体何が起きているというのかしら?」
「ハイ、偵察をさせていた者達の報告によりますと。動物園の魔王を追って魔王領に侵入した『コンビニの勇者』によって。砂漠の魔王モンスーンに仕える2名の守護者――青の神官メフィストと、緑の神官ソシエラが、立て続けに倒されたとの報告が入りました。そして現在、コンビニの勇者は……砂漠の魔王モンスーンと戦闘状態に入っているとの報告もございます」
白い日傘の下で。優雅にコーヒーカップに注がれたコーヒーを飲んでいたカヌレは――。
部下からの報告を聞き、『ぷふ〜〜っ!』っと。
口に含んでいた黒いコーヒーを、思わず勢いよく自身の目の前に跪く部下の顔に向けて吹き出してしまった。
「……ええっ!? それ、本当なの? モンスーンの守護者が2名も殺されたって言うの? コンビニの勇者って、予想よりもずっと強かったのね。でもそれは、本当に良き良きかなかなだわ。さすがは枢機卿様が一目置かれるだけの事はあるのね」
魔女のカヌレは、急いでコーヒーカップをテーブルの上に置く。そして、部下達に向けて大きな声で宣言した。
「よーし、じゃあ全軍に伝達して頂戴! 今から私達、女神教東部方面攻略部隊は全軍を率いて、砂漠の魔王モンスーンの討伐に向かいます!」
カヌレの突然の宣言に驚く、部下の騎士達。
「……か、カヌレ様!? よろしいのですか? 我々は動物園の魔王、冬馬このはと黒魔龍侯爵の討伐の任を受けてこの地に来ているはず。勝手に全軍を砂漠に向けて動かされては……後で枢機卿様のお叱りを受けてしまうのでは?」
「大丈夫、大丈夫! 枢機卿様は東の人間領でお仕事が残っているみたいで、魔王領にはまだ戻ってきていないし。それに私達は、あと1つ『魔王種子』が手に入ればそれで良いのよ。それが別に動物園の魔王の物でなくて、他の魔王の物でも手に入るチャンスがあるのなら、それを狙った方が効率的だわ。これだけ探しても動物園の魔王の居場所は見つからないのだし、私も少し飽きた……じゃなくて! 久しぶりに熱いバトルがしたいから、みんなで一緒に砂漠に向かいましょうよ!」
「は、はぁ……。カヌレ様がそう仰るのであれば、我々はそのご指示に従いますが……」
中学生ほどの身長しかないカヌレは、部下の顔についたコーヒーを、白いハンカチで拭き取りながら優しく微笑む。
「うんうん、それで良いの。とっても良き良きかな。何といっても私は女神教のナンバー3。『右手中指』のカヌレなのだから。安心してあなた達は私に着いてくればいいのよ。暗黒塔に残る、他の魔女達にも連絡を入れてちゃんと援軍の要請をしておいて頂戴ね! 私だけだと苦戦をしちゃうかもしれないし」
「畏まりました。すぐにパルサールの塔に使者を派遣致します。どうかご安心下さい!」
魔女カヌレに一礼をして。
部下の男は、大急ぎで天幕の外へと走って行く。
その後ろ姿を見送った後で。
カヌレはチョコレート色の帽子を外すと。……ふと、遠い魔王領の南の空を見つめて微笑む。
「灼熱砂漠の魔王の戦力が落ちたという事は……。残りの『忘却の魔王』達がすぐに加勢にくる可能性が高いわね。うーん、久しぶりに大きなバトルが起こりそうな予感がぷんぷんするわ! 実に良き良きかな。枢機卿様が戻る前に、出来るだけ早くに最後の『魔王種子』を手に入れてしまいましょう。これで、やっと10本指は完成するのだから、アスティア様もきっとお喜びになるわ!」
白い椅子からゆっくりと立ち上がり。
コーヒーカップを机に置いて。女神教ナンバー3の魔女は静かに動き出した。
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「まさか、メフィストとソシエラの2人がコンビニの勇者にやられてしまうとは……。これで、我ら砂漠の魔王様の戦力は実質、半減してしまったようなもの。これから本当に大丈夫なのだろうか……? 我らの勢力が弱まった事がもし、あの枢機卿にバレれば――。女神教の軍勢は反転をして。この砂漠に攻めてきてしまうのではないだろうか?」
「それは大丈夫なんじゃないかしら? 魔王領に残る女神教の軍隊は、その全てが新参の動物園の魔王の討伐に向かっていると聞いているわ。だから、モンスーン様が統べるこの神聖な砂漠には、絶対に向かってこないと私は思うわよ」
魔王領と人間領の境界線付近に広がる、砂漠の魔王モンスーンが支配をする黄色い砂漠地帯。
その北部で、ちょうど砂漠とドロドロの沼地が多く点在している湿地帯との境となる場所に。
モンスーンに仕える2名の守護者――赤の神官『サラキッシュ』と、白の神官『パナエスタ』が立っていた。
それぞれに赤色と白色のローブを全身に羽織っている、若い男女の神官達。
赤の神官サラキッシュは、赤い頭髪に赤い目の色をした長身の男。
白い神官パナエスタは、真っ白な長い髪を腰まで伸ばしている、見た目の美しい女性である。
砂漠の魔王モンスーンに仕える守護者として、長い年月を共に戦ってきた2名の古参の守護者達にとって……。
まさか魔王でも、女神教でもない。新参の異世界の勇者によって、仲間の神官2名が殺害をされてしまうとは……思いもしなかった緊急事態である。
魔王領に隠れ住む3人の魔王。『忘却の魔王』達は、強力な力を持つ女神教の魔女達に対抗をする為に。
お互いがピンチに陥った時は助け合う……という『魔王同盟』を結んでいた。
いついかなる時でも、不老の存在である魔王は。その体内に持つといわれる『魔王種子』を、女神教によって常に狙われている立場の存在だ。
それゆえに、自分達の戦力が衰えないように。
常に女神教との全面対決を避けるようにして、魔王達は過ごしている。それぞれの領地に隠れ住み。女神教の攻撃を受けた時には隠れて、互いに助け合う事によって、長い年月をこの地で生き延び続けてきたのである。
それがまさか、新参の異世界の勇者によって。
砂漠の魔王の軍勢が、ここまで大きな打撃を受けてしまう事になるとは……。
このままでは、魔王領に住む他の魔王達への示しがつかなくなってしまう。
砂漠の魔王は一体何をしているのかと、モンスーンの立場が危うくなってしまう可能性さえある。
2人の神官達は、その事を心配をしつつも……。
自分達の主人である砂漠の魔王モンスーンが、現在直接戦っているコンビニの勇者に殺られてしまう……という不安については、全く心配をしていなかった。
モンスーンはその実力、攻撃力、回復力。全てにおいて3人の忘却の魔王の中でも、随一の実力者である。
かつて『天気の勇者』として、この世界で名を馳せていた時から。2名の守護者達は、その強さには絶大な信頼を寄せていたからである。
「――ん? 何だこの音は?」
赤の神官サラキッシュが、広大な砂漠地帯の北の方から聞こえてくる……謎の異音に気付く。
「なに? どうしたのよ?」
白の神官パナエスタが、不安そうにサラキッシュに尋ねた。
「よく分からぬ……。方角からいって、女神教の軍勢ではないと思うのだが。北東の方角から、何かがこの砂漠地帯に向けて近づいてきている。それも、何かとてつもなく『巨大な生物』がだ……。ソレが大地を震わせ、大きな地響きを轟かせながら。こちらに猛スピードで近づいて来ているのが、遠くから聞こえてくるのだ」
白の神官パナエスタは両目を閉じて。
耳を澄まして、遠くから聞こえてくる音を聞き取ろうとその場で静かに沈黙をする。
”ズシーーーーーーーーーン!!”
”ズシーーーーーーーーーン!!”
”ズシーーーーーーーーーン!!”
「……わ、私にも聞こえたわ! 一体何なのよ、この音は!? どんどんこっちに近づいてくるじゃないの!」
とうとうその大きな地響きは、白の神官パナエスタの耳にも聞こえるようになった。
まるで細かなリズムを刻むかのように。
定期的に大地を揺らし続けている大きな振動音は、どんどん砂漠に向けて近づいてきている。
もはや、その大きな音だけで分かる。
そう、とてつもなく巨大な『何か』が、こちらに向けて猛スピードで向かって来ているのだ。
それは恐らく、2名の神官達の想像を絶するような、遥かに巨大な物に間違いない。
モンスーンに仕える2名の神官が、大きな地響きが聞こえてくる方角を警戒しながらその場で待ち構えていると……。
「なっ!? 何だ、アレは……!?」
「そんな……!? あ、あり得ないわ……!!」
2人の神官が同時に悲鳴を上げる。
”ズシズシズシズシズシズシズシーーーーーン!!”
それまで等間隔で聞こえてきていた大きな振動が、突然――急加速を開始したのだ。
物凄い超スピードで迫って来る巨大な震動音。
そして2名の神官は――この世で最も恐ろしい。
とてつもなく『巨大な移動物体』を、その視界の中に捉えてしまう。
「あ、あれは何なの!? まさか、巨大な蜘蛛なの……!?」
急加速をして2人の目の前にやって来たのは――。
中心部に巨大な建造物を構え。その周りから、大きな8本の長い足を伸ばし。こちらに前進して来ている、あまりにも巨大過ぎる――『移動物体』であった。
その全長はゆうに100メートルは超えている。
1本1本の足の長さだけでも、50メートルを超えているだろう。それがまるで蜘蛛の足のように。8本の足を交互に動かしながら、大地の上を歩いているのだ。
このような禍々しい形をした移動式の建造物を、2名の神官は今までに一度も見た事は無い。
天気の勇者モンスーンと共に、1000年以上の長い年月をこの世界で生き伸びてきたが……。
今日、2人の神官は――初めて感じる底しれない恐怖と、背筋が凍りつくような恐ろしい戦慄を感じて。
その場で全身を痙攣させ、全く身動きが出来なくなってしまう。
巨大な移動式の建造物――。
その圧倒的な存在感と威圧感を、砂漠の大地の上からポカーンと口を開けて見上げていた2人は、完全に油断をしていた。
まさかその巨大な建造物――『コンビニ』の屋上には、人が乗っていて。
その人物が、何かをこちらに向かって伸ばしてきている事に。モンスーンの神官である2人は……全く気付く事が出来なかったのである。
「………なっ!?」
「えっ、これは何なの!?」
巨大な移動式建造物――コンビニの屋上から、2本の細い白い糸のようなものが伸びてきていた。
その白い2本の糸は、コンビニの下で頭上を見上げていた2名の神官達の首を掴むと。
そのまま、まるで魚を釣り上げるかのように。2人の神官の体を、無理矢理コンビニの屋上にまで引き上げていく。
完全に油断をして。建造物の上から自分達に向けて伸びてきていた白い糸に全く気付く事の出来なかった2人は……。
自分達の首を掴む細い糸が――初めて『人間の手』である事に気付いた。
細くしなやかに伸びてきている白い糸が……肌の白い女性の手である事に、2人がやっと気付けた時には――。
2名の神官は、恐ろしいほどに強力な力で。高さ50メートルを超えるであろう……コンビニの屋上にまで、豪快に引きずり上げられていた。
見た事もない巨大な異世界の建造物の上で。
赤の神官サラキッシュと、白の神官パナエスタの両名の首を、長く伸びた細い手で掴んでいたのは――1人の美しい女性だった。
足元に届くくらいに、長く伸びたピンク色の美しい髪。
所々ウェーブがかかっている、その長く美しいピンク色の髪は。太陽光に反射をして輝いて見えた。
露出の多い灰色のドレスと、長いマントを身に付けているその女性の顔は、まるで女神のようにとても美しい。
彫刻のように白く整ったその顔立ちには、聡明で理知的な知性も感じられる。
だから……2名の神官は、ついつい油断をしてしまったのだ。
これだけ美しい顔をしている女性が……。
聡明で知的な雰囲気を漂わせている、女神のような人物が。
見ず知らずの自分達に対して。いきなり恐ろしい仕打ちをするはずなど、きっと無いだろうと……。
そう勝手に思い込み。心から安心してしまったのだ。
「―――『重力圧縮領域』―――」
ピンク色の長い髪の女性が、小さくそう呟いた。
その瞬間に………。
ピンク色の髪の女性――『レイチェル・ノア』の体から伸びている。長く細い手に掴まれていた2名の神官達の体が――突然、白い閃光に包まれていく。
「グギャっガガガッグベッグボボ―――ッ!!?」
「うぎょグベぐへオボあべべッぶ―――ッ!!?」
赤の神官サラキッシュと、白の神官パナエスタの体は。
白い鮮やかな閃光の中で。その全身がまるで何かに握りつぶされていくかのように、ボキボキと音を立てて押し潰されていく。
何も抵抗する事さえ出来ずに。
最後に、何か言葉を残す事さえ叶わずに。
ただこの世のものとは思えない、凄まじい苦痛と恐怖に悶えながら。断末魔の叫び声だけを唯一残して――。
天気の勇者であるモンスーンに、1000年以上も仕えてきた2名の守護者達は……。
目に見えない、圧縮された空気の断層によって。完全にその身を粉々に砕かれてしまった。
後には、骨や頭髪の1本さえも残さずに――。
ただの白い粉末と成り果てて、異世界の上空に吹く風によってサラサラと流されていく。
2名の神官を握りしめていた両手を、元の長さに戻すと。
ピンク色の髪をした『コンビニの大魔王』の守護者は、怪しい微笑みを浮かべて、巨大コンビニの屋上で1人で笑っていた。
「――ああ……。何て脆いのでしょう。栄光あるコンビニ帝国が滅びた後に。このようにひ弱で脆弱なる守護者達が、この世界を我が物顔で蔓延っているだなんて……。実に嘆かわしい。ああ、魔王様、早く私達のコンビニ帝国をこの世界に再び再建致しましょうね。もう少しです、もう少しの辛抱です。私達の願いは今日、必ず成就するのですから」
砂漠の大地を疾走し。
目指す場所に向けて――。
巨大な移動式の建造物――『コンビニ』は、その屋上にピンク色に輝く美しい髪色をした女性を乗せながら。
猛スピードで、砂漠の中を前進していった。
目指す場所はおそらく、コンビニの能力を持つ勇者の所なのは……間違いなかった。