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第百四十話 幕間 コンビニ共和国への総攻撃


「我々にコンビニの魔王の本拠地へ、総攻撃をかけて欲しいですと……?」



 ロジエッタの提案した内容に、会議場にいる首脳達全員が一斉に困惑の表情を浮かべる。



 コンビニの魔王の元には、まだ未確認ではあるが……。かつてグランデイル王国に召喚された異世界の勇者達のうち。魔王討伐には役に立たないと戦力外認定された3軍の勇者達が、今もコンビニの魔王の(そば)に付き従っているという噂がある。


 彼らは魔物との戦闘には役に立たない勇者達であった為、グランデイル王国はその無能な勇者達を王都の中に放置して、何もさせずに住まわせていた。


 だが、コンビニの魔王はその役立たずの3軍の勇者達を……まとめてグランデイルの王都から強引に連れ去り。どこかに連れて行ってしまったらしいのだ。



 彼らが今……一体どこで、どうしているのかは誰にも分かっていない。


 もしかしたら魔王によって、自らの忠実な配下になるようにと邪悪な洗脳をされ。彼の忠実な配下に成り果てているのではないかという悪い噂が、世界中の首脳達の間には密かに流れていた。


 だとすれば、例え彼らが役立たずの3軍の勇者達だったとしても。

 少なくとも異世界の勇者としての能力(スキル)を持つ能力者が数名以上は――コンビニの魔王陣営に加わっている事となる。その者達が今後、人類に対して敵対的な行動を取ってくる可能性はかなり高いだろう。



 もし、コンビニの魔王の本拠地を叩くとなれば。その洗脳された勇者達とも、戦う事になるに違いない。


 そう考えると、ロジエッタの提案するコンビニの魔王の本拠地への遠征作戦は……全く無傷で済むという保証はまるで無い、かなり危険な任務になりそうだという事が予想をされた。



「グランデイル王国のロジエッタ様のお申し出、カルタロス王国は、喜んでお受け致しましょう!」



 そう最初に口火を切ったのは、会議の司会でもあるカルタロス王国の新女王サステリアであった。


 世界各国の首脳達が驚きの目を持ってサステリアを見守る中、サステリアはグランデイル王国のロジエッタの発言を支持すると――高らかに宣言をする。



「グランデイル王国が自国の騎士団を総動員して、危険な魔王領に侵攻されるという宣言に……私は大変、感銘を受けました。私も含めて、おそらくどの国の首脳であっても、危険な魔王領へ遠征をしようなどとは決して思わなかった事でしょう。それをクルセイス様はなんと、自らが直接陣頭指揮を取って行おうとするなんて……。そのような危険な任務を、グランデイル王国1国だけに押し付けてしまう訳には参りません。カルタロス王国もぜひ、世界の平和と安定の為にお役に立ちたいと思っております!」


「しかし、新たに魔王になったというコンビニの魔王の下には、一体どれだけの戦力がいるのかは全くの未知数ですぞ! そのような状態でこちらから迂闊に手を出すのは、あまりに危険過ぎるのでは?」


「うーむ……。だが、コンビニの魔王が今、魔王領の中にいるのだとしたら。逆に残っている配下の軍勢はかなり少数という可能性もあり得るぞ。コンビニの魔王を信奉(しんぽう)している住人達というのも、おそらく数はそんなに多くはあるまい。だからまだその戦力が整わぬうちに、こちらから総攻撃を加えて敵を突き崩すという作戦は、戦術的には間違っていないとも言えるな」



 会議場の首脳達は、隣の席に座り合う他国の首脳達と互いに意見を交わし合う。


 おそらくはここに居並ぶ首脳達は、まだ未確認なコンビニの魔王の勢力に対して。積極的に自分達の軍を派遣して、わざわざ危険な目にあいたいとは思っていないだろう。


 先のミランダ領での戦いでも、既に多くの被害と犠牲者が各国の騎士団に出ている以上――。

 これ以上の損害や、遠征による軍事費用の出費は出来れば抑えたい……と、皆が心から願っていた。



 だが、その一方で……。たしかにグランデイル王国1国だけに、魔王退治の全てを任せてしまうというのは、道義的にも体面が良くない。


 もし、グランデイル王国に所属している異世界の勇者が、期待通りに魔王を打ち破って見せた場合。


 魔王退治に国家の全ての兵力を総動員し。女王自ら危険な魔王領に直接出陣したというグランデイル王国の評価は、否応(いやおう)なくを鰻上(うなぎのぼ)りとなってしまう事が想像出来る。



 危険をかえりみずに、自分の命を危険に晒してまで、魔王領へと乗り込んだ勇気あるグランデイル王国の女王。

 もしかしたら、その評判は魔王を倒した異世界の勇者よりも。遥かに高いものになるかもしれない。


 もちろん危険な魔王領に飛び込むのだから、クルセイスが生きて帰れる可能性の方が、遥かに低い事は間違いないのだが……。


 それに対してグランデイル王国以外の国々は、世界平和の実現に何も貢献しなかったと人々から噂されたり。平和になった後の世界で、後ろ指を指されたりするような状況だけは回避したかった。



 その事を考慮すると、魔王領に直接侵攻するという危険な任務を請け負うよりも――。

 コンビニの魔王の手下達が集う本拠地に軍を送って。そこを制圧したという実績をあげる方が、世界平和の為に貢献したという、立派な大義名分を得る事も出来て得なのかもしれない。


 何よりその方が遠征の負担や費用も少なく、犠牲も最小限で済みそうだ。


 ここはグランデイル王国のロジエッタの提案に乗り、コンビニの魔王の手下達が集う場所に騎士団を派遣した方が得なのではないか?



 各国の首脳達は頭の中で計算をして、丁度そのように考え始めていた、その時――。



「――良ろしい! では、コンビニの魔王の配下達が集結している場所への攻撃は、このカルツェン国王カール・グスタフにぜひお任せ頂こうではないか! この世界に危険を及ぼす危険分子共を、我らカルツェン王国軍が見事に蹴散らしてみせましょうぞ! ガッハッハ!」



 またしても、真っ先に出兵の意志を表明したのは――カルツェン王国のグスタフ王であった。


 計算高いグスタフ王は、ロジエッタの願いを真っ先に引き受ける事で、カルツェン王国は世界の平和に対して、ちゃんと果たすべき責任を請け負ったのだ……という証明を確保する事に決めたらしい。



「カルツェン王国が軍を派遣なされるのであれば、我らも遠征にぜひ参加させて頂きたい! コンビニの魔王を慕う信奉者の中には、我がカディナ商業自治領の壁外区から逃げ出した住民達が多く混ざっていると聞きます。その疑惑を払拭(ふっしょく)する為にも、カディナ自治領からも街を守護している自警団を派遣させて頂きましょう!」


「私達、カルタロス王国も世界の平和と安定を願う気持ちは変わりありません。カルタロス王国は農業国ゆえに、他国に比べて屈強な騎士団を所持しているという訳ではありませんが……。私達の国に出来る範囲で、カルツェン王国軍の援護をぜひ、させて頂きます!」



 グスタフ王の参加表明に、世界の首脳達が一斉に呼応をする形で。

 カルタロス王国のサステリア女王を始めとして、世界各地の商業連合や自治領主達も、次々とコンビニの魔王の本拠地への軍の派遣を決定していった。

 


 この会議に出席をしている世界の首脳達は皆、魔王領への遠征という危険な任務と、コンビニの魔王の手下達の討伐――という任務の危険度と軍事負担をそれぞれの頭の中で天秤にかけてはかり。


 未確認ながら、まだそれほどの戦力は無いと予想される、コンビニの魔王の本拠地への討伐作戦に参加する選択肢の方が良いと判断したのである。



「あらぁ、あらぁ、あらぁ〜〜!! 皆様、本当にありがとうございますぅ〜! 心から感謝をさせて頂きますわ! これでワタシ達グランデイル王国軍は、背後の危険を気にする事なく。真っ直ぐに魔王領への遠征に出撃をする事が出来ますわ。これこそまさに、この世界会議の成果ですわねぇ! 世界の国々が協力し合って、憎き魔王を一緒に撃退しようじゃありませんか! おーっほっほっほっほぉ〜!!」



 グランデイル王国のロジエッタが、薔薇の扇子を仰ぎながらその場で高笑いをした。


 そして世界会議に出席をしている各国の首脳達を見回しながら、ニヤリと怪しげに微笑む。


「では〜、今回の遠征には世界中の全ての国々がご参加して頂けるという事で良いのかしらぁ〜? 先程からあまり会議の進行に乗り気ではないように見える、バーディア帝国の皇帝陛下と、ドリシア王国のククリアお嬢ちゃんも……。コンビニの魔王の手下達の討伐作戦には協力をして貰える、という事で良いのかしらねぇ〜?」



 ロジエッタは、会議の席に座りながら。何も反応を示さない2人の首脳達に対して……。ニヤリと笑みを浮かべたまま問いかけた。



 それに対して、バーディア帝国皇帝のミズガルドも。


 ドリシア王国の女王のククリアも。



 互いに言葉を発さずに無言のまま。何も返事を返そうとはしない。


 世界中の首脳達も、まだ旗色(はたいろ)と態度を明らかにしようとしない2人の首脳に対して、一斉に注目する。


 静かな沈黙が会議場を支配する中で、先に口を開いたのは……バーディア帝国皇帝のミズガルドの方だった。



「コンビニの魔王には、我がバーディア帝国も多少の因縁がある。先のミランダでの戦闘において、諸国から集った騎士連合に多くの被害を与えたのは……我がバーディア帝国が引き連れてきた魔王遺物の兵器によってである。コンビニの魔王によって、魔王遺物を操られてしまったとはいえ、我がバーディア帝国の道義的な責任も(まぬが)れまい。それらの因縁を果たす上でも、今回のコンビニの魔王の本拠地への総攻撃には、我ら帝国軍も参加をさせて貰おう。ミランダ領に駐留する軍と合わせて、本国からも更なる増援部隊を派遣させる事にする。ここでコンビニの魔王の勢力を一気に、叩き潰すのだ!」



『『おおおおおおーーーっ!!!』』



 会議に出席をしている、各国の首脳達が一斉に歓声を上げた。



 ミランダ領での戦闘において、帝国はその損害が他国に比べて最も軽微だったという事もあるが……。

 事実上、その経済規模や軍事力においても、バーディア帝国は今現在、この世界で最も力のある大国といえる。


 その帝国軍が、今回のコンビニの魔王の勢力を一掃する作戦に参加してくれるというのであれば――。他国の首脳達にとっても、これほど心強い事は無かった。


 この世界における最大の軍事大国が、最強の騎士団を出兵してくれるというだけで。世界中の国々は心の底から安心感を得る事が出来たのである。



 ”パチパチパチパチパチパチパチ――”



 帝国の皇帝ミズガルドの出兵宣言に対して、会議場の首脳達からは、一斉に歓迎の拍手が湧き起こった。

 


 ここにいる全員が、人類社会の共通の敵と向かい合っていくのだという団結心を確認し合う中――。


 唯一、この場でまだ、その態度を明らかにしていない王国の女王が存在している。


 グランデイル王国のロジエッタは、上からマウントを取るようにして、その幼き外見の女王に対して呼びかけた。


「あらぁ〜、あらぁ〜、あらぁ〜? こんなにも世界中の国々が一つにまとまる一体感に溢れた感動ムードの中なのにぃ。まだ1人だけ、ダンマリを決め込んでいる女王様が存在しているのぉ〜? まさかこの素晴らしい連帯感に水を差すような無粋(ぶすい)な行動をしたりはしないわよねぇ、ククリアお嬢ちゃ〜ん?」



 ロジエッタはニンマリと笑顔を浮かべて。

 ドリシア王国の女王、ククリアに対して声をかける。



 ――対するククリアは、世界各国の首脳達の視線が自身に集中している事を知りながらも。

 普段とまるで変わらない、落ち着いた声色で返答した。



「ドリシア王国は、今回の遠征作戦には参加致しません。世界各国の連合軍が、エルフ領の先に広がる土地に向かう事は構いません。ですがそれに対して、ボクは一切の支援も致しませんし。援軍も送るつもりは全くありませんので、皆様で勝手にされたら良いかと思います」



 ククリアが発した言葉に、会議場全体が一斉に凍りつくように静まり返った。


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― 新着の感想 ―
[一言] ククリアはこの状況で度胸あるなー!
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