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第百二十七話 コンビニ共和国の通商担当大臣


「みんなが壁外区を追放されただって! それは、どういう事なんだよ、ザリル!?」



 俺は慌ててザリルに、その事を聞き返した。


 区長さんや、コンビニの大常連だった人達が壁外区を追放されてしまっただなんて……。そんな事、俺には到底信じられなかった。


 特に区長さんなんて『壁外区のお母さん』とまで呼ばれ、みんなに慕われていた人だったんだぞ。それなのに、一体どうしてそんな事に……。



 俺はコンビニの事務所の中にザリルを迎え入れて、2人きりで話す事にした。


 今回、ここに来てくれた大勢の壁外区の住人達の代表として。みんなのまとめ役をこなしてくれたザリルから、詳しい事情を聞く為だ。


 カディナの壁外区から俺が去ってしまった後の話を、ザリルは丁寧に順を追って説明してくれた。



「――旦那が壁外区を去った直後はね、それでもまだマシな方だったんですよ。コンビニという、壁外区の生活基盤になっていたお店をいきなり失ってしまった壁の外の住人達は、みんな声を上げて怒りましたしね」


 ザリルは俺が用意したペットボトルの紅茶を、片手でガブ飲みする。そして『ふぅ〜』と一息ついてみせた。


「カディナの壁の中にいる市民達も、当時流行していたコンビニのミルクティーなどの貴重な商品の供給が止まって。旦那を街から追い出そうとした商人達は、後で相当叩かれましたからねぇ。そのせいもあって、当時のカディナ商人連合はグランデイル王国と国交を断絶した程なんですよ」


「……まあ、それは当然だろう。いくら壁の外の事とはいえ、自分達の街のすぐ近くに軍隊を送り込んでくるようなヤバい国と、まともに付き合える訳が無いからな。あれはたぶん、倉持のバカの差し金だったんだろうけれど、ずいぶんとアホな事をしたと思うぞ」



 でも、だとしたら……。


 俺のコンビニはやっぱり、カディナの住民達には慕われていたって事なんじゃないのか?


 それがどうなったら、俺のコンビニを慕う住人達を集団追放するなんて事態になってしまうのだろう。



「……元々、カディナの街の中には、壁外区の住民達が富を蓄えて、発言力を増す事に否定的な商人もいましたからね。連中からしたら、安い賃金でこき使える労働者達が経済力を付けて自立する事を好ましく思ってなかった訳です。その連中は、コンビニの商品は『魔王の呪いがかかった商品』だと、根も歯もない噂を立てて、コンビニの評判を落とそうとしてましたからね」


 でもそういった連中は、コンビニがなくなった事で大きな損失を受けた街の人々から非難をされ。カディナの街での影響力が、ガタ落ちになってしまったとザリルは説明してくれた。


「俺のコンビニを追い出そうと、陰で画策してた奴らの評判が逆にその事が裏目に出て、ガタ落ちになってしまった訳か。それは俺的には『ざまぁ』なんだけど、だったらなおさら、みんなが壁外区から追放される事態になる理由がよく分からないぞ?」



 ザリルは今度は、俺が手渡したキンキンに冷えたペットボトルのコーラ一気に飲み干すと。


 いきなり真剣な表情になり、俺に向き直る。


 炭酸飲料なのに、水を飲むかのように一気に飲み干しやがったな。そういえば壁外区にいた時も、ザリルはコンビニのコーラを好んで飲んでいたっけ。


「……だから旦那、オレはさっき言いましたよね? まだ最初は良かったって。旦那が居なくなった後、壁外区の住人達はすぐに経済力を落として、元の奴隷みたいな生活に戻っていったんです。元々、壁の中の商人達に安い賃金で雇われて、何とかその日の生計を立てているような連中がほとんどでしたからね。コンビニという特別なお店がなくなれば、みんなの生活が元に戻るのは当然ですよ」



 ザリルの話によると。俺がカディナの壁外区を去ってしまった後……。


 壁外区の住民達は、コンビニで購入出来ていた食料品や水。日用品などの生活必需品が入手出来なくなり、徐々にその経済力が弱まっていったらしい。


 最初は、新たに経済力を蓄えてきた壁外区の住民達の圧倒的な数の力に配慮をしていた壁の中の市民達も。俺のコンビニがなくなった事で、経済基盤を失って徐々に弱っていった壁外区の住民達に対して、次第に以前と同じような対応をするように変わっていく。



 そんな中で、俺のコンビニを陥れようと画策した一部の商人達の発言力が、再び増して行く事になる。


 コンビニが無くなった事で供給がストップした、価格の高騰しているミルクティーや、貴重なコンビニ食品類の買い占めを狙って彼らは動き出した。


 商人達は、再び『コンビニの商品は呪われている』という悪い風評を立て。カディナの街の中に、でたらめな噂を流し始めたらしい。

 


 今やその数が限られてしまっているコンビニの貴重な商品は――商人達の間で転売を繰り返す事で恐ろしい程に、高い値段で売買されるようになっていた。


 コンビニの美味しい食品の味を知ってしまった壁の中の高級市民達は、再びその味を求めて、高額な値段を払ってでもコンビニの商品を買い求めようとする。


 数に限りがあるコンビニ商品を、何とか買い占めようと思った壁の中の大商人達は……。まだコンビニの商品を隠し持っていた壁外区の住人達から、高値でそれらを買い取るという事を始めていく。


 ……だが、当然ながら壁外区の住民達から、わざわざ高い値段を払って。それらを買い取りながら回収をしていくのはあまりにも効率が悪い。


 そこで、『呪われたコンビニの商品を持つ者は、魔王に加担する邪悪な者だ』という邪教徒のレッテルを張り。

 コンビニの商品を持つ住人達から、強制的に商品を徴収していくという恐ろしい提案に飛びついた。



 どうやら、カディナの商人達を悪い陰謀に走らせた経緯には、コンビニを陥れようとする、女神教徒達の暗躍が陰で影響をしていたらしい。


 コンビニは邪悪だ! だから、コンビニの商品を隠し持つ者、それを信奉する者は、女神様の教えに反する魔王に加担する邪悪な者達だ! という教えを住人達の間に流し、コンビニの存在を陥れようとする女神教。

 そして貴重なコンビニの商品を壁外区の住人達から奪い取りたいという、一部のカディナの大商人達の持つ欲望が、それらの目的と合致してしまった訳だ。



 壁外区の多くの住民達は、壁の中で自分達を雇ってくれる大商人達に嫌われて、仕事を失う訳にもいかず。みんなは、次第に苦しい立場に追い込まれていく。


 壁外区の住人達は、自分達の生活の為に。コンビニで買ったワイシャツや生活用品を手放したり、隠し持っていたコンビニの商品を仕方なく女神教に差し出す者が相次いだ。



 そんな中で区長さんや、俺のコンビニを最後まで信奉(しんぽう)してくれていた一部の住人達は――壁外区で職を失ってもずっと抵抗を続けてくれていたのだが……。

 とうとう、『コンビニ信奉者はカディナの街を追放する』という布告が正式に発表されてしまった。



 所持しているコンビニ商品の強制剥奪と、カディナ周辺での生活権を永久に奪われて。最終的には全員、街から強制追放をされてしまったという話だった。



「……何なんだよ、それは! コンビニが好きな住人は、街からまとめて全員出て行けって事なのかよ! クソッ!! マジで胸糞の悪い話だな!」



 そんなのまるで、中世の踏み絵みたいじゃないか。


 俺のコンビニで買った商品は全て差し出せ。それを拒む奴、コンビニをまだ信奉する奴は、全員邪教徒だから許さない……って訳なのかよ。


 しかも、それで奪い取ったコンビニの商品は……商人達が高値で売り(さば)いているなんて、最悪じゃないか!



「まぁ、旦那……。ちょっと落ち着いて下さいよ。それはしょうがない事でもあるんですぜ? 世の中ってのは、義理と人情が100%の割合で出来ている訳じゃないんですから」


 ザリルが激昂(げきこう)する俺を諭すように、柔らかい口調で話しかけてきた。


「カディナの壁の中の商人達も、元々全てがコンビニの味方だったって訳じゃない。コンビニというお店で扱われている、珍しい商品が生み出す利益にしか興味のない連中は大勢いたんです。壁の中の権力を持った連中が、本気でコンビニ狩りを始めたら……そりゃあ、抵抗なんて出来る訳がありませんぜ。みんな渋々、言う事を聞くしか出来ないんですよ」


「いや、俺としては全然それで構わないんだよ。むしろそうしてくれないと困る。コンビニのせいで職を失ったり、居場所を失くしてしまうような事の方が俺としては本当に申し訳ないからな。だから、みんな自分の身を守る事を優先してくれて良かったのに……。それなのにこんな、3000人近い大勢の人達が、俺なんかの味方をしたばかりに。自分達の住む場所を追放されてしまうなんて、あまりにやるせない気持ちになるじゃないか……」



 俺の言葉を聞いたザリルは、突然『へっへっへ〜』と笑う。


 そして手に持っていたコンビニの新商品――チーズハンバーグ弁当を、フォークで豪快に口の中に押し込みながら微笑む。


「まあ、その点はですねぇ。オレ達は全員、逆に本当に運が良かったと思っているんですよ。丁度、オレらが街を追放されて、しばらくが経ったタイミングで……『魔王軍の幹部がミランダの地で倒された』っていう報告が入りましたからね。世界各地にいた魔王軍の魔物達は、一斉に西に向かって逃げ出していきました。だからオレ達は道中、危険な魔物に襲われる事なく安全にここまで歩いてくる事が出来たんですぜ」


 チーズハンバーグ弁当を食べ終えたザリルは、今度はスパゲティのカルボナーラをフォークで食べ始めた。


 でも、スパゲティを食べるのはどうやら初めてだったらしい。パスタを上手にクルクルとフォークに巻いて食べる事が出来ずにかなり苦戦しているようだ。


 ザリルは自分のお腹を満たすのと同時に、壁外区の時にはまだコンビニで扱っていなかった、コンビニの新商品の品定めもしているみたいだな。


 たぶんこいつの事だから、この商品はどれだけの値段で売れるのだろう――と値踏みをしながら、コンビニの新食品をゆっくりと味わっているのだろう。



「……それにタイミングも本当に良かったんですよ、旦那! 魔王軍の幹部が倒されて世界に平和が戻った、ってニュースの後で。今度は『コンビニの勇者が魔王になった』なんていう、実にトンチンカンな報せも届きましたからねぇ。全く何が何やら……。旦那も相当大変な事に巻き込まれているんだなぁ、とはオレも思いましたけどね」


 ザリルは苦笑いを浮かべながら、やっとパスタをフォークに絡めて。ズズズーっと口の中に放り込んでいく。



「もしあの時オレらが、まだあのままカディナに居続けていたら。コンビニの魔王に味方をする者として――街から追放どころか。全員女神教徒達に捕まって、死刑にされていたなんて可能性もあるんですから……。あのタイミングでみんなと一緒に街を離れられたのはむしろラッキーでしたよ! どうやら今回の一件には、裏で女神教徒達が色々と動いているようでしたし、宗教に目をつけられるのが、この世界では一番怖いですからねぇ。異端者には火あぶりとか、ギロチンとか普通にするような非道な連中ですからね」


「そうか。何だか悲しいニュースも多かったけれど。みんながこのタイミングで俺の所に来てくれたのは、一番最悪な事態を回避する事が出来て良かったという救いもあった訳なのか……。ザリル、改めてお前には礼を言うよ。区長さんを始め、街のみんなをお前が部下達を使って、ここまで導いてきてくれたんだろう? マジで助かったよ」



 スパゲティをフォークですくい取るのに完全に慣れたザリルが、今度は大きな声を上げて大笑いをした。


「あっはっは! だ〜か〜ら〜旦那は甘いんですよ! オレが無料(タダ)で行動をする訳ないじゃないですか〜! オレはね、この世界の既存の都市国家群より、旦那のコンビニの未来に将来を賭けたんですよ! ここで旦那に縁のある人々を安全にコンビニに送り届けたって事で、大きな恩を売っておけば。後々、性格が甘々(あまあま)な旦那は、今後もオレの事を重宝せざる得なくなるでしょう?」 



 がーはっはっは! と自分の胸を大きく叩いて笑うザリル。


 反動で少しだけパスタが、口からこぼれそうになってだけど、見なかった事にしよう。


「まあ、元々……部下達には旦那の行方をずっと追わせていましたしね。トロイヤの街にコンビニが出現したという情報も事前に得ていましたし、オレは旦那が西の方に向かっていると知っていた訳です。だからついでに、壁外区のみんなを手土産(てみやげ)として連れて行けば、これでもかってくらいに旦那に『恩』という形の無い『商品』を売りつける事が出来ますからねぇ。どうです? これで旦那はもう、オレを一生手放す事は出来なくなった訳ですぜ? へっへっへっ!」


 豪快に笑いながら、今度は俺の背中をポンポンと叩き上げるザリル。


 俺もこいつの事なら、ある程度知っているからな。


 こんな悪人ヅラをして、ヘラヘラと笑っているように見せてはいるが……。こいつはこいつで、壁外区のみんなとはかなり縁の深い奴だった。


 俺に恩を売るだけなら、別に区長さんや、一部の人達を送り届けるだけで十分だっただろう。


 でもこうして、3000人もの大人数を部下達を総動員して守らせながらここまで導いて来たのも、ザリルなりに壁外区のみんなを気遣ってくれたからなんだろうと思う。

 それこそ道中の安全の確保だけでなく。3000人分のここまでの食料や水の確保も考えると……。


 もしかしたら、ザリルは今まで蓄えていた自分の富の全てを消費して、みんなをここに連れて来てくれたのかもしれないな。



 ……まあ、その意味でも。ザリルが言っていた『旦那に賭けたんですよ』って言葉に、嘘偽(うそいつわ)りは無いと思う。

 


 自分の持っている、全財産を注ぎ込んで。俺に『大きな恩』を売り込むって道を選んだ訳だしな。



 今回ザリルの善意には、俺も最大限報いてやりたいと思う。



「――分かった。ザリル、俺もお前には本当に心から感謝をしているからな。その恩にはちゃんと応えられるように頑張らせてもらうよ。俺もこれから、この地に『コンビニの国』を作ろうと思ってた所だったからな。そこで経済活動をする上でのアドバイスを、お前にはこれからしてもらいたいんだけど、いいかな?」


「はあああああっ!? コンビニの国を作るぅ〜!? また……旦那はオレの予想の斜め上をいくアホさで、無謀な行動を起こしていきますね。まあ、でも……コンビニが本気で経済的な覇権をこの世界で握ろうとしたら、既存の国家や、商業都市じゃ束になってもコンビニに勝てるはずもないでしょうけどね。どこから出してくるのかは知りませんけど、大量の商品を無限に扱う事の出来るコンビニの販売力には、到底打ち勝つ事は無理でしょうから」



 ザリルはどこか呆れたような表情を浮かべつつも、その視線はギラギラと輝いていた。


 きっと俺のコンビニ商品をどのように世界に流通させて。経済的な覇権を取るかの算段を、頭の中でもう計算し始めているのだろう。


 俺としても、世界中に商品を流通出来るザリルの交易ネットワークが手に入るのはありがたい。

 ある意味、このタイミングでザリルと再会が出来たのは、俺にとっても丁度良い事だった。コンビニの商品を世界中に広めていく為にも、ザリルが味方になってくれるのは本当に心強いからな。



「うーん……。だけど、俺もちょっとだけ心配な事はあるんだよな」


 俺が少しだけため息をついて俯くと。

 

 ザリルは俺が考えていた不安を見透かしたように、話しかけてきた。


「旦那ぁ〜。どうせ旦那の事だから、ここに来てくれた大勢の壁外区の住人達を、自分がこの先ちゃんと守り通していけるのかと、不安になったんでしょう?」


「ううっ……!? どうして、お前はその事が分かったんだよ!」


「旦那が考えている事は、大体顔に文字でハッキリと書かれていたりするんですよ。だから、そのくらいの不安はすぐに分かりますぜ」



 顔に書いてある……って。


 ティーナや玉木もよく俺の考えている事を当ててきたりしてくるけど。


 俺の顔ってそんなに分かりやすく、人に考えている事全てを推測をされてしまうような顔をしているのだろうか?


 今度、鏡の前でしっかりと自分の顔を見つめてみようかな? まあ……どうせブサイクだから、あんまり長くは見ていられないんだけどさ。


「そんなちっさい事なら、全然心配する必要はないんですぜ、旦那? そもそもオレ達が旦那を探してここにやってくるまでに、1人も犠牲を出さずに安全に歩いて来たと本気で思っているんですかい? 魔王軍の魔物じゃなくても、野生の魔物はこの世界には沢山いるんですぜ。ましてこの大人数だ。オレの部下達だって、全員を守り抜く事なんて出来はしませんぜ。ここに来るまでに、結構な数の犠牲は当然出ているんですよ」



 ザリルはやれやれといった顔で、両手を上げてみせる。


 そうか……それは確かにそうだよな。


 俺がグランデイル近くのソラディスの森で野生の魔物に襲われたように――。

 壁外区の街のみんなも、たくさんの危険な目にあってここまで来ているのだろう。それこそ、野盗や危険な人間達に襲われる事だって当然あっただろうしな。


「みんな、旦那のコンビニを探してここまでやって来たのは全部、自己責任ってやつなんです。何も旦那に無条件で自分の命と今後の生活を保障してくれって――乞食みたいに(すが)り付きに来た訳じゃない。それに、旦那がオレ達を受け入れてくれるという保障があった訳でもないですしね。……そもそも、旦那をちゃんと探し出せるアテだって、別にあった訳じゃないんです。だから、旦那はここまでやって来た壁外区の住人達の命の責任を持つ必要なんてないんですぜ。みんなは、自分の意思で自分の人生を選んでここまで来たんですから」



 ガッハッハと豪快に笑って、今度はクリームパンを勢いよく頬張り始めるザリル。


 ところが、急に手を突然止めて。

 目をパチパチさせながら、ザリルは自分が手にしているクリームパンを鋭く睨みつけ始めた。


 どうやらザリルは、クリームパンのあまりの美味しさに言葉を失ってしまったらしい。

 その瞳の中では、この甘〜いクリームパンがたくさん売れて。きっと大儲けが出来そうだなと、まるで少年のように目を輝かせている。


「そう思って貰えているなら、俺も少しだけ気が楽になったよ。……正直、俺の立場はどんどんこの世界ではヤバくなっているみたいだからな。俺に味方をする事で、みんなには今後どんな不利益かあるのかが分からない情勢なんだ、って事をみんなに知って欲しかったんだ」


「はっはっは〜! 区長さんを見て下さいよ旦那! あれだけいい歳なのに、『秋ノ瀬さんのコンビニのポテトチップスがどうしても食べたいんです! 私も連れて行って下さい!』――って、オレらが止めたのに、全然聞いてくれなかったんですぜ? 全く……コンビニの食品は、本当にどれも美味し過ぎて怖いくらいの中毒性がありますからね。そういう意味では、あながち『コンビニの商品は呪われている』という言葉は、嘘ではなかったのかもしれないですがね、がっはっは〜!」


 ザリルは心底おかしそうに大笑いをしながら。更にクリームパンをもう一つ、その大きな口の中に連続で放り込んだ。


「ここにやって来た連中のほとんどは、旦那と一緒にカディス退治に協力をした若い連中の家族ばかりです。……まあ、だから旦那が作るコンビニの国の住人としてたっぷりこき使ってやって下さいよ! みんな、喜んで旦那の国作りに協力すると思いますぜ!」


「――ああ、分かったよ。ザリル! 俺もみんなにはタダ飯を食わせて、ずっとここで遊んで貰う気はもちろんない。俺の作るコンビニ共和国の最初の国民として、たくさん協力をしてもらうつもりさ。もちろん、ザリル。お前もだぞ! コンビニ共和国の『通商担当大臣』として、他国との交易に尽力してもらうから覚悟をしておけよな!」



 俺がザリルにスッと自分の手を差し出すと。


 その手をザリルもガシッと握り返してくれた。


「もちろんですぜ! お金の価値を何も理解していない異世界の勇者様に、経済ってのはこうやって回すんですよ……っていう見本を見せてやります! 今の時代の戦争はね、人が殺し合うような古いものじゃもうないんです。経済力で他国を操るんですよ。それこそ宗教だって、経済力があれば支配が出来るんですぜ! それをオレがこの手で見せつけてやりますから、ぜ〜んぶオレに任せて下さいよ、旦那!」



 ……という訳で。


 何はともあれ、これから建国を始める俺のコンビニ共和国には、能力のある有望な通商担当大臣が新たに加わる事となった。



 まあ、多少悪人ヅラが気になるけどな。


 腕と実力は本当に確かな奴なので、これからはうちのコンビニでたくさん働いて貰う事にしようと思う。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ザリルは良いキャラですね! 彼方が喜ぶ事、望む事を理解して先にギブ。 自分への報酬も具体的ではなく、足りない部分は補うから一緒に稼ごうよ。というスタンス。 あくまでビジネススタンスだけど…
[気になる点] カディナの街 ティーナの親父さんや執事のアドニスさんの安否がどうなのか気になりますね、無事だといいのですが? カディナの一部の者達のザマァもいずれ期待しています。
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