第百十八話 グランデイル再脱出
グランデイル王都の南にそびえる巨大な入場門。
大量の魔物達が押し寄せて来ているこの場所に。
ボロボロの学生服を着て、大きな剣を構えた1人の少女が仁王立ちで待ち構えていた。
「――『無音』&『無影剣』――!」
グランデイル王都の入場門に殺到した、魔物達の先頭集団――おおよそ100匹ほどが……。一瞬にして学生服の少女が振るう剣によって、全身を切り刻まれ倒れていく。
最強と名高い剣術使いの勇者が持つ能力。
『無言』は、周囲の者にその気配を全く悟らせる事なく、敵に接近する事が出来る。
そして、もう1つの能力。
『無影剣』は、離れた場所にいる敵に対して。『剣で斬る』という動作を取らずに、一瞬で相手を斬殺する事が可能だった。
その2つのスキルを活用し、『剣術使い』の勇者は、グランデイルの南門に迫る魔物の群れを、一瞬にして殲滅させていく。
倒された魔物達には、剣で斬られたという感覚さえ無かった。
ただ、剣術使いの勇者が立つ領域に近づいただけで。
まるで、毒ガスの充満している危険地帯に飛び込んでしまったかのように。魔物達はバタバタと勝手に、地面の上に転がっていった。
剣術使いの勇者である雪咲詩織は、独りで多数の相手を殲滅させる事に特化した剣士だ。
ルールなんてものは何も無い、この残酷な異世界で。常にソロプレイヤーとして、単独行動を取り続けてきた雪咲。
彼女はいつだって、たった一人だけで同時に沢山の敵との戦闘を繰り返してきた。
女神教の『黒色鍛冶屋』の能力を持つシュナイデルが作り出した呪いの黒剣を装備して。その精神が操られていた状態の雪咲は、本来の力が全く発揮出来ていなかった。
彼女が本来持つ、剣術使いとしての高い攻撃能力は、今――完全に復活を遂げている。
選抜勇者達の中でも最強と噂される『剣術使い』の雪咲が……。何と今は、杉田達の援護をしてくれているのだ。
高い戦闘力を誇る雪咲の参戦もあり。グランデイルの王都に押し寄せてきた、数万を超える魔物達の群れは――確実にその数が減少に転じ始めていた。
「……うおおおおおぉぉっ!? まだ、魔物達を殲滅出来ないのかよっ! もう、コンビニのシャッターはボロボロになってるけど本当にコレ、大丈夫なのかよ〜?」
コンビニの事務所の中で弱音を吐き続ける杉田。
そんな彼を、花嫁騎士のセーリスが叱咤激励する。
「バーーカ!! 店の中に魔物が侵入してきた時は、お前の炎の能力だけで何とかしろよッ! アタシは今、敵の数を減らすのに忙しいんだよ! お前の手助けをなんてしてるヒマはないからな! まあ、後は勝手に頑張れよなー!」
「そ、そんな〜〜ッ!? くっそーーーっ!! マジで気合を入れてガトリング砲を連打しまくるぞっ!! うおおおおおおっ!! お前らさっさとくたばっちまえよーーッ!!」
回転しているコンビニ支店1号店の外壁には、ビッチリと隙間なく。無数の魔物の群れがへばりついている。
口では杉田を冷たくあしらってはいるが、コンビニ支店が魔物達の大波に飲み込まれそうになるたびに。
セーリスは幾度もコンビニの屋上に降り立ち、杉田の援護をしていた。
外壁に張り付いている魔物達を、ロケランで撃ち落としつつ。屋上に登ってくる魔物達を蹴り飛ばしていく。
セーリスは、コンビニの中にいる杉田に被害が及ばないように、全力で彼を守り抜こうとしていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……詩織ちゃん! まだ病み上がりなんだから、あまり無理はしないでね!」
グランデイル王都の南門を守る雪咲の後方には、まだ意識の無い藤枝みゆきの治療に集中している香苗美花がいる。
「……大丈夫です。うちは香苗さんや、みゆきさんに迷惑を沢山かけちゃったから……。その分の穴埋めを、ここでキッチリと返させて貰うつもりです。だからここはうちに全部任せて下さい!」
落ち着いた口調で、香苗に返事をする雪咲。
だが、雪咲の周囲に漂う殺気は本物だった。南門に迫り来る魔物の群れを、彼女は鋭い眼差しで睨み続ける。
南門に押し寄せたオーク達や、武装したゴブリン達の魔物の部隊は――。既に500体以上もの死体を、南門の前に積み重ねていた。
流石にその恐怖の光景を目の前で見た魔物達は、門の前に立つ雪咲に、もはや近づく事さえ出来なくなっている。
それは、生物が持つ本能的な恐怖反応といっても良い。
接近するだけで、敵を死に追いやる死神がそこに立っているのだ。その恐怖の光景を目の前で見て。わざわざ自分が死ぬと分かっているのに、自ら進んで前進しようとするような魔物などいるはずもない。
改めて、藤枝みゆきの治療を続けていた香苗美花は、剣術使いの勇者の、桁違いの強さに愕然としてしまう。
先程までの、黒い剣の呪いによって意識を操られていた時の雪咲とは……段違いにその能力が上昇している。
雪咲に接近をするだけでバタバタと倒れていく魔物達の姿を、香苗は唖然としながら見つめていた。
もし雪咲が、コンビニの新たな仲間として加わってくれるのなら。こんなにも心強い事はないだろう。
雪咲自身も、今まで呪いの黒剣に自身が操られていた時の経緯を香苗から聞いて、驚愕している。
そして自分が犯してしまった罪の罪悪感からか、自ら進んで香苗に協力を申し出てくれたのだ。
普段なら、クラスの誰とも交流を持とうとしなかった孤高の雪咲。
香苗にとっては、その雪咲が協力してくれるという事自体が驚きの内容であったが……。
どうやら雪咲は、シュナイデルが作った黒剣に意識が操られていた時の記憶を――朧げながら、少しだけ憶えているらしかった。
その為、香苗の治療を受けている舞踏者の藤枝みゆきに対しては、心底申し訳ない……という気持ちが強く残っているらしい。
雪咲はこれから自分がどう行動をしていくのかを、まだ決めている訳ではないようだが。
少なくとも。自分を救ってくれた藤枝みゆきの意識が回復するまでは、彼女を守り抜こうと強い決意を抱いていた。
グランデイル王都を守る異世界の勇者達と、押し寄せる魔物達との激戦はその後もしばらく続き。
時刻は夕暮れ時が近づいてきていた。
そして――。
「あれ!? おいおい、何だか敵の数が減ってきたみたいだな。コンビニの周囲に、魔物が全然いなくなったみたいだぞ……?」
コンビニ支店の中から、外の監視カメラに映る映像を見つめていた杉田が驚きの声を上げる。
ロケットランチャーを連射していたセーリスも、いったん攻撃を止めて。
コンビニの屋上から、ゆっくりと周囲を見渡し始める。
「……ああ。どうやら魔物の群れは全部、アタシ達だけで駆逐しちまったみたいだなー!」
セーリスは、グランデイル王城の地下から戻ってきた時よりも。更にその純白の花嫁ドレスが、黒い焦げ跡で薄汚れてしまっていた。
両手に抱えている大きなロケットランチャーを床に下ろすと、『ふぅ……』と一息をついてから。ようやくその場に腰を落として、休息をとる事にする。
「す、すげーーッ!! あんなに凄い数の魔物達がいたのに……。全部、俺達だけで倒しちゃったのかよ!?」
コンビニの中から、杉田が興奮気味に外に飛び出してきた。
コンビニの周囲には、黒く焼け焦げたような破壊の跡がまだ所々たくさん残っている。
そんな荒れ果てた大地をゆっくりと見回して。
改めて自分達が数万を超える魔物の群れに、完全勝利した事を実感する。
「途中で逃げ出した魔物達も結構いただろうからなー。だから全てをぶち殺した……って訳じゃないだろうけど。全体の4割くらいは倒したんじゃないかなー? まあ、ほとんどアタシ1人の手柄だから、ちゃんとアタシに全力で感謝しろよな!」
へへへっ……と、満面の笑みを浮かべて。
黒く汚れた手で鼻をこすりつけるセーリス。
きっとコンビニの勇者である彼方に、後でたくさん褒めて貰える事を彼女は期待しているようだ。
そう、彼らは間違いなく……グランデイルの王都に迫った大量の魔物達を撃退し。街の危機を救った英雄達だった。
ただ、惜しむべきはその活躍を。
グランデイルに住む住人達が、直接目にしてはいなかったという事だろうか。
グランデイル王都の住民達は、魔物達の襲撃にパニックに陥ってしまい。我先にと街から避難をする為に、急いでグランデイル王都の北門の方角に殺到していた。
その為、南門で魔物の襲撃を撃退してくれていた異世界の勇者達が存在してくれていた事に、誰も気付かなかったのである。
唯一、異世界の勇者達の活躍を直接近くから見ていたのは――。
上空の大型のアパッチヘリの中から。激しい戦闘をずっと見守っていた杉田の妻の家族達だけであった。
上空で旋回していたアパッチヘリは、ゆっくりとコンビニ支店の真横に着陸する。
そして、グランデイルの街を救ってくれた異世界の勇者に感謝の言葉をかける為に、全員が一斉に外に飛び出してきた。
「勇樹様! お怪我はないですか? グランデイルの街を救って下さり、本当にありがとうございます!」
「お姉ちゃんの旦那さん! ホントにありがとうー!! すっごくカッコ良かったよー!!」
「異世界の勇者様ーー! 本当にめちゃくちゃ強いんだねー!! あんなにたくさんいた魔物達をぜーんぶ倒しちゃうなんてビックリしたよーっ!! すごーい!!」
ルリリアの家族達は、杉田のもとに駆け寄って。全員がねぎらいと感謝の言葉を杉田にかける。
「おおーっ! 俺だってマジでビックリしたよ! これも全部、彼方のコンビニのおかげなんだけどな。俺の親友の能力は、マジで凄えぇって改めて思いしったぜ!」
杉田はこの大勝利が自身の能力の手柄ではなく。
セーリスが持ってきた、コンビニ支店のお陰で自分が活躍が出来た事を強調した。
「コンビニ? このでっかい建物がコンビニなのー?」
ルリリアの小さな妹達が、コンビニ支店を指差し。不思議そうな顔をする。
「ああ、そうさ。彼方が持つ本家のコンビニはもっと床下に戦車みたいなキャタピラーが付いていたり、プラモデルみたいなゴツイ外見をしてるんだけどな。これは支店だから、少しだけ規模は小さいんだよ」
「ふーん。コンビニって、物凄くでっかい武器なんだねーー!」
うーん、コンビニって実は武器だったのか?
本当のコンビニを知らない異世界の子供達にそう言われると、現代社会の『普通のコンビニ』を知っている杉田は、思わず首を傾げてしまう。
おそらくコンビニの勇者が持つ、異世界コンビニがあまりにも特殊過ぎるだけだろう。
もしかしたら……無限の広がりを持つ異世界の中で、どこかには武装をしたコンビニが当たり前のようにキャタピラーで走り回っているような世界もあるのかもしれない。
だからコンビニとはこういうものなんだ――と、必ずしも定義出来ないのかもしれないが……。
少なくとも、目の前のコンビニが、日本のコンビニとはだいぶ異なっているのは間違いなかった。
「杉田くーん、セーリスさーん! 大丈夫ですかー?」
街の門の方から回復術師の勇者の香苗美花がこちらに向かって走ってきた。
その後ろには。藤枝みゆきを背中に乗せている、雪咲詩織も見えている。
「おおっ、お前達も無事だったのか……って。みゆきは怪我をしているのかよ? それに、見慣れない奴がいると思ったら、お前は雪咲じゃないか!? 今までどこにいたんだ、みんなお前の行方が分からなくて、ずっと心配してたんだぞ!」
興奮している杉田に早口で尋ねられた雪咲は、みゆきを背負ったまま無言で俯く。
そしてなるべく、杉田と視線を合わせないようにしてるようだ。どうやら他の勇者達に、自分の事をそんなに心配して貰えているとは雪咲は思わなかったらしい。
「ええーっとね……。これはね、実はグランデイルの街の中で、色々とあったんだけどね」
ここに雪咲がいる事の理由と。現在の状況の説明を、どう杉田に話そうかと、香苗が言い淀んでいると……。
突然、周囲に大きな警報音が鳴り響いた。
”ウイーーーーーン!!”
”ウイーーーーーン!!”
大きなサイレンの音が、グランデイル王都の周辺に鳴り響く。
そのあまりの音の大きさに。
コンビニの周辺にいた異世界の勇者達や杉田の家族達も、慌てて自分の耳を塞いで、驚きの表情を浮かべた。
「……な、何だ! このバカでっかい音は!? ルリリア、この音が何なのか分かるか?」
杉田に聞かれた妻のルリリアは、両耳を必死に押さえながら夫に返事をする。
「……す、すいません、勇樹様! 私は小さい頃からグランデイルの街にずっと住んできましたが。このような大きな音は、今までに一度も聞いた事がありません」
ルリリアも、その家族達も。初めてグランデイルの街に鳴り響いた謎の大きな音に、両耳を押さえながら震えている。
この大きな、まるでサイレンのような警戒音は……。
長いグランデイルの街の歴史の中で、今まで一度も鳴り響いた事の無い音だった。
「消えろーーッ! コンビニ支店1号店ッ!! 全員、急いでヘリの中に入るんだッ!!」
花嫁騎士のセーリスが、外に出していたコンビニ支店を再びカプセルに戻して大声で呼びかける。
そして白いスカートの中から、ロケットランチャーを2つ取り出すと。急いで戦闘態勢をとった。
「おいおい一体、どうしたんだよ!? これから何が起きるっていうんだよ!」
両耳を押さえながら。杉田がセーリスに尋ねる。
セーリスはロケランを両手で構えながら。真っ直ぐにグランデイルの王城のある方向を凝視していた。
「これは、マジでヤバいのがくるぞ……! それも大量にな! だから急げ、もう時間がないぞ! ヘリに全員乗り込んだら、すぐにでもここから緊急離脱をするからなッ!!」
状況がまるで分かっていない杉田は、とりあえず急いで自分の家族達をヘリの中に順番に乗り込ませていく。
緊急事態である事を察した香苗や雪咲も、慌ててヘリの中に乗り込んだ。
既に杉田の家族だけでも、定員オーバーになりかけていたヘリの中であったが……。
操縦席の部分に、香苗と雪咲はかろうじて体を寄せ合うようにして潜り込み。まだ意識が戻っていない藤枝みゆきは、ヘリの助手席に寝かしつけるようにして座らせる事にした。
――しばらくして。
けたたましいサイレンの音が、ゆっくりと鳴り止んでいく。
そして、セーリスが睨みつけているグランデイルの王城付近に、ある『異変』が起きた――。
白い模様のような『何か』が……。
大量にグランデイル城から、溢れ出るようにして外に飛び出してきたのだ。
「――おいおい、アレは一体……何なんだよ!?」
家族と共に。ヘリの後部座席にぎゅうぎゅうな状態で押し入っていた杉田が、窓の外に見える光景を見て驚愕する。
グランデイル王都の方角から。『白い何かの大群』が、ものすごい勢いで沸き出している。
そしてそれらは全て、こちらに向かって勢いよく迫って来ているのだ。
その様子は遠目で見ると……。まるでシロアリの大群が、グランデイル王城から飛び出して来たようにも見えた。
「あれは、もしかして……『人』なの!?」
香苗が、こちらに近づいてくる白い模様の塊を見て。戦慄の声を上げる。
そう……。白い塊はこちらに近づいてくるほどに。
その恐ろしい姿の全容が、鮮明に見えてきてしまう。
「チッ……また、アイツらなのかよ……。しかも今回は、もの凄い数が集まっていやがるな……ッ!」
セーリスが、両肩にロケットランチャーを構えながら苦々しそうに毒づく。
グランデイル城から大型アパッチヘリに迫ってきている物の正体。それは……。白い鎧を全身にまとった、グランデイル王国の騎士達であった。
彼らは『クルセイスの親衛隊』と呼ばれている――魔法戦士部隊の集団だ。
かつてミランダ領の森の中の戦いでも。女神教の枢機卿が率いてきた魔女候補生達を、白い騎士達はその数の力で圧倒して追い詰めた事がある。
先程、セーリスが侵入を果たした、グランデイル王城の地下に巣くっていた白い繭に包まれた無数の卵の群れ。
そこで大量に複製されていた、謎に包まれた騎士達でもあった。
「まさかあの地下の卵に入っていた奴らが、一斉に孵化したんじゃないだろうな? それとも、どこかに成体になっていた奴らが大量に隠れていたのか? どちらにしてもあの卵の群れは完全に破壊しておくべきだったな……クソッ! アタシとした事がマジでしくじったぜー!」
「……卵だって? それは一体何の話なんだよ!?」
杉田が大声を上げて慌てているが。今はそんな事に構っているような時間はない。
セーリスは急いでヘリの外にある出っ張りに、自分の足を掛けて体を固定させると。
外の様子を警戒しながら、急いでヘリを離陸させる事にした。
「行くぞ、ヘリを離陸させるぞーーッ!! 急いで私の旦那様のいる場所に帰るんだ! 全員しっかり掴まれよ!」
さすがに輸送機能付きの大型アパッチヘリでも。今回は明らかに定員オーバーだ。その動きが遅くなってしまうのは、やむを得ないだろう。
重過ぎる重量のせいで、本来の速度には乗れず。
ヘリは地表スレスレの高度を、ギリギリ維持しながらゆっくりと前に飛行していく。
「――おい! あの白い騎士達、こっちに向かって追ってくるぞ!」
グランデイル王城から飛び出てきた、全身に真っ白な鎧を着込んだ騎士達は――。
その恐るべき身体能力で、地表を大ジャンプしながらアパッチヘリの後を猛追撃してくる。
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、こちらに迫ってくる白い騎士達の群れは、数百人は超えている。
その姿はまるで、白いイナゴの大群が後ろから追ってきているような……あまりに異様な光景に見えた。
ヘリを追いかけてくる白い魔法騎士達の先頭集団が、一斉に魔法の火炎球をこちらに向かって放ってくる。
数百を超える大量の火の玉の襲来に、ヘリの中にいる杉田の家族達が大きな悲鳴を上げた。
「きゃああああああああーーーーーっ!!」
グランデイルの白騎士達が放った魔法攻撃は、アパッチヘリに直撃する、その直前で――。
”ドカーーーーーーーン!!!”
花嫁騎士のセーリスがヘリの周囲に展開する、銀色のシールドによって防がれた。
「……チッ! これじゃあすぐに追いつかれちまうな。こうなったら、こっちからも反撃するしかないぜ!」
セーリスの展開をする銀色の防御シールドは、どんな攻撃であっても破壊をする事は出来ない。
だが、白い魔法戦士達は魔法攻撃がセーリスに防がれたのを確認すると。今度は飛んでいるヘリを破壊する為に、手に持っている剣や槍などの武器に魔法の力を付与して。
今度は直接……近距離からヘリに対して攻撃を加えようとして猛接近してくる。
アパッチヘリの更に上空に向けて。地上から大ジャンプをしていく数百の白い魔法戦士達。
彼らは、空から勢いよく落ちてくるイナゴの群れのように。
重力で更なる加速をつけて。大量にヘリに向けて空から降下をしてきた。
「何なんだよ……あの気持ちの悪いイナゴみたいな連中は!? 本当に俺達、彼方のいるコンビニにまで帰れるのかよ……!」
泣き言ばかり呟く杉田に。
セーリスが心配をするなと親指を立てて微笑んだ。
「まあ、そんなに心配すんなって。アタシが必ず私の旦那様の所に、お前達全員を帰してやるからよ! だから少しだけ歯を食いしばって、ヘリの中で大人しくしててくれよなー!」
上空から降り注ぐ無数の白い騎士達を、ロケットランチャーを構えたコンビニの守護者――純白の花嫁騎士が迎え撃つ。
セーリスはロケットランチャーのミサイルを、上空に向けて連続で放つ。
”ドゴーーーーン!!”
”ドゴーーーーン!!”
放ったミサイルを、空から降ってくる白騎士達の中心部分で爆発させて。
降下してくる騎士達を上空で吹き飛ばす事で。アパッチヘリへの直撃だけはかろうじて防ぐ事に成功した。
爆風に弾き飛ばされた白い騎士達達の群れを見つめながら……セーリスは、ふと考えてしまう。
もしかしたら、先程鳴り響いたあの大きなサイレンの音は……。この白い鎧を着た魔法戦士達をグランデイルに招集するものだったのかもしれないと。
だとするとグランデイル王国は、自分達が南の門の外で必死になって魔物達の襲撃を防がなくても――。
あの白いイナゴ騎士達の力を使って。自力で王都を守る事が出来たんじゃないだろうか。
グランデイル王国に残っていた『何者』かは、外で戦う異世界の勇者達の姿を陰からじっと見つめ。
王都に迫って来ていた数万の魔物の群れが、勇者達によって全滅したのを見計らって。今度はこの白い魔法戦士部隊を大量に出撃させて来たという事なのだろうか――?
「チッ……! もしそうだとしたら、さっきグランデイルの王都を守る為に戦ったのは、全てがとんだ無駄足になっちまったな。無駄にエネルギーだけ消費されられて、こっちが弱った所に本命の軍隊を繰り出して来やがるなんて、いい性格してやがるぜ……!
舌打ちをしながらも。セーリスは自身の能力である――『鋼鉄の純潔』を全力で展開して、飛行するアパッチヘリを守り続ける。
絶対防御シールドを持つセーリスだけなら。例え白い騎士達に囲まれたとしても、生き抜く事は容易いだろう。
だが……今は、杉田を始めとする多くの人間達も一緒に守らなければならない。
この白い鎧を着た騎士達は、見かけよりもずっと優秀で強い魔法戦士達だ。しかも、その数が増えれば増えるほど、その脅威は増していく。
ここは何としてもヘリの防御だけに専念をして。
アパッチヘリを無事にグランデイル王国から逃す事だけを考えよう。
セーリスは迫り来る危機の中でも、冷静に今の自分達が置かれた状況の分析をする事が出来ていた。
「よーし! 全員、食料も武器も荷物も全てヘリから捨てるんだ! 少しでもヘリを軽くして、もっとスピードを出すぞ。あの白アリ野郎達から逃げ切るにはそれしかない!」
声を荒げたセーリスの叫びに。ヘリに乗っていた全てのメンバーがその説明を理解して、強く頷く。
再びアパッチヘリに追いついてきた白い魔法戦士達は、空から降り注ぐイナゴの大群のように……。
一斉に上空にジャンプをして。アパッチヘリ目掛けて空から襲いかかるようにして降り注いでくる。
セーリスはロケットランチャーを両手に構えると、上空に向けて再びミサイルを連射させた。
空中で大きな爆発音を、何度も轟かせながら……。
この日、グランデイルの王都を魔物達から守った異世界の勇者達と。
その後を永遠に追いかけていく、グランデイルの白い魔法戦士達との攻防は……。
ヘリの姿が街から遠く見えなくなるまで、ずっと続いていたという。
異世界の勇者達を乗せたヘリが、その後どうなってしまったのかは……。最後まで誰にも分からなかった。