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第百三十四話 コンビニ共和国の建国開始


 沢山の住民の居住スペースを確保し。

 おまけに最強の防衛システムまで兼ね揃えた、無敵の『コンビニマンション』を合計で3棟。


 魔王領から近い、美しい自然の溢れている場所に建設をしてから……おおよそ1週間が経過した。



 その間も、魔王領からは断続的に空中飛行型の魔物による襲撃もあった。


 しかしそれらの襲撃は、超火力を誇る無敵のコンビニマンションの対空防御システムによって。ことごとく一瞬で迎撃されている。



 更にコンビニ共和国の地上部分には、現在は高さ5メートルを超える防壁も設置されている。

 

 『防御壁(アーマー・ウォール)』の勇者である四条京子(しじょうきょうこ)の活躍によって、外部から街への侵入を防ぐ防壁網も無事に完成した。


 コンビニ共和国の空には、監視ドローン部隊が常時配置され。

 周辺の索敵と偵察力を強化し、更には防壁の外には等間隔に配置した機械兵のコンビニガード達による、鉄壁の防衛システムが完成している。



 そのおかげもあって、コンビニ共和国の平和は今日も安全に保たれているという訳だった。



 そんな、あまりにも平和過ぎる日常の中で。


 コンビニ共和国の暫定首相でもある俺は、一体どう過ごしていたのかというと――。



「――旦那! 壁外区の住人達の、コンビニマンションへの移住が完全に終わったみたいですぜ!」


「おう、ザリルか。ありがとう、助かったよ!」



 超巨大建築物であるコンビニマンションに、3方向から囲まれているコンビニ共和国の中心地。

 そこにはコンビニ本店と、暫定の国会議事堂(石のレンガで作り上げた小さな即席会議室)が置かれている。


 俺はその会議室の中で、レイチェルさんと通話をしながらコンビニ共和国の運営基盤を整える為の整理作業をこなしていた。



「……で、旦那? 共和国の貨幣制度と、国民に課す勤労の義務についての草案はまとまったんですかい?」


「ん? ああ、一応は作ってみたんだけどさ。これって本当に必要なのか? 壁外区のみんなはほとんど、裸一貫の状態でここまで来てくれたんだし。コンビニの商品は、当面は無料提供でいいんじゃないかなって、俺は思ってるんだけど?」


 コンビニ共和国の暫定の通商担当大臣兼、財務担当大臣にもなっているザリルには、コンビニという能力の仕組みについて、ある程度の情報共有をしておいた。


 その上で、現在の共和国の財政事情についてを理解したザリルは、マンションに移り住んだ3000人の新たな国民に対して。

 コンビニの商品を購入する際には、対価としてのお金をちゃんと取る事と、全員に国内で仕事をする義務を与えるべきだと、俺に提案をしてきていた。



 ザリルがあまりにもしつこく提案してくる、その内容の詳細とは、



 ――1つ。


 コンビニ共和国の貨幣は、この世界の標準貨幣をそのまま使用する事。これは今後、他国と貿易をしていく上でも統一しておいた方が得になる為だ。


 ――2つ。


 コンビニ共和国に住まう、全ての国民には勤労の義務を課す事。

 その対価として国が国民に給料を与えて、国内だけで貨幣の循環が出来るようにする事。



 俺としては、コンビニから無限に商品は生み出せる訳だから。まあ、遠い将来の事ならともかく。

 今現在はまだ、生活基盤が整っていない状態のコンビニ共和国の中で、マンションに移り住んだ壁外区のみんなから、お金を取って商売をすべきではないと思っていたんだけどな。


 もちろん、ずっとタダ飯を食べさせるというつもりはないけどさ。


 でも、ザリルはしつこいくらいに俺にコンビニの商品の国民への無償提供はすべきではない、と強く提案し続けてきた。



 元々コンビニ共和国の財政だって、そんなに潤沢じゃないんだぜ? 


 せいぜいトロイヤの街で商売をした時に、稼いだお金くらいしかうちには残ってない状態だ。それも最近は全て、異世界ATMに預けているから、外に出せるようなお金なんてほとんど残ってない。


「だ〜か〜ら〜、旦那はすぐに足元を見られるんですぜ? いいですかい、オレは別に金を稼ぐ為に、コンビニの商品を無料でマンションの住人達に提供するなって言ってる訳じゃないんです。そもそも論ですがね、旦那はコンビニを慕ってここに集まってきた約3000人の住民達が、みんな本当に『良い人』達ばかりだと思っているんですかい?」



 ザリルが睨みつけるようにして、俺を見てくる。


 元々、顔つきが悪いんだし。そういう凄むような顔は俺の前だけにしておけよな。


「お前は一体、何を言ってるんだよ。ここに来てくれたみんなは、俺が壁外区にいた時によくコンビニに通ってきてくれた常連さん達ばかりなんだぞ? それにあの地竜のカディスを倒した時に、罠を作るのにも進んで協力してくれた若い連中や、その家族達ばかりじゃないか。カディナの街でコンビニに対する風当たりが強くなった時も、俺の事をずっと慕ってくれてたんだから、良い人達に決まってるじゃないか」



 ザリルは俺の返答を聞いて。ニヤニヤと俺の顔を見ながら、うすら笑いを浮かべてやがる。


 ああ、そういえばこいつはいつもこんな顔をして。俺が無知を晒すと、にやけ顔で嘲笑(あざわら)うような奴だったな。



「へぇ〜、それじゃあ聞きますがね? 旦那には、オレが『良い人』に見えたりするんですかい?」


「いや、全然! 1ミリたりともそうは見えないな。過去に数十人くらいは、人を殺していそうだし。怪しげな商売も裏でいっぱいしていそうだし。俺にはお前が、人相通りの極悪人に見えているぞ」



 俺があまりにもキッパリと断言をしたからか。

 ザリルは一瞬だけ、その悪人顔をキョトンとさせると。


 その場で両手で腹を抱えなら、大笑いを始めた。


「あっはっはっ〜! それは間違いないないですぜ、旦那! そうですよ、オレの事に対してだけはちゃんと人を見る目があるじゃないですか! ならそれと同じ事です。ここに集まった壁外区の住人達全員に対しても、無条件で信用をしたら駄目って事をオレは言いたいんですぜ!」


「壁外区のみんなを、信用するなってどういう事なんだよ? そもそも、その住民達をわざわざここまで連れてきてくれたのはお前なんじゃないのか? 自分で連れてきた住人達を信用してはいけないって、お前は言っている事と、行動が矛盾をしてないのか?」


 まあ、確かに3000人近くもここには人がいる訳だしな。


 俺だってもちろん、全員の顔全てを正確に憶えている訳ではない。ただ、あの頃よくコンビニに来てくれていた常連のお客さんの顔が多くこの中に混じっているな、くらいの面識しかないのは事実だ。


 そうか。もしかしたら、女神教やグランデイル王国に通じている怪しい者が、この中に混ざっている可能性があるとザリルは言いたいのだろうか?


 俺の表情を見て。俺が頭の中で考えていた事を察したザリルは、首を左右にゆっくりと振ってそれを否定してみせた。


「違うんですよ、旦那。……まあ、もちろんそういう可能性も全く無いとも言い切れませんがねぇ。オレが言いたいのはもっと違う事なんですよ。人間は本質的には打算的な存在なんです。だからその善性の部分だけで、全てを信用してはいけないって言いたいんですよ」


「人間の善性を信じるなってのは、どういう意味なんだ?」


「そのまんまの意味ですぜ、旦那。元々壁外区に住んでいた住人達ってのは、その日の暮らしにも不自由をきたす貧乏人がほとんどだったんです。金が無いってのはね、常に心に余裕が無い状態に追い込まれているとも言えます。そんな心の弱っている奴は、ちょっとした隙さえあれば犯罪に手を染めてしまう事だってあるでしょう。それくらいに人の心ってのは(もろ)いものなんですよ」


「……おいおい、お前はここに集まってきてくれたみんなが、まさか犯罪者の集まりだなんて言うつもりじゃないだろうな」


 ヘッヘッヘと、ザリルは人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべて口角を歪めた。


「まーさか、そんな野暮(やぼ)な事は言いませんよ。オレと違って旦那を慕ってここまで来た連中は、良い人間達ばかりですぜ。なにせ善人の象徴みたいな、あの区長さんも一緒に来ているくらいですからね。ただ……人間は何もさせずに怠惰な生活を与え続けてしまうと、その綺麗な心が堕落してしまう事もあり得るって事なんです」


「心が堕落する? 働かないで安全が常に保障されている状態が続くと、人は悪い方向に向かってしまう事もあるって事なのか?」


「ヘッヘッ、旦那〜。コンビニマンションなんていう『超』が付くほどに、快適な生活環境を突然与えられて。更に高級な異世界の食品を毎日無料で支給されたりなんてしたら……。それはどんな人間でも駄目になっちまいますよ。一度その甘い蜜を舐めたら、元の生活に戻るのは難しくなる。そうなってからじゃ手遅れです。今後、この国の人口が増えていく事も想定して、ちゃんとその辺りを整備していかないといけないんです」


「……つまりは、ここにいるみんなにちゃんと仕事を与えて、その対価として給料を手渡し。自分達でしっかりと稼いだお金でコンビニの商品を買って貰う事が大事だと、お前は言いたいんだな」


「そうなんですよ! さすが旦那です、分かってますね! 国民ってのはね、ちゃんと納税や勤労の義務を果たさないとただエサを与えられるのを待つだけの(あま)ちゃんに育っちゃいますからね〜。コンビニの商品は安価でも最初はいいんです。ですが、無料(タダ)で与えてはいけない。ちゃんと等価として国民には労働をして貰わないといけないんです。いちいちコンビニに列を作って商品を買わせるのはたしかに面倒くさいと旦那は感じるかもしれませんが、それはそれでとても大事な事なんです。コンビニの商品がいくら無限に提供出来るものだとしても、そこの所のルールだけは曲げちゃいけませんぜ」


「――分かった。その事については、ちょうどこれからここにコンビニ共和国の『生活担当大臣』がくる予定だから、そいつと相談をしてみるよ。……たぶんここで暮らしていく上で、みんなにやって貰わないといけない仕事はいっぱいあると思うからな」


「ヘっヘっ、期待をしていますぜ、旦那! 国内の貨幣流通の基盤が整いましたら、いずれは他国との通商や外交政策もどんどん進めて行きましょう! オレの部下達は世界各国の商業都市に存在をしていて、まだその流通網は健在です。コンビニの商品を世界に広めていければ、世界中の国々はあっという間にコンビニ共和国の経済力の前に膝を屈しますよ。その時はオレの力を存分に奮わせて貰いますので、ぜひお願いしますぜ、旦那!」



 俺がわざとらしく、忙しそうな溜め息を吐くと。


 ザリルはそれを見届けから、ニコリと笑ってゆっくりと会議室から出て行った。



 うーん、まあ確かにな。


 これから少しずつ制度も整えていくコンビニ共和国の国民に……コンビニの商品は全部無料(タダ)です。国内の安全も全て保障します。だから一日中家の中にいて、どうぞダラダラして下さいっていうのは違うのかもしれない。

 

 国家の政策として、進んで引き篭もりニートを量産する必要はないだろう。


 いくらコンビニから無限に食料や衣料品が出せると言っても、細々とした仕事を、みんなにはちゃんとこなして貰う必要があると思う。


 ザリルはオブラートに包んで言ってくれてはいたけれど。ああ見えてあいつは、壁外区の住人達に対してはとても優しい奴だ。


 だから直接的な表現こそしなかったが、3000人を超える住人達の中に、犯罪者や悪人などが絶対に混ざってないとは断言は出来ない。


 もしかしたら過去に壁外区の中で問題を起こし。街で住みづらくなった犯罪者が、壁外区を脱出する住人達の群れに紛れて、一緒にここまで付いて来た……って事も、あり得ないとは言い切れないだろう。


 人がたくさん集まれば、その生活の中でトラブルは付き物だ。


 街の治安を取り締まる警察のような組織も、これから作る必要があるだろうし。大勢が暮らしていく上での共通のルール作りは絶対に必要になると思う。



「うぉーーい、彼方ーーっ! コンビニ共和国の中心地に設置した例の『巨大ゴミ箱』の運用ルールを、マンションの住民みんなに教える講習会がやっと終わったぞーーっ!! はあ〜っ、疲れたぁ……」


「おおっ、我らが共和国の『生活担当大臣』様じゃないか! 本当にご苦労様。いつも助かってるよ」



 会議室に入って来たのは、俺の親友でもあり。


 子持ちの父親でもあり。童貞同盟の離反者でもある、裏切り者の堕天使こと杉田勇樹(すぎたゆうき)だ。クラスの女子メンバーからは、今はエロエロ魔人と呼ばれているみたいだけどな。


 杉田にはコンビニ共和国の『生活担当大臣』として、コンビニ国の生活全般に関する事の業務と、その他諸々の雑務を一手に引き受けて貰っていた。


 奥さん想いのとても勤勉な大臣として、壁外区のみんなにも杉田は好評で、街の便利屋のような役目を務めてくれている。


「まったく……この世界の住人に、近代マンションの暮らし方を教えるだけでも一苦労だったんだぞ。まずはエレベーターの乗り方と、水道の使い方。そして冷蔵庫やエアコンの使い方から、水洗トイレの使い方。おまけに洗濯機の使用方法に至るまで……全部一から教えていかないといけないんだぞ? しかも何でマンションの部屋に付いている洗濯機は全部、二槽式洗濯機なんだよ! ドラム式の全自動洗濯機くらい用意しておけよな」


「悪い悪い。その辺は俺も、まだよく分かってはいない仕組みなんだよ。いつかまたコンビニのレベルが上がったら、マンション内の洗濯機も最新式に変わるかもしれないし。それまではちょっとだけ、我慢をしてくれよ」



 俺が頼み込むように頭を下げると。杉田はやれやれといった顔で大きく溜め息を吐いてみせた。


「本当に頼むからな〜、彼方ぁ〜! ゴミ出しにしてもそうだけどさ。まずは俺がうちの嫁の家族にそのやり方を伝えて、それを一軒一軒……隣の部屋の住民にリレーするような形で伝えていくのは本当に大変なんだからな〜。今度、マンション入居者用の説明書や、ガイドブックみたいなものも印刷しといてくれよ。じゃないと、俺が教えたそばからみんなすぐに忘れていきそうで、不安なんだからな〜」



 杉田は生活担当大臣として、自分の家族だけが優遇をされる事を嫌い……。率先して新しく出来たコンビニマンションに、奥さんや家族と共に入居をしてくれた。


 一応、コンビニの勇者の関係者なんだし。他のクラスのみんなみたいに、レイチェルさんが24時間管理をしてくれているコンビニホテルに家族ごと入居してくれても別に良かったんだけどな。


 杉田が『何か俺にも仕事をくれよ〜!』と直接頼み込んできたから、『生活担当大臣』という忙しい役目を与えたんだけれど。


 国民みんなの生活を指導する以上、一緒にマンションに住まないと役目を真っ当出来ない! ……と。

 なぜか超絶真面目ぶりを発揮して、今ではマンションの住民達みんなに頼られる『良い兄貴役』をこなしてくれているらしい。


 異世界の勇者様だけど、この世界の女性を奥さんとして迎え入れているその姿も、マンションのみんなにとっては親しみやすかったのかもしれないな。

 

 杉田の嫁のルリリアさんも、その家族も。みんなとても勤勉でよく働く良い人達なので、生活担当大臣である旦那をしっかりとサポートして。マンション内での生活指導の役目を、率先してこなしてくれていた。



 ……あ、そうそう。

 コンビニマンションは全部で3棟あるんだけどさ。


 とりあえず今は、みんなには3号棟のマンションにまとめて入居をして貰っている。


 なにせ1つのマンションで、だいたい8000人くらいが収容出来るようになっているからな。最初はみんなでまとまって同じマンションで生活をして貰った方が管理がしやすいだろうと思ったからだ。


 だけど、コンビニマンションに壁外区のみんなが順番に入居をして行く中で、1番の問題として浮上してきたのは『ゴミ問題』だった。


 コンビニマンションに入居を始めた住民達は、コンビニの美味しい食品や、飲料水をそれぞれの部屋の中で飲んだり食べたりしている訳なんだけど。


 みんな、食べた後に出るペットボトルや空の弁当箱を――そのまま部屋の中に溜め込んでしまうんだよ。


 カディナの壁外区で暮らしていた時には、確かにペットボトルは貴重な異世界の資源だったからな。

 ザリル達みたいな商人が、それらを大量に回収して他の街で売り(さば)いていた訳だから。みんなが部屋の中で大切に保管しておこうとする気持ちも分かる。


 ……でも、もうマンション内では、普通に蛇口をひねれば水道は無限に出てくる。


 俺が言うのも何だけど。コンビニ弁当を食べた後のビニールとか、ゴミを全部部屋の中にそのまま保管されてしまうと、結構香ばしい匂いがマンション内に充満してしまうからな。このままいくと、俗に言う『ゴミ屋敷』みたいな感じになりかねない。


 だから出来るだけみんなには、廃棄できるゴミは部屋の中に取っておかずに、3つのマンションに囲まれた中央部分に設置をした『巨大ゴミ箱』に捨てて貰うようにとお願いをしている所だった。



 巨大ゴミ箱は、今回のコンビニのレベルアップによって出現をした新設備の1つだ。


 最初はどう使うのかよく分かっていなかったんだが、今ではこの巨大なゴミ箱は街の生活を円滑に進めていく上で、かなり重要な役割を果たしてくれている。


 実は、俺は異世界に来てからというものの。

 あまり『ゴミ問題』というのに、直面した経験がなかった。


 初期の頃は、コンビニ内にゴミが溜まっても。俺がコンビニをいったん収納をして、また外に出し直す事でコンビニを新品同様の状態にする事が出来ていたからな。


 その際に、コンビニ内に溜まっていたゴミも全て消えて、完全にリフレッシュされていたという訳だ。



 ティーナの故郷であるカディナの街に辿り着いて。


 その近くの壁外区で商売をしていた時には、幸いな事に、ペットボトルやコンビニから出るゴミは全て余す事なく商売上手なザリル達によって回収されて。他の街に転売をされていくという、環境にやさしいエコな流通網が出来上がっていたからな。


 だから俺はそんなに、ゴミ問題で困るような事はなかった。


 転機になったのは、コンビニのレベルが上がってコンビニの中に『地下階層』が出現した時くらいからだ。


 あの時からコンビニには『自動修復機能』が付いた。だから、今までみたいに出したりしまったり……という事が自由には出来なくなってしまった。


 必殺技の『無限もぐら叩きインフィニット・ハンマー』も使えなくなってしまったしな。



 でも、その代わりにコンビニホテルが出現して。


 ホテルの支配人(フロントマスター)であるレイチェルさんが俺達の前に現れてくれた事で、コンビニのゴミ事情は一変する。



 俺達はそれぞれコンビニホテルの部屋の中に暮らすようになったんだけどさ。


 基本、ホテル内で出したゴミは全てレイチェルさんがこっそりと回収をしてくれるようになった。


 その辺りは一般的なホテルの仕組みと一緒だな。俺達が部屋から出て、外に出かけるといつの間にかレイチェルさんがヘッドメイキングをしながら、部屋の中のゴミの後始末まで全てこなしてくれていて。部屋の中は常に完全に綺麗な状態が保たれていた。


 だから、俺達はまさにレイチェルさんにおんぶに抱っこな状態で。今までゴミ問題を全く意識する事なく、ここまで快適な生活を送る事が来ていたのである。



 ところがどっこい、コンビニマンションは完全にレイチェルさんの守備範囲外だ。

 コンビニから外に出られないレイチェルさんは、コンビニマンション内のゴミを掃除する事が出来ない。


 おまけにコンビニマンションは一度外に出したら出しっぱなしで、収納をしてしまうという事が二度と出来ないからな。


 ここでようやく俺達は、あれ……マンション内のゴミ問題って結構ヤバいんじゃね? という事実と直面する事になった訳だ。



 その事を、俺はレイチェルさんに相談をすると……。


総支配人(グランドマスター)様。今回のコンビニのレベルアップによって、コンビニの外に『巨大ゴミ箱』が設置を出来るようになっているはずです。それは私が普段使用をしているコンビニホテル内の業務用ゴミ箱を巨大化したもので、マンション内のゴミを処分するのには、十分過ぎるキャパシティを持ったゴミ箱のはずです」


 ――と、的確に対応策を案内してもらう事が出来た。



 『巨大ゴミ箱』。


 コンビニマンションと同じで、一度その場所に設置をしたら2度と移動する事は出来ない、まさに異次元に繋がるブラックホールのような巨大なゴミ箱だ。


 その大きさは、通常コンビニの外に置かれているタイプの10倍くらいの大きさがある。


 うっかりゴミ箱の中に人間が入らないように、その蓋の中には安全ネットが施されているし。生ゴミからペットボトルまで、何でも中に吸い込んでくれるから、分別要らずのもの凄く便利な万能ゴミ箱なのである。

 大きいから粗大ゴミも捨てる事が出来るしな。



「ええーーっ、何だって〜!? マンションの住民達にちゃんと仕事を斡旋して、みんなに給料を与えるようにしたいだって?」


 俺はザリルの提案を、杉田にも相談する事にした。


「ああ、ザリルがそうしろってずっとうるさいんだよ。コンビニの商品をみんなに無料で提供し続けるのは良くないってさ。お前はこの事についてはどう思う?」



 杉田は俺の問いかけに対して、うーんと頭を斜めにしながら考え込むと……。


 まるで一丁前に学者のような顔つきをしながら、俺に話しかけてきた。


「そうだなぁ……まあ、ずっと食料や衣料品を無料提供し続けるって訳にもいかないんじゃないのか? 今の所、マンションに住んでいるみんなは勤勉な人達ばかりだし。おかげでこっちはみんなに手伝って貰って凄く助かっているけれど。これからこの国の住民が増えた時に、みんながみんな仕事熱心な人達ばかりとは限らない訳だしな。もし全員で一斉に家に引き篭もられて、メンタルケアの仕事まで増やされたりでもしたら困る。今のうちにちゃんと、ルールを作るのは大切だと思うぞ」


「そうか。お前もザリルの意見に賛成ならしょうがないな。――で、どうなんだよ? マンションの住民にしてもらう仕事ってのは、割とたくさんありそうなのか?」


 俺は真面目に杉田に対して、そう質問してみたんだけど。


 杉田は俺に対して、何を言っているんだと言わんばかりの形相で睨みつけてきた。


「ハァ〜!? お前は何を寝ぼけてるんだよ!? やらなきゃいけない仕事はまだまだいっぱいあるんだぞ! 大体、子供のいる家庭には学校だって用意をしなきゃならないだろ。保育園はどうすんだよ? 病院は? 衣料品だって同じ服ばかりじゃ困るだろうし、桂木(かつらぎ)が作りたいって言ってる『洋服屋』も早く準備して、さくらの作る料理を振る舞う『レストラン』だって、これから作る必要があるし。こっちにはやらなきゃいけない仕事なんて山のようにあるんだぞ!」


「お、おう……。そうか、すまない。仕事の割り振りはレイチェルさんとも相談をして、上手く取り決めてくれないかな? その辺の内政的な事はお前に全部任せるからさ」



 俺は杉田の迫力に押されて、椅子から転げ落ちそうになった。

 

 さすがにマンションの中の最前線で仕事をしている人間は、現状把握の能力が俺とは全然違うみたいだな。


 そんな及び腰な俺の態度を見て――。

 杉田は顎に手を当てて、何かを察したような表情を浮かべて俺をジーっと見つめてきた。


「ふ〜む。どうもお前はさっきから『心ここに在らず』といった感じだな、コンビニ共和国のリーダーさんよ」


「おいおい、俺は別にリーダーになったつもりはないぞ! その辺はレイチェルさんがこなしてくれた方がよっぽど上手くこの国を治めていけるだろうし、俺は……」


「いいや、俺が言いたいのはそういう事じゃなくてだよ。彼方……お前、魔王領を探索する『選抜チーム』のメンバー選定の事で今は頭がいっぱいになっているんだろう?」


「ううっ……!? どうしてそれを……!」


 俺が思わず、手にしていたボールペンを机の上から落としそうになる。

 杉田はやれやれといった顔つきで両手を、ヒラヒラと頭の上でわざとらしく振ってみせた。


「まあ、これでも俺はお前の親友様なんだぞ。小学生の頃からの付き合いなんだからそれくらいは分かるさ。そっちの事で頭がいっぱいになってる気持ちは分かるけどさ……。あまり根詰(こんつ)め過ぎるなよ? 考え過ぎて寝不足になると、良い状態での思考が出来なくなるからな」


「……ああ、分かった。お前の方こそ、明日にはもう結婚式なんだろう? 念願の結婚式が近いってのに、壁外区のみんなの生活担当大臣までこなして貰って、本当にすまないと思ってるよ」


「ハッハッハ〜! バーカ! 結婚式は逃げていかないから、お前がそんな事を心配をする必要は全然ないって! この国に住むみんなの生活の事は何も気にする必要はないから、しっかりとお前は魔王領に行って肝心の魔王を探してこいよ!」



 杉田に背中をボンボンと叩かれて、俺はグホッと思わず咳き込みそうになった。


 このバカ……。お前も異世界の勇者として身体能力値が上がっているんだから、多少は手加減しろよな。

 体力値の低い繊細なコンビニの勇者は、体がもの凄くデリケートに出来ているんだぞ!


「とにかく、ちゃんとお前の結婚式には出席してから、出発するつもりだから安心をしてくれ。お前の一生に一度の晴れ舞台を、しっかりとこの目に焼き付けさせて貰うからな」


「――おう、人生で二度や三度も結婚式をするつもりは毛頭ないさ! 一度きりしかない俺の人生の晴れ舞台をしっかりその目に焼き付けていけよな、彼方!」



 俺は杉田とガシっと握手をして、そのまま席を立ち上がる。


 まさか童貞同盟を結んでいた親友の結婚式を、この異世界で見られるなんて本当に想像もしなかった。


 俺がここを離れる前に……。

 本当に心の底から、お前にはお祝いをさせて貰うつもりさ。



 もちろん、ここにはいない水無月の分も含めてな。


 俺が会議室の机から席を立った拍子に。

 机の上に置かれていた紙が、1枚ひらりと床に舞い落ちてしまった。



 ……後で、俺はメモ用に書いていた紙を落とした事に気付いて。


 慌てて会議室に戻ってその紙を回収したから。きっと誰にも、その紙に書かれていた内容を見られる事は無かったと思うけれど。



 俺が書いたその紙の上には、ボールペンでこうメモ書きがされていた。



『魔王領探索チームメンバー候補』



 俺


 アイリーン


 玉木紗希(たまきさき)


 雪咲詩織(ゆきさきしおり)


 香苗美花(かなえみか)



 そして、メンバーの箇条書きの一番最後には、『ティーナ』の名前も刻まれていて。



 その名前の上から、二重線の横線が引かれ。



 ティーナの名前は、魔王領探索のチームメンバー候補一覧からは削除されていた。

 

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[良い点] 設定や描写に粗はありますが、楽しく読ませて頂いております。 [気になる点] あまりツッコミは入れないようにと思っていましたが一点だけ 通貨の発行と流通は国家が国家足りうる大事です 例え金…
[良い点] まぁ~一学生が集団心理とか社会学を理解しろってのは 難しいでしょうね。 [気になる点] 近代化された暮らしってのは社会教育がどれだけ行き届いてるかで運用できるかがキモなのでさて壁外区の住人…
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