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【コミック第2巻 発売中】外れスキル『コンビニ』で最強の勇者に成り上がる! ~異世界でコンビニ生活を満喫しつつ、オレを追放したクラスメイトを見返す事にしました~  作者: こたつ猫
第11章 コンビニ共和国の建国編

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第百十九話 ノルドール総力戦


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 ”ドドーーーーーン!!”


 ”ドドーーーーーン!!”



 超強化合金製のシャッターに守られたコンビニの外壁が、大きく揺れている。



 断続的に鳴り響く衝撃音と。無限に揺れ続ける振動が、まるで地震のように、建物全体を大きく揺らし続けていた。



 紗和乃(さわの)と一緒にコンビニの地上階に到着した俺は、エレベーターを出てすぐに倉庫に入る。


 そしてコンビニの事務所へと飛び込むと。空に配置してある偵察ドローンのカメラから、外の様子を注意深く探ってみた。



「……!? あのバカでっかい巨人みたいなのは、何だ……?」



 キャタピラーで、ゆっくりと森の中を走行していたコンビニ戦車。その移動中の、森の小道の横に並び立っていたのは……。


 高さ3メートルを超える、茶色い土で作られた巨人達だった。

 巨人達は横一列に並んで、コンビニの周囲を取り囲んでいる。


 森の中で不気味に立つ土色の巨人達の外見は、日本でいうところの『土偶(どぐう)』とか『埴輪(はにわ)』のような外見をしているな。

 目の所に真っ黒な深いくぼみがあって。お世辞にも愛らしい外見のマスコットとは言えない。


 コンビニを囲む土巨人達は、森の小道にもの凄い数の大行列を作って並んでいる。そしてそれぞれが近くに落ちている巨大な石を拾い上げては、それをコンビニに向けて思いっきり強く投げつけてきていた。


 巨人達による投石攻撃で、コンビニの外壁が壊されてしまうという事は……今の所は無い。


 だが、もし迂闊に外に飛び出したりでもしたら。投げ込まれてくる巨大な投石の直撃を受けて、即死してしまう事だってあり得るだろう。


 コンビニの外では、アイリーンが必死に投げつけられた巨大な石を、黄金の剣で斬り裂いてくれている。


 おかげでコンビニへの直撃ダメージは、ギリギリ最小限に抑えられているようだ。さすがはアイリーン。本当にコンビニの守護騎士として、いつも素早く対応してくれて助かる。



「彼方くん。あなた女神教やグランデイル王国だけじゃなくて。あんなに可愛い土偶のマスコットキャラ達にまで追われるような、悪い事をしでかしていたの? どこか胡散臭い遺跡で、古代の秘宝か何かを盗み出して。その遺跡を守る守護者(ガーディアン)達に追われているとか、そんなんじゃないでしょうね?」


「いやいや、俺はそんな事はしてないって。それにあの土の巨人達の見た目は全然可愛くないじゃないかよ! 俺は全くの無実だぞ、……まあ、多分だけどな」



 紗和乃がジト目で俺を睨んでくるから。


 俺は必死に自分は濡れ衣だと、無実アピールをして両手を振ってやった。


 ……いや、実際にあんな土の巨人達に襲われる理由なんて、俺は全然心当たりがない。


 たぶんアイツらは俺やコンビニを狙ってきている訳じゃなくて、この森に入った侵入者を自動的に襲う、森の守護者(ガーディアン)的な存在なんじゃないかな? 


 それにしては、少し数が多過ぎる気もするけどな。


 もしそうでないなら、きっとコンビニに何か恨みを持ったヤバい連中が送ってきた新手の刺客に違いない。


 きっとコンビニの店員にお弁当をレンジで温めて貰ったら、温め過ぎで中のおかずが破裂しちゃったとかさ。電子決済だって言ったのに、うっかりクレカ払いのボタンを押されて、レジをやり直すのに長く待たされてしまったとかさ。

 

 たぶんそんな程度の事で、カリカリと腹を立てるカルシウム不足なクレーマー達が、ここにあの不気味な巨人達を差し向けてきたんじゃないのか? 



「……とにかく! このままじゃ、コンビニは前に進む事が出来ないし。外で戦っているアイリーンさんも1人だけで苦戦をしているわ。だからまずはこの状況を、何とかしないといけないわね」


「ああ、そうだな。よし、まずはこちらも戦えるメンバーを集めて反撃の準備をしよう!」



 俺がちょうど事務所の中で、コンビニにいる他のメンバー達を集めようと後方を振り返った、その時――。



「彼方く〜ん! 一体どうしたのよ〜!? さっきの警報音みたいな大きな音は何なの〜!」


「彼方様! コンビニ全体が強い衝撃で揺れているみたいですが、一体、外で何が起きているのですか?」



 コンビニの地下7階層の結婚式場で、花嫁衣装の試着を楽しんでいたティーナと玉木のコンビが、事務所に慌てた様子で駆け込んで来た。


 どうやら先程、俺と紗和乃がエレベーターの中で聞いた非常事態用の警戒音は、地下の全階層で鳴り響いていたみたいだな。


「ああ、どうやらコンビニが謎の敵の襲撃を受けているみたいなんだ。攻撃をしてきている敵の正体は、今の所は不明だ。でも巨大な土の巨人みたいな連中が外にはわんさかと並んでいて。こちらに向けて、大量の石を投げつけてきているのは間違いない」


「土の巨人ですって〜!? 何なのよそれ〜!? どうせ、彼方くんがどこかの胡散臭い古代遺跡で、しょ〜もない秘宝か何かを盗んで、その遺跡を守るガーディアン達に追われているんでしょう〜? 彼方くん、悪い事は言わないから、さっさとその秘宝をちゃんと持ち主に返してきなさいよ〜〜!!」


「だーかーらー、違うって! 何でお前も紗和乃も、俺を謎のトレジャーハンターの設定にしたがるんだよ! しかも価値の無さそうな秘宝を盗んできた、って所まで共通の設定にしやがって。俺は本当に何もしていないぞ! 外の森にいる土の巨人達が勝手にコンビニを襲ってきているんだよ……」


 何かこういう人工的な無機質の巨人に襲われる時ってのは、トレジャーハンターが洞窟から財宝を盗んで。そこの守護者達に追われるみたいな設定が、お約束事として存在でもしているのだろうか? でも、俺はマジで何も盗みなんかしていないぞ。

 奪ってもいない財宝を、見ず知らずの相手に返せる訳がないじゃないか。


 紗和乃と玉木は親友だから、きっとトレジャーハンター系の映画でもよく一緒に見に行ってたのかもしれないな。



「彼方様。もしかしたら外にいる巨人達は、古い書籍に記された伝説の森の守護者、『土魔巨人(ノルドール)』なのかもしれません」


「『土魔巨人(ノルドール)』? 一体それは何なんだ、ティーナ?」



 俺はパソコンのモニターに映る、外の巨人達の様子を注視しているティーナに話しかけた。


「ハイ。私も古い書物に書かれていた内容を少し読んだだけなので、確証がある訳ではありませんが……。伝説によると、魔王領の近くにある南の森には、古代から長命のエルフ族が住んでいると言われています。エルフ族は森の中に侵入してきた外敵を防ぐ為に、『土魔巨人(ノルドール)』と呼ばれている、土で作り上げた大きな巨人達を森の守護者として配置している……という古い伝承があるのです」


「エルフ族だって? そうか……そういえばたしかククリアも同じような事を前に言っていたな。魔王領とは別に、エルフ領と呼ばれる少数のエルフや獣人達が暮らす場所がこの世界の中にはあると――。だとすると、この場所はエルフの暮らす南の森の中という訳なのか」


「ど、どうするのよ〜〜彼方くん〜! 私達はエルフさん達と戦うつもりなんて無いんでしょう〜?」



 玉木がパソコンの画面を見ている俺の肩を、ガシガシと揺らしながら尋ねてくる。



「まあな。正直、俺達が目指していたのは魔王領の方角だったから、エルフ達が縄張りにしている森の中に入ってしまったのは、本当に偶然だ。だから俺達に敵対の意思が無い事を伝えられれば、あの『土魔巨人(ノルドール)』達を操っている森のエルフ達も許してくれるという事にならないのかな?」


「――店長。どうやらそう簡単にもいかないようです」



 コンビニの外で、土魔巨人(ノルドール)達が投石をしてくる巨大な石を、剣で斬って防いでくれていたアイリーンが店内に戻ってきていた。


 アイリーンは黄金の剣を片手に、コンビニの外を真剣に見つめながら俺達に外の状況を教えてくれる。


「敵はどうやら、コンビニに巨大な石を投げつけてくるだけではなく……。コンビニの前後の道を塞ぐように石を積み上げ、こちらの身動きを取れなくしようとしているようです」


 マジかよ。それじゃあつまり、外の土魔巨人(ノルドール)達は、俺達をこの森から一歩も外に出す気は無い、って事なのか。


 もしかしたら……。

 『森の中に侵入した者には、必ず死を与える!』


 みたいなノリなのだろうか? もしそうなら、それは思ってたよりもずっと厄介だな。



「――どうするのよ、彼方くん?」


 紗和乃が真剣な顔で、俺に判断を委ねてくる。


「そうだな。まあ、仕方がない。こうなったら総力戦で外の土魔巨人(ノルドール)達を排除するしかないだろう。だけど俺達は、決して森のエルフ達と戦いに来た訳じゃない。もしエルフが俺達の前に出てくるような事があったら、絶対に攻撃をしないようにしてくれ。これはあくまでも自衛の為だ。外からコンビニに攻撃をしかけてきている土魔巨人(ノルドール)を倒す事だけに集中するんだ!」



 俺が事務所に揃うメンツに、高らかにそう宣言をした。


 ちょうどそのタイミングで……。


「彼方〜、おいおい、一体どうしたどうしたよ〜? さっきの大きな警報の音は一体何なんだよ? 後、コンビニ全体がめっちゃ揺れてるし、何か大きな音も鳴ってるけど本当に大丈夫なのか?」


 地下6階層の回転寿司店で、無料高級寿司をたらふく食べていたクラスのみんなが、一斉にエレベーターから降りてここに駆けつけて来た。


「……ちょうど良かった! お前達にも地下で高級寿司をたくさん食べた分は、ちゃんと働いて貰うからな! 全員、今の状況を説明するからよーく聞いてくれ! コンビニは今、敵の攻撃を受けていて、ちょっとだけヤバい事になっているんだよ」


「敵の攻撃〜〜!? 何やそれーっ! コンビニの外でどこかの国と戦争でもしとるんか?」


 防御壁(アーマー・ウォール)の勇者である四条京子(しじょうきょうこ)が、口の周りに赤いイクラの粒を大量につけながら尋ねてくる。


 いやいや、どんだけ大量のイクラを頬張ってきたんだよ!


 ご飯粒を口の周りに付けてくるなら、まだ理解出来るけど。赤いイクラの粒を口の周りにたっぷりと付けてくるって、イクラの海にダイブでもしてたのかよ……。羨ましいから、後で俺もちょっとやってみたいけどさ。

 


「……とりあえず、現状の説明を今からするから、みんなよく聞いてくれ! 戦えるメンバーにはすぐにでも外に出て戦ってもらう。そうでないメンバーは、コンビニの中で待機して貰うからな」


 俺は遅れてやって来た回転寿司組に、外からコンビニが攻撃を受けている事。そして、おそらく俺達がエルフ領と呼ばれている場所に入ってしまい、森のエルフ達が操る土魔巨人(ノルドール)と呼ばれる土製の巨人達から、投石攻撃を受けている事を伝えた。


 そのせいで今は、コンビニ戦車が森から逃げる事も、前に進む事も出来なくなっているという現状を理解して貰う。



「……なるほどね。状況は大体分かったわ。それで、どうやってその土魔巨人(ノルドール)達と戦うつもりなの?」



 ぬいぐるみの勇者である小笠原麻衣子(おがさわらまいこ)が、俺に尋ねてくる。


 さすがは3人娘の中で一番の常識派なだけあるな。状況の飲み込みが早くて助かる。


「ああ。今回は外に出て戦うメンバーは厳選しようと思う。まず俺は戦況を把握したいから、コンビニの屋上に行って敵の攻撃状況を確認出来る位置につく。一緒に四条(しじょう)にも来てもらって、コンビニの周りに防御壁を作って貰うつもりだ。コンビニの周りに壁が出来るまでの間は、アイリーンにコンビニを守ってもらう。……後、今回は紗和乃もコンビニの中で待機をして貰うからな」


 俺の発言を聞いた紗和乃が、目ん玉が飛び出すくらいに驚いた顔を浮かべて。

 激辛ワサビ寿司をうっかり食べてしまったような悲痛な叫び声を上げた。


「ええっ、何でなのよッ!? 私だって全然戦えるわよ、彼方くん! 遠距離からの攻撃なら私の専門分野だし、私も屋上で彼方くんをサポートしながら戦うわ!」



 射撃手(アーチャー)の勇者である、紗和乃が俺の提案に猛反対をしてきた。



 うん、やっぱりそう言ってくるよな。


 紗和乃はいつも、軍師的なポジションが得意そうな顔をしているけれど……。こう見えてけっこう好戦的な性格をしているのを知っている。だから今回も、きっと前線に立って戦っていたいんだろう。


 たしかに、コンビニの屋上は敵に魔法の矢で狙いをつけて攻撃するには適した場所ではある。けれども――。



「……紗和乃、すまないが今回はダメだ。屋上にいると外の土魔巨人(ノルドール)達が投げる、投石攻撃の直撃を受ける可能性がある。特に今回は『回復術師(ヒールマスター)』の香苗(かなえ)がコンビニに不在な状況だからな。だから今回は、少数精鋭に絞って外で戦う事にしようと思うんだ」


「ううっ。それは分かるけれど。でも、でも……!」



 ぐぬぬ……と、唇を震わせて悔しがる紗和乃。


 でも、今回は俺の言い分の方が正しいと紗和乃も認めたようだ。


 うちのコンビニには、レベルアップをした『薬剤師(ドラッカー)』の勇者である、北川修司(きたがわしゅうじ)がいる。

 けれどまだ北川は、香苗のように腕が切断されても修復出来るような、高い治療効果のある治療薬は作れない。


 だから防御力の弱いメンバーは、今回は迂闊に外に出ない方が良いだろう。


 実は紗和乃にもある程度、魔法の矢で自分の身の守りを固められる能力があるらしい。それでも、うっかり巨大な石が直撃したら大変な事になる。だから、今回の戦いへの参加は遠慮して貰う事にした。


 今回は『回復術師(ヒールマスター)』の香苗美花(かなえみか)がいないだけじゃない。

 物理攻撃を完全に遮断出来る、絶対防御シールドを持つセーリスが不在だからな。


「でもでも〜! それなら彼方くんだってコンビニの外に出たら危ないんじゃないの〜? 飛んでくる石が頭に当たったりしたら、どうするつもりなのよ〜?」



 紗和乃と俺の話を聞いていた玉木が、心配そうに俺に尋ねてきた。


「あー……それならなんとか大丈夫だ。俺の着ているコンビニ店長専用服は、合計で3回は敵の物理攻撃を完全に遮断してくれる。だから、もし2回連続で敵の直接攻撃を受けて、後が無くなったりしたら、俺もいったんコンビニの中に戻るよ。それまでは外で全体の様子を観察しながら、指示を出そうと思うんだ」


「……でも、彼方様。あまり無理はなさらないで下さいね! 確かに土魔巨人(ノルドール)達の投石攻撃は脅威ですが、今のコンビニの外壁なら、何とか耐えられると思います。危なくなったらすぐに店内に戻ってきて下さいね!」


「分かった、ティーナ! 無理は絶対にしないように外で頑張ってくるよ。大丈夫……! 俺もエルフ達と揉め事は起こしたくないからな。何とか穏便に済むように、まずは外の不気味な巨人達をなんとかしてくるよ!」



 俺はティーナの肩をポンポンと叩いて、ウインクをしてみせた。


 よーし、やるぞ!

 今のコンビニには、優秀な戦力がめっちゃ揃っているからな。



 ……と、俺は油断しまくりな状態で。

 意気揚々とコンビニの外に飛び出して。さっそく屋上に登ってみたんだが――。



 ”ズバババババババババーーーーーッ!!!!”



「……って、うおおおおおおっ!? 思ってたよりも外は、ヤバい事になってるな!!」



 コンビニの外は、想像以上に阿鼻叫喚の地獄だった。


 絶え間なく森の中から投げつけられてくる、大小様々な大きさの石。それらがもの凄い速さで、コンビニの外壁にぶつかってくる。


 まるで空から、大きな氷粒(ヒョウ)が降ってきている感じに似ているな。

 普通のヒョウと違う所があるとすれば……。それは空からだけじゃなく。360度ありとあらゆる方向から石がこちらに向かって降り注いできている事だろうか。


 まるでバッティングセンターにあるピッチングマシーンが、森の中に全方向からズラリと配置されて。

 それらが一斉にこちらに向けて、150キロ超えの豪速球を投げつけてきているような感じじゃないかよ。



 えっ……実はこれって。

 何かの罰ゲームだったりしないよな?


 コートの中に1人だけ残して。周りからドッジボールを集団で投げつけてくる、陰湿なイジメ現場だったりはしないよね?



 俺は、四条、小笠原らの3人と共に。

 コンビニの屋上で身をかがめながら、何とか周囲の様子を見回してみた。



 結局、今回俺と一緒にコンビニの外についてきて貰ったのは――。

 『ぬいぐるみ』の勇者の小笠原麻衣子(おがさわらまいこ)と、『防御壁(アーマーウォール)』の勇者である、四条京子(しじょうきょうこ)だけだ。



 アイドルの勇者の野々原有紀(ののはらゆき)には、コンビニの店内で歌を歌って貰って、外に結界を張って貰っている。


 基本、野々原のコンサート会場の結界は、敵対する魔物を結界の中に侵入させないという能力がメインだ。

 今回のような、大量の石を外から投げつけられる――といった物理攻撃を防ぐ力は、今の野々原にはない。そして外の土魔巨人(ノルドール)達は、なぜか邪悪な魔物ではないという判定になってしまうらしい。おかげで野々原の結界でも、土巨人達を、結界で弾くという事は出来なかった。


 物理的な石の投石攻撃を防げるのは、どちらかと言えば花嫁騎士であるセーリスの得意分野だからな。でも、そのセーリスはここにはいない。今回はマジで気を付けて行動をしないと、一発で即死してしまう可能性もある。



「ちょっ、なんなんコレーーッ!? こんなんじゃ顔を上げる事も全然出来ないやんか! ちーっとでも顔を上げたら、ヤバい事になってしまいそうな状況やなーーっ!!」


「防御用の壁をコンビニの周りに張ったら、四条はすぐに店内に戻ってくれよな! このまま屋上にいるのは、マジで超危険過ぎるからな!」


「りょ、了解やでーっ! 悪いけどうちはすぐに店内に戻らせてもらうでー! いでよーーッ!! 『偉大なる防壁(グレート・ウォール)』ーーーッ!!』



 四条が両手を空にかざして、その能力を発動する。


 コンビニの周りには、高さ5メートル。横幅30メートルにも及ぶ、巨大な石壁が生み出された。



「よし! ほな、うちはコンビニの中に帰らせてもらうで。悪いけどうちの能力は戦闘では何の役にも立たんから、ほんまにゴメンやで!」


「ああ、大丈夫さ。コンビニの周りに防御壁を作ってくれてありがとうな、四条! 気をつけて店の中に戻ってくれよ! アイリーン、四条の護衛を頼んだぞ!」


「了解しました、店長!」



 防御壁の勇者である四条京子は。その役割を果たしてコンビニの店内へと戻っていく。



 四条が屋上から降りて店内に入るまでは、アイリーンがちゃんとガード役をこなしてくれた。



 さあ、ここからどうするかなんだよな。


 四条が作ってくれた石の壁のおかげで、横から飛んでくる投石に対しては、一応の防御が出来るようになった。

 だけど、もう既に壁はギシギシと音を立ててひび割れ始めている。多分この調子だと、10分も持たずに。四条がせっかく作ってくれた壁は、巨人達の投石で壊されしまうだろう。


 コンビニの屋上に装備されている、5連装式自動ガトリングショック砲2門。地対空ミサイルの発射装置。火炎放射機などの武器類は、土魔巨人(ノルドール)の投石攻撃によって、とっくに全て破壊されてしまっている。


 コンビニには自動修復機能があるから、いつかは直るだろうけど。これじゃあいつもみたいに、ガトリング砲やミサイルで敵を撃ち倒すという、無双攻撃も出来そうにないな。



「彼方くん! とりあえず私のぬいぐるみ軍団だけど、大型のぬいぐるみ達は全部コンビニの護衛に専念させて、小型のぬいぐるみ達は全て、周りの巨人達を攻撃するように命令しておくけど。それで、大丈夫かしら?」



 唯一、コンビニの屋上に残っている『ぬいぐるみ』の勇者の小笠原麻衣子(おがさわらまいこ)が、俺にそう進言してくる。


「ああ、すまない。その作戦で頼むよ! 俺も持てる戦力は全て注ぎ込む事にする! コンビニの機械兵であるコンビニガード達――約250体全部を出動させて、土巨人達を一斉攻撃をかけてみる!」



 さすがは、コンビニの次期主力メンバーの小笠原だ。


 俺なんかが何かを指示しなくても、その行動力は的確かつ迅速だった。


 何ていうか、小笠原も戦い慣れている感じがしてきたよな。なにせあの、緑魔龍公爵(グリーンナイトメア)を倒したぐらいだからな。


 コンビニの周りには今……。10メートルを越える大型のクマのぬいぐるみ達が10体ほど、周囲を取り囲むようにして立ってくれている。

 巨大ぬいぐるみ達は、銀色の大きなフォークを振り回して土魔巨人(ノルドール)達の投石攻撃を防いでくれていた。


 他の900体を超える小型のクマのぬいぐるみ達と、俺のコンビニから出動したコンビニガード達は、一斉に土魔巨人(ノルドール)達に向かって襲いかかっていく。



 俺はコンビニの屋上から、周囲の戦況を冷静に観察する。


 そして、土魔巨人(ノルドール)達が集中している場所にドローンを集結させて。ピンポイントで、空からミサイル攻撃を加えていった。



 だが――正直、それでも戦況はこちらの方が劣勢だ。


 コンビニから出撃した小笠原のぬいぐるみの歩兵部隊900体と、俺のコンビニガードの機械兵達250体は……数の上でも、全然敵よりも劣っている。


 森の中でコンビニを取り囲む土魔巨人(ノルドール)達は、軽く5000体以上はいそうだ。


 大きさからしても、向こうの方が遥かに大きいからな。


 小型のクマのぬいぐるみが小さなフォークでその固い表皮を突いても、土魔巨人(ノルドール)達はビクともしないし。機械兵のコンビニガード達は、巨大な投石をぶつけられて。次々と破壊されてしまっている。



 唯一、巨人達に打撃を与えている有効な攻撃は――。


 今の所、アイリーンが黄金剣で周囲の巨人達を斬り裂いてくれている事と……。

 空中ドローンのミサイル攻撃を、俺がピンポイントに重ねて巨人達のど真ん中で大爆発を引き起こしている戦法くらいか。


 しかもアイリーンは、コンビニに投げつけられる巨大な投石を斬り裂いて、防御の役も同時にこなしてくれているからな。正直、本来の力が完全には発揮できていない状態だ。



「くっそ……! このままじゃ(らち)があかないな! ジリ貧でこっちの戦力がどんどん削られていってしまうぞ」


「彼方くん、もうここらが限界だと思うの! 『あの攻撃』を巨人達に対して使ってもいいか、私に許可を頂戴ッ!」



 大型のクマのぬいぐるみの肩に乗りながら。


 コンビニの防衛をこなしてくれている小笠原が、俺にそう話しかけてきた。


 そうか、『あの攻撃』があったな。でも、アレは下手をすると周りに大きな被害を出してしまう可能性もあるけど……。


 俺の不安そうな顔を見た小笠原は、自信満々にガッツポーズを取ってアピールしてくる。


「大丈夫よ! 私もコンビニを踏まないようにちゃんと気をつけるし。周辺の被害も最小限に留めるようにするから。だからお願い、今回は私にあの攻撃を使わせて欲しいの!」



 小笠原が頼み込むように、俺に懇願してくる。


 ぬいぐるみの勇者である小笠原麻衣子が手に入れた新能力の中で――。俺は『ある能力』だけは、俺の許可なしでは勝手に使わないでくれと、小笠原に頼んでいた。

 それを使うと、コンビニの周辺に甚大な被害を及ぼしかねない可能性があったからな。


 でも、今の所。アイリーンと俺のドローン攻撃しか有効な攻撃は手段が無い状況なのは、間違いない。

 このままだと小型のぬいぐるみ軍団も、コンビニガード隊も、敵の投石攻撃で撃ち減らされてしまうだけだ。



「よーし、今回はしょうがないか! やっちまえ、小笠原! だけど、あくまでもコンビニの周辺にいる『土魔巨人(ノルドール)』だけを蹴散らすようにしてくれよ! もし、近くにエルフの里があったりして。そこも壊滅させてしまったりでもしたら、洒落にならないからな。くれぐれも気を付けてくれよ!」



「了解よーっ! ありがとう、彼方くん!」



 小笠原は嬉しそうに笑うと、大型のクマのぬいぐるみの肩の上で。大きく両手を天に向けて広げてみせた。



「――さあ、おいでなさい!! 私の最終兵器、『超大型のクマのぬいぐるみ』よーー!!」



 小笠原の叫び声と共に。

 大きな閃光が森の中に輝き、広がっていく。


 そしてその白い光が完全に消え去った後の場所には……。



 高さは全長70メートル。

 大怪獣サイズの超巨大なクマの可愛いぬいぐるみが、銀製の巨大フォークを抱えながら。森の茂みの中に、突如として出現したのだった。

 

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外れスキルコンビニ
外れスキルコンビニ、コミック第1巻、2巻発売中です☆ ぜひお読み頂けると嬉しいです!
― 新着の感想 ―
[気になる点] 香苗が居ないのも無能のわがままのせいだし邪魔でしかないな
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