第百六十五話 コンビニ店長の無双
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「レイチェルさん! 良かった、ここにいらしたんですね!」
コンビニ本店の事務所の中。
世界各国から集結をした連合軍が、今まさに怒涛の勢いで、共和国に押し寄せてこようとしている時に。
『射撃手』の勇者である紗和乃は、コンビニ共和国の暫定大統領であるレイチェルを探して、コンビニ本店の中を探し回っていた。
レイチェルは普段、コンビニの地下階層にずっと篭っている事が多い。だが、この日は珍しく……。コンビニの地上部分である1階の事務所の中に1人で座り。
パソコンの画面をずっと、物憂げに眺めていたようだった。
「――紗和乃様、どうか致しましたか?」
声をかけてきた、紗和乃の方に向き直り。
コンビニホテルの支配人であるレイチェルは、いつも通りの営業スマイルで微笑みかける。
灰色の制服姿に灰色の帽子。綺麗なピンク色の髪を後ろに束ねているその風貌は、いつも通り天使のような美しさを保っている。
清廉で上品な、大人の雰囲気を漂わせたレイチェルの様子は、いつもと同じように見えた。
「……いえ、実はコンビニ共和国の防衛の事で相談があったので、レイチェルさんを探していたんです。でも、レイチェルさん……? 今、この事務所の中で何か独り言を呟いていませんでしたか? さっき、部屋の中から『ピンポーン!』って叫ぶレイチェルさんの声が、何度も何度も聞こえてきたような気がしたんですけど……」
問われたレイチェルは、顔を真っ赤にして。
全身をもぞもぞと震わせながら恥ずかしがる。
「ええっ! 紗和乃様には、私の声が聞こえてしまっていたのですね……。お恥ずかしいです! それは私の『特殊なお仕事』の1つですので、皆様には内緒にしておいて頂けると助かります。私もまさか、あんなにも連続で総支配人様の脳内アナウンスをするお仕事が急に入ってくるとは思いませんでしたので。噛まないで、ちゃんとアナウンスをする事が出来て本当に良かったぁ〜! って、内心でホッとしていた所なのです」
「えっ、脳内アナウンス……? 特殊なお仕事? それって一体何なんですか、レイチェルさん?」
レイチェルの口から聞き慣れない言葉を聞いた紗和乃は、興味津々そうにそれを尋ねてみる。
「ふふ。それは内緒です☆ でも、総支配人様の身に現在、何かが起きているのは確かなようですね。短期間でこれだけ大幅なレベルアップをされるなんて……。もしかしたら、総支配人様はとても力の強い強敵と今頃、直接対峙をされているのかもしれないですね」
「もしかして、魔王領に向かった彼方くん達の身に何かあったのですか?」
紗和乃は心配そうに、ここにはいない彼方達一行の身を案じる。
そんな紗和乃にレイチェルは、安心をさせるようにニッコリと微笑みながら話し掛けた。
「心配はいりませんよ、紗和乃様。総支配人様が魔王領の中で、また大幅なレベルアップされたようなのです。きっと強い敵と戦闘をして、その能力を大きく覚醒させる事が出来たのでしょう」
コンビニの勇者である秋ノ瀬彼方の能力の覚醒。
それだけを聞けば、それはとても喜ばしい事のように思える。
コンビニ共和国内にあるコンビニマンションや、地下階層を始めとする多くの施設は全て、コンビニの勇者である彼方の能力の恩恵によってもたらされている。
だから、コンビニの勇者のレベルが上がるという事は。コンビニ共和国に暮らす全ての人々にとっても、大きな利益が受けられる事でもあった。
そしてこれから、世界各国の連合軍と戦おうとする異世界の勇者達にとっても。コンビニ本店に新たな防衛能力が増加されている可能性もあるのだから、喜ばしい事でもあるはずだ。
それなのに……紗和乃には、少しだけレイチェルが浮かない顔をしているように見えてしまう。
「レイチェルさん……。少し複雑そうな表情を浮かべているように見えますけど。何か心配事でもあるのですか?」
問われたレイチェルは、うーん……と。
少しだけ首を傾げて、事務所の床を見つめていた。
「そうですね。実は、私にもよく分からない、とても不思議な感覚がするのです。まるで総支配人様のレベルアップを、私ではない――『もう1人の私』が、この世界のどこかで喜んでいるような感じがするのです。私はこの世界に生まれてから、そのような不思議な感覚をずっと感じ続けていました。どこかにもう1人の私がいて、いつも監視をされているような感覚。この感じは一体何なのだろう……と、ずっと不思議に思っていたのです」
レイチェルは、頭の後ろに束ねているピンク色の綺麗な髪を手で撫でながら。パソコンの画面をじっと見つめる。
その表情はいつになく憂鬱で、どこか物憂げに見えた。それは普段のレイチェルが異世界の勇者達には、あまり見せないような表情でもあった。
しばらくして、心配そうに見守る紗和乃の視線に気付き。レイチェルは慌てて、いつもの営業スマイルを取り戻す。
「すいません、紗和乃様にご心配をさせてしまいましたね……。今は、コンビニ共和国に押し寄せてきている連合軍に対する備えを、みんなでしっかりと整えないといけない時ですものね!」
「その事なんですけど。実はコンビニの外に作る仕掛けについて、レイチェルさんにもアドバイスをして頂きたいんです。後、もし良ければ外に出て、みんなに直接指導をして頂こうと思いまして。みんなもレイチェルさんの姿が見えれば、きっとやる気がもっと湧くんじゃないかと思うので! ……あ、でもそうでした。レイチェルさんは、コンビニの外には確か出られないんですよね……」
紗和乃が慌てて頭を下げて、レイチェルにお詫びをする。
そんな様子を見て、レイチェルはニコニコと微笑みながら紗和乃に声をかけた。
「心配は入りませんよ、紗和乃様。私はたしかにコンビニの外には出る事が出来ませんが……。コンビニの屋上に立つ事くらいなら出来ますので。もし、それでもよろしければ、ぜひ皆様にアドバイスをさせて頂きます」
「ええーーっ!? レイチェルさんって、コンビニの屋上に立つ事が出来たんですか!? 私、全然知りませんでした」
「コンビニの地下階層を決して無防備には出来ませんので、普段は絶対に外には出ませんけどね。今ならまだ、敵に攻められる前ですので。地下に侵入されるような心配もないでしょう。ですので私もぜひ、皆様のお手伝いをコンビニの屋上からさせて頂きますよ!」
「ありがとうございます! みんなにも伝えてきますね! レイチェルさんが外で直接指示をして頂けるなら、みんなもとっても喜ぶと思います!」
紗和乃は急いでコンビニ本店の外に駆け出して行く。
そんな紗和乃の後ろ姿を見つめながら。
レイチェルは再び椅子に腰を落として、1人で静かに吐息を漏らすと……。誰にも聞こえないように独り言を呟いた。
「……それにしても、新たに追加をされたコンビニの守護獣の名前があの『カディス』とは……。だとすると、この世界に大昔に存在をしていたという大魔王は、おそらく『コンビニの魔王』であったという事は、もう確定と見て良いのでしょうね。この前、突然空から襲撃をしてきた黒いアパッチヘリの大軍のように。また何か厄介な事に、総支配人様が巻き込まれていなければ良いのですが……」
レイチェルは事務所の椅子の上から、遠くを見つめる。
そして、遠い魔王領で戦っているであろうコンビニの勇者の事を想い。胸に両手を当てた。
どうか、彼方様の身に危険が迫りませんように――。
静かに目を閉じて、レイチェルはそっとその場で祈りを捧げ続ける。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ドローンの空爆による、燃え盛る激しい炎が収まり。
気が付くと……幻想の森の中は、とても静かな空気に包まれていた。
コンビニ支店1号店の周りには、何も残っていない。
30メートルを超える巨大樹の魔物も。人面を宿した樹木の魔物達も。そして、1体だけ不気味な笑顔を浮かべていた、緑の神官ソシエラの宿っていた樹木の魔物も……。
今はその姿が、全て見えなくなっている。
コンビニ支店1号店の周囲の大地全てが、攻撃ドローン達による上空からの爆撃と激しいミサイル攻撃によって。跡形もなく完全に燃やし尽くされていた。
今まで俺のコンビニのレベルは、『16』でずっと成長が止まっていた。
ところが今回は、停止していたレベルが一気に急上昇した。
今、俺の異世界の勇者レベルは――いきなり『30』になっている。
「……だけど、コンビニの商品は今回はあまり増えなかったみたいだな」
能力確認で確認した俺のステータスには、コンビニで扱える商品が爆発的に増えた……というような目立った変化はなかった。
もちろん念願のコンビニおでんや、コンビニチキン。そして肉まんが新たなラインナップに加わっていたのは、嬉しい事なんだけどな。
――どちらかと言うと。
今回一番、大きな変化があったのは俺の外見の方だ。
俺は今、いつの間にかに『黒いロングコート』を全身に身に着けていた。
今までも、黒っぽい色合いのコンビニ店長専用服をずっと着てはいたんだけどな。今回はその上から更に、黒いロングコートが羽織られている。
足元まで丈がかなり長い、この黒ロングコートを着ていると……。なんて言うか、今までよりもかなり不思議な外見になった気がする。
俺の脳内イメージだと、ヴィジュアル系ロックのボーカリストになったような印象というか。
中二病の中学生が飛び上がって喜びそうな、外見になった気がするんだ。だから正直、全然悪い気はしないかった。むしろ俺的には、こういう格好は好きな方だからな。
でも、玉木あたりが今の俺の服装を見たら。
絶対に『彼方くん、何それダッサ〜〜い!』って言ってきそうな気はする。
しかも今の俺は、この黒いロングコートの他にも。
肩の上にテニスボールくらいの大きさがある、謎の『銀色の球体』が2つも宙に浮かんでいる。
……これって、ずっと俺の肩の上に固定されて浮かび続けているのかな?
銀色の球体は宙に浮かびながらも、決して俺の体から離れようとしない。球体を手で掴んでみても、もの凄い力で空間上に固定されていて、とても動かせそうになかった。
おそらく、これが今回加わった――『コンビニ店長専用守護衛星』って奴なんだろうな。
『衛星』ってくらいだから、俺の身を守ってくれる防御兵器、という認識で良いのだろうか?
今の所は、その効果や能力は全てが未知数だ。
ただ、今回俺の外見は……今までに比べて劇的な変化を遂げた事だけは間違いない。
俺は静かに、コンビニ支店1号店の周りを歩いて回る。
そして焼け焦げて消滅してしまった、全ての樹木の魔物の為に。その場で静かに手を胸に当てて、黙祷を捧げた。
無限の苦しみから解放する為とはいえ。今回、俺が直接手をかけて、みんなを殺してしまったのは事実だった。
最後にはみんなに『ありがとう』――と。
感謝の言葉をかけて貰えた事が、唯一の救いだったと思う。
ソシエラによって、ずっと苦しみの中に捕らえられていた人々の魂が。本当に安らかな眠りについてくれたらいいなと思う。
今の俺は、心の底からそう願っていた。
「――店長!! ご無事ですか?」
コンビニ支店1号店の入口から、アイリーンが飛び出してきた。
本当はティーナや玉木達も、俺の事を心配してコンビニの外に出ようとしていたらしい。
でも、アイリーンの判断でそれを止めて。他のみんなには、コンビニの中で待機をして貰っているようだ。
さすがはアイリーンだ。それは、本当に正しい判断だと俺も思う。
まだコンビニの外は、完全に安全だとは言えない状況だからな。また、どこからか巨大スズメバチの大群がここに押し寄せてくる可能性だって十分にあり得る。
基本、無限の能力を持つ魔王や、その配下の者達と戦う時においては……。その手下である魔物達が無限に湧いて出てくる可能性を警戒した方が良いだろうからな。
アイリーンが俺の近くにまで駆け寄ろうとした、
まさに、その瞬間――。
”ズザザザザザザザザザザ――ッ!!”
突然、幻想の森の大地の土が、大きく音を立てて盛り上がり始めた。
「…………なっ!?」
驚いたアイリーンが、両目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。
幻想の森の地面に広がる茶色い土が、突然……1箇所に、集まり始め。そこから巨大な茶色いサソリの魔物が形作られていく。
その全長は、おおよそ15メートルくらいはあるだろうか。
以前、マイラ村を襲ってきたサソリの魔物達は、砂漠の砂から生み出されたので。砂漠の砂の色を反映した、黄色いサソリ達だったが……。
今回、幻想の森の地面から出現をした巨大な大サソリは、全身が全て茶色で作られていた。
そして大サソリの頭の部分には――また、趣味の悪いソシエラの不気味な顔が張り付いている。
とっさに襲い掛かってきた茶色い大サソリの一撃を、アイリーンは慌てて黄金剣で受け身を取り、回避しようとした。
だが……重みのあるソシエラの重量級の攻撃をかわし切れず。そのまま大きく後方に弾き飛ばされてしまった。
「アイリーンーーーーッ!!」
俺は急いで、アイリーンのもとに駆けつけようとした。
けれど、気持ちの悪いソシエラの顔が付いた巨大サソリが、その攻撃目標を今度は俺は向けて……勢いよく飛び掛かってくる。
「私の芸術作品を全て焼き払ってしまうとは……。本当に残念です、コンビニの勇者よ。きっとあなたとなら、私は至高の芸術について共に語り合えると思っていたのに。私はもうあなたには興味を無くしてしまいました。ですので、モンスーン様に良いご報告をする為にも……この場で、今すぐにでも死んで貰います!」
巨大なサソリから、鋭く先の尖ったハサミの攻撃がもの凄い速さで繰り出される。
「店長ーーーッ!! 危ないーーーッ!!」
遠くに飛ばされて、地面に尻餅を付いていたアイリーンが絶叫した。
直接の攻撃手段を何も持たない、コンビニの勇者である俺。ソシエラの攻撃をかわす術なんて全く無い。
上空からシールドドローンを呼び寄せようにも、もう間に合わないだろう。
やられる………!!
俺はそう思い、目を閉じて覚悟した。その瞬間――。
”ズシャーーーーーーン!!”
「――――なにぃッッ………!?」
茶色い巨大サソリと化した、ソシエラが思わず驚きの声を上げた。
ソシエラの繰り出す、大きなハサミによる攻撃を……。限界ギリギリの所で、俺が着ている『黒いロングコート』が防いでくれたのだ。
黒いロングコートは、まるで伸縮自在な黒マントのように。その形を、自由自在に変形させると――。
足元まで長く伸びていたロングコートの丈の部分が、黒い翼のように横に大きく生地を伸ばし。
コートの先端部が固い刃物のように硬化して、ソシエラのハサミによる攻撃を――”ガシッ”、と洗濯バサミのように力強く挟んで押さえ込んでいる。
俺の新たな新装備――コンビニ店長専用の黒いロングコートは、その形を自由に変形させて。敵の攻撃から俺の身を守ってくれる、高い自動防衛能力も備えているようだった。
「くぅぅぅッ、お……おのれぇぇ………!!」
コンビニ店長専用ロングコートに、攻撃を阻まれたソシエラ。今度はコートに押さえ込まれているハサミとは別の、もう片方の巨大ハサミを大きく振り上げ――。
強力な一撃を追加で加えようとしてきた。
それを見て、危機を察した俺の体は――。自分でも不思議なくらいに、無意識な状態で。軽やかに上空に向けてジャンプをしていた。
ソシエラのハサミによる追撃を、俺は上空5メートルくらいにまで体を飛び上がらせて。条件反射だけで、華麗に回避する事が出来た。
……何だ? 体がすごく軽く感じられるぞ……!?
俺って、こんなにも高くに飛び上がる事が出来たのか?
今回の大幅なレベルアップで、どうやら俺自身が持つ身体的な能力も大きく上昇をしたみたいだ。
普通の人間なら、5メートルもの高さにジャンプをする事なんて到底出来ないだろう。
今までコンビニの勇者は、敵と戦う直接的な戦闘能力が無く。その身体能力も、一般人と大して変わらない程度だった。
でも今の俺は、『槍使い』の勇者の水無月や。
『舞踏者』の勇者である藤枝みゆきと同じように。
戦士として、直接敵と戦えるような強靭な身体能力を、初めて手に入れる事が出来たのかもしれない。
つまりは俺も、コンビニの守護者であるアイリーン達の力を借りずに。これからは自分の体一つで、直接敵と戦えるようになったという訳だ。
空高くにジャンプをした俺は、空中で体を横に大きく回転させる。
そして、黒いロングコートの生地を長いマントのように自由自在に伸縮させながら――。そのまま、巨大サソリと化したソシエラの体に付いている2本の大きなハサミを、刃物のように鋭く硬化させたロングコートの生地を使って、一気に真っ二つに切り裂いてやった。
「ぐぎゃああああああああああーーーーっ!!!」
巨大な茶色いハサミが2本、地面に切り落とされる。
俺のロングコートによって。一度に両方のハサミを切り落とされたソシエラが、激しい痛みと苦痛で絶叫する。
たまらず俺の立っている場所から、後方に後ずさりを始めるソシエラ。その周囲の地面からは……再び茶色い土が、同時に何箇所も盛り上がり始めていく。
しばらくすると、2メートル級の茶色いサソリの軍団が――50匹ほど新たに地面から生み出されていた。
「おのれええぇぇ!! コンビニの勇者めぇ!! 無限に生み出され続ける私の可愛いサソリ達によって、その体を全て切り刻まれてしまうが良いッ!!」
ソシエラの身を守る為に。土から新たに出現したサソリ達は、正面にいる俺だけに狙いを定めて、一点集中攻撃の陣形で襲い掛かってくる。
押し寄せる茶色い津波と化したサソリ達の数は、おおよそ50匹ほど。
そして現在進行中で更なるサソリ達が、次々と幻想の森の土から生み出されようとしていた。
どうやらソシエラは、本当にサソリを無限に量産出来る能力を持っているみたいだな。
空中から大地に降り立った俺は、襲い掛かってくる無数のサソリ達の攻撃に備えて、急いで地上で迎撃体制を取る。
その時――、俺の肩の上に浮かんでいた、2つの銀色の球体から、突然『キュイーーーーン』という謎の機械音が聞こえてきた。
球体は肩の上に浮かんでいるから、その音はすぐ近くにある俺の耳にもよく響いてくる。
地球儀のように、ゆっくりと宙で回転を始める銀色の2つの球体。
サソリ達が俺の目の前に迫ってくる直前で、球体はその回転をピタっと止めて動かなくなった。
そしてしばらくすると、突然に……。
””ドシューーーーーーーーーーーン!!””
青いレーザービームのような2条の光の直線が、勢いよく銀色の球体から、サソリ達の群れに向けて放出された。
合計で50匹を超える、巨大な茶色いサソリの群れは。
俺の肩から放出された、青い光のレーザーによって。一瞬にで体を真っ二つに切り裂かれていく。
何が起きたのか全く分かっていなかった俺は……。その場で瞼を何度もパチパチさせて、瞬きを繰り返した。
気付いた時には、幻想の森の大地の上には……。
体を綺麗に真っ二つに切り裂かれたサソリ達の死骸が、無数に転がっている。
そしてその死骸は光の粒へと変わり。ゆっくりと幻想の森の中から消滅していった。
後には、両方のハサミを失って痛みにもがき苦しむ。
哀れなソシエラ本体が宿る巨大サソリだけが、その場にポツンと一人寂しく取り残されていた。