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第百二十六話 ザリルとの再会


「よお、旦那っ! お元気そうで何よりですぜ。相変わらず金の扱い方に(うと)そうな顔をしている所は、全然変わってないですね!」



 俺がコンビニの上層階に、エレベーターで戻り。


 コンビニから外に飛び出した瞬間に、最初に声をかけてきたのは……。いかにもな悪人ヅラをした、色黒長身の風貌をした懐かしい男だった。



「お、お前は……ザリルじゃないかよ!? それに、ここにいるみんなはカディナの壁外区の住人達だよな? どうしてみんながここにいるんだ? しかも、こんなにも大勢で!?」



 コンビニの外にいたのは、セーリスや杉田達だけではなかった。

 コンビニの正面入り口の周辺には、まるでお祭り会場のように、沢山の人達で溢れかえっている。


 しかもそのほとんどの人達は――俺がかつて、カディナの壁外区で暮らしていた時によく見た事のある、顔馴染みの連中ばかりだった。



 俺がグランデイルの王都を追放されてから、数ヶ月間。コンビニ経営をしながらお世話になった……カディナの壁外区での生活。

 その時に俺のコンビニに毎日のように通ってくれた、熱心な常連のお客さん達が今、ここに勢揃いしていた。



秋ノ瀬(あきのせ)さん、お久しぶりですね! お元気そうでなりよりです」


 物腰の穏やかな、優しい声色。あまりにも懐かしいその声がまた聞けた事に。俺は思わず感激して、体が震えてしまいそうになる。


「……区長さんじゃないですか!? まさか区長さんまでここにいらしてるなんて。一体、みんなどうやってここまで辿りついたんですか? 森の外には危険な魔物達だってたくさんいるのに」



 まさか、こんな所で区長さんと再会出来るとは思わなかった。

 だってここは、大陸の南西部にあるエルフ領の中なんだぞ? もう少し西に行けば、魔物達が溢れている恐ろしい『魔王領』だってあるというのに。



 森の中の集まっている人々の中には、グランデイルに向かった杉田達の姿もあった。


 杉田達は全員、服装がボロボロに汚れていた。全員がまるで、ドブ(ねずみ)みたいな汚れ具合になっている。


 そもそも杉田達は、アパッチヘリに乗ってグランデイルの街に向かったはずなのに。どうしてヘリで帰ってこなかったのだろう? もしかして、ここまで歩いて戻って来たのだろうか。


 花嫁騎士のセーリスは、自慢の花嫁衣装が黒焦げになってるし。香苗も杉田も、みんな疲れたきった顔色を浮かべていた。


 そして俺は、みゆきを背中に背負っている見慣れない女の子の姿を見て。思わず目が止まってしまう。



 このボロボロの学生服を着る女の子には、見覚えがある。そうだ、この外見はたしかクラスメイトの……。




「お前は――『雪咲詩織(ゆきさきしおり)』じゃないか!」



「……………」



 なぜか雪咲は下を向いて。俺と目を合わせずに俯いてしまった。

 

 本当に、随分と久しぶりにその顔を見た気がするけれど、間違いない。『剣術使い(ソードマスター)』の勇者の雪咲が今、ここに来てくれたんだ。



「彼方、ようやくお前のコンビニに戻って来れたぜ! 紹介するよ、俺の嫁のルリリアだ。以前、お前がまだグランデイルの街にいた頃、俺の屋敷に一回だけ遊びに来た時に確か会った事があったよな? お前は忘れっぽい奴だから、どうせ忘れてるだろうけどさ」


「お久しぶりです、コンビニの勇者様。この度は勇樹(ゆうき)様とご一緒に、お世話になります妻のルリリアと申します。どうか、よろしくお願い致します」



 突然、杉田から嫁さんの紹介をされてテンパっている所に……。今度は、壁外区の住人達が俺を見つけて、一斉に俺の周りに駆け寄ってきた。


「壁外区の女神様ぁーーっ!! ああ、こうしてまたお会いする事が出来るなんて、本当に嬉しいですっ!! 俺達、女神様にどうしてもまた会いたくて、カディナから遠い道中を歩いてここまでやって来たんです! もし、女神様がご迷惑でなければ、またコンビニのお世話にならせて頂けると嬉しいです!」


「えっ、えっ、みんな……! いや、わざわざこんな所にまできてくれて本当にありがとう!」



私の旦那様(マイ・ダーリン)ーー! 聞いてくれよー! アタシはちゃんと任務を果たしてこいつらを全員、コンビニまで導いてきたんだぜー! さあ、ちゃんと仕事をやり遂げたアタシにご褒美のキスをくれよー!」



 壁外区のみんなに囲まれている俺の所に、今度はセーリスが勢いをつけて。一直線に飛び込んでくる。



 だが、セーリスは俺に抱きついてこようとした、その寸前で――。

 慌ててその場で足を止めると。いきなりUターンして脱兎(だっと)の如くどこかに逃げていった。



 どうやらコンビニの屋上からガトリング砲の照準を合わせて、セーリスに狙いをつけたティーナの存在に気付いたようだ。


 『チッ……』と、忌々(いまいま)しそうに舌打ちだけを残して、去っていくセーリス。



 ……ええっと。

 みんな、いったんちょっと待ってくれ。


 流石にカオス過ぎるだろう、この状況は……! まずは1つずつ順番に整理して、把握していこう。



 俺は全員にいったん落ち着いて貰い。

 少しずつ情報を整理して、現在の状況をまとめる事にした。



「――みんな、いったん落ち着いてくれ! この中にもし怪我をしている人がいたら、先にコンビニの中で治療を受けて貰ってくれ、話はそれからにしよう!」



 人が密集して大混乱となっているコンビニの前で。まずは全員をなだめて、落ち着いて貰う事にする。



 ここにいる3000人近い壁外区のみんなを、このまま外に立たせて置くわけにはいかない。


 俺は大怪我をしているみゆきを、最優先で病院に連れて行く事にする。


 カディナからここまでやって来てくれた大勢の人達の中で、区長さんをはじめとするお年寄りや年配の人。そして子供や体の弱っている人達だけを、コンビニの地下ホテルへといったん誘導する事にした。



 そしてコンビニに戻った俺はまず、レイチェルさんにすぐに連絡を取った。



 俺の連絡を受けたレイチェルさんが、真っ先に俺に助言をしてくれた内容は――。


「了解致しました、総支配人様。では、まず……コンビニを西の方角に移動させましょう。エルフのエストリアさんから聞いた話ですと、エルフ領の広大な森を抜けて西に少し行くと、ちょうど魔王領との境になる大きな川が流れているそうです。そこには綺麗な土地が広がっているようですので、そこをコンビニ帝国の本拠地としましょう」


「えっと、レイチェルさん? 俺は当初、魔王領の中にコンビニの国を作ろうと思っていたんですけど……。その手前の土地でもいいんですか?」



 俺の質問に、レイチェルさんは丁寧に答えてくれた。


「ハイ。エルフ族の方々から聞いた話ですと、魔王領は南北に伸びる巨大な山脈によって、人間の暮らす土地とは切り離された場所にあるようです。そこには危険な魔物も多数生息をしているようですし、その手前の土地にコンビニ帝国の本拠地を設定するのが丁度良いでしょう。……今後、人間領の他の国々と交易をする時に、魔王領の中にコンビニ帝国があっては他国との通商が困難になる可能性もありますから」



 なるほど。それは確かにそうかもしれない。


 レイチェルさんがくれるアドバイスは全て的確なので、俺は素直に従う事にする。


 政治力もあるし、人望もあるし。レイチェルさんがコンビニ国の首相で良いと、俺は思っている。



 その事がよく分かる、エピソードの1つとして。

 

 俺はまず、コンビニの外に集まっている3000人近い壁外区の住人みんなに。いったんコンビニの地下施設の中に入って貰おうと思っていた。


 なにせ、コンビニの地下施設の中はめちゃくちゃ広いし。無理矢理にでも詰めこめば、きっと何とかなるだろうと思ったからだ。


 でも、その考えはレイチェルさんによってすぐに否定されてしまう。


「――総支配人様、それはいけません。コンビニの地下施設は、あくまでコンビニの周辺に住まう皆様の、レジャー用施設としての目的だけにして解放すべきです。現在の状況下では、まだ新しい住民の皆様をコンビニの地下施設へと誘導するべきではないと私は思います」


「でも、みんなわざわざ遠い所から歩いてここまで来てくれたんだし……。早く安全なコンビニの中に入れてあげた方が良いんじゃないですか?」


 レイチェルさんは、コンビニ内部の資料図や沢山のファイルを片手に。まるで学習塾の講師のように、俺にコンビニによる国作りのノウハウを丁寧にレクチャーしてくれた。


 なんかレイチェルさんに指導をされるのは、お姉さんに教えを受ける弟みたいな感覚がしてしまう。


 だけど、レイチェルさんの指導の中で。俺はちょっとだけ気になっている事もあった。

 


 それは俺がこれから作る、コンビニを中心とした国の名前の事なんだけど……。


 いつの間にか、レイチェルさんの中で『コンビニ帝国』っていうネーミングで、確定されてしまっているような気がするんだよな。



 俺的には『コンビニ共和国』の方がしっくりくるんだけど。うーん。


 レイチェルさんは、まるで俺を洗脳しようとしてるんじゃないかと思えるくらいに。俺の前で『コンビニ帝国』って言葉をやたらと連呼してくる。


 ここは後で、国の名前は『コンビニ共和国』にしたいんですけど……って、正直にレイチェルさんにちゃんと伝えておこう。

 何だかこのままだと、レイチェルさんの頭の中ではコンビニ帝国という名前が、規定事実にされてしまう気がするし。



「総支配人様……。現在、コンビニホテルは一般客室が合計で100室。スペシャルエリアのスイートルームが全部で30室という構成になっています。ですので、おおよそ400〜500人程度のお客様にホテルの宿泊をして頂く事が出来るでしょう。ですが、まだホテルの部屋を、住民の皆様に解放する事はなさらない方が良いと思います」


「それは、どうしてなんですかレイチェルさん?」


「ハイ。現在の状況下でホテルの部屋を住民の皆様に解放してしまうと。コンビニの地下に住まう人々の間に『格差』が生じてしまいます。スイートルームに泊まれる住人。そして、一般客室に住まわれるお客様。そもそも現在のホテルの部屋数では、外にいる全ての人々に、部屋を割り当てる事は出来ません。なのでこのままですと、地下1階の倉庫に集団でテント生活をして頂く方々も出てきてしまうでしょう」


「そうか。確かにそうですね。まさか回転寿司店の床にテントを建てて、そこでしばらく暮らして下さいとはお願い出来ないし……」



 トロイヤの街の時みたいに、短期間だけコンビニの地下施設をみんなに楽しんで貰うのならともかく。


 恒久的にコンビニ国を住処(すみか)にして。そこで永遠に住民が住んでいく事になるのなら、コンビニのホテルの部屋は、みんなにはすぐに割り当ててしまうべきではないかもしれない。


 それこそスイートルームで暮らす人と。倉庫の廊下にテントを張って暮らす人とでは、あまりにも生活に格差が出来すぎてしまうものな。



「……それに、コンビニの地下施設内の移動の問題もあります。トロイヤの街では、メインで開放したのは地下の温泉施設だけでしたので問題はありませんでした。ですが現在のように、地下にエレベーターが1基しかない状態で、コンビニの地下施設の中を住民の皆様に自由に移動させる事は困難だと思います。それではコンビニの中に永遠に解消されない『無限渋滞』を作り出してしまうようなものです」


「エレベーターが1つしかない今の状態で、外にいるみんなをいきなりコンビニホテルに全員招き入れてしまったら……たしかに、そうなっちゃいますよね。コンビニの外に出るにしても、温泉に向かうにしても。みんなエレベーターに移動手段が集中してしまうだろうし……」



 俺はレイチェルさんの提案を受けて。


 コンビニの外に集まってくれた壁外区のみんなを、すぐにはコンビニの地下施設には誘導しない事にした。


 その代わりに、コンビニの地下駐車場に停めている戦車や装甲車を全てフル出動させる事にした。

 そして改めてみんなを引き連れて、すぐにでも新しいコンビニ共和国の新天地となる土地に向けて、出発を開始する。



 目的地となる場所までの道のりは、おおよそ歩いて半日ほどだ。



 エルフ領から、西に半日ほど歩けば……魔王領との境となる大きな川の近くに到着する事が出来る。

 


 そこには見通しの良い野原が広がっているらしい。

 だから到着をしたら、早速コンビニ共和国の国作りを開始してみようと思う!



 俺は魔王領との境に向かう途中、グランデイルから帰ってきた杉田達や、再会をしたザリルや区長さん。


 そして、新たにコンビニに来てくれた、とっておきの新戦力、『剣術使い(ソード・マスター)』の勇者の雪咲詩織(ゆきさきしおり)とも順番に話をしていく事にした。



 そうだな。まずは、本当に久しぶりに再会を果たしたザリルとの会話の内容から紹介していこうか。



 ザリルは今回、壁外区の中に住む大勢の住人の中から……。俺のコンビニに、どうしても行きたいと望んでいる住人達を全員引き連れ。ここまで誘導してきてくれるという大役をこなしてくれた。


「ザリル、本当に久しぶりだな! お前が損得なしで、壁外区にいる住民のみんなを、ここまで連れてきてくれるとは思わなかったぜ。本当にありがとう!」


「……ん、旦那? オレが無料(タダ)でそんな慈善事業みたいな事をする訳がないじゃないですか? 今後、コンビニがこの世界に生み出す事になる富の全てを、独占的に販売する権利を手に入れるつもりで俺はここにやって来ているんですぜ? そこの所を、ちゃんと考慮して欲しいもんですぜ」



 俺とザリルは、お互いに顔を見合わせて『アッハッハ!』と大きな声を上げて笑い合う。



 それはもちろん、懐かしい知り合いとの久しぶりの再会を喜びあう笑いという訳ではない。


 俺自身はザリルに対して、相変わらず金になる話には本当に抜け目が無い奴だなという笑いで。

 一方のザリルは俺に対して、相変わらず金に甘いチョロい異世界の勇者だぜ……という呆れた笑いを浮かべているのだろう。



「それにしても、まさか区長さんまでここに来てくれるなんて予想してなかったよ。でも、ここに来てくれたみんなの生活は本当に大丈夫なのか? 壁外区での生活を全て捨てて、危険な辺境にまで俺を頼ってやってくるなんて……。もちろん俺も、みんなにまた会えて嬉しいけどさ。みんなが、壁外区には戻れなくなっちゃうんじゃないかと心配してしまうんだけど……」



 俺がそう話すと、ザリルはクックッと声を漏らして含み笑いをする。


 この独特な笑い方は相変わらずだな。


 ザリルは俺が異世界の人間特有の無知を晒すと、それを嘲笑うかのように面白がるクセがあった。


「旦那は本当に何も分かってないんですね! クックック。全くもって呑気(のんき)なものですぜ」


「それは一体どういう意味なんだ、ザリル? 俺が何も知らない……って、どういう事なんだよ?」



 ザリルは首を左右に振って、両手を頭の上に上げて笑って見せると。俺がカディナの壁外区を去った後の事を、全て教えてくれた。


「――旦那、ここにやって来た連中はね。みんな以前の旦那と一緒の境遇なんですよ。旦那がグランデイルの街を追放されたように。ここに来た街の連中は、みんなカディナの壁外区を追放されてしまった者達なんですぜ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 雪咲たちの無事な生還とともにカディナのみんなとひさしぶりの再会に彼方は困惑していますがそこをザリルが事の顛末の詳細を昔を思い出しながら教えているところや、レイチェルさんにとことん提案を否定…
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