第百八話 無限のコンビニ空間
紗和乃との話し合いを終えた後。俺とティーナは、地下1階に到着したエレベーターの中に乗りこんだ。
紗和乃は地下1階に残って、会議でみんなに配った資料を回収してから玉木達と合流するとの事だった。なので俺達はいったん、紗和乃と別れの挨拶をする事にする。
「――じゃあな、紗和乃! 俺とティーナはコンビニホテルで休んでいくけど、玉木達の事をよろしく頼むな!」
「うん……。彼方くんも無理はしないでね! 今は体をゆっくりと休めておく事も大事よ。じゃあ、また元気になったら下の階で合流しましょう!」
エレベーターの扉が閉まるまで、紗和乃はこちらに笑顔で手を振り続けてくれた。
紗和乃は真面目な性格の奴だけど、実はもの凄く愛想が良いんだよな。
クラスの中でも、ブラジルと日本の両親から生まれたハーフである紗和乃は、モデルのように見た目が綺麗でいつも目立っていた。
面倒見も良いし、外見の美しさを鼻にかけるような事もないサラッとした性格で、女子達からも慕われているし。何よりも、玉木と本当に仲が良かった事を俺はよく憶えている。
”ヴイーーーーーン”
大きな扉が閉まり、地下に向けてゆっくりと降下していくエレベーター。地下2階は真下の階なので、すぐに辿り着く事が出来た。
俺とティーナはそのままエレベーターから降りて、コンビニホテルの自室がある、201号室に向かおうとしたんだけど……。
そこで俺は、目の前に広がっている光景を見て思わずビックリしてしまう。
「えええっ!? 一体何なんだよ、コレ? ホテルの内装が何だかもの凄い事になってるぞ!」
ホテルの自室へと向かう通路を、真っ直ぐに歩いていると。正面に見えてきたコンビニホテルのロビーの光景を見て、俺は腰を抜かしてしまった。
何て言うか、ホテルの奥行きと広さが――信じられないくらいに大きく広がっている。
噴水みたいな豪華なオブジェも、あちこちに出来ているし。ロビーの床が全面、白い大理石に変わっているぞ。それに天井だって、以前より遥かに高くなった気がする。
……っていうか、あの天井に付いている大きな窓って絶対にステンドグラスだよな?
このエントランスホールの高さの具合って、一体どうなってるんだ? 5階建てデパートの広さくらいは、余裕でありそうだけど。
しかもホテルのロビーには、新たにエスカレーターが新設されていて。まるでショッピングモールの入り口にある、巨大なエントランスホールのような空間が目の前には広がっていた。
「総支配人様、お待ちしておりました。新しく増築されたコンビニホテルへようこそ!」
ピンク色の髪を頭の後ろで縛り。灰色の制服を着たコンビニホテルの支配人、レイチェルさんが丁寧にお辞儀をして俺達を出迎えてくれた。
「レ、レイチェルさん? これって、一体どうなってるんですか? コンビニホテルがめちゃくちゃ豪華になっているし、敷地面積も広くなってないですか?」
「はい、ご覧の通りです。総支配人様のレベルアップに合わせて、コンビニホテルも大幅な進化を遂げました。内装もより美しく豪華になり、新しくスペシャルエリアやスイートルームも用意させて頂いております。もしよろしければ、後で新しいエリアもご覧になっていって下さいね」
レイチェルさんが大きく手を振ると、ホテルのフロントマンのような黒いスーツを着た、機械兵達がこちらにやって来た。
そして丁寧にお辞儀をしながら、俺とティーナをスペシャルエリアへと案内してくれる。
どうやらホテル全体に、複数のコンビニガード達が配置されているみたいだな。ホテルマンの制服を着たコンビニガード達は、今はそれぞれがフロアの床の掃除をしたり、ルームメイキングもこなしているようだ。
きっとコンビニホテルの部屋数が劇的に増えて、レイチェルさん1人では、ホテルの仕事を全部カバーする事は出来なくなってしまったのだろう。
大きな噴水のオブジェがある、新しく出来たホテルのエリアには、上の階に登る為の長いエスカレーターが設置されていた。
そしてその隣には、ホテル内のみ使用が出来る専用のエレベーターも複数台設置されている。
コンビニのエレベーターで、地下2階にあるホテルに俺はやって来たのに……。
そのホテルの中に、また高さ5階にも及ぶホテル内を行き来する為のエレベーターが設置されているのは、何だか不思議な感覚がするな。
やっぱりうちのコンビニの地下階層は、物理法則無視して。それぞれが完全に独立した異空間になっているんだなと、改めて思い知らされた気がした。
「――彼方様。新しく出来たホテルの3階に凄く素敵な部屋が用意されているんです。ぜひそこで、一緒に休んでいきましょう!」
「あ、ああ……。それにしても本当に凄いな。今まではちょっと綺麗なビジネスホテルくらいの感覚だったのに。これじゃ、品川とかお台場にある超豪華ホテルにグレードアップしてるじゃないかよ……。ええっと、大丈夫だよね? 一泊、数十万円とか後で高額宿泊費を請求されたりしないよね?」
「うふふ。ここは『彼方様のコンビニホテル』なんですよ? ご自分の経営しているホテルで高額な宿泊料を取られる事は絶対にありませんから、どうか安心して下さいね!」
上機嫌に笑いながら、ティーナは俺の手を取り。新しくホテルに新設されたエリアへと誘導していく。
上階に進む長いエスカレーターに乗りながら、俺は真後ろをゆっくりと振り返ってみた。
ぐんぐんと上に登っていくエスカレーターから見える、広大なコンビニホテルの景色。俺とティーナの姿を下の階から笑顔で見守っているレイチェルさんが、ホールの上に立って、こちらに手を振ってくれているのが見えた。
俺はさっき一度、ホテルの自室で休んでいたんだけど。自室からエレベーターに向かうまで、全く後ろを振り向かなかったし。まだ頭が少しボーっとしてたから、コンビニホテルの変化に全然気付けていなかった。
俺が休んでいた自室周辺のホテルの区画とは違って、この辺りはあまりにも大きな変化を遂げている。
隣にいるティーナを見てみると、だいぶ落ち着いている事にも驚いた。どうやらミランダ領から離れた後、新しくなったホテルについて、ティーナはレイチェルさんから一通り説明を受けていたらしい。
まあ……それは当然か。エレベーターの中で倒れた俺を201号室に運ぶ時に、ホテルの中に起きた大きな変化は目にしていただろうからな。
……ん? もしかしたら会議中にみんなが俺のコンビニから離れたくないと、あんなにも強く後押しをしてくれたのは、こういう背景もあったからなのか?
こんなに豪華なホテルの光景を見たら――それはさぞ、みんなもテンションが爆上がりしたに違いない。
アイツら、俺と『コンビニ共和国を一緒に作るぞ〜!』なんて賛同しといて。実はただ、この豪華ホテルから離れたくなかっただけなんじゃないだろうな? ちょっと不安になってきたぞ。
そんな事をぼんやりと、エスカレーターの上で俺は考えていると。
どうやらスイートルームのある、スペシャルエリアにまで辿り着いたようだった。
「彼方様、この部屋のベランダから見える外の景色がとっても素敵だと、レイチェルさんが私に教えてくれたんです。さぁ、ぜひ一緒に見に行きましょう!」
「えっ? う、うん。……分かった」
俺はティーナに腕を掴まれて。黒いシックで豪華な壁で出来ている大きな部屋の中に入る事にする。
ティーナがドアの横に付いているモニターらしき、小型カメラの中を覗き込むと――部屋のドアは自動で開いた。
どうやら生体認証とか、網膜認証みたいなハイテクセキュリティーが備えられているらしいな。
部屋の中に入ってすぐに、俺の足は止まり。しばらく放心状態になった後で――思わず両目を見開いた。
「こ、これが……新しく出来たコンビニホテルの『スイートルーム』なのかよ!?」
凄い……これは、マジで凄すぎるぞ!!
まるでお洒落なバーが、部屋の中にそのまま設置されてるみたいだ。高級ラグジュアリーで、モダンな雰囲気のするオシャレ空間が部屋中に広がっている。
茶色いフローリングに、黒と白が混ざったシックな材質の壁。そして高級ラウンジに置かれているような黒い豪華なソファー。
壁には巨大な超薄型テレビが取り付けられていて、その大きさは100インチくらいはありそうだ。
こんな大画面で映画なんかを見れたら……。もう、映画館には行かなくなっちゃいそうだよな。
俺はスイートルームの黒いソファーに上に、全身でダイブして。その柔らかい感触を体全体で存分に堪能する。
これは……人をダメにしてしまうタイプのソファーだぞ。ずぶずぶと体が柔らかいソファーの中にめり込んでいくし。何コレ、超気持ち良いんですけど。
「彼方様、ベランダの方にもぜひ来てみて下さい。ここから見える外の景色が、本当に凄く綺麗ですよ!」
……なになに、ベランダだって?
俺はめり込むソファーの上から、もぞもぞと這い出して。ティーナの待つベランダへと向かった。
……てか、そもそもこのホテルにベランダなんてあるのか?
俺がいつも泊まっていたコンビニホテルの201号室には、そもそも窓は付いていなかったし。当然だけど、ここは一応、コンビニの『地下』にある事になっているはずだからな。
外の景色なんて、理屈上は本来見えないはずだけど。まぁ、細かい事はいっか。コンビニにガトリング砲が出現した時くらいから、俺は何も考えない事に決めたんだ。
俺は部屋の大きな窓を開けて、そのままティーナの待つベランダにゆっくりと足をおろしてみた。
「えっ、この景色は……!? これって、一体どうなっているんだ……!?」
そこに、広がっていた光景は――。
真っ暗な闇の中に、無数の宝石が散りばめられたような神秘的な景色。そう、そこには視界いっぱいに広がる果てしない『宇宙空間』が広がっていた。
真っ黒な深淵の闇の中に。無数の星々や美しい天体の煌めく、あまりにも美し過ぎる光景がベランダの外には広がっている。
「――ね? 彼方様、とっても素敵な景色でしょう?」
「ああ……本当に、これはマジで凄いよ! まさかホテルのベランダから『宇宙空間』が見れるなんて。こんな事は普通、絶対にあり得ないって……!」
「彼方様……!? 目から涙が出ていますよ?」
俺はティーナに言われて、自分の目の下の辺りを指で触ってみた。すると、そこから大粒の涙がこぼれ落ちている事に気付く。
だって、こんなの仕方ないじゃないか。
目の前に無限に広がる、宇宙が見えているんだぞ……。こんなに美しい景色は、アメリカのNASAで働いている宇宙飛行士さんとかじゃないと、本来は見る事が出来ない光景のはずだ。
俺みたいな平凡な学生じゃ、きっと一生見る事は叶わなかっただろう、夢のような光景。
そんな神秘的で、吸い込まれそうなくらいに美しい景色が今――俺の目の前には広がっているんだから。
「凄いな……あまりにも美し過ぎて、本当にずっと見ていられる気がするよ。でも、一体これはどういう仕組になっているんだろう?」
ホテルのベランダの外に宇宙空間が広がっているなんて、あまりにも想像外過ぎる。もし、俺がこのベランダの手すりを乗り越えてしまったら。
この無限に広がる宇宙空間の中に、俺の体は落ちてしまうのだろうか?
それとも何か見えないバリアみたいな『セーフティーネット』が張られていて。落ちる寸前の所で、ギリギリ助かったりするのかな?
どちらにしても、それを試すのは怖いから流石にやめておく事にしよう。
けれどここから見える神秘的な景色が、人口的なプラネタリウムのように、光や映像だけで作り上げられた幻の光景でない事だけは俺にもよく分かる。
これはきっと――『ガチ』で本物の宇宙空間なんだ。
「ティーナ、本当に凄く綺麗な景色だな……」
「ハイ、彼方様。本当にずっと見ていられますね。私、宇宙というものを初めて見ました。異世界で暮らす皆様は、このような美しい光景を毎日見る事が出来るのですね」
……いやいや、俺だって生の宇宙空間をネットの動画以外で見るのなんて、今回が初めての経験だぞ。
本物はこんなにも圧巻の景色なのかと、マジで息を呑んだくらいだからな。
俺とティーナは、しばらく時間を忘れて。ベランダから見える、壮大な星々の光景に見惚れていた。
このホテルがどういう構造になっているのかとか。一体ここは、どこの異空間に作られた世界なのかとか。考えるべき事はいっぱいあったけど……。
今はそれらを、全て忘れてしまおう。
だってこんなにも綺麗な景色を、ティーナと2人きりで見ながら過ごせているのだから。もうそれ以外は、何も望むものなんてないさ。
実は今回レベルアップをした時に、何気に俺のステータス欄の年齢が『18歳』に上がっていた。
この世界にいると、日付の感覚が分からなかったから、あまり気にはしてなかったけど……。そうか。俺はいつの間にかに、18歳の誕生日を過ぎていたらしい。
今日――この素晴らしい景色を、ティーナと2人きりで眺めていられる事。
それは今までこの世界で頑張ってきた自分への、ささやかな誕生日プレゼントという事にしておこうと思う。
俺はティーナの手を、そっと握ってみた。
ティーナも俺の顔を見上げて、天使の笑顔で微笑みながら俺の手を握り返してくれる。
まさかこの俺に、手を握っても怒られないような可愛い彼女が出来るなんて……。今更ながらに自分のリア充ぶりと、心の成長にビックリしてしまう。
もしかしたら、実はこの世界は俺が学校の授業中に見ている夢か幻で……。
未だに、この世界でもしも死んでしまったら。元の世界の学校の教室で、数学の授業中にふと……目を覚ますんじゃないかと想像してしまう時だってある。
もしそうなら、今頃……水無月や2軍のクラスメイトのみんなも死ぬ事なく。元の日本で平和に過ごせていたのだろうか? その事を考えると、俺は余りにも複雑な胸中に陥ってしまいそうだった。
「――彼方様、少し冷えてきましたね。そろそろお部屋に戻りましょうか?」
「うん、そうだな。少しだけ肌寒くなってきたし、暖かい部屋に中に戻るとするか」
俺はティーナと宇宙空間の見えるベランダを離れて、部屋の中に戻る事にする。
改めて広い部屋の中を、俺は色々と探索してみたけど、このスイートルームの中は本当に凄かった。
カウンター風の綺麗なシステムキッチンも完備してるし。もちろんIH調理器だって用意されている。
お風呂には小型のテレビが設置されていたし。何より泡がぶくぶくと吹き出す、ジャグジー風呂の仕様になっていた事に俺はマジで感動しまくりだった。
一度でいいから、そんなセレブみたいな高級風呂に入ってみたかったんだよな。
クラスみんなも、こんな豪華な所で寝泊まりが出来るなんて考えたら。それは絶対に、このコンビニホテルから離れたくないだろうな。
もう一生、ホテルのスイートルームで過ごす〜! とか、玉木や3人娘達は普通に言いそうだし。
俺はごろ〜んと、キングサイズのベッドの上に横になる。そしてベッドの上で仰向けに家猫のように転がって、高級な羽毛布団の感触を存分に堪能する。
「ああ……めっちゃ柔らかい。マジで幸せだ〜! 本当に色々な事があったけど、今は何もかも忘れて……。少しだけここで、寝てしまいたい気持ちになるよ」
まるで実家の部屋でくつろぐかのように、俺は広いベッドの上で至福の快適さを味わい。そのまま睡魔に負けて、ついつい深い眠りに落ちそうになってしまう。
「スャァァ〜〜。……でも、アレ? そういえばティーナは、一体どこにいったんだろう?」
俺がティーナを探して、ベッドの周りをキョロキョロと見回してみる。さっきまで一緒に居たはずなのに、どこにいったんだろう?
すると突然……俺の体が、ベッドの上で『何か』によってキツく縛り付けられてしまう。
さっきまで、のほほんとベッドの上で平和に寝ていたのに。いきなり四方から出現した謎の鎖によって、両手両足をベッドに縛り付けられ、完全に身動きが取れない状態に拘束されてしまった。
「――えっ!? えっ!? 何なんだよ、この鎖は!? ティーナ、一体どこにいるんだ……!?」
俺はあまりに突然の事に訳が分からず。ベッドの上でダンゴ虫のように、必死に体を動かしてもがく。
でも、全然ダメだ……。
この謎の鎖、めちゃくちゃ頑丈で自力じゃとても外せそうにないぞ!
いや、これってマジで大ピンチなんじゃないのか? 何でホテルのベッドの上で、俺はいきなり鎖で拘束されてしまうんだよ!
俺は内心、激しい焦りを感じて。額からは大量の冷や汗をかき始めていた。
すると部屋の明かりが突然、落とされて。スイートルームの室内が急に薄暗くなる。
そして何やら怪しげな、女性の声が暗闇の奥から聞こえて来た。
「ふっふっふ……。その鎖はレイチェルさんが緑魔龍公爵を倒した時に使用したもので、レイチェルさんが夜鍋をして作り上げた特製の鎖なんだそうですよ、彼方様?」
俺が拘束をされているベッドに、部屋の奥からゆっくりとティーナがやってきた。
「ティーナ? そ、その格好は……!?」
部屋にそっと侵入してきたティーナは、以前にコンビニの商品として追加されたけど。人気がなくて誰も着る事のなかった『バニーガール服』を着ている。
上半身の肌を露出させまくっているあまりにも艶かしい格好で、こちらにゆっくりと近づいて来るティーナ。
ぐ、ぐはっ……!
な、何ていう、破廉恥な姿をしてるんだッ!!
えっ、しかもティーナさん……?
その手に持っているのは、一体何なんですか!?
まさかそれは、『蝋燭』じゃないですよね?
ティーナは肌を露出させまくっているバニーガール姿に、なぜか火をつけた赤い蝋燭を持って。ゆっくりとこっちに近づいて来ていた。
「フフ……。さあ、彼方様。この部屋にはもう誰も邪魔者は来ませんよ? この部屋に、誰も侵入して来ないように。レイチェルさんにはしばらく、このエリアに誰も近づけないで下さいねとお願いしてきましたからね!」
赤い蝋燭の先から、熱いロウを滴らせて。
ベッドの上に固定されている俺に、ゆっくりと近づいてくる怪しい雰囲気全開のティーナさん。
ちょ、ティーナさん……ストーーップだ!! マジで怖過ぎるから、それ!!
「……ティ、ティーナ! 本当にそれはちょっと笑えないから! もう、これくらいで許して貰えないかな? それにその赤い蝋燭は? 一体どこで、そんな変な知識を吸収したんだよ?」
「これはレイチェルさんに教えて頂きました。異世界の勇者様は男女問わずに、この蝋燭から滴る熱いロウが大好物なのだと教えて頂きましたので」
れ、レイチェルさん……。一体、何て事をティーナに教えるんだよ!
いや、絶対にこれは確信犯だろう。向こうのロビーで今頃、口に手を当てて『プププッ……!』って、笑いを堪えているに決まっているんだ。
俺は怯えながら、必死に迫り来るティーナさんに許しを請う事にする。
そんな、哀れな子羊のような目をしている俺を見たティーナは――ニッコリと笑った後で。手にしていた赤い蝋燭の火を消すと。
急に真剣な表情に戻って、俺に尋ねてきた。
「――彼方様。私に何か隠している事がありますよね? ミランダの戦場で何かがあって、それをみんなに言わないように必死に隠しているんですよね? 私は彼方様が、何かに悩まれている事を知っています。それを解決するには、一人だけで抱え込んでいてはダメです。ですので、私にその事を全て……話して頂けませんか?」