第百六話 コンビニの未来への出発
「第3の勢力って――そんな謎の勢力が、この世界にどこかに存在しているっていうの?」
3人娘の1人、ぬいぐるみの勇者である小笠原麻衣子が紗和乃にそう尋ねた。
「……ううん。その事については、まだ何も確証がある訳じゃないの。でも、そう考えないとあの謎のアパッチヘリの攻撃は説明出来ない気がするのよ。仮にもし、そんな勢力が存在している場所があるとしたら。私達がまだよく知らない、この世界の秘境の地に存在しているのかもしれないわね」
神妙そうな表情で、静かに考え込む紗和乃。どうやら自分の仮説に、まだあまり納得がいってないようだ。
空から突然、襲撃をしてきたアパッチヘリの大群については、確かにまだ情報が足りなさ過ぎる。現時点でその出どころを推測するのは難しいだろう。
紗和乃はいったん首を横に振った後。改めてここに座っている全員を、ゆっくりと見回してから口を開いた。
「最後に現在、私達がこの世界で置かれている立ち位置についての話もしとくわね。きっと私達は、今まで以上に厳しい状況に追い込まれてしまったと思うわ」
「それは一体、どういう意味っすか? 紗和乃さん」
桂木が恐る恐る質問をすると。紗和乃は悩むように一度天井を見上げてから、話を切り出した。
「……それは今回、ミランダでの戦闘の後にグランデイルの増援部隊が襲い掛かってきたでしょう? その部隊はコンビニの勇者である彼方くんの事を『魔王』と呼んだのよ。そして黒い戦車を操り、世界各国の騎士団を壊滅させたのも、全て彼方くんのせいだと糾弾してきたわ。これはもう、最初から私達を『世界の共通の敵』に追い込もうとする策略があったと考えるべきだと思うの……」
「ええ〜〜!? それじゃあ、紗和ちゃん! 私達はもう、この世界の人々にとっての『敵』になっちゃったって事なの〜? これからは街に寄って、普通に買い物も出来くなっちゃうわけ〜?」
「うん。きっとそうなると思う。この世界で最も影響力のある女神教や、グランデイル王国が公式に彼方くんを『魔王』認定したのなら。私達はもう、今までと同じようには過ごせなくなると思うの」
紗和乃は重苦しい顔つきで、大きなため息をこぼした。
「これからは、この世界の過去に召喚されてきた異世界の勇者達と同じように。私達もこの世界の全ての人々から、疎まれたり、迫害されたり、追撃してくる暗殺者達から逃げながら暮らしていく事になると思うわ……」
「でも女神教は、異世界の勇者が魔王を倒して世界を平和にしてくれると人々に教えていたんだろう? まだ、魔王は生きているし。ついこの前まで、期待の勇者として敬っていたコンビニの勇者が突然、実は『魔王』になりましたなんて。そんな説明をされて、この世界の人々はそれで納得がいくのかな?」
北川が不思議そうな顔をして質問をする。
確かに……今回は俺を『魔王』認定するのが、早過ぎる気もするな。
この世界では魔王となった『元異世界の勇者』を、新たに召喚した異世界の勇者に倒して貰って、平和を維持してきたはずだ。
もちろん、自分達で倒せてしまうくらいにレベルの弱い魔王なら、女神教が陰でこっそり倒してしまっていたかもしれないけどな。
どちらにしても、異世界の勇者に魔王を倒させた後で……女神教徒達は陰で暗躍し。勇者の仲間を殺したり、拷問したりして、勇者を精神的に追い詰めていき。
最後には絶望させて、闇落ちした勇者を新たな『魔王』として生み出してきたはず。
でも、今回はまだ現魔王の『冬馬このは』は生きている。魔王軍だって、まだ全部が滅んだわけじゃない。
この世界の人々は、魔王が同時に2人も存在しているような説明を、女神教や、グランデイル王国の女王様から受けて、混乱したりしないのだろうか?
「この世界の人々に、彼方くんの事を女神教がこれからどう伝えるかは、まだ分からないわ。……でも、これからは私達には味方がいない、という覚悟で行動をした方が良いと思うの。ドリシア王国のククリアさんのように、私達に味方をしてくれる国もあるのかもしれないけれど。それは本当に、ごく僅かな人々だけになるでしょうからね」
「……………」
みんなは、一斉にシーンと黙り込んでしまった。
いつかはそんな恐ろしい時がくるのかも、とは思っていたかもしれないが。まだ心の中で、十分な覚悟は出来ていなかったからだろう。
「……か、彼方くん〜!? 私達、これからどうなっちゃうのかな〜?」
玉木が心配そうに、俺に尋ねてきた。それを『魔王』認定された、この俺に聞かれてもな。
でも、みんなに対して俺はその質問に答える義務があると思う。3軍のみんなを王都から無理矢理に連れ出したのは……この俺自身だ。
こうして自分に付いてきてくれたクラスのみんなを、最後まで守り抜く使命がコンビニの勇者である俺にはあるのだから。
だから俺は、覚悟を決めて。今までコンビニがピンチになった時にはこうしようと、密かに頭の中で考えてきた計画をみんなに話してみる事にした。
「みんなには、せっかく俺に付いてきてくれたのに。この世界で住みづらくなるような状況に追い込んでしまって、本当に申し訳ないと思ってる」
俺はいったん席から立ち上がって。ここにいるみんなに向かって深く頭を下げる。
さっきまで、ずっと冷や汗が止まらなかったのに。不思議とクラスの仲間達と一緒にいると、その不安や震えはいつの間にか収まっていた。
「改めて俺は、今後の方針をみんなと決めようと思っているんだが……。まずは新入荷したアパッチヘリを使って、杉田の奥さんを迎えに行く計画はすぐにでも実行したい。それはこの会議の後、さっき決めた4人のメンバーにグランデイル王国にすぐに向かって貰う事にする。そして、肝心な今後の俺達の行動方針についてだけど……」
俺はいったんスゥーーっと、深呼吸をして。隣に座っている、ティーナの顔を見つめた。
緑色の綺麗な瞳が、真っ直ぐに俺のことを信頼して見つめてくれているのが分かる。
それを確認してから、俺は改めてクラスのみんなに向き直り。ゆっくりと口を開いた。
「実は、前々から計画していた事ではあったんだけど。俺はこの世界に、みんなと安心して住める安全な場所を作りたいと思ってるんだ。何て言えばいいのか説明が難しいけど……。俺は『コンビニが統治する新しい国』を独自にこの世界に作り上げよう思ってるんだけど、どうかな?」
俺が話したその言葉を聞いた途端に、みんなは一斉にキョトンとした顔を浮かべていた。
「……コンビニが統治する新しい国? 何だよそれ? もしかして『コンビニ王国』とか、そんなアホみたいなものを作るって言うんじゃないだろうな、彼方?」
杉田が、学校時代に俺と過ごしていた時のように。いつも通りの軽い口調で、俺にツッコミを入れてくる。
うん……今はそういうノリで話しかけてくれた方が、俺は正直、助かるな。
「別にコンビニ王国じゃなくても良いんだよ。まあ、例えば『コンビニ共和国』とかさ。この際、ネーミングは何でもいいんだ。コンビニを中心として、この世界の誰からも身の危険を脅かされる事のない、みんなが安心して過ごせる場所を作れるなら、それでいいんだ」
『『コ、コンビニ共和国〜〜〜っ??』』
みんながいつも以上にアホを見るような目つきで、一斉に俺の事を見つめてくる。
この中で、目をキラキラと輝かせて俺を見てくれているのは、隣にいるティーナだけじゃないか。
いや、そんなに俺を変な生き物を見つけたみたいな視線で見てくるなよ……。みんな何か、ガラパゴス諸島で未確認の不思議生物を発見したような顔をしているけどさ。
俺の発言を受けて。唖然としていたみんなは……少しだけ、沈黙の時間を置いてから。
突然、全員で一斉に大声を上げて笑い出した。
「アッハッハッハッハ〜〜!!! おいおい、彼方〜! 『コンビニ共和国』って何だよ〜? コンビニで暮らしている時間が長過ぎて、とうとう頭がおかしくなったんじゃないのか? アッハッハッハ〜〜!!」
長机に座っているクラスメイト達全員が、腹を抱えてバンバンと机を叩きながら笑い転げている。『腹がよじれて苦しぃ〜』、みたいな声も聞こえてきた。
――なっ!? お、おまえら……! 俺が割と真剣にコンビニのこれからの未来の話をしたっていうのに!
恥ずかしさで一瞬だけ、顔が真っ赤になりかけたけど。しばらくすると俺もみんなに釣られて、その場で腹を抱えて大笑いをしてしまった。
こんなにみんなに腹を抱えて笑われたのは、この世界に初めて召喚された日以来だな。
あの時もグランデイル王国の地下で、みんながそれぞれに自分の能力を確認し始めている時に。杉田に俺の能力が『コンビニ』だとみんなにバラされて……。そして、それを見たクラスのみんなが大笑いをして、その場で笑い転げていたっけ。
ただ……あの時と今では、大きく違う事がある。
それはここにいるクラスのみんなが、心の底から楽しそうに笑っている、という事だった。
グランデイルの地下にいた時は、これからどうなるのか分からない未来の不安を紛らわすかのように。みんな無理矢理、乾いた笑いを浮かべていたような気もする。
無理もない。突然、異世界に召喚されて――全員、右も左も分からない状況だったしな。
でも今、みんなが俺のコンビニ共和国の建国宣言に対して大笑いしているのは……きっと、本当に楽しいからなんだと思う。明るい未来に思いを寄せる、希望に満ちた笑いに見えるからな。
「いいぞ、彼方! コンビニ共和国、面白そうじゃん! 俺は賛成だぜ〜! どこに行っても異世界の勇者がこの世界の住人から疎まれるなら、俺達だけで安心して住める国を一から作っちゃえば良いものな〜!」
「そうね、ネーミングがアホらしくて彼方くんらしいけど。でも、すごく楽しそう! どうせ元の世界に戻る方法を探しても、それが実現出来るかなんて分からないんでしょう? それならこの世界で、みんなで楽しく生きれる方法を探すのも、全然有りだと思う!」
「元の世界に帰れる方法はちゃんと探し続けるにしても、この世界で暗殺されたり、怯えながら生きていくのはイヤだよー! それなら、ちゃんと安全が確保された私達だけの国を作るって事には、賛成よー! カフェが100店舗くらいある、オシャレな街作りをしようよー!」
「なんやそれ、カフェが100店舗って、アホらし! そないな事より、ちゃんと武装して敵が誰も中に入ってこれないような厳重な警備体制を整えるべきやろ! オシャレな街作りなんて、1番最後でええんちゃうの?」
「まあ、どっちにしてもだ。彼方のコンビニの中は快適で過ごしやすいからな。綺麗なトイレもあるし、美味いものだっていっぱいある。コンビニほど住みやすい場所は、この世界のどこを探しても絶対にないだろうからな。これからも期待しているぜ、コンビニの店長さんよ!」
「うんうん。私も……彼方くんのコンビニの中なら、みんなにお料理を作り続けていられるしぃ。みんなと一緒にいられる方が、安心出来るからいいかなぁ」
みんなは俺のコンビニ共和国建国発言に対して、ワイワイと楽しそうに話し合い始めている。うん、何だかみんなの顔に笑顔が戻った気がするな。
「――でも、彼方くん? コンビニの国を作るって、何か具体的なプランとかは決まっているのかしら?」
この中で、1人だけ冷静な紗和乃が俺に尋ねてきた。
「ああ。とりあえず俺は、みんなの安全が確保出来る場所が優先して作りたいと思ってる。正直に言って、俺の能力である『コンビニ』は、この世界を滅ぼしかねないくらいの脅威がある思うんだ。実際の所、この世界の住人にとっては今や『俺』を滅ぼす事の方が、魔王を倒す事より難しくなっているはずだからな」
「そうね。魔王軍も残りの4魔龍公爵は、黒魔龍公爵を残すだけ。戦力的には魔王軍と戦うよりも、戦闘力の高いコンビニの守護者を多く従えている、彼方くんと戦う方が遥かに女神教にとっては脅威のはずよ」
「具体的にどうしたら、俺が魔王化するのかとかは分からないんだけどさ……。少なくとも俺はこの命がある限り、みんなの安全は守り続けていこうと思ってる。だからそういう場所をこれから、この世界の中に作り出す事は大切だと思うんだ」
「彼方くんは、もう元の世界に戻るつもりはないの〜?」
横から玉木が、俺にそう尋ねてきた。
「……ん? まあ、この世界の生活にいつか飽きたら、戻りたいと思う時もあるかもな。母さんや、父さんにだって会いたいし。でも、ティーナやクラスのみんなや、この世界で関わった人達が平和に過ごせるようになるまでは、ここに残ろうって今は思っている。それにこの世界で色々と知りたいと思う事が増えてしまったしな」
「そっか〜。彼方くんが残るのなら、私もこの世界に残ろっかな〜!」
「いや……お前は、日本でお姉ちゃんが凄く心配しているんだろう? ちゃんと元の世界に戻ってあげた方がいいんじゃないのかよ?」
「それは元の世界に戻れる方法がちゃんと分かった時に、また考えるよ〜! それまでは、この世界で彼方くんや、みんなと楽しく生きれる方法を探したいもの〜!」
「そうか。そうだな……。玉木がこれから、この世界で楽しく生きていけるように。安全な国を作る事を俺はちゃんと約束をするよ。決して玉木が変な道に進まないように、俺はしっかりとそばで監視してやらないといけないからな……」
「ええ〜っ!? 私が変な道に進むって何なのよ? 私はいつだって健全で健康な超絶美少女ヒロインなのよ! 変な道になんて、進む訳がないじゃないの〜!」
ジーーっと、俺は玉木の顔を真正面に見据えて。真剣に見つめ続けてみた。
……うん、大丈夫そうだな。玉木が何万人もの命を平気で奪うような、女神教のリーダーになったりは絶対にしないよな。
「な、なによ〜〜! 彼方くん、さっきから私を見る目が変だよ〜! レベルアップして、服を透視出来るいやらしい能力でも手に入れたんじゃないでしょうね? もしそうなら、後で麻衣子ちゃんの超大型クマのぬいぐるみの足の裏に彼方くんをくくりつけて。地面をズリズリする『ゴマすり潰しの刑』にしちゃうんだからね〜!」
いや……。それ、きっとお前の想像以上に残酷で恐ろし過ぎる刑だからな。簡単にその言葉を口から出す前に、ちゃんと自分のアイデアがどんなに残酷な刑なのかを想像をしてから言えよな。
「彼方様……コンビニの王国を作るとして、その場所はもう決めているのですか?」
今度はティーナが、小さな声で控えめに聞いてきた。
「うーん、そうだなぁ。まずは、グランデイルやその他の国々から遠く離れた場所に移動したいと思ってる。この世界の住人達の間では、まだ女神教はかなり強い影響力を持っているからな。そういった人々が住む場所から離れて過ごせるとしたら……。今の所は、魔王領とかがある西の方になるかもな? 俺としては、みんなの安全が確保出来て。なおかつ、今の魔王である冬馬このはにも会いに行きたいから、やっぱり西を目指す事になりそうかなぁ?」
「なるほど……魔王領ね。ククリアさんも黒魔龍公爵に会えと言っていたし、その方がいいかもしれないわね。きっと女神教もクルセイスも、今度は現在の魔王の命を狙いに来るでしょうから、それを迎え撃つ位置としても魔王領はちょうど良いと思うわ」
俺の提案に、紗和乃も心強く賛成をしてくれた。
「――ああ。いずれはコンビニ共和国はドリシア王国のように、俺を支持してくれている国と交流や交易をしていこうと思うんだ。何よりコンビニの商品は、この世界の人々にとっても魅力のあるものばかりだからな。これからコンビニと交易を結ぶ国が増えていけば、結果的に俺達が住みやすい環境にこの世界を変えていける事が出来ると思う」
以前に俺が暮らしていた、カディナ地方の壁外区のように。少しずつコンビニの商品をこの世界に流通させていき、コンビニは恐れる必要のないものなんだと……この世界の全ての人々に認識して貰えれば良いと思う。
その為にも、俺はみんなをこの世界のあらゆる危険から絶対に守り抜きたいと思っている。もう、仲間を失うような事は絶対にさせないつもりだ。
「みんなにも、一つだけいっておきたい事がある。だから真剣に聞いてくれ!」
俺が真面目な口調で話しかけると、それまでワイワイと賑やかに話し合っていたクラスのみんなが、一斉に静まり返った。
「……2軍のみんなや、水無月が死んでしまった事を絶対に俺達は忘れてはいけないと思う。だからみんなも、これからは決して油断をしないように行動して欲しい。少なくともコンビニ共和国が完成するには、まだずっと時間がかかると思う。それまで、この世界の人間はみんな俺達に対して敵意を持って接してくると思った方がいい。これからコンビニに近づいてくる人がいても、十分に警戒をして対処して欲しいんだ」
俺が深々とみんなに頭を下げると。みんなは、それぞれに沈黙をしながらもウンウンと強く頷き合ってくれた。
そう……もうこれ以上、ここにいるクラスのみんなが犠牲になるなんて事は決してないように。せめて俺達だけはちゃんと団結をして、死んでしまった他のみんなの分も、強く生き続けていかないといけないんだ。
コンビニの地下1階の臨時レストランでの話し合いは、これでいったん終了となった。
グランデイルにアパッチヘリで向かうチームは、すぐに準備を開始し始めた。
新しくコンビニに加わった輸送機能付きの大型ヘリコプターはどこに用意されていたかというと。他の戦車や装甲車と一緒で、コンビニの地下5階。地下駐車場の中に格納されていた。
そこからまた物理法則を無視して、外に飛び出す為の謎のヘリコプター用の滑走路が作られていて。地下から地上の空に一気に飛び出せるようになっている。
ヘリの操縦は、機械兵であるコンビニガード達が出来るとレイチェルさんが言っていたので、アパッチヘリの中には、コンビニガードも3体を同乗させる事になった。
そして――俺達は、それぞれが未来に不安と期待の両方の感情を抱きつつ。全員で前に向かって少しずつ進んでいく事となった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
地下1階での話し合いを終えた、コンビニの仲間達。
その中で、グランデイルに大型アパッチヘリで向かう事になったメンバー。
『火炎術師』の勇者である、杉田勇樹。
『回復術師』の勇者である、香苗美花。
『舞踏者』の勇者である、藤枝みゆきの3人が――。
そのまま地下5階の駐車場に向かってエレベーターで降りていく。
その後を追いかけるようにして、エレベーターに乗り込もうとした花嫁騎士のセーリス。
そんな彼女を、コンビニホテルの支配人であるレイチェルが呼び止めた。
「……レイチェル様? 一体、どうされましたか?」
レイチェルに対してだけは、ちゃんと敬語を使うヤンキー娘のセーリスが、訝しげな表情を浮かべる。
セーリスの肩を掴んだレイチェルは、そっとセーリスの耳に自分の顔を近づけると。誰にも聞こえないように小さな声で、セーリスに耳打ちをした。
「――ええっ!? レイチェル様!? そんな事を勝手にしたら、アタシはマイダーリンに後できつく怒られてしまうんじゃ……!」
「大丈夫ですよ。総支配人様は、きっと分かってくれます。だからグランデイル王国では、私の指示通りにしてきて下さいね、セーリス?」
「は、ハイ……。分かりました」
守護者にとって、その序列は絶対である。
コンビニの守護者の中のリーダー格であるレイチェルの言葉に、セーリスは決して逆らう事は出来ない。
「ふふ。栄光あるコンビニ帝国の障害となり得る障壁は、少しでも減らしておいた方が良いのです。総支配人様は心のお優しい方ですから。私達、コンビニの守護者が率先してコンビニを守る為に行動をするべきなのですよ」
レイチェルは笑顔でセーリスを送り出すと、ニコニコと納得するように一人で頷いていた。