第百五十話 砂漠のコンビニ営業
「……み、水を無限に供給するじゃと!? お前は、何を言っているんじゃ! 寝言を言うのも大概にせいッ!!」
怒鳴り散らすしか脳のないマイラ村の村長さんが、ヒステリックに顔を真っ赤にして、全力で俺を糾弾してくる。
ハイハイ……。もう、この爺さんと話すのも面倒くさくなってきたから。
俺はあんたとは議論はしない事にするぜ。だって論破とかするのも疲れそうだし。
それに、こういう頭の硬い爺さんには実際に行動をして見せてやる方が手っ取り早しな。
俺はマイラ村の村人達の視線を一身に浴びながら。
村の中心部に向けて、トコトコと1人で歩き出す。
……ええっと、大体この辺りでいいかな?
村の真ん中辺りに、ちょうど良い感じの適当なサイズの空き地を見つけた。うん、このスペースを借りる事にしよう!
「ターニャ、危ないから村のみんなに少しだけ下がってくれるように伝えて貰っていいかな?」
「ハイ、勇者様! みんなーー! もう少しだけ後ろに下がってー! 今から勇者様が不思議な大魔法を唱えるから、離れないと危ないよーー!」
あはは……。大魔法か。
まあ、ある意味ビックリするような大魔法である事は間違いないよな。
俺が今からここに呼び出す建物の価値は、砂漠ではプライスレスだぞ?
何て言ったって、店内は涼しいエアコン完備だし。水洗トイレだって付いてる。おまけにこの暑い砂漠の中で、冷たいアイスだって無限に食べ放題なんだからな!
乾いた砂漠の中にいても、俺のコンビニなら無限に水を供給する事が出来る。そう、コンビニには何だって揃っている。ちなみに日本にある本物のコンビニでは、今ではオンライン決済のチャージだって出来るんだぞ。
いつかもし、俺の異世界コンビニにペイ◯イ決済が導入をされたなら。俺は買い物をたくさんして、お得ポイントを貯めまくってやるからな。……あ、異世界でもキャッシュバック祭りとかはしてくれるのかな?
「よーし、じゃあいくぞ〜〜! 出でよーーーッ!! コンビニ支店2号店よーーーーッ!!」
ポケットにしまっていた、手持ちのカプセルを1つ。
ポイっ……と、俺はマイラ村の中央の空き地に向けて放り投げる。
すると――。
”ズドーーーーーーーーン!!”
砂漠の空き地に、異世界コンビニがずど〜んと登場した。
――ヘイ、コンビニ一丁お待ちッ!
みんな大好きコンビニを、砂漠のど真ん中に大々的に開店させてやったぜ!
村のど真ん中に、突如出現した巨大なコンビニに。マイラ村の人々がどよめき立つ。
「こ……これは、何という大きな建物なんだ!? 一体、この建物の中はどうなっているのだろう……?」
「わーー、大きい……! ママ見て見てー! 凄ーい、見た事もない立派な建物だねー!」
マイラ村の住人全員が目を点にして。俺のコンビニをまじまじと見つめながら、驚愕の声を漏らす。
まあ、実はさっきも俺はコンビニを何度も出していたし。
青の神官メフィストにとどめを刺したのも、このコンビニなんだけどな。
マイラ村の人々も、それぞれの家の中に隠れながらその様子は見ていたとは思うけれど。
やっぱりこうして、実際に目の前で建っているコンビニを見ると。その迫力にビックリしている様子だった。
「……こ、こんなバカでっかい建物を出したからといって、何だというのじゃ! モンスーン様の神罰から逃れる為に、まさか、この中に全員で立て篭もろうとでも、言うんじゃなかろうな!!」
相変わらずヒステリック村長さんが、怒鳴り声を上げまくっているみたいだけれど。
ここは華麗にスルーをしておく事にしよう。
俺はすぐさまスマートウォッチのタッチパネルを操作して。右手中指をパチンと鳴らしてみせた。
”ウイーーーン”
コンビニの自動ドアが、ゆっくりと開く。
店内からコンビニガード3体が、外に出てくる。
その手には、美味しい水のペットボトルが大量に入ったダンボール箱が抱えられていた。
俺はそのダンボール箱を開けて。中から500mlの水のペットボトルを1つ取り出すと。
それをターニャの目の前にまで持っていき。ペットボトルの蓋を外してあげて、中の水を飲んでみるようにと促す。
「……ゆ、勇者様……。こんなに綺麗なお水を、私が飲んでしまっても本当に良いのですか?」
「ああ、おかわりならまだいっぱいあるからな! 遠慮せずに、た〜くさん飲んで良いんだぞ!」
水のペットボトルを持つ、ターニャの手がブルブルと震えている。
おそらくこの村で水は、命と同等なくらいに貴重なものなのだろう。
以前にカディナの壁外区で、同じようにペットボトルの飲料水を街の人達に振る舞った時も。みんなに凄く喜んで貰えたのを憶えている。
でも、この灼熱の砂漠で暮らすマイラ村の人々にとって。おそらく水は、その時とは比べ物にならないくらい、大変な貴重品であるはずだ。
もしかしたら、一日にほんの僅かな水しか貰えないような日も普通にあるのかもしれないな。
「――勇者様。私、頂きます……!! ゴクゴク、ゴクゴク………!」
ペットボトルに入った水を、ターニャが勢いよく飲み込んでいく。
よほど喉が渇いていたのか。小さな口で500mlもの水を全て、ターニャは一気に飲み干してしまった。
す、凄い飲みっぷりだな……。
途中で一回も休まずに全部飲み干すなんて、まだ子供なのに本当に凄いぞ。
ペットボトルの水を全て飲み干したターニャは、満面の笑みで俺に感謝の言葉を伝えてくれた。
「ぷはぁ〜〜!! お、美味しいーーーーっ!!! 勇者様! 私、こんなにたくさんのお水を一気に飲み干したのは、生まれて初めてです!」
ターニャは満足そうに口を拭くと。
超が付くくらいに幸せそうな笑顔で微笑んでくれた。
その様子を見ていたマイラ村の村人達が、落ち着きのない素振りで、ザワザワとどよめき始める。
そうか、きっと村の人達も早くコンビニの水を飲みたいんだな? よーし、コンビニの美味しいお水をぜひ、ここにいるみんなにもたくさん味わって貰おう!
「ターニャ、手伝ってくれるか? ここにあるペットボトルのお水を村のみんなに配るんだ!」
「ハイ、勇者様! ぜひ、私にお手伝いをさせて下さい!」
俺とターニャは手分けをして、コンビニガード達が運んできたペットボトルのお水をマイラ村の人々に順番に配っていく。
マイラ村のみんなは、まだペットボトルの蓋の開け方が分からないみたいだったので。さっき俺が実演をして、キャップの開け方をすぐに理解したターニャと一緒に、みんなに丁寧に説明をしながら手渡していった。
手渡された水のペットボトルの蓋を開けて。
マイラ村の人々は、次々と美味しいお水を口に含んでいく。
「……ゴクゴク。ぷはぁ〜〜っ!! 美味いッ! 何て美味しいんだ、このお水は!!」
「はぁ〜〜!! こんなにも美味しいお水を飲んだのは、私……生まれて初めてよ! 全然濁ってないみたいだし。こんなに綺麗な透明の色をしているお水なんて、初めて見たわ!」
マイラ村の人々が、口々にコンビニのペットボトルのお水に対して、感動の声を上げる。
いやいや、まだまだ本番はこれからなんだぜ。
コンビニが本気を出せば、ここにいるみんなに魅惑の黒い炭酸飲料であるコーラや、メロンソーダだって振る舞う事が出来るんだからな。
更には美味しいケーキのデザートから、高級な肉厚のステーキ肉まで。至れり尽くせりのコンビニライフをたっぷりと堪能して貰う事だって出来る。
そう思って、俺がさっそくコンビニの中にマイラ村の人々を案内しようとしたら……。また横から、村長さんからの文句が入ってきた。
「バッカもーーーん!! 勝手に貴重な水に手を出すんじゃない!!! この愚か者達めがッ!!」
配られたペットボトルのお水に感動をした村人達を叱りつけるように。再び村長さんの、大きな怒声が村中に響き渡る。
何だ何だ……? 今度は一体何なんだよ……?
俺は慌てて村長さんの方に向き直ると。
村長さんは空になったペットボトルのお水を、その両腕に3本も抱え込んでいる。
この短時間に、1人でもう3本も水を飲み干したのかよ? ホント、凄い強欲な爺さんだな……。
「貴重品である水を無計画に飲み干すでない、この愚か者達めッ!! 今ここにある水は、全て村長であるこのワシが管理をさせて貰うぞ! 貴重な水は計画的に消費しないと、あっという間に無くなってしまうのじゃ!! さあ……皆も今、手にしている水を全てワシによこすがよい!」
そう言って村長さんは、プンスカと怒鳴り散らしながら。
マイラ村の村人達が手にしていたペットボトルの水と。コンビニガード達が運んできてくれたダンボールに入っていた水を全て、凄い勢いで回収していく。
「ええっと………」
これには流石に俺も、口を開けて唖然とするしかない。
周りを見てみると。マイラ村の村人達全員も、みんな口を開けたままポカーンとしてその場に立ち尽くしていた。
この村長さん、本当にみんなの総意で選ばれた人なんだろうか? あまりに強欲過ぎで、しかも性格が姑息過ぎて俺は割とマジでドン引きなんだけど……。
村長さんは、おおよそ24本入りの水のペットボトルケースを3箱分を回収すると。
満足そうに笑って、砂の上に腰をおろし。『はぁ〜、ちょっと疲れたわい……』と、更に水のペットボトルを1本ゴクゴクと飲み干し始めた。
「それ、勇者様が私達に下さったものなのに……」
ターニャが小さくボソリと呟くと。
「黙らんかッ! ターニャ!! この村の水は全てワシがモンスーン様より管理を任されておるのじゃ! ワシが計画的に貴重な水を配布していくから、水が欲しいものは全員、ワシの言う事をちゃんと聞く事! 皆もそれで良いじゃろうな?」
「………………」
村のみんなが全員シーンとなってしまう。
さっきまで少し村長さん寄りの行動をしていた者達も、これには流石にドン引いたらしい。
全員が今は白い目で、ペットボトルのお水を全て1人で抱え込んでしまっている村長さんを見つめていた。
アハハ……。
何だかここまでくると、清々しいくらいに痛い性格の爺さんだな……。
でも、まあいいだろう。その水は全て爺さんにくれてやるよ。
「勇者様………」
ターニャが心配そうに俺の腕に抱きついてきたので。俺は安心させる為に、ターニャの頭を優しく撫でてあげた。
「――心配しなくても大丈夫だよ、ターニャ。さっき俺は言っただろう? コンビニには水は『無限』にあるってさ!」
俺はツカツカと歩いて、お水のペットボトルが入ったダンボールの上に腰掛けている村長さんに話しかける。
「ええっと、”そのお水”は爺さんが全て管理するって事で良いんだよな?」
「当然じゃ! このお水は全てワシだけのものじゃ! 村に住む者に計画的に水を配布するのは、村長たるこのワシの仕事なのじゃ! ワシがしっかりと水の管理をせぬと、皆は勝手に無計画にこの貴重な水を飲んでしまうではないかッ! だからワシがこのお水を全部預からせてもらうぞ!」
プンプンとこちらを威嚇するように、怒鳴り散らしてくる爺さん。
エサを抱えた猫が、近づくと『シャーーッ!』って、威嚇をしてくる姿に似ているな。
水の管理を計画的にするとか言ってるけど。その割にはさっき、ペットボトルの水を3本も1人だけで飲み干してたじゃんかよ。おまけに今も、自分だけ水を追加で1本飲んでしまっているし。
とても、この強欲な爺さんが村の水の管理をちゃんと出来るとは思えないけれど……。
「……分かった。じゃあそのお水は全部、爺さんにはくれてやるから好きにして良いよ。ターニャ、村のみんなと一緒にコンビニの中を今から案内してあげるからな! お店には水は無限にあるし。お水以外にも、た〜っくさん異世界の美味しい食品がコンビニには揃っているから、きっとビックリするぞ!」
「ハイ! 勇者様!」
ターニャが嬉しそうに俺の後についてきてくれる。
「な……なんじゃと!? 水が無限にあるとはどういう事なのじゃ?」
「爺さんは、その手に持っている水を好きに管理してくれて構わないからさ。でも、俺のコンビニの中にある水は、俺の自由に使わせて貰うぞ」
強欲村長さんの事は無視して。俺はターニャと一緒にコンビニの中へと向かう。
最初はみんな、異世界の建築物であるコンビニの中に入るのを躊躇してしまうからな。
その辺りは壁外区やトロイヤの街でも、既に経験済みだ。
だからまず、俺の事を信じてくれるターニャにコンビニの中に一緒に入って貰って。コンビニの快適さを、村のみんなに伝えて貰う事にしようと思う。
コンビニの自動ドアが勢いよく開く。
俺とターニャは、砂漠の中にオープンしたコンビニの中へとゆっくりと入っていった。
「……す、涼しい……! 勇者様、この建物の中はとってもヒンヤリしていて気持ちいいです!」
「ああ……コンビニの店内は、エアコンが完備されているからな。常に快適な温度になるように、自動で調節する事が出来るんだ」
「え、エアコン……ですか? エアコンというのは一体何なのでしょうか?」
う……。それを聞かれると俺も少し答えづらいな。
俺な理系の学生じゃないから、エアコンがどういう仕組みで動いているかとか、そういう構造的な部分の事はよく分からない。でもまあ強いて言えば、うん。電気で動いているんだよ。
俺は笑って誤魔化しながら、ターニャにコンビニの店内を案内していく。
商品棚に並んでいるたくさんの種類の商品1つ1つに、ターニャは目を輝かせながら『わあ〜〜!』と感嘆の声をあげていた。
俺はとりあえず、コンビニおもてなしセットとして。電子レンジでチンしてきたチーズハンバーグ弁当と、デザートのチョコレートケーキに、コーヒー牛乳を持ってきて。それをターニャに食べて貰う事にする。
「さあさあ、珍しい異世界の料理にデザートだよ〜! 遠慮しないで、た〜くさん食べていいんだからな!」
「ゆ、勇者様……? この黒くて美味しそうな匂いのする食べ物は一体何なのでしょうか?」
「――ん? ああ、それはハンバーグといって、まあ簡単に言えば『お肉料理』だな。美味しいからぜひ食べてみてくれよ」
「お肉? お肉って何でしょうか?」
「えええええーーっ!? お肉を食べた事がないのか!? ターニャ?」
ウンウンと首を縦に振って頷くターニャ。
ターニャによると、砂漠に住むマイラ村の人々は、砂漠で育つわずかなサボテンの実の部分を食べたり。
青の神官が月に数回だけ持ってくる、わずかな穀物しか食べた事がないらしい。この灼熱の砂漠の中では動物も存在しないから、生き物のお肉を食べるという経験が今までに一度も無かったようだ。
俺はとりあえずコンビニ料理の簡単な説明をして、ターニャにまずはハンバーグ弁当を食べて貰う事にする。
慣れないフォークを手に掴み。とろ〜りと溶けたチーズの乗っているハンバーグを口にしたターニャは……。
……ゴクリ……。
「う、美味いぁぁぁぁーーーい!! このハンバーグというお肉、めちゃめちゃ美味しいですぅぅっ!!!」
頬っぺたを感動で真っ赤に膨らませて。天使のような笑顔で喜んでくれた。
「うんうん、そっちのチョコレートケーキも本当に甘くて美味しいから、ぜひ食べてみてくれ!」
ターニャはもう、遠慮は一切しなかった。
まるで、お菓子で出来た家に入るおとぎ話の子供のように。無邪気に笑いながら、フォークを突き刺すようにしてケーキに突き立てて。一気にチョコレートケーキを丸ごとその小さな口の中に放り込んでいく。
そ、そんなに一気にケーキを食べたら……口に詰まらせちゃうぞ……。
俺は心配そうにターニャの様子を見つめていると。
「キャアアアアーーーーーッ!! 何コレ何コレーーーー!? あっまあああああああ〜〜〜いっ!! 勇者様、凄く美味しいですッ!! ああ、私、あまりの美味しさで頭がおかしくなってしまいそうですッ!」
ビックリするくらいに、大きな声を上げて。
ターニャがコンビニの食べ物全てに、歓喜の叫び声をあげた。
その様子を自動ドアの外から、食い入るように見つめていたマイラ村の人々は、もう我慢出来ない……といった具合で、我先にと一斉にコンビニの中へと押し入ってくる。
「うおおおおおおおおおお!! 俺も俺もッ!! 勇者様、俺にもコンビニの食べ物をぜひ食べさせて下さいッ!!」
「す、凄い……! この建物の中はどうしてこんなに涼しいんだ!? まるで砂漠の夜のように、この中は涼しい温度が維持されているぞ!?」
「ああ、この透明な袋に入っているものは……!? もしかしてパンじゃないかしら? 大昔に一度だけ神官様が持ってきてくれた事があったけど……。ここにはこんなにもたくさんのパンが溢れているなんて!!」
お、おい……そんなに一気に店内に入ってきたら……。
砂漠にオープンしたコンビニの店内は、あっという間にマイラ村の人々で完全に埋め尽くされてしまった。
コンビニがこんなに激混みな状態になったのは、カディナの壁外区の初日オープンの日以来かな? とにかく、もう足場が全くないくらいに人で溢れている。
「み、みんな……! コンビニの商品はまだいっぱいあるから落ち着いてくれ! あ、後……さっきの水もコンビニの倉庫には無限に用意をしてあるから、安心してお水を飲んでくれていいから……」
俺はコンビニの倉庫から、コンビニガード達に運ばせてきた大量のお水のペットボトルが入ったダンボールを、マイラ村の人達に披露をする。
その数はざっと、200ケースくらいはあるかな?
さっき外であの強欲な村長さんと話していた時に、俺はスマートウォッチをコンビニのパソコンに連動させて、約5000本の水のペットボトルを大量に追加発注しておいた。
箱入りの水のペットボトルが、目の前に大量に用意されている光景。それを見た店内のいるマイラ村の人々は、一斉に歓喜の声を上げて、全員で手を取り合いながら喜びあう。
「み、水があんなにもいっぱいあるなんて……!! 信じられないわ!!」
「ああっ……とうとう私達は救われたのだ!! 伝説通り、異世界の勇者様が、砂漠の私達を救いにきて下さったのだわ!!」
「ママーー!! パパーーー!! お水があんなにいっぱいあるよーー!! もう、これからはずっとお水が無くなる事がない生活が出来るんだね!!」
「ああ、もう水不足に困る事はないぞ! これもみんな異世界の勇者様のおかげだ……!!」
コンビニの中で、みんなが喜びの声を上げている中。
俺は事務所のパソコンを操作して。コンビニ支店1号点にいるティーナやアイリーン達と連絡を取ろうとしたが――やっぱりダメだ。全く連絡は取れなかった。
それほどの距離が離れているとは思えないのだけど。
一体どうして、コンビニ支店1号店とは連絡が取れないのだろうか?
コンビニ支店は、俺だけじゃなくコンビニの守護者も自由にカプセルに戻したり出したりする事が出来る。
だからアイリーンがいるから、コンビニ支店1号店に何かしらのダメージがあったとしても、修復する事は可能なはずなんだが……。
みんなはきっと無事だと思いたい所だけど、俺は少しだけ、不安な気持ちになってしまう。
コンビニ共和国とも相変わらず、連絡が取れないし。
ティーナ、玉木……。
頼むからみんな無事でいてくれるといいんだけど……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
砂漠にオープンした、コンビニ支店がマイラ村の人々で大賑わいをみせていた時――。
その外では誰にも見られないように。建物の隅で、不審な動きをする者も存在していた。
「――緑の神官様、ワシですじゃ! マイラ村の村長です!」
白髪頭の男は、手に持っている緑色の小さな石に向かって1人で話しかけている。
『……どうしたのですか? 偉大なるモンスーン様の僕よ』
緑色の石は、突然光を放ち。
その場にはいない、女性の声が光る石の中から聞こえてきた。
「た、大変なのですじゃ! 青の神官様が……異世界の勇者によって倒されてしまったのです!!」
『メフィストが……? それは本当なのですか?』
「本当ですじゃ! 青の神官様を倒した異世界の勇者は、偉大なるモンスーン様の名を汚し。マイラ村で傍若無人に好き勝手な振る舞いをしております! どうか、モンスーン様に逆らう不敬なる者達に、神の神罰を与えて下さいませ……!」
『分かりました。もし本当にメフィストが倒されたのなら、それは魔王同盟のバランスが崩れてしまう大問題です。すぐに、この緑の神官であるソシエラが砂漠の地に出向きましょう』
「ハハーーッ!! 緑の神官様。このワシは最後まで、青の神官様への忠節を守り通しておりましたのじゃ。ですので、モンスーン様の神罰がこの村に下る際には……どうか、このワシの命だけは、お許しを頂けると嬉しいのですが……」
『――大丈夫です。偉大なる砂漠の神様を信仰する者には、モンスーン様は常に寛大です。安心してその場で待機をしていて下さい。そこにいる異世界の勇者の情報を、これからも逐一私に報告して下さいね、モンスーン様の忠実なる僕よ』
「ハイ……ぜひ、お任せ下さいですじゃ! このワシがコンビニの勇者の弱点を探り出してみせますのじゃ! 必ずや緑の神官様のお役に立たせて頂きますので……どうかこのワシにだけは、寛大な処置をお願い申し上げます……」
マイラ村の村長は、懇願するように緑色の小さな石に向かって話しかける。
そして、緑色の光る石は輝きを失い。
やがて何も光らなくなった。