第百五十三話 サソリを呼び寄せるもの
「雪咲……お前、体の方は大丈夫なのかよ?」
ガトリング砲を連射する俺の、すぐ隣には――。
ボロボロの学生服を着た、黒髪の女剣士。
『剣術使い』の勇者、雪咲詩織が長い黒髪を風になびかせながら颯爽と立っていた。
「……ええ、お陰様でね。彼方くんのコンビニのお茶のペットボトルを3本も無断でカブ飲みさせて貰ったけど、お代は後で電子マネー決済で払わせて貰うわ」
雪咲は少し長めの剣を構えて。コンビニの屋上から周囲をぐるりと見渡す。
そして、現在の状況を観察するように。押し寄せて来るサソリの大群を鋭い目つきで見つめていた。
「俺のコンビニは悪いけど、異世界の通貨でしか会計出来ないんだ。まあ、今回はツケにしておくよ。それよりもどうだ? 起きて早々、状況が最悪なのは見れば分かると思うけど。この状況を打破する為に、少しばかしお前の力を貸して貰えないかな……?」
俺はコンビニの屋上からガトリング砲を連射し続けながら。横目でチラリと、雪咲に同意を求めるようにして尋ねてみた。
「そうね。うちも本当は彼方くんに伝えたい事が山ほどあるんだけど。今はまず、この状況を切り抜ける事が先決みたいね。うちの力で出来る事なら何でも協力をするから、指示があれば何でも言って頂戴。コンビニの店長さん」
雪咲は長剣の剣先をサソリの群れに向けながら。
片目だけでウインクをして、俺にOKのサインを送ってくれた。
「よーし、了解だ! 俺も他のみんなが、無事でいるのかどうかをお前にすぐに聞きたい所なんだが……。まずはこのサソリ地獄を解決してから聞かせて貰う事にするぞ! 雪咲、お前の『剣術使い』の能力で、2分……いや、3分でいい……! 無限に押し寄せてくる、このサソリの大波を1人で食い止めて貰う事は出来るか?」
「3分……? それもうちの力だけで? それはかなりの無理ゲーね。うちの能力だけだと、流石にそれはちょっとしんどいから。彼方くんのドローンで空からの援護射撃が貰えるのなら、何とか出来るかもしれないけど……」
「ああ。もちろん援護はしっかりとさせて貰うさ。じゃあ悪いけどしばらくの間、村の防衛は任せたぞ! その間にこの俺が必ず、この村の防衛網を完璧なものに立て直してみせるからさ!」
俺は、ガトリング砲の攻撃をいったん止めて。
コンビニの屋上から飛び降りて。すぐに店内の様子を確認しに行く。
そして、コンビニ支店2号店の中で身を潜めていたターニャ達親子を見つけ出して、声をかけた。
「――ターニャ! それにターニャのご両親さんも、雪咲を介抱してくれて本当にありがとうございます! 俺は今からこのコンビニを別の場所に出し直すんで……。いったんコンビニの外に出て、村の中に隠れて貰ってもいいですか?」
コンビニの店内で待機してくれていたターニャ達は、俺の言葉を聞いて。すぐに首を縦に振って、頷いてくれる。
「分かりました、勇者様! 私達はいったん家の中に避難をします。後の事をよろしくお願い致します!」
ターニャ達親子が、コンビニ支店2号店から外に飛び出たのを確認して。俺はすぐにコンビニ支店2号店を、元のカプセル状の形に戻してポケットの中にしまい込んだ。
村の外を見ると――。
空からのドローンの集中爆撃に合わせて。
長剣を構えた雪咲が、マイラ村の周辺をもの凄い速さで駆け回っている姿が見えた。
「うおおおおぉぉぉぉーーーッ!! いっくわよおぉぉッ!! 必殺、『無音&無影剣』――ッ!!」
えええっ、何だよアレは……!?
絶対に人間の速度じゃないだろう! マジでは、速ええぇぇ……!!
雪咲はまるで、ジェットエンジンでも腰に付けているかのように。マイラ村周辺をぐるりと高速移動で駆け回っている。
そして村に接近してくる巨大サソリ達を……手に握っている長剣を振るような動作を一切見せずに。
一瞬にして、玉ねぎの短冊切りをするかのように粉々に切り刻んでいく。
傍目から見ると、雪咲はただ高速スピードで村の周囲を駆け回っているだけにしか見えない。
それなのに……巨大サソリ達は、次々と雪咲の剣で切り刻まれていき。その高速の剣撃の風圧で吹き飛ばされるようにして、村から遠くに弾き飛ばされていく。
アレが噂に聞く、『剣術使い』の勇者の特殊能力――。『無影剣』って奴なのかよ……。
俺もみんなから噂では聞いていたけれど。実際に雪咲の能力をこの目で直接見るのは今回が初めてだった。
剣で敵を切る、という斬撃の動作を一切取らずに。
離れた位置にいる敵を、勝手に斬り裂いているという恐ろしいチート能力。
もしこんな能力を、剣道の公式試合でされたりでもしたら。絶対に相手の選手はカンカンに激怒するだろうな。
だって、ただ竹刀構えているだけで。相手はいつの間にかに何十発もの剣撃を同時に打ち込まれてしまっているんだぜ? 剣を振るうという動きが全く見えないのだから、それじゃあ避ける事だって絶対に出来っこない。完全なチート試合だ。
村の周りを高速の脚で駆け回る雪咲は、村に接近してくるサソリを順番に切り裂いていくだけではなく。
村の周囲にある砂漠の砂を剣で巻き上げるようにして。強力な斬撃を連続で黄色い砂の大地に向けても繰り出していく。
気付けば、いつの間にかにマイラ村の周囲には……。
深さ3メートルを超える、巨大な溝が出来ていた。それはまるで、昔の日本のお城の周りにある『堀』のようにも見える。
村に押し寄せてくるサソリの群れは、この深い堀の中に足を滑らせるようにして落ちていく。そして、その深みにハマって身動きが取れなくなったサソリ達を――雪咲の繰り出す高速の無影剣と、ドローンによる空爆が同時に攻撃を加えていく。
おかげでサソリ達の進軍スピードはかなり鈍り。雪咲の作ってくれた堀が、サソリ達の進軍を食い止める――ちょうど防波堤のような役目を見事に担ってくれていた。
いや……マジで助かるぜ。流石、雪咲だ!
村の周りに立派な堀を作ってくれたおかげで、サソリ達の進軍を食い止める事が出来ている。
よし、この隙を使って。俺もマイラ村のコンビニ防衛網を作り直す事にしよう!
俺はマイラ村の周囲3箇所に。均等な三角形を描くようにして、3つのコンビニ支店のカプセルを等間隔に設置していった。
準備の終わった俺は、押し寄せるサソリの大群を眺めながら叫び声を上げる。
「よーーし、いくぞーーッ!! 出でよーー!! 俺のコンビニ支店2号店、3号店、4号店よーーーッ!!」
”ズドーーーーーーーーン!!!”
”ズドーーーーーーーーン!!!”
”ズドーーーーーーーーン!!!”
マイラ村の周辺にコンビニ支店が、同時に3つ。
等間隔で均等に配置された場所に、コンビニ支店2、3、4号店が出現する。
「よーーし! 雪咲ーーッ! いったんこっちに戻って来てくれッ! 今から俺は、コンビニ支店3つからの一斉ガトリング砲射撃を再開させるからなーーー!!」
まるで剣を振るう、『夜叉』の如く。
俊敏な動きで、マイラ村に近づくサソリ達を無言で切り裂いていた雪咲が、俺のいる場所にまで急いで戻って来た。
俺はそのタイミングをちょうど見計らって、スマートウォッチを操作する。
すると――。
マイラ村の周囲3箇所に配置されたコンビニ支店の屋上から、同時に5連装式の自動ガトリングショック砲が姿を現す。
そして、コンビニの屋上に備えられたガトリング砲が……。一斉に赤い閃光弾を、黄色いサソリ達で溢れ返っている村の外側に向けて吐き出した。
”ズドドドドドドドーーーーーーーッ!!”
”ズドドドドドドドーーーーーーーッ!!”
”ズドドドドドドドーーーーーーーッ!!”
マイラ村の周囲、3箇所に設置されたコンビニ支店から。ガトリングショック砲が、同時に無数の赤い光弾を放つ。
村に押し寄せて来ていた、巨大サソリの群れは……。なす術もなく、次々とガトリング砲の餌食となって粉々に粉砕されていった。
「よっしゃーー!! いっけええぇーーッ! 村に押し寄せるサソリ達を全部、一匹も残さずなぎ倒しちまええぇぇッ!!」
村を守る、強固な3体の守護神。
完全に無敵の固定砲台と化した3つのコンビニ支店。
まるで押し寄せる敵を撃退するディフェンスゲームのように。近寄ってくる巨大サソリ達にガトリング砲は一斉射撃を食らわせて、自動的に撃退をしていく。
雪咲が稼いでくれた時間のおかげで、俺はコンビニ支店3つをマイラ村の周囲に、等間隔な位置に再配置する事が出来た。
コンビニ支店2号店からだけの火力では、迎撃する事が出来なかった黄色いサソリの大波も。3つの地点から同時に繰り出されるガトリング砲による重火力射撃が有れば、何とか防ぎきる事が出来る。
おまけに3つのコンビニ支店の屋上からは、航空部隊である攻撃ドローンも次々に出撃させている。
弾切れを起こして火力を失ったドローンも。3つのコンビニ支店から離陸をする新しいドローン部隊によって常に補充される為。空からの爆撃攻撃も……今まで以上に安定して行う事が出来るようになった。
これで、しばらくは俺や雪咲が何もしなくても。自動的にマイラ村を防衛出来る、完全防御システムが構築されたと言っていいだろう。
最初は、突然襲って来た敵に戸惑って……それに対処する為の、十分な作戦を練る時間が余りにも無かったからな。
でも、雪咲が時間を稼いでくれたおかげで、俺はやっと全てのコンビニ支店を村の防衛の為に設置し直す事が出来た。
だから、本当に助かったぜ! まさに、雪咲様々だ。
「……ふぅ。どうやら何とかなりそうね。彼方くん」
コンビニの固定砲台によって、サソリ達が自動で撃退をされていく光景を見つめながら。
雪咲がホッとしたように、俺の横で安堵の息を吐く。
「ああ……。雪咲が村の周囲に堀を作ってくれたおかげさ! 村に押し寄せてくる前に、サソリ達の動きを足止める事が出来るようになったからな。おかげで3つの固定砲台から発射される自動ガトリング砲撃で、サソリ達の進軍を完全に封じ込める事が出来たぜ!」
マイラ村に押し寄せるサソリの大群は、コンビニ固定砲台の自動射撃によって何とか持ち堪える事が出来る状態にする事が出来た。
でも、もちろんこれで全てが解決という訳ではない。
これでやっと、敵に対処する為の作戦を考えられる時間が出来たというだけだ。
なにせ敵は無限に押し寄せて来ているからな。
これを何とかしないと、俺達はずっとここで身動きが取れない状態に陥ってしまうだろう。
「……彼方くん。気付いている?」
雪咲が長剣を背中に背負っている鞘に収めながら、俺に聞いてきた。
「ああ……分かっているさ。サソリ達の動きが、あまりにも不自然過ぎるって事だろう?」
「そうなのよね。普通……これだけのサソリの群れを、どこかで操っている人物がいるのだとしたら。3つのコンビニ支店からの防衛射撃で、完全に守られてしまっているこの村への攻撃をいったん止めないのは不自然だわ。このままずっと攻め続けても。この村を攻略する事が出来ないのは、もう分かっているはずなのに」
「俺もさっきからその事は不思議に思ってた。どこの誰がこれだけのサソリ達を無限に生み出して、そして攻撃の指示を与えているのかは分からないけれど……。守り手に完全に防御をされてしまっているこの状況で、攻め方を変えないのは明らかにおかしい。本気でここを攻め落とす気があるのなら、いったん攻撃を止めて。戦略を練り直すとか、別の攻撃手段を普通試したりするだろうからな」
仮に……だ。
敵に司令官のような奴が、いるのだとしたら。そいつは『超』が付くほどに無能な奴だとしか言いようがない。
マイラ村への無限サソリによる攻撃は、今や完全にコンビニの固定砲台による防衛システムによって無効化されている。
コンビニの屋上に装備された5連装式のガトリング砲には、弾切れという概念が無いから。このまま永遠にサソリの攻撃を防ぎきる事だって可能だ。
コンビニの屋上から出撃する航空ドローン部隊には、爆弾やミサイルの弾切れはあるけれど。3箇所のコンビニ支店から連続で出撃させる事で、ローテション爆撃のペースを落とす事なく。完全に安定供給ラインに乗せる事が出来ている。
このままでは、例え一日中、あるいは数日間……。
いや、1ヶ月以上ここを攻め続けたとしても、この村を完全に攻め落とす事は出来ないだろう。
それなのに敵は、何も戦法を変えずに。さっきからずっとワンパターンな戦法で攻め続けている。
もし敵に巨大サソリ以外に、他の魔物の戦力が存在をしているとか。あるいはいったん引いて。村の1箇所だけにピンポイントで集中攻撃を仕掛けてくるとかの戦術変更があれば。
俺もそれに合わせて、マイラ村の防衛システムを再構築せざる得ないのだろうが……。
何も変化の無いこの状況では、ただの無限消化試合にしかならない。
攻め手も。守り手も。
どちらも『無限』の能力を持っている事は間違いない。
だとしたら、このままでは永遠に勝負がつかずに。ただ時間だけを消費をしてしまう事になるぞ。
まさか、このまま無限に攻め続けて、俺達がお爺ちゃんやお婆ちゃんになるまで、永遠に待つつもりじゃないだろうな……?
「彼方くん。もしかしたら、敵はただ『自動的』にここを攻めるように指示をされた、ただの攻撃システムでしかない……って事はないかな?」
「自動的に攻撃をするシステムだって? あのサソリ達による攻撃は、落とし穴にハマった敵をただ自動的に攻めるシステムみたいなものだって事なのか?」
雪咲は村に突進を繰り返し、ただ自動的にガトリング砲に迎撃されていくだけの哀れなサソリ達の姿を見つめながら。深く考え込むようにして、俺に話しかけてくる。
「ええ……。その可能性は十分にあるわね。うちにはあのサソリ達が何か統一をされた意思によって行動を指示されているようには思えない。ただ自動的に『何か』の目標に向かってつき進んでいるだけなのよ。だから、無限に湧き出るサソリ達を誘き寄せるもの。その何かさえ分かれば、この状況を打破する事が出来る気がするの」
「サソリを村に誘き寄せる物か……。それを何とかすれば、この無限に続く不毛なディフェンスゲームを、終わらせる事が出来るって事か」
うーん……。
でもそれは、一体何なのだろう?
サソリ達は突然、この村に押し寄せてきた。
この村にあの巨大サソリ達を自動的に誘き寄せる『何か』があるとして――。
考えられる物といえば、やっぱりそれはターニャの存在か?
ターニャは元々、マイラ村の代表として。
砂漠の神であるモンスーンに命を捧げられる予定だった、聖なる供物だ。
俺が神殿でそのターニャの命を助けてしまった為に、モンスーンの怒りを買って。こうしてサソリの大群を村に誘き寄せてしまっているという事なのだろうか……?
いいや。今回はそうではない気がするな。
俺はモンスーンの守護者である青の神官を倒してしまっているし。今更、生贄であるターニャの命をどうしても奪いたいと、サソリの大群をわざわざこの村に向かわせているとは到底思えない。
きっと、青の神官とは別の何者かが……。
この村に滞在している俺を始末する為に。村にある『何か』を利用して、この無限サソリの襲撃という罠を仕組んでいるのではないのだろうか?
「彼方くん……。うち、サソリの群れを呼び寄せている物の位置が分かったかもしれないわ!」
「えっ!? それは本当かよ……雪咲?」
「うん。うちは剣士だから、敵と戦う時に周囲に漂う『気』の流れを感じ取る事が出来るの。相手が放っている『殺気』だとか、魔物が放つ『邪気』のような物も感じる事が出来るのだけど……。それが、この村の中心部から物凄い勢いで流れ出てきているの。きっとそれが、あのサソリ達をここに誘き寄せている元凶だと思う!」
俺は、雪咲が怪しい気配を感じると教えてくれた場所にまで案内をしてもらい。その後について行く事にする。
雪咲が向かおうとしている場所は、やはりターニャが隠れている家の中ではないようだった。
マイラ村のちょうど中央に……蓄えた穀物をしまう為の古い倉庫のような建物が建っていた。
雪咲は剣を構えて、その古い建物の中につかつかと歩みを進めていくと――。
「――見つけたわ、彼方くん! あそこよ! あの場所から邪悪な気配がプンプンと外に溢れ出ているわ!」
剣先を向けて。
雪咲が指し示す方向を俺も目を凝らして見つめてみると……。
「ひ、ひぃぃぃぃ!! な、なんじゃぁぁ!? なぜ、お前がここにやって来るのじゃぁぁぁぁ……!?」
村の古い倉庫の隅に隠れていたのは……。
マイラ村の名物キャラ。『ターニャの命を奪え!』と、さっき村人達を扇動しようとしていた、白髪頭の強欲村長さんだった。
そして、その村長さんの手の中には……。
暗い倉庫の中にいてもすぐに分かるくらい。怪しげな光を放っている緑色の小さな石が握られている。
「おいおいおい……。流石に今回はアウトだぜ、爺さん。みんな危険だからと家の中に避難をしているこの状況下で。一人だけ倉庫に篭って、緑色に光る石ころと睨めっこをしていたのかよ? そんなの怪しさ全開過ぎるだろうが!」
「う、うるさいぃ!! この不届き者がぁッ!! ワシを誰だと思っておるのじゃあ!? ワシは偉大なる砂漠の神……モンスーン様がお選びになった、マイラ村の代表たる村長なのじゃぞぉぉ!」
……あ、なるほどな。
きっと村で一番操りやすいような、最も陰険で欲深い性格の人間をこの村の村長に選んだんだろうな、モンスーンの野郎は……。
「雪咲、その爺さんを抑えてくれ! 俺はあの緑色の石ころを破壊する!」
「了解よ!」
俺の指示を受けて、すぐさま雪咲がマイラ村の村長に駆け寄る。
音もなく村長に近寄った雪咲は、後頭部を剣の柄の部分で叩きつけると、その場で卒倒をさせた。
「ぐふっ………!!」
倒れた村長さんは、手に握っていた緑色の石を倉庫の床に落とす。
そして、その床に転がり落ちた緑色の石を。俺はすぐさま近くあった大きな石を持ち上げて叩きつけてやった。
”パリーーーーン!”
大きな破壊音と共に。
粉々に叩き割れる、緑色の小さな石。
すると、外のコンビニ支店から放たれているガトリング砲の射撃音や。空から攻撃をしているドローンの空爆音で騒がしかった、マイラ村周辺の騒々しかった交戦音が――。
一瞬にして、ピタッと鳴り止んだ。
俺と雪咲は、マイラ村の古い倉庫から急いで村の外に出る。
そこには、何もないただの砂漠だけが広がっていた。
マイラ村に押し寄せて来ていた、あの数万匹を超える巨大サソリの群れは。影も形も見えないくらい、一瞬にして……。
全て、どこかに消え去ってしまっていた。