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第百三十九話 幕間 世界会議③


 グランデイル王国代表のロジエッタが、突然発表した内容に――。世界会議に参加していた、全ての首脳達が驚愕する。



「じゅ……10万人だと!? バカな!! それはつまり、グランデイル王国に所属する全ての騎士団を、総動員するという事になるではないか!」


「そうだ! 先のミランダ領での戦いでも、グランデイル軍は既に多数の犠牲者を出しているはず……。その上でなお、10万人もの大兵力をかき集めるとなれば、王国領土に駐留する全ての騎士団を総動員しなければ、それだけの数は集められないはずだ」



 会議場に居並ぶ各国の首脳達がざわざわと、口々に驚きの声を上げてざわめき立った。


 グランデイル軍は既にミランダ領での戦いで、黒い戦車隊の砲撃を受け多数の犠牲者を出している。


 しかも、コンビニの魔王討伐に駆けつけたグランデイルの増援部隊も。彼を擁護するドリシア王国の騎士団との戦いに敗れて、ほぼ壊滅させられていた。

 ……という事は少なくとも、このミランダでの戦闘だけで数万人近い被害を、グランデイル王国は既に出しているのだ。



 それなのに、この薔薇の服を着たロジエッタという女は、グランデイル王国は10万人もの兵力を魔王領遠征に総動員すると、今……高らかに宣言をしたのである。



 それではグランデイル王国は王都を守る守備兵から、アッサム要塞の駐留軍まで。

 果ては国境を警備する、各地の守備隊に至るまで、王国が持つ全兵力を総動員すると宣言しているようなものではないのか……。



「ロジエッタ様。魔王退治の為に魔王領へ侵攻するという、グランデイル王国のご覚悟は大変嬉しく思います。ですがなにもグランデイル王国1国のみで、遠征をされなくても良いのではないでしょうか? この世界会議はその為に開かれたのです。もし他国の援軍が必要でしたら、ここにいる皆様と一緒に話し合い。魔王領への遠征に必要な軍事負担の分配を協議する事も出来るはずです。ですので、グランデイル王国のみが遠征の出費と犠牲を、単独で強いられる事はないと思いますが……」



 互いに顔を見合わせて驚愕する首脳達を代表して。


 会議の司会でもあるカルタロス王国のサステリアが、グランデイルのロジエッタに対して、最初に口を開いて問いかけた。



「あらぁ、あらぁ、あらぁ〜〜!? ワタシ達以外の一体、どこの国がこの無謀な魔王領への遠征作戦にお付き合い頂けるのかしらぁ〜? もしそんな勇敢な国があるのなら、ぜひこの場で名乗り出て貰いたいですわねぇ? もし、ワタシ達とご一緒に来てくれる国があるのでしたら、グランデイル王国は大歓迎ですわよぉ〜!」



「………………」


 途端に、一斉に静まり返る会議場内。


 ロジエッタが提案した、魔王領への遠征作戦に参加しようと進んで手を挙げる国は……。この会議場のどこにも存在しなかった。



 それだけ世界中の国々は、魔王領の恐ろしさを知っているのである。


 太古の昔から『魔王』は常に魔王領から出現し、大陸の東側で暮らす人間の住む国々に襲いかかって来た。

 凶悪な魔物達で溢れかえり、人が決して侵入する事の出来ない禁忌(きんき)の危険領域。それが魔王領だ。

 

 長い歴史の中で、魔王領から突然現れて人間達に害を成す『魔王』という存在を――この世界の国々は、異世界から勇者を召喚する事で撃退し、世界の平和と安定を守ってきた。


 だが……例え魔王を異世界の勇者が倒し。数百年ほどの間、この世界に平和が保たれたとしても……。


 いつかは魔王領から別の新たな『魔王』が出現してきて暴れ回ってしまう。


 魔王が誕生する仕組みについては、公式には不明とされているが……いつかこの世界の未来に訪れるであろう危機を回避する為に。

 世界中の国々が団結をして、大規模な遠征軍を魔王領に向けて派遣したという事実も、過去の歴史の中では数回ほどあったらしい。



 しかし、その結果はことごとく失敗に終わっている。



 かつて魔王領に侵攻した世界連合の遠征軍は、今までに一度も生きて戻ってくる事はなかった。


 逆に普段は魔王領の奥地に生息する凶悪な魔物達が、侵入した遠征軍に対する報復として。

 魔王領の境界線付近に点在する国々や街に対して突如として襲いかかり、深刻な被害や破壊を受けたという事実さえあった。


 そういった、歴史的な経緯も踏まえて。


 世界の国々にとっては、魔王領は決して踏み込んではならない、禁忌の土地として扱われてきたのである。



「ほぉ〜らぁ〜! だ〜れも、わざわざワタシ達と一緒に魔王領への遠征に参加をしたい〜! なんて表明をする国は無いみたいじゃない〜。……でも、ワタシ達は最初からあなた達に期待なんてしてないから、心配しないでね! 魔王領にいる魔王は――ワタシ達、神聖なるグランデイル王国と、それを直接指揮する偉大な大クルセイス女王陛下がちゃ〜んと討伐してみせるから! だからみんな安心して、ワタシ達の帰還を待っていて頂戴ね〜!」


「なんと……!? それではクルセイス殿も直接魔王領へと(おもむ)く言うのか!? それはあまりにも無謀が過ぎる! 女王を含めグランデイル王国軍はことごとく全滅をしてしまう危険性もあるではないか! もし、そんな事になったら。残されたグランデイル王国の領土とその国民は一体、どうされるおつもりなのか?」


「あ〜らぁ〜? もしグランデイル王国が空っぽになったら、その時はここに集まっている皆さんにとって大チャ〜ンスじゃないの! 無人になったグランデイル王国領を好き放題に占領して、やりたい放題じゃない〜? そういうのみんなだ〜い好きなクセに、うんうん、遠慮なんかしなくて良いのよぉ〜!」


「……とても国を代表して、世界会議に出席している者の発言とは思えない口ぶりですね。失礼ですが、ロジエッタ殿。あなたは本当にクルセイス様からグランデイル王国の全権を委託されている、代弁者だと信じても良いのでしょうか? ボクには到底、あなたがグランデイル王国を代表している者とは思えないのですが?」



 会議の様子を黙って聞いていた、ドリシア王国のククリアが口を開いた。

 ククリアの言葉に、世界各国の首脳達も首を縦に振って頷きあう。


 それほどまでにロジエッタの発言は、とてもグランデイル王国の代表者の言葉とは思えない内容であり。そしてそれは、にわかには信じがたい発言ばかりであったからだ。



「あらぁ〜あらぁ〜? 可愛いククリアお嬢ちゃんはワタシの言葉の真偽を疑うのかしらぁ〜? 別に良いのよぉ〜! この会議が終わった後で、正式にグランデイル本国に早馬を走らせて。ワタシの発言の真意を確かめに行ってもぉ〜。ワタシは偉大なる大クルセイス女王陛下から託されたお言葉を、そのまま皆様に伝えているに過ぎないのよぉ。だからワタシが発する言葉は、そのまま大クルセイス女王陛下のお言葉だと思って欲しいわねぇ〜?」



 再びざわざわと、ざわめき合う会議場。


 世界各国の首脳達は、このグランデイル王国からの提案をどのように受け止めるべきなのか。

 それが自国にとってどのような利益となるのかを検討し始める。


「――なるほど。では、本当にグランデイル王国は自国が所持している異世界の勇者全員と。持てる兵力の全てを総動員して、魔王領に逃げ込んだ魔王の討伐作戦を行うという訳なのですね? 流石はクルセイス様ですね。凡人のボクには到底理解はしかねますが……。奇抜な行動をされるのが本当にお好きな方のようです。ですが、そこまでして魔王討伐を行おうとするクルセイス様の真意は一体何なのでしょう? もし失敗をすれば、自国の領土は全て完全に無防備な状態で晒されてしまう危険があるというのに」



 ククリアから尋ねられたロジエッタは、薔薇の扇子を仰ぎながら高らかに笑い声を上げる。


 それはこの会議場全体に響き渡るほどに、とても大きな声だった。



「おーっほっほっほぉ〜〜! それはひとえに大クルセイス女王陛下の責任感の強さなのよ! 異世界の勇者の召喚に成功した国として。魔王を討伐する責務を大クルセイス女王陛下は感じておられるのよ。今回のミランダ領の戦いでも、改心した『不死者(エターナル)』の勇者様が敵の緑魔龍公爵(グリーンナイトメア)を無事に倒し、魔王軍を撤退させるという大快挙を成し遂げてくれましたわ……! まさに不死者の勇者様は、今やこの世界にとっての希望の星なのです。責任感の強い大クルセイス女王陛下は、持てる戦力を総動員して。彼と共に、この世界を救う為の責務を最後まで全うしようとされているのよぉ〜! ああ……本当に何て聡明で美しくて、立派な(こころざし)をお待ちのお方なのかしら〜!」



 ロジエッタはわざとらしく、シクシクと目から大量の涙を流してみせた。そして、さも心から感動をしているように、大袈裟な素振りを皆の前で披露する。



 ミランダの戦闘において敵の緑魔龍公爵(グリーンナイトメア)を倒したのは、グランデイル王国に所属している『不死者(エターナル)』の勇者という事に公式的にはされていた。


 それは世界を陰から操る女神教としても、魔王となってしまったコンビニの勇者が、緑魔龍公爵を倒したと世界に公表をする訳にもいかなかったから、という事情もある。


 その結果、妥協点として。今は敵対をしている女神教と、グランデイル王国ではあるが……今回は互いの利害が一致をした結果。緑魔龍公爵を撃破したのは不死者(エターナル)の勇者の倉持悠都(くらもちゆうと)である、という事にして世界中には発表していたのであった。



 世界の叡智とも呼ばれる聡明なククリアは、ロジエッタが披露する胡散臭(うさんくさ)い演技などには、決して騙されたりはしないが……。


 会議に出席している各国の首脳達の中には、まんまとロジエッタの発言に感化されて。一緒に貰い泣きをしてしまう愚かな者も、少数だが存在した。


 もちろん、ここに集まっている者達はそれぞれの国を代表する世界中の王族や首脳達である。

 グランデイルのロジエッタの発言を、そのまま素直に受け止める事はせずに。その裏に隠された魂胆や、グランデイル王国の本当の思惑を疑おうとする者がほとんどであった事は間違いない。



「ロジエッタ殿の発言に、このカルツェン王国のカール・グスタフ。大変感銘を受けましたぞ! ここにはおられないグランデイル王国のクルセイス殿の世界平和への責任感の強さに、心より感謝の意を表明させて貰いますぞ!」



 グスタフ王が突然、席から立ち上がり。

 両手を叩きながら大きな拍手をロジエッタに送った。



 すると……グスタフ王の拍手に釣られて。世界各国の首脳達も、その場で席から順番に立ち上がり、拍手の()に参加していく。


 やがて万雷の拍手の音が、会議場全体にゆっくりと広がっていった。



 ”パチパチパチパチパチパチパチパチ″



 いつの間にかに、世界会議に出席するほぼ全ての代表者達が、こぞって背筋を伸ばして起立し。グランデイル王国代表のロジエッタに対して、大きな拍手をしている。


 ここにはいない、グランデイル女王クルセイスの決断と勇気に対して。世界中の国々が敬意を表するという、謎の雰囲気が会議場全体には広がっていた。



 席から起立をせずに、拍手の輪に参加をしなかったのは……。 

 ドリシア王国の女王ククリアと。バーディア帝国皇帝のミズガルドと、その側近達だけであった。



 拍手の輪に加わった者達も、決して心からグランデイル王国の決断を褒め称えた訳ではない。


 一番の年長者であるカルツェン王国のグスタフ王の行為に、ただ歩調を合わせただけという者も、もちろんいたのだが……。


 この会議に出席をしているほぼ全ての国々が、実は魔王領に逃げ込んだ魔王を討伐するという事に対して、最初からあまり興味が無かったのである。



 たしかに、魔王領に逃げ込んだ魔王軍が――いつかはその勢力を取り戻して。再び東の人間領に侵攻してくる可能性は十分にある。


 だが、いったん魔王領に逃げ込んでしまったのであれば……。もう、こちらから手を出す事は出来ないだろうと世界中の国々は既に諦めていた。


 この会議に参加をしているほとんどの首脳達も、魔王対策について、既に結論とも言えるべき答えを……ほぼ会議に参加をする前から頭の中で用意していた。


 それは魔王軍が魔王領に逃げ込んでしまっている以上……こちらからはもう手を出す事は出来ないという事。であるならば、魔王領との境界となる近隣の地域に防衛拠点を設置して。そこで守りに徹するしかないと世界中の国々は考えていたのだ。



 しかし、もちろんそのまま魔王に対して、何も対策をしないという訳にはいかないだろう。


 それならば、緑魔龍公爵(グリーンナイトメア)を倒したほどの実力がある異世界の勇者――不死者(エターナル)の勇者を抱えるグランデイル王国に、魔王領にその勇者達を派遣して貰い。あわよくば、異世界の勇者に魔王を退治して貰おうと、世界の国々は内心では考えていたのである。



 つまりは自分達の国が、危険な目に遭うような事はせずに。

 全てを異世界の勇者を抱えているグランデイル王国1国に任せてしまおうと、元々水面下では画策を進めていたのである。



 それが……予想に反して。グランデイル王国がむしろ積極的に自国にいる全ての騎士団を総動員して。異世界の勇者と共に、魔王領へと乗り込んでくれるというのだ。



 この事は、他国の首脳達にとっては実に好都合な事であった。仮に異世界の勇者が期待通りに、魔王領の中で魔王を倒し。グランデイル王国がその功績を誇り、今後の世界の覇権を狙おうと動くのならば――それはとても厄介な事になる。


 だが、自国の騎士を全て魔王領に送り込むというのならば……。強力なグランデイル王国軍とて、決して無事には済まないであろう。

 そうなれば、例え魔王を倒してもグランデイル王国の軍事力は実質的にボロボロになるのは間違いない。


 もしグランデイル王国が魔王を倒した功績を誇ったとしても。その時には、魔王退治で弱りきっているグランデイル軍など……後でどうとでも押さえ込める。



 そのような、ずる賢い計算が頭の中で既に出来ていたからこそ。計算高い策略家でもあるグスタフ王は、真っ先に大きな拍手を送り。グランデイルのロジエッタの言葉を、この場で盛大に褒め称えたのだ。



 クルセイス女王の決断と勇気に感謝の意を表明する……と口には出しておきながら。


 自国もグランデイルと共に戦い、魔王領に援軍を送りますとは決して提案しない。



 そんなグスタフ王の思惑を、世界各国の首脳達も共に拍手をしながら少しずつ理解していき。


 世界の首脳達は万雷の拍手をしながら、自国の負担を強いられる事なく。グランデイル王国が全ての犠牲を引き受けてくれるという事を皆、心の中で密かに喜びあっていたのである。



 そして、そんな世界中の国々の思惑をしっかりと理解しながらも。この鳴り止まない万雷の拍手の雨に、心底呆れているドリシア王国のククリアと。


 最初から全てを下らないと見下しているバーディア帝国の皇帝ミズガルドだけは、目線を下にしたまま。何も言葉を発さずに、事態の推移を静観していた。



 グスタフ王から称賛の拍手を受け、他の王族や各商業都市の首脳達からも万雷の拍手を浴び。


 グランデイル王国のロジエッタは、満足そうに微笑みながら立ち上がると。

 この世界会議に居合わせている全員に対して、優雅に薔薇の扇子を仰ぎながら頭を下げる。



「皆さま、本当にありがとうございますわぁ〜! この場には出席しておりませんが、ワタシの偉大な主人(あるじ)である大クルセイス女王陛下も、とてもお喜びになられると思います。主人に変わりまして、深く感謝の意を皆様にワタシから表明をさせて頂きますわぁ〜!」



 各国の首脳達に感謝を伝えたロジエッタは、会場の拍手が鳴り止んだ後で――。


 今度はここにいる全員にとっても、思いがけないような提案を急に持ちかけたきた。



「……実は、ワタシ達グランデイル王国は魔王領に篭る魔王退治にこれからおもむく訳ですが……。その間に皆様にも、一つだけお願いしたい事があるのです。つい先日、グランデイル王都はコンビニの魔王の配下の者と思われる者達から襲撃を受けました。幸い王都の防衛システムは、襲撃してきた魔物達とその侵入者の排除に成功しました。ですが、魔王領へ侵攻するグランデイル軍の背後を、コンビニの魔王の配下の者達によって、再び襲われたくはないのです〜」



 ロジエッタの話を、真剣に聞き入る各国の首脳達。


 もはや彼らにとっては、この世界会議の結論は決まっている。だから後は気楽な気持ちで、ロジエッタの話に耳を傾けていれば良かった。



「ワタシが内々に掴んだ情報によりますと、コンビニの魔王を崇拝する人々と、その配下の者達が何とエルフ領の森を抜けた場所に集結しているというのです! 後顧(こうこ)(うれ)いを断つ為にも、この不届き者達をぜひ、グランデイル軍にに代わって……世界各国の皆様の連合軍で撃退をして頂きたいのですわ〜!」

 

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[一言] 無知蒙昧なる異世界の蛮族どもがコンビニ帝國に矛を向ける気とは身の程を知るべきですねw
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