第百六十一話 出口のない密林の中で
コンビニ支店4号店の外から、大きな爆発音が鳴り響く。
爆発の衝撃で激しく揺れる店内で、俺はスマートウォッチから聞こえるアイリーンの声に応答した。
「――アイリーンなのか!? 今、どこにいるんだ?」
「店長のいらっしゃるコンビニ支店のすぐ外にいます! 今は攻撃ドローンを使って、コンビニの外壁に張り付いているハチ達を、ミサイルで撃ち減らしている所です!」
何だって……!?
コンビニのすぐ外にいるだって!?
じゃあ、この爆発音と衝撃は……! アイリーンがドローンを使って。俺のいるコンビニ支店4号店に向けて、外からミサイルを撃ち込んでいる音なのか。
そうか、アイリーンは俺がスマートウォッチでドローンを操るように。自らの体から電波を発して、直接ドローンや現代兵器を操る事の出来る、近代型の騎士なんだった。
だから、きっとコンビニ支店1号店から出撃させたドローン部隊を、ここまで引き連れて来てくれたのだろう。
……という事は、コンビニ支店1号店もすぐ近くにまでやって来ているのかもしれないな。
ティーナや玉木も。もしかしたら、すぐ側にいるのかもしれないぞ。
”ドゴーーーーーーーン!!”
”ドゴーーーーーーーン!!”
「――うおぉあッ!? ちょ、ちょっとこれはやり過ぎなんじゃないですかね、アイリーンさん? いくらコンビニの外壁には、強化ステンレスパイプシャッターが付いているといっても……。これじゃ流石にコンビニごとミサイルで破壊されちゃうんじゃ――って、うおぉああぁぁッ!?」
大きな爆発音が、1つ鳴り響くたびに。
コンビニの店内は衝撃で激しい揺れと振動に襲われる。
天井からは大量の埃と、崩れた壁の一部がこぼれ落ち。店内にある商品棚からは、お惣菜や菓子パンが次々と床に崩れ落ちてきている。
俺は慌ててパソコンのモニターから、上空に待機をさせている偵察ドローンの映像を確認してみると。
合計で10機を超える攻撃ドローンを同時に操り。
綺麗な青髪を風になびかせた、コンビニの守護騎士が……。コンビニ支店4号店の外壁にまとわりつく、巨大スズメバチ達を、次々と黄金の剣で斬り落としてくれていた。
上空のドローンから発射された小型ミサイルの直撃を受けたハチ達は、爆風によって粉々に吹き飛ばされていく。
その爆発を免れた巨大ハチ達には――アイリーンの振るう黄金の剣の斬撃が、高速スピードで襲いかかる。
まだコンビニの外は真っ昼間だというのに。
アイリーンが振るう黄金の剣が、光り輝く美しい剣の軌道を空中に描きながら――。美しい光の曲線を、緑色の森の中に鮮やかに描き出していた。
見た目だけなら、まるでサイリウムを振るヲタ芸のストリートパフォーマンスみたいだな。
ジャングルを飛び交う巨大ハチ達を、光の曲線が1匹たりとも逃す事なく。その全てを一瞬にして、光速の剣線が瞬時に斬り裂いていく。
「すっげーーッ!! あれだけ沢山いたハチ達が、あっという間にアイリーンの剣撃で、その数をどんどん減らしていっているぞ……!」
俺がドローンを操る時は――基本、パソコンを操作したり、スマートウォッチのタッチパネルを押しながらだったりするからな。
どうしても同時に行動が出来ない分だけ、動きに無駄が出来てしまう事が多い。
でも、アイリーンは自身の体全体から電波を発して、ドローンを同時に操りながら敵と戦う事が出来る。
威力の高い黄金の剣を振るいつつ。体から発した電波で攻撃ドローンを直接操り。敵が密集している箇所に向けてミサイル攻撃を集中させながら、より効果的に敵を追い詰めていく。
だから、コンビニの近代兵器を操りつつ戦うという意味では……。うちのアイリーンの右に出る者は、コンビニメンバーの中では誰もいないだろう。
まさに現代戦に精通した、近代兵器を巧みに操る事の出来る、最強のコンビニの守護騎士様の降臨だ。
気が付けば、コンビニの周囲はいつの間にかに……。
ハチの羽音1つしない、静かな状態に戻っていた。
どうやらアイリーンが、コンビニの周りに集まっていた巨大ハチ達を、全て駆除し終えてくれたみたいだな。
俺はコンビニ支店4号店の外に、急いで飛び出すと。
うちの青い守護騎士様の側へと駆け寄っていく。
「アイリーン、助かったよ! マジでよくやってくれたな!」
「店長、到着が遅れてしまい本当に申し訳ございませんでした。店長を守る立場であるはずのこの私が、お側から離れてしまうという、大失態をしでかすなんて……。この不始末は、必ず後でレイチェル様にご報告させて頂き、コンビニホテルの床を毎日3時間磨く罰をお受け致しますので、どうかお許しを頂けると幸いです……」
俺は命が助かった事に、心から安堵する。
そして、やっと再会したアイリーンの頭を撫でて。
思わず嬉しさで、その体をギュッと抱きしめてしまう。
「て、店長………!?」
敵を一撃で斬り落とせるほどの筋力があるのだから。アイリーンはかなり筋肉質な体なのかと想像していたけれど。思っていたよりも、細身な事にビックリした。
これは筋力よりも、魔力のようなものを使って敵を倒す、魔法剣士みたいなイメージなのかもしれないな。
「店長……い、いけません……! このような破廉恥なお姿を、もし……あの方々に見られてしまったら。きっと、大変な目にあってしまうと思います!」
アイリーンが整った凛々しい顔を真っ赤にしながら、アワアワと体を震わせて怯えている。
――ん? あの方々って誰の事だろう?
俺が頭の中で、該当の人物達の事を思い出すよりも、先に――。
”ズドドドドドドドドドド――――ッ!!!”
もの凄い炸裂音を響かせながら。5連装式のガトリング砲から射出された赤い光弾が、俺とアイリーンの足元目がけて連射される。
「――うおおおっ!? 危ねえええーーッ!! あとちょっと後ろに立っていたら、マジで直撃する所だったぞ!? 一体誰だよ、こんな危ない事をしでかす奴は……!?」
俺は抱きしめていたアイリーンの体を、慌てて離すと。
顔をゆでだこのように真っ赤にさせていたアイリーンは、ホッとしたような……。それでいて、どこか残念そうな複雑な表情を浮かべながら、安堵の息を吐いていた。
俺はガトリング砲が発射された方角を、改めて見つめてみると。
そこから、巨大なキャタピラーを装備したコンビニ支店1号店が、”バリバリバリー!!”と、ジャングルの樹木を強引に薙ぎ倒しながら、こちらに向かって前進して来ていた。
「やっほ〜〜! 彼方く〜〜ん! ちゃんと無事に生きてる!? 怪我とかしてない〜?」
密林の中から聞こえてきた声は――。
俺が昔からよく聞き慣れている、猫撫で声のように甘ったるい玉木の声だった。
玉木はコンビニ支店1号店の屋上で、ガトリング砲を構えながら。俺に向かって呑気に手なんか振ってきていやがる。
「ああ、俺ならこの通りちゃんと生きてるぞ。たった今、ガトリング砲で狙われて死にかけたけどな! ……おい、玉木ッ! 今、ガトリング砲を連射してきたのはお前なのか!? 危ないじゃないか! もし当たったらどうするつもりだったんだよ!?」
「ええっ、だってしょうがないじゃない〜! 悪徳コンビニ店長が、邪悪な権力を行使して抵抗出来ない、か弱い女性店員にセクハラ行為をしている現場を見ちゃったんだもの! ガトリング砲はアイリーンさんを救う為の緊急手段だったんだから、大目にみなさいよね〜! この悪徳セクハラ店長め〜!」
「誰が、悪徳セクハラ店長なんだよ……。まったく、せっかくハチの大群の襲撃から助かったっていうのに。お前のガトリング砲の射撃を浴びて、こっちがハチの巣にされたら、たまったものじゃないぞ!」
やれやれ……と俺は、その場で深いため息を吐く。
でも、こんな玉木とのやり取りも何だか懐かしく感じるな。俺は心の底から安心して少しだけホッとした。
コンビニ支店1号店がちゃんと無事でいてくれた。
きっと大丈夫だろう……とは、もちろん信じてはいたけれど。こうやって自分の目でちゃんと確かめられるまでは、やっぱり不安だったからな。
「店長、このまま外にいては危険です! また、あのハチ達がすぐにここに押し寄せて来ます。いったんここは、コンビニ支店1号店の中に避難をしましょう!」
アイリーンが、俺と玉木がのほほんと夫婦漫才をしている様子を横から見つめながら、真面目な顔をして俺に警告をしてきた。
そうだな……。
あの黄色い巨大スズメバチ達は、無限に森から湧いて出てくる。
さっきは俺も、ハチ達を一度撃退して安心をしていたら。すぐに敵の第二波が森から押し寄せてきて、コンビニの中に慌てて逃げ込んで、苦労したばかりじゃないか。
だから、ここはすぐにでも安全な場所に避難をしないといけないだろう。
「――分かった! すぐにコンビニの中に入ろう!」
俺はアイリーンの操るドローンのミサイル攻撃をうけて。
既にボロボロになっているコンビニ支店4号店を、急いでカプセルの状態に戻す事にする。
そして、すぐにキャタピラーと頑丈な鋼鉄製の合金シャッターが付いている、安全なコンビニ支店1号店の中へと移動をした。
コンビニの中に入ると、店内にはティーナと香苗の2人が待っていてくれた。
そして、すぐに俺を温かく迎え入れてくれる。
「彼方様、本当に良かったです……! また、こうしてご無事な姿が見れて安心しました」
ティーナが勢いよく俺に抱きついてきた。
ああ……。俺も本当に良かったよ。
大好きなティーナが無事でいてくれて、こんなにと嬉しい事はないさ。
俺は心の底から安心をして。
愛しいティーナをぎゅ〜〜って、力強く抱きしめたかったんだけどさ。
今、ティーナに抱きつかれている俺の体は、恐怖ですっかりと硬直してしまい――。
さっきからガタガタと痙攣を起こし。身震いを起こしていた。
「ティ、ティーナさん……? その右手に握っているものは一体何なんでしょうか?」
「えっ? ああ……これは、たまたま手に持って来てしまった『ハサミ』ですので。特に気にしないで下さいね、彼方様」
ニコッと天使のような笑顔で、ティーナが微笑む。
ええっと……ハサミって、たまたま手に持っていたりするものなのかな?
『裁縫師』の桂木が待っていたのなら、まだ納得は出来るけれどさ。
ティーナさんて、普段……そんなに裁縫なんてしなかったですよね?
俺はティーナの様子がいつもと違う事を察して。心の底から恐怖で震え上がってしまう。
これはきっと、俺に対するお仕置きモードになっているティーナさんじゃないのかな?
たぶん、玉木と一緒で。ティーナは俺が外でアイリーンに抱きついている光景を見てしまい、かなりお怒りモードになってしまっているのかもしれないぞ……。
「それにしても本当に残念です……。先ほどは危機に直面し。まだ混乱状態にあった彼方様を誘惑して、不貞行為に及ぼうとした青いメス猫に対して『地対空ミサイル』の発射ボタンを押しておいたのですけれど。あまりにも目標が近すぎて、安全センサーが働いてしまい、ミサイルを発射する事が出来ませんでした。ですので淫乱青猫には後で私からきつーく言いつけておきますので、どうか彼方様はご安心して下さいね」
……ティーナさん、目が、目が座っていらっしゃいますよ!?
それに地対空ミサイルのボタンを既に『押しておいた』って。それは一体どういう事なんですか!?
お、恐るべし、ティーナさん……。
ティーナの恐ろしい発言内容を、横で聞いていたアイリーンが、俺の後ろでワナワナと体を震わせながら怯えている。ちょっとだけ涙目になっている気もするな。
何だか本当にごめんな、アイリーン。全部俺が悪いのに、もの凄く迷惑をかけてしまって本当に申し訳ない。
とにかく今後はティーナさんに怒られないように。俺もしっかりと身を引き締めて行動をする事にしよう!
「でも、本当に良かったよ……! みんながちゃんと無事でいてくれてさ。みんなと離れ離れになってから、俺はずっと心配していたんだぞ」
俺はコンビニ支店1号店の店内にいるメンバー全員を見渡してから、ホッと安堵をする。
店内にいるメンバーは、
コンビニの守護騎士である、青髪の騎士アイリーン。
『暗殺者』の能力を持っているが……。今の所、人ひとり殺せそうにない名前負けの勇者、健康エロ猫美少女の玉木紗希。
『回復術師』の能力を持ち。今回の魔王領探索では、うちの大切な回復役兼、癒し担当を務めてくれているクラスメイトの香苗美花。
そして――、
大切な俺の嫁であり。俺が不貞行為を働きそうになると、俺限定の暗殺者に変貌をする……。天使の母性と、悪魔の猟奇性が共存したニュータイプなヒロイン、ティーナさんだ。
あと、少しだけ腹黒疑惑もティーナさんにはあるけど。全部ひっくるめて一言で表すと、俺の『最愛の嫁』だからオッケーだろう。
うんうん。
みんな元気そうで、本当に良かった!
緑の神官ソシエラが、コンビニ支店1号店のみんなをまるで自分の手元に捕らえているぞ……みたいな言い方をしていたから。こっちは本当に心配したんだぞ。
でも、どうやらそういう感じではなさそうだな。
ソシエラの奴、俺をここに誘き寄せる為にハッタリを言いやがって……。
「彼方くん、全員無事じゃないのよ。大変なの! 詩織ちゃんが、まだ見つかっていないのよ……! 私達が砂漠の砂の中に沈んでしまった時に。いつの間にか詩織ちゃんだけ、はぐれてしまったみたいなの!」
香苗が大慌てで、俺に声をかけてきた。
そうか。雪咲の現状をまだみんなは知らないのか。
これは急いでお互いの現状を確認し合う必要がありそうだな。俺も砂漠の砂の中に落ちてしまったみんなが、どうして緑の神官ソシエラの領域でもある、この幻想の森の中にいるのかが気になるし。
俺はティーナや、玉木達全員を集めて。これまでのお互いの経緯や現在の状況を説明し合う事にした。
幸いな事に、コンビニ支店1号店に備わっている強化合金製シャッターはとても頑丈だからな。
例え、外の巨大ハチ達に周囲を囲まれてしまっても。シャッターを破壊されて店内に侵入をされるという心配はないだろう。
いざという時のために。大量の攻撃ドローンも既に屋上から離陸をさせて、上空で待機させているしな。
後で、コンビニに引っ付いた巨大ハチ達を引き剥がす時は、外からドローンの小型ミサイル攻撃を使えば何とかなるはずだ。
俺は砂漠の神殿で助けた少女、ターニャと行動を共にしていた事。そして、砂漠の地下空洞を歩いてマイラ村にまで辿り着いた事。
そこで『灼熱砂漠』の魔王であるモンスーンの守護者――青の神官メフィストを倒して。その後、砂漠を彷徨っていた『剣術使い』の勇者、雪咲詩織を発見して無事に保護した事。
そして、マイラ村に再度襲い掛かってきた巨大サソリの群れを俺と雪咲は協力して撃退し。
今はマイラ村の護衛を雪咲に任せて。このジャングルの中にドローンに乗って、空から助けにやってきた事を全てみんなに説明した。
俺の話を聞き終えたみんなは、それぞれに真剣な表情で考え込んでいるようだった。
どうやら、コンビニ支店1号店に残っていたみんなよりも。俺が持ってきた情報量の方が遥かに多かったらしいな。
俺の話す内容に、みんなはウンウンと大きく相槌を打ったり。深く頷きながら興味深そうに聞き入っていた。
俺がコンビニ支店1号店を離れた後――。ティーナやアイリーン達は、雪咲が言っていたように。突然、砂漠で起きた流砂に飲み込まれてしまい、砂の下に広がっている地下空洞に落ちてしまったらしい。
雪咲だけは、その時にみんなとはぐれてしまった訳だが……。
砂漠の地下空洞に落ちたみんなは、俺と行方不明になった雪咲を探して、迷路のような地下空洞の中をずっと彷徨い続けていたようだ。
電波も通信手段も一切通じない、無限の広さを持つ地下空洞の中で。俺と連絡を取る事が全く出来ずに。
そのまま時間だけが無駄に過ぎてしまっていた所で――突然、緑色に光る謎の巨大な光石を、地下空洞の中でアイリーン達は発見したらしい。
緑色に光り輝く光石に近づいてみると、突然……謎の空間転移に巻き込まれてしまい――。
……気が付いた時には、この鬱蒼とした一面緑色の樹木に覆われている、『幻想の森』の中にコンビニごと移動をしてしまったようだ。
その後は、アイリーン達は密林の中で永遠に襲い掛かってくる巨大なスズメバチ達の襲撃を撃退しつつ。
ずっと森の中を移動しなから、出口を求めて彷徨い続けていたとの事だった。
「……なるほど。店長のお話から推測をすると、私達はどうやら、その緑色の神官ソシエラという敵のテリトリーである『幻想の森』の中に誘い込まれてしまい。そのまま外に脱出する事が出来なくなってしまっていたという訳なのですね」
アイリーンが顎に指を当てながら考え込んでいる。
「それにしても、この密林地帯の中から外に出られないってのは……本当なのか、アイリーン?」
俺はアイリーンに、その事を尋ねてみた。
「ハイ。そうなのです、店長。私達は何度もこの森の外に出ようと、コンビニ戦車を走らせ続けてきたのですが……。どうも外に出ようとすると、途中で強制転移をしてしまい。森の中心部に強制的に戻されてしまう仕組みになっているようです」
アイリーンは今まで、コンビニ戦車を走らせて。何度もこのジャングルから抜け出そうと試みてきた。
でも、何度挑戦をしてみても。この密林地帯の外には出られない、という経験をずっと味わってきたらしい。
上空に飛ばしたドローンの映像を見る限りだと、そんなに大きな森という訳でもなさそうだったのにな。
どうも地上から外に出ようとすると、同じ所をぐるぐると歩き回されてしまい。絶対に外には出られない、迷宮のような場所にここはなっているようだ。
空に飛ばしているドローンも。幻想の森の領空域の中でなら、自由に飛行は出来るのだが――。
ジャングルの外側に向けて飛び出そうとすると、やはり中に強制的に戻されてしまう仕組みになっているらしい。
その意味では、緑の神官ソシエラが言っていたように。
俺達はこの『幻想の森』の中に囚われていて。二度と外に出られないように、閉じ込められしまっている状態だといっても間違いはない訳か。
「――という事は……。これから俺達の身に起こるであろう出来事は、2パターンしかあり得ないって事だな」
「えっ? 2パターンってどういう事なのよ〜? 彼方くん?」
玉木が興味津々に尋ねてきたので、俺はそれに丁寧に答えてやる事にする。
「つまりソシエラの狙いとしては、俺達をこのまま永遠にこの幻想の森の中に閉じ込めておく……という可能性もある訳なんだが。他にも、もう1つの可能性が今から起こり得るかもしれないって事さ」
「そのもう1つの可能性とは、一体何なのでしょうか? 彼方様……」
ティーナが俺の両手を握りしめて。
怯えるようにして俺に尋ねてくる。
――そう。
そのもう1つの可能性とは……。
俺がみんなにそれを話そうとして、口を開きかけた瞬間に――、
「大変です、店長!! コンビニの外に大量の敵が……! どうやら既にコンビニの周囲は、敵に囲まれてしまっているようです!!」
アイリーンがコンビニのガラス窓の外を見つめながら、大きな声で絶叫をする。
やっぱりな……。
とうとう、おいでなさったか。
緑の神官ソシエラが狙うあろう、もう1つの行動の可能性――それは……。
「ソシエラにとっての最大のターゲットである――この『俺』が、まんまと罠にかかってこの幻想の森の中にノコノコとやって来たのだから。ソシエラは直接、その姿を現して……。全力で俺達全員を、まとめて始末をしにやってくるだろうという事さ――!」