第百十九話 ノルドール総力戦
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
”ズドーーーーーン!!”
”ズドーーーーーン!!”
超強化合金製のシャッターに守られたコンビニの外壁が今、大きく揺れている。
断続的に鳴り響く衝撃音と揺れ続ける振動が、まるで地震のように建物全体を大きく震えさせていた。
紗和乃と一緒にコンビニの地上階に到着した俺は、エレベーターを出てすぐに倉庫に入る。
そしてコンビニの事務所に飛び込むと、空に配置してある偵察ドローンのカメラから、外の様子を注意深く探ってみる事にした。
「……!? おいおい、あのバカでっかい『巨人』みたいなのは、一体何なんだよ?」
キャタピラーで、ゆっくりと森の中を走行していたコンビニ戦車。その移動中の森の小道に並び立っていたのは……高さ3メートルを超える、茶色い土で作られた巨人達だった。
巨人達は横一列に並んで、コンビニの周囲をぐるりと取り囲んでいる。
森の中で不気味に立つ土色の巨人達の外見は、日本でいうところの『土偶』とか、『埴輪』のような不思議な外見をしていた。
コンビニを囲むその土巨人達は、森の小道に大行列を作って立ち並び。森に落ちている大きな石を拾い上げては、それをコンビニに向けて勢いよく投げつけてきている。
今の所はコンビニの外壁を守る合金制のシャッターが頑丈なので、巨人達による投石攻撃でコンビニが破壊されてしまうという事は無さそうだ。
……でも、もし迂闊に外に飛び出したりでもしたら。投げ込まれてくる巨大な投石の直撃を受けて、即死してしまう事だってあり得る。
コンビニの外では既に、アイリーンが投げつけられた巨大な石を必死に黄金の剣で斬り裂いてくれていた。
おかげでコンビニへのダメージは、ギリギリ最小限に抑えられている。流石はコンビニの守護騎士のアイリーンだな。いつも誰よりも素早く対応をしてくれて、マジで助かってるぜ!
「彼方くん? あなた、女神教やグランデイル王国だけじゃなくて。あんなに可愛い土偶の巨人達に追われるような悪い事をしでかしたの? どこか胡散臭い遺跡で古代の秘宝か何かを盗み出して、その遺跡を守る守護者達に追われているとかじゃないでしょうね?」
「いやいや、俺はそんな事はしてないって! それにあの土の巨人達の見た目は全然可愛くないじゃないかよ! 俺は全くの無実だぞ……多分だけど」
紗和乃がジト目で俺を睨んでくるから。俺は必死に自分は濡れ衣だと、無実アピールをして両手を振ってやった。
いや、実際にあんな土の巨人達に襲われる理由なんて、俺には全然心当たりがないぞ。
たぶんアイツらは俺やコンビニを狙ってきている訳じゃなくて、この森に入った侵入者を襲う、森の守護者的な存在なんじゃないかな?
もしそうでないなら、コンビニに何か恨みを持ったヤバい連中が送ってきた新手の刺客に違いない。
きっとコンビニの店員にお弁当をレンジで温めて貰ったら、温め過ぎて中のおかずが破裂しちゃったとか。電子決済だって言ったのに、うっかりクレカ払いのボタンを押されて、レジをやり直すのに長く待たされたとかさ。
たぶんその程度の事で、カリカリと腹を立てるカルシウム不足なクレーマー達が、あの不気味な巨人達を差し向けてきたんじゃないのか?
「……とにかくこのままじゃ、コンビニは前に進む事が出来ないし。外で戦っているアイリーンさんも1人だけで苦戦をしているわ。だからまずはこの状況を、何とかしないといけないわね!」
「ああ、そうだな。よし、まずはこちらも戦えるメンバーを集めて反撃の準備をしよう!」
俺がちょうど事務所の中で、コンビニにいる他のメンバー達を集めようと後方を振り返った、その時――。
「彼方く〜ん! 一体どうしたのよ〜!? さっきの警報みたいな大きな音は何なの〜?」
「彼方様! コンビニ全体が強い衝撃で揺れているみたいですが、一体、外で何が起きているのですか?」
コンビニの地下7階層の結婚式場で、花嫁衣装の試着を楽しんでいたティーナと玉木のコンビが、事務所に慌てた様子で駆け込んで来た。
どうやら先程、俺と紗和乃がエレベーターの中で聞いた非常事態用の警戒音は、コンビニの地下の全階層で鳴り響いていたみたいだな。
「ああ。どうやら、コンビニが謎の敵の襲撃を受けているみたいなんだ。敵の正体はまだ不明だけど……今、コンビニの外には土巨人みたいな連中がわんさかと並んでいて。こちらに向けて大量の石を投げつけてきてるんだよ!」
「土の巨人ですって〜、何よそれ〜!? どうせ彼方くんが、どこかの胡散臭い古代遺跡で、しょ〜もない秘宝を盗んで。その遺跡を守るガーディアン達に追われているんでしょう〜? 彼方くん、悪い事は言わないから、さっさとその秘宝を持ち主に返してきなさいよ〜!」
「だーかーらー、違うってッ! 何でお前も紗和乃も、俺を謎のトレジャーハンター設定にしたがるんだよ! しかも価値の無さそうな秘宝を盗んできたって所まで共通設定にしやがって。俺は本当に何もしてないぞ。外にいる土巨人達が、勝手にコンビニを襲ってきているんだよ!」
何かこういう人工的な無機質の巨人に襲われる時って、トレジャーハンターが洞窟から財宝を盗み、そこの守護者達に追われているみたいな設定が、お約束として存在してるのだろうか?
でも、俺はマジで何も盗みなんかしていないぞ!
奪ってもいない財宝を、見ず知らずの相手に返せる訳がないじゃないか。紗和乃と玉木は親友だから、きっとトレジャーハンター系の映画を、どこかで一緒に見に行ってたのかもしれないな。
「彼方様、もしかしたら外にいる巨人達は、古い書籍に記されている伝説の森の守護者……『土魔巨人』なのかもしれません!」
「えっ……『土魔巨人』だって? 一体それは何なんだ、ティーナ?」
パソコンのモニターに映る、外の巨人達の様子を注視しているティーナに俺は問いかけてみた。
「――ハイ。私も古い書物に書かれていた内容を少し読んだだけなので、確証がある訳ではありませんが……。伝説によると魔王領の近くにある南の森には、古代から長命のエルフ族が住んでいると言われています。エルフ族は森の中に侵入してきた外敵を防ぐ為に、『土魔巨人』と呼ばれる土で作り上げた巨人達を守護者として配置している……という古い伝承があるのです」
「エルフ族だって? そうか、そういえばたしかククリアも同じような事を言っていたな。魔王領とは別に、エルフ領と呼ばれる少数のエルフや獣人達が暮らす場所がこの世界の中にはあるって――。だとすると、この場所はエルフの暮らす南の森の中という訳なのか」
「ど、どうするのよ〜〜彼方くん〜? 私達、エルフさん達と戦うつもりなんて無いんでしょう〜?」
玉木がパソコンの画面を見ている俺の肩を、ガシガシと揺らしながら尋ねてくる。
「まあな。正直、俺達が目指していたのは魔王領の方角だったから、エルフ達が縄張りにしている森の中に入ってしまったのは本当にただの偶然だ。だから俺達に敵対の意思が無い事を伝えられれば、あの『土魔巨人』達を操っているエルフも許してくれるんじゃないかな?」
「店長……どうやら、そう簡単にもいかないようです」
コンビニの外で土魔巨人達が投石をしてくる巨大な石を、剣で斬って防いでくれていたアイリーンが店内に戻ってきていた。
アイリーンは黄金の剣を片手に、コンビニの外を見つめながら俺達に外の状況を教えてくれる。
「敵はどうやら、コンビニに巨大な石を投げつけてくるだけではなく。コンビニの前後の道を塞ぐように石を積み上げ、こちらの身動きを封じようとしているようです」
「マジかよ? それじゃあつまり、外の土魔巨人達は、俺達をこの森から一歩も外に出す気は無いって事なのか?」
もしかしたら『森の中に侵入した者には、必ず死を与える!』……みたいなヤバいノリなのだろうか? もしそうなら、思ってたよりもずっと厄介な事になりそうだな。
「――どうするのよ、彼方くん?」
紗和乃が真剣な顔で、俺に判断を委ねてくる。
「そうだな。仕方ない、こうなったら外の土魔巨人達と戦うしかないだろう。だけど、俺達は決して森のエルフ達と戦いに来た訳じゃない。もしエルフが出てくる事があったら、絶対に攻撃しないようにしてくれ。これはあくまでも自衛の為だ。外からコンビニに攻撃をしかけてきている、土魔巨人を倒す事だけに集中しよう!」
俺が事務所に揃うメンツに、高らかにそう宣言をした。
ちょうど、そのタイミングで……。
「彼方〜、一体どうしたんだよ〜? さっきの大きな警報音は一体何なんだよ? 後、コンビニ全体がめっちゃ揺れてるし、何か大きな音も外で鳴ってるみたいだけど大丈夫なのか?」
地下6階層の回転寿司店で、無料の高級寿司をたらふく食べていたクラスのみんなが、一斉にエレベーターから降りてここに駆けつけて来た。
「……ちょうど良かった。お前達にも地下で寿司をたくさん食べた分は、ちゃんと働いて貰うからな! 全員、今の状況を説明するからよーく聞いてくれ! コンビニは今、敵の攻撃を受けていて、ちょっとだけヤバい事になっているんだよ!」
「敵の攻撃〜〜!? 何やそれーっ! コンビニの外でどこかの国と戦争でもしとるんか?」
防御壁の勇者である四条京子が、口の周りに赤いイクラの粒を大量につけながら尋ねてきた。
いやいや、どんだけ大量のイクラを回転寿司店で頬張ってきたんだよ……。
ご飯粒を口の周りに付けてくるなら、まだ理解出来るけどさ。赤いイクラの粒を口の周りに付けてくるって、イクラの海にダイブでもしてたのかよ。羨ましいから、後で俺もちょっとやってみたいけどさ。
「とりあえず現状の説明をするから、みんなよく聞いてくれ! 戦えるメンバーには、すぐにでも外に出て戦ってもらう。そうでないメンバーは、コンビニの中で待機して貰うからな」
俺は遅れてやって来た回転寿司組に、コンビニが敵の攻撃を受けている事。そしておそらく俺達がエルフ領と呼ばれる場所に入ってしまい、森のエルフ達が操る土魔巨人と呼ばれる、土製の巨人達から投石攻撃を受けている事を伝えた。
そのせいでコンビニ戦車が森から逃げる事も、前に進む事も出来なくなっているという現状を説明する。
「……なるほどね。状況は大体分かったわ。それでどうやって、その土魔巨人達と戦うつもりなの、彼方くん?」
ぬいぐるみの勇者である小笠原麻衣子が、みんなを代表して尋ねてくる。
さすがは3人娘の中で、一番の常識派なだけあるな。状況の飲み込みが早くて助かった。
「……ああ。今回は外に出て戦うメンバーは厳選しようと思うんだ。まずは戦況を把握したいから、俺はコンビニの屋上に行って敵の状況が確認出来る位置につく。一緒に四条にも来てもらって、コンビニの周りに防御壁を作って貰うつもりだ。周りに壁が出来るまでの間は、アイリーンにコンビニを守ってもらう。……後、今回は紗和乃もコンビニの中で待機をして貰うからな」
俺の発言を聞いた紗和乃が、目ん玉が飛び出すくらいに驚いた顔を浮かべて。
まるで激辛ワサビ寿司をうっかり食べてしまったような、悲痛な叫び声を上げて飛び上がった。
「ええっ!? 何でよッ、彼方くん!? 私だって全然戦えるわよ! 遠距離からの攻撃なら私の専門分野だし、私も屋上で彼方くんをサポートしながら戦うわ!」
射撃手の勇者である、紗和乃が俺の提案に猛反対をしてきた。
うーん、やっぱりそう言ってくるよな。
紗和乃はいつも、軍師的なポジションにいる事が多いけれど。実はこう見えて、けっこう好戦的な性格をしているのを知っている。だから今回もきっと、前線に立って戦っていたいんだろうなと思った。
確かにコンビニの屋上は、魔法の矢で狙いをつけて攻撃するには適した場所ではある。けれども――。
「……紗和乃、すまないが今回はダメだぞ。屋上にいたら、巨人達の投石攻撃の直撃を受ける可能性がある。特に今回は『回復術師』の香苗が不在な状況だしな。少数精鋭に絞って、戦う事にしようと思うんだ」
「ううっ。それは分かるけれど。でも、でも……!」
ぐぬぬ……と、唇を震わせて悔しがる紗和乃。でも、今回は俺の言い分の方が正しいと紗和乃も認めたようだ。
うちのコンビニには、レベルアップをした『薬剤師』の北川修司がいる。けれどまだ北川は、香苗のように腕が切断されても修復出来るような、高い治療効果のある治療薬は作れない。
だから防御力の弱いメンバーは、今回は迂闊に外に出ない方が良いだろう。
しかも今回は『回復術師』の香苗美花がいないだけじゃなく。物理攻撃を完全に遮断出来る、絶対防御シールドを持つセーリスも不在だからな。
「でもでも〜! それなら彼方くんだってコンビニの外に出たら危ないんじゃないの〜? 飛んでくる石が頭に当たったりしたら、どうするつもりなのよ〜?」
紗和乃と俺の話を聞いていた玉木が、心配そうに尋ねてきた。
「あー……それなら、なんとか大丈夫だ。俺の着ているコンビニ店長服は、合計で3回は敵の物理攻撃を完全に遮断してくれる。だから、もし2回連続で敵の直接攻撃を受けて、後が無くなったりしたら俺もいったんコンビニの中に戻るよ。それまでは外で全体の様子を観察しながら、指示を出そうと思うんだ」
「……でも、彼方様。無理はなさらないで下さいね! 確かに土魔巨人達の投石攻撃は脅威ですが、今のコンビニの外壁なら、何とか耐えられると思います。危なくなったらすぐに店内に戻ってきて下さいね!」
「分かったよ、ティーナ。無理は絶対にしないようにするから、大丈夫だよ。俺もエルフ達と揉め事は起こしたくないからな。何とか穏便に済むように、まずは外の巨人達をなんとかしてくるよ!」
俺はティーナの肩をポンポンと叩いて、ウインクをしてみせた。
よーし、やるぞ! 今のコンビニには、優秀な戦力が沢山揃っているからな。きっと何とかなるだろう。
……と、俺は油断しまくりな状態で、意気揚々とコンビニの外に飛び出し、さっそく屋上に登ってみたんだが――。
”ズドドドドドドドーーーッ!!!!”
「……って、うおおおおおおっ!? 思ってたよりも外は、めっちゃヤバい事になってるな!」
コンビニの外は、想像以上に阿鼻叫喚の地獄だった。
絶え間なく森の中から投げつけられてくる、大小様々な大きさの石。それらがもの凄い速さで、コンビニの外壁に命中している。
まるで空から、大きな氷粒が降ってきているような感じがする。
普通のヒョウと違う所は、それが空からだけじゃなく。360度ありとあらゆる方向から、こちらに向かって石が降り注いできている事だろうか。
まるでバッティングセンターにあるピッチングマシーンが、森の中に全方向からズラリと配置されて。それらが一斉にこちらに向けて、150キロ超えの豪速球を投げつけてきているような感じがするぞ。
実はこれって、何かの罰ゲームだったりしないよな?
コートの中に1人だけ残されて、周りからドッジボールを集団で投げつけてくる、陰湿なイジメ現場だったりはしないよな……?
俺は、四条、小笠原らの3人と共に。コンビニの屋上で身をかがめながら、何とか周囲の様子を見回してみた。
結局、今回俺と一緒にコンビニの外についてきて貰ったのは――。『ぬいぐるみ』の勇者の小笠原麻衣子と、『防御壁』の勇者である、四条京子だけだ。
アイドルの勇者の野々原有紀には、コンビニの店内で歌を歌って貰って、外に結界を張って貰っている。
基本、野々原のコンサート会場の結界は、敵対する魔物を結界の中に侵入させないという能力がメインだ。
今回のような、大量の石を外から投げつけられる――といった物理攻撃を防ぐ力は、野々原には無い。そして外の土魔巨人達は、なぜか邪悪な魔物ではないという判定になってしまうようだ。
物理的な攻撃を防げるのは、どちらかと言えば花嫁騎士であるセーリスの得意分野だからな。でも、そのセーリスはここにはいない。今回はマジで気を付けて行動をしないと、一発で即死してしまう可能性もあるだろう。
「ちょっ、なんなんやコレーッ!? こんなんじゃ顔を上げる事も出来ないやんか! ちーっとでも顔を上げたら、首が吹っ飛ばされてしまいそうな状況やなーっ!」
「防御用の壁をコンビニの周りに張ったら、四条はすぐに店内に戻ってくれよな! このまま屋上に残るのは、マジで危険過ぎるからな!」
「了解やでっ! 悪いけどうちはすぐに店内に戻らせてもらうわ! いでよーッ! 『偉大なる防壁』ーーッ!」
四条が両手を空にかざして、その能力を発動した。
コンビニの周りには、高さ5メートル。横幅30メートルにも及ぶ巨大な石壁が生み出された。
「よし! ほな、うちはコンビニの中に帰らせてもらうで。悪いけどうちの能力は戦闘では何の役にも立たんから、ほんまにゴメンやで!」
「ああ、大丈夫さ。コンビニの周りに防御壁を作ってくれてありがとうな! 気をつけて店の中に戻ってくれよ。アイリーン、四条の護衛を頼んだぞ!」
「了解しました、店長!」
防御壁の勇者である四条京子は、その役割を終えてコンビニの店内へと戻っていく。
……さあ、ここからどうするかなんだよな。
四条が作ってくれた石の壁のおかげで、横から飛んでくる投石に対しては、一応の防御が出来るようになった。
だけど、もう既に壁はギシギシと音を立ててひび割れ始めている。多分この調子だと10分も持たずに、四条が作ってくれた壁は、投石で壊されてしまうだろう。
コンビニの屋上に装備されている、5連装式自動ガトリングショック砲や、地対空ミサイルの発射装置などの武器類は、土魔巨人の投石攻撃によって、とっくに全て破壊されてしまっている。
コンビニには自動修復機能があるから、いつかは直るだろうけど。これじゃあ、ガトリング砲やミサイルで敵を撃ち倒すという攻撃は出来そうにない。
「彼方くん! とりあえず私のぬいぐるみ軍団だけど、大型のぬいぐるみ達は全部コンビニの護衛に専念させて。小型のぬいぐるみ達に、周りの巨人達を攻撃するように命令しておくけど。それで、大丈夫かしら?」
唯一、コンビニの屋上に残っている『ぬいぐるみ』の勇者の小笠原が、俺にそう進言してくる。
「ああ、その作戦で頼む! 俺も持てる戦力は全て注ぎ込む事にする。コンビニの機械兵であるコンビニガード達――約250体全部を出動させて、巨人達に一斉攻撃をかけてみるよ!」
さすがはコンビニの次期主力メンバーの小笠原だ。俺が指示しなくても、その行動力は的確かつ迅速だった。
何ていうか、小笠原も戦い慣れている感じがしてきたよな。なにせあの、緑魔龍公爵を倒したぐらいだからな。
コンビニの周りには今……10メートルを越える大型のクマのぬいぐるみ達が10体ほど、周囲を取り囲むようにして立ってくれている。
巨大ぬいぐるみ達は、銀色の大きなフォークを振り回し。土魔巨人達の投石攻撃を必死に防いでくれていた。
他の900体を超える小型のクマのぬいぐるみ達と、コンビニから出動したコンビニガード達は、一斉に土魔巨人達に向かって襲いかかっていく。
俺はコンビニの屋上から、周囲の戦況を冷静に観察する事にした。
そして、土魔巨人達が集中している場所にドローンを集めて、空からピンポイントでミサイル攻撃を加えていく。
だが、それでも戦況はこちらの方が遥かに劣勢だった。
コンビニから出撃したぬいぐるみの歩兵部隊900体と、俺のコンビニガードの機械兵達250体は……数の上でも、全然敵より劣っている。
森の中でコンビニを取り囲む土魔巨人達の群れは、軽く5000体以上はいそうだ。
大きさからしても、向こうの方が遥かに大きいからな。小型のクマのぬいぐるみが小さなフォークでその固い表皮を突いても、巨人達はビクともしない、
機械兵のコンビニガード達は、巨大な投石をぶつけられて次々と破壊されてしまっている。
唯一、巨人達に打撃を与えている有効な攻撃は――。
今の所、アイリーンが黄金剣で周囲の巨人達を斬り裂いてくれている事と。空中ドローンのミサイル攻撃が、巨人に命中して破壊出来ている事くらいだった。
しかもアイリーンは、コンビニに投げつけられる巨大な投石を斬り裂いて、防御役も同時にこなしてくれているからな。正直、本来の力が完全に発揮出来ているとはいえない状態だ。
「くっそ……! このままじゃ埒があかないな! ジリ貧でこっちの戦力がどんどん削られていってしまうぞ!」
「彼方くん、もうここらが限界だと思うの! 『あの攻撃』を巨人達に対して使ってもいいか、私に許可を頂戴ッ!」
大型のクマのぬいぐるみの肩に乗りながら。コンビニの防衛をこなしてくれている小笠原が、俺にそう話しかけてきた。
そうか――確かに『あの攻撃』がまだ残っていたな。でも、アレは下手をすると周りに大きな被害を出してしまう可能性もあるけど……。
俺の不安そうな顔を見た小笠原は、自信満々にガッツポーズを取ってアピールしてくる。
「大丈夫よ! 私もコンビニをうっかり踏まないようにちゃんと気をつけるし、周辺の被害も最小限に留めるようにするから。だからお願い、今回は私に『あの攻撃』を使わせて欲しいの!」
小笠原が頼み込むように、俺に懇願してくる。
ぬいぐるみの勇者である小笠原麻衣子が手に入れた新能力の中で――。俺は『ある能力』だけは、俺の許可なしで勝手に使わないでくれと頼んでいた。
それを使うと、コンビニの周辺に甚大な被害を及ぼしかねない可能性があったからだ。
でも、今の所。アイリーンと俺のドローン攻撃しか有効な攻撃手段が無い状況なのは間違いない。
このままだと小型のぬいぐるみ軍団も、コンビニガード隊も、敵の投石攻撃で撃ち減らされてしまうだけだ。
「よーし、今回はしょうがないな。やっちまえ、小笠原! だけど、あくまでもコンビニの周辺にいる巨人だけを蹴散らすようにしてくれよ! もし、近くにエルフの里があったりして。そこも壊滅させてしまったりでもしたら洒落にならないからな。くれぐれも気を付けてくれよ!」
「了解よーっ! ありがとう、彼方くん!」
小笠原は嬉しそうに笑うと、大型のクマのぬいぐるみの肩の上で。大きく両手を天に向けて広げてみせた。
「さあ、おいでなさい! 私の最終兵器、『超大型のクマのぬいぐるみ』よーーっ!!」
小笠原の叫び声と共に。大きな閃光が森の中に輝き、広がっていく。
そして、その白い光が完全に消え去った後の場所には……。
高さ全長70メートル。大怪獣サイズの超巨大なクマの可愛いぬいぐるみが、銀製の巨大フォークを抱えながら、森の茂みの中に突如として出現していた。




