第百四話 花嫁の救出
ドリシア王国の騎士団は、青色の鎧に鳥の羽を飾り付けた、特徴的なデザインをしている。
その青い鎧を全身にまとった騎馬軍団が、槍を一斉に前に構え。コンビニを追撃してくるグランデイル軍の先頭集団に、猛烈な勢いで襲い掛かかっていく。
『うおおおおおおぉぉーーーッ!! グランデイル兵をこのまま押し返せーー!! 全軍突撃ーーーッ!!』
……ヤバい、マジで凄い迫力だな!
今まで俺は、魔物との戦闘はたくさん見てきたけれど。こうして『騎士団』対『騎士団』の、大規模な人間同士の戦闘を間近で見るのは初めてかもしれない。
ドリシア王国軍は数の上で劣るグランデイル軍を容赦なく突き崩し、騎馬隊の突進で蹴散らしていく。
どうやら一気に敵に大攻勢を仕掛ける事で、グランデイル軍の戦意を完全に喪失させ。被害を大きくさせる事なく、敵を撤退にまで追い込もうとしているらしい。
その効果は絶大で、既に戦意を完全喪失したグランデイル軍は進軍を止めて。次々と来た道を逆走して、総撤退を開始しているようだった。
俺はその圧巻の光景を、コンビニの中から見つめていると――。
「コンビニの勇者様ーーっ! 私ですーー! ドリシア王国のミランダですーー!」
コンビニの入り口付近に馬で接近してきて、そのまま並走して走っている騎士がいる事に気付いた。
馬上から呼びかけてきた人は、俺達をドリシア王国のトロイヤの街から、この旧ミランダ領の地まで案内してくれミランダさんだった。
「ミランダさーーん! コンビニの援護をしてくれて本当にありがとうございます! このもの凄い数の騎士団は、ククリアが指示をして差し向けてくれたんですかー?」
「ハイ! ククリア様は正式にグランデイル王国に対して、宣戦布告をなされました。これよりドリシア王国は、グランデイル王国との国交を断絶し、コンビニの勇者様のお味方をさせて頂きます!」
……えっ、グランデイルと国交を断絶するだって?
それって、本当に大丈夫なんだろうか?
俺の事はともかく、そんな事をしたらドリシア王国は、女神教の影響力がまだ残っている世界各国を敵に回してしまう事にならないのかな?
それともその辺りを全て含めて、ククリアには何か独自の計算があるのだろうか。現時点の他の国の状況が分からない俺には、それはまだ判断が出来ない事だった。
そんな心配そうな顔をしている俺に、ミランダさんは笑顔を向けて声を掛けてくれる。
「どうかコンビニの勇者様は、安心してこの地からお逃げ下さいませ! そして我が主人、ククリア様からの伝言です。『これから世界中の国々は、魔王の命を狙う争奪戦となるでしょう。一刻も早く魔王領に向かい、黒魔龍公爵にお会いして下さい!』――との事でした」
俺に、魔王軍の黒魔龍公爵に会えだって?
現在の魔王である『冬馬このは』の命を奪って欲しいとお願いをしてきたあのククリアが、そんな事を言っていたのか……。
しかもこれからは、魔王の命を狙う争奪戦が始まる可能性があるという。確かに緑魔龍公爵が死んで、女神教徒達もこの世界の表舞台に出てきたみたいだし。きっと今まで想定もしなかったような事が、これから次々と起こるのかもしれないな。
とりあえず俺達は、ドリシア王国の助けを受けて。この混沌としている戦場から一度、撤退させて貰う事にした。
「分かりましたーー!! メッセージはたしかに受け取ったとククリアに伝えて下さいーー!! ミランダさんも、本当にありがとうございますーー!!」
俺はコンビニの上から大声で、ミランダさんに感謝の言葉を伝えると――。
ミランダさんは馬上で手を振り。爽やかなウインクをした後で、そのまま味方と共にグランデイル軍を追撃する部隊の中に戻っていった。
「彼方く〜ん! 外は何か凄い事になっているみたいだけど、これからどうするの?」
玉木が心配そうに、俺に声をかけてくる。
「……ああ。色々と考える事はあるけれど、とりあえず状況を整理したい。まずはこの地を離れて体勢を立て直そう。負傷した仲間の事も心配だし、杉田の嫁さんの件もあるし。やる事は、いっぱいあるからな!」
「うん。分かった〜! まずはみんなの怪我の治療を優先してからだよね!」
さっそく俺はティーナと玉木と一緒に、眠っている杉田の体を抱えてエレベーターの中へと向かう事にする。
地下にいる紗和乃や香苗、そしてクラスのみんなと、いったん合流しないといけないからな。
エレベーターに乗り込み、ボタンを押す玉木の後ろ姿をじっと見つめる俺。
この時の俺は、あまり意識をしていないつもりだったけれど。不思議と俺は玉木に対していつも以上に優しく接しようとしたり、気遣いをしていたらしい。
そんな俺の様子を察したのかどうか。
エレベーターに乗った俺の顔に、アイリーンが自分の顔をそっと近づける。そしてティーナや玉木に聞こえないように、小さな声で耳打ちをしてきた。
「――店長、私は普通の人間より遥かに優れた聴力を持っています。大変申し訳ありませんが、店長とあの枢機卿と名乗る黒い女との会話を私は聞いてしまいました。その件につきましては、皆様にお話しされるかどうかは店長の判断にお任せ致します。ですが、レイチェル様にだけは内容を報告させて頂きますので、どうかお許しください」
「…………」
アイリーンの言葉を聞いた俺の意識は。
――途端に、頭の中が真っ暗になった。
アイリーンも枢機卿の言葉を聞いていただって?
そんなバカな!? だって、あれは……俺の勘違いか、ただの幻覚。それとも、幻聴という事ではなかったのか?
それじゃあ、ここにいる玉木は一体どういう事になるんだ……?
「ど、どうしたのよ、彼方くん!? 珍しく私ばかりを見つめちゃって〜! 私はその……嬉しいけど、ティーナちゃんが嫉妬しちゃうから、それくらいにしておかないと後で大変な目に〜……って、彼方くん!?」
「彼方様、大丈夫ですか!? どうかお気をたしかに!」
俺の意識は、突然黒い闇に包まれて。
そのままエレベーターの中で、プツリと意識を失ってしまった。
意識の無い俺は、真っ暗な暗闇の中で。不思議な夢を見たような気がする。
そこでは、理性を完全に失ったもう1人の俺がいて。
アイリーンやレイチェルさん達、コンビニの守護者達に指示をして。世界中の国々を人々を無差別に攻撃をしているんだ。
子供。女性。お年寄り。
亜人種や、魔物も一切関係ない。
全部、ただの肉の塊でしかない。
ゴミ屑の人間どもを、俺は無慈悲に圧倒的な物量を誇るコンビニの力で蹴散らし。
機械兵であるコンビニガード達を、数十万規模の大兵団に編成し、地上を行進させて。
大地には、無数の黒い戦車部隊を。
大空には、無数の黒いアパッチヘリを出撃させて。
この世界の全てを焼き尽くし。
視界に映る全ての人間達を抹殺して……。
もう1人の俺は何かを必死に探していた。そして誰かの死を、心の底から嘆き悲しんでいた。
その死の悲しみに耐えられずに、心の壊れた俺は……。全てを破壊する事で辛さから逃げようとしていたんだ。
そんな、暴走をする俺に……。
たった1人だけ。
立ち向かおうとする人物がいた。
そいつは、この世界の人間達の先頭にたって。俺にこう呼びかけ、ずっと叫び続けていた気がするんだ。
『――彼方くんお願い、もう目を覚まして! 私はここにいるから! だから元の優しい彼方くんに戻って! 私は、私は――彼方くんの恋人の◯◯……なのよ!』
………。
…………紗希?
「……彼方様! 彼方様!!」
「うああぁぁっーーっ!? こ、ここは……!?」
俺は、高いビルの屋上から誰かに落とされて、地面に落ちていく夢を見た直後のように……。全身から滝のような冷や汗を流しながら、ベッドの上から飛び起きた。
「――ここは、ベッドの上なのか?」
「ハイ、ここはコンビニホテルの201号室。彼方様のお部屋の中ですよ」
ベッドの上にいる俺の手を、ティーナが優しく包み込むように握ってくれていた。
どうやら、俺がここで眠っている間。ずっとティーナは俺の手を握り続けてくれたらしい。
「そうか。俺は眠ってしまっていたのか。どれくらい、ここで寝ていたんだ?」
「彼方様は連戦で、きっと疲れてしまったのだと思います。ドリシア王国軍がグランデイルの騎士達を追い払ってくれた後、私達は地下に向かうエレベーターに乗り込みました。そこで彼方様は、突然意識を失ってしまったのです。その後は玉木様と一緒に、彼方様をお部屋にお連れしてから、約3時間ほど経過しました」
そうか、あれから約3時間くらい経ったのか………。
かなり深い眠りについていたような感覚もしたけれど。意外にも、それほど沢山の時間が過ぎていた訳でもなかったらしい。
「そうだ! みんなは……? 小笠原達の怪我の様子は? 杉田も無事なのか?」
俺はティーナに、俺が眠ってしまった後の事についてを尋ねてみた。
ティーナは、俺が寝ている後のみんなの様子や、コンビニメンバーが俺の不在時に、魔王軍の緑魔龍公爵を倒した時の話も含めて、全てを話してくれた。
俺は正直、緑魔龍公爵を倒したのは、てっきりレイチェルさんだと思っていたんだが……。
それがまさか小笠原や野々原、それにみゆきの3人娘達が中心になって、あの緑魔龍公爵を倒したと聞かされて。思わず大声を上げて驚いてしまった。
いくら3人娘が俺のコンビニの特殊技能、異世界の勇者の成長促進技能の恩恵を受けているとしても。さすがに、レベルアップし過ぎている気もする。
それこそ俺のように、『無限の勇者』としての能力は無かったとしても、3人の能力は他の異世界の勇者達と比べて段違いに強い気がする。
仮に俺が、この世界で錯乱して暴走したとしても。もしかしたら3人娘達なら、きっとこの俺を倒して世界を平和に取り戻してくれるかもしれないな。
……いやいや、何を変な想像をしているんだよ!
きっと、さっきまで見ていた変な夢のせいだろう。俺がおかしくなるはずなんてない、そうさ、今の所はまだ……大丈夫なはずなんだから。
緑魔龍公爵を倒した小笠原達は、それぞれ片腕を失ったり。両足を使用不能にされたりと。みんな出血多量で、かなりやばい状態にまでなっていたらしい。
致命傷を負った2人が、かろうじて命を繋ぐ事が出来たのは――『薬剤師』の能力を持つ北川修司のおかげによる所が大きかった。
北川の能力は、薬草を調合して万能薬を作り出せるというものだ。
……だが、今まではそのレベルも低く。能力で作り出した調合薬は、本人にのみ有効。その効果もせいぜい絆創膏を貼る程度――と、とてもじゃないがみんなの役に立つレベルのものではなかった。
それが緊急で、重症のクラスメイト2名が突然地下に運ばれてきた事で……。
何とか2人の力になれないかと、必死になって自身の調合した万能薬を2人の傷口に当てる事で、北川はその能力が大きく上昇をしたらしい。
北川の『薬剤師』としての能力レベルは、一気に5まで上昇する事が出来た。
今では傷口を塞ぎ、出血を一瞬で抑える事の出来る、即効性のある治療薬を作成出来るようになっている。
そのおかげで、何とか出血の痛みを耐える事の出来た2人は、駆けつけた『回復術師』の香苗美花の治療を受け。切断された手を繋ぎ合わせてもらい、毒で溶けかかった両足を完全修復してもらう事が出来たようだ。
俺はみんなと早く合流をして。さっそくこれまでの事や情報の共有を図るべく、会合の場を設ける事にした。
もちろん俺のコンビニも、またレベルアップをしたから。新しく増えた諸々の設備や、地下階層なども本当はゆっくりと見て回りたかったんだけど。
ここはまず、みんなとの話し合いを優先する事にする。
俺はティーナと、エレベーターでコンビニの地下1階に向かい。臨時レストランとなっていたその場所で、先に集合していたクラスのみんなと合流した。
クラスのみんなは、俺抜きで既に話し合いを開始していた。だから建設的な意見交換が出来ているのかな、と思ったんだが……。
部屋から聞こえてきたのは、ワーワーとみんなを責め立てる男のわめき声だった。
この騒々しい声は……?
ああ、そうか。これはきっと杉田の声に違いない。
「だから、さっきから俺は何度も言っているだろう! 俺はすぐにでも、グランデイルに戻って奥さんを救出しに行きたいんだって!」
「戻ると言っても、1人じゃ危険よ! 今やグランデイルの王宮は敵の総本山みたいな場所なのよ? 逆に捕まって夫婦一緒に人質にされかねないわよ!」
『狙撃手』の紗和乃と。『火炎術師』の杉田勇樹が大声で激しく言い争いをしている。
その様子をみんなは、心配そうに見つめているようだ。
杉田の嫁さんの件は、確かに大至急解決しないといけないだろう。敵に人質にされてしまってからでは遅いからな。
テーブル席に付いているみんなの前に、俺が顔を出すと。みんなは一斉に俺の顔を見てシーンと静まり返った。
「彼方くん、良かった〜! ちゃんと目を覚ましてくれたのね! 突然、冬眠に入ったクマちゃんみたいに、バタリとエレベーターの中で寝込んじゃったから。すっごく心配したんだからね〜!」
玉木が泣きそうな顔で、俺に声をかけてくる。
部屋にやって来た俺の姿を見つけた杉田は、助け舟が来たといわんばかりに。俺に慌てて声をかけてきた。
「おおっ……彼方か、聞いてくれよ! 俺は嫁さんを助ける為に、すぐにでもグランデイル王国に戻らないといけないんだよ。だから頼む! 俺がグランデイルの王都に戻るのを認めてくれよ!」
「ああ、分かってるさ。杉田には今すぐコンビニを出発して、グランデイル王国に向かって貰うつもりだ」
「ええっ……か、彼方くん……!?」
紗和乃が驚いて、声を裏返らせる。
みんなも驚きの顔で俺を見ているが、杉田の嫁さんの件は大至急何とかしたいと思っていた所だったからな。
自分の大切な奥さんと、そしてそのお腹の中にいる子供が敵の総本山に残されているんだ。杉田が命懸けでも助けに行こう、と思うのは当然の事だと思う。
「……でも、杉田。分かっているとは思うけど、今回のミランダの戦いで、俺達は『槍使い』の水無月を失っているんだ。結果論かもしれないし、俺が不甲斐ないのが悪いと分かってはいるけれど……。誰かの自分勝手な行動が、大切な仲間を死に追いやってしまう事もあると思う。その事をお前にも、しっかりと考えて欲しいんだよ」
「そ、それは……!」
さっきまで、自分の事ばかり考えて。頭の中が完全にヒートアップしていた杉田が、顔を俯かせて次第に大人しくなっていく。
杉田も自分の行動のせいで、仲間の水無月が死の運命に導かれてしまった事を理解しているのだろう。
そして、その事を既に理解していて。杉田の事を責めずにいてくれた、クラスのみんなの心遣いと優しさに、今更ながらにやっと気付いたらしい。
「そうだな。みんな、本当にすまなかった。俺が1人で暴走をしてしまったせいで……」
「杉田くん、水無月くんがいなくなってしまった事はみんなも凄く悲しいの。でも、これから杉田くんまで、私達の前からいなくなってしまったら、私達はもっと辛くなってしまうわ。だから落ち着いて、しっかりと今後の事を話し合いましょう……」
ようやく冷静さを取り戻した杉田に、紗和乃がなだめるように話しかける。
ぶつかり合っていた杉田と紗和乃が、ようやく仲直りをして。
俺は改めて食堂に集まったみんなを見回して、ここにいるクラスメイト全員の顔ぶれを確認する。
3軍の勇者だった、桂木や小笠原達を含む元々のコンビニメンバーが8人に。トロイヤの街に着いてからやって来た、1軍と2軍の勇者である紗和乃と四条の2人。
そして今回新しくコンビニに加わった、杉田と香苗を加えると……合計で12人になった訳か。
委員長の倉持達や、まだ行方の分からないクラスメイトも何人かはいるけれど。
今――このコンビニの中には、この世界で生き残っている俺達クラスメイトの大半が集まっている。
俺が3時間ほどホテルの自室で寝込んでいた間に、2軍のみんなが敵に殺害されてしまった話や、水無月が戦車の砲撃によって死亡した事。
そしておそらく敵対していた『水妖術師』の金森も、そこで一緒に死んだ事など……。
クラスのみんなは、同級生達がたくさん死亡してしまった事実を共有して。深い悲しみに暮れていた。
それでもみんなは、クラスメイトの死をそれぞれに受け止めて。その現実を理解した上で、これからの事を話し合おうと……前向きな気持ちに心を切り替えようとしているようにも見えた。
「でも、彼方くんー? 杉田くんの奥さんを救い出すとしても、どうやってグランデイル王国に戻るつもりなの? 杉田くん1人だけじゃ心配だし。コンビニ戦車に乗って、みんなでグランデイル王国にまた向かうつもりなのー?」
香苗の治療を受けて、緑魔龍公爵との戦いで失った腕が回復した『舞踏者』の藤枝みゆきが俺に尋ねてきた。
みゆきは接合された腕にまだ包帯を巻きつけていて、見た目には少しだけ痛々しい様子が残っている。
本当は俺も、改めて緑魔龍公爵を倒してくれた事を、3人娘達に感謝したかったんだけどな。
すまないが今は先に、杉田の嫁さんの件の話を進めさせて貰う事にしよう。
「いや、コンビニ戦車に乗って、みんなでグランデイルに向かうつもりはないんだ。コンビニ戦車の走行速度は決して速くないし、ミランダでの戦いを終えたクルセイスが、グランデイル本国に戻るよりも先に王宮に辿り着いて。杉田の奥さんを救出しないといけないからな」
「じゃ、じゃあ、どうするの〜? 装甲車だってそんなに凄い速いってわけじゃないんだし。あのクルセイスさんがグランデイルに戻るよりも先に王宮に辿り着くなんて、かなり難しいんじゃないの〜?」
クラスを代表して玉木が、心配そうに尋ねてきた。
俺は心配するなという顔をみんなに見せて、具体的な解決案を提示する事にする。
「心配しなくても、大丈夫さ! 俺のコンビニは今回の戦いで、またレベルアップしたからな。装甲車や戦車の数も増えたけれど、実はとっておきの乗り物が新しく追加されたんだよ!」
「とっておきの乗り物? それは一体、何なの?」
ゴクリと息を飲んで、一斉に俺に注目をしてくるクラスメイト達。
俺が改めて、新しい乗り物についての説明をみんなに話そうとした、その時――。
「コンビニには、新しく輸送機能付きの『大型アパッチヘリ』が追加されました。ヘリは最高速度で時速200キロ以上を出せる乗り物で、山や丘を飛び越えて空からグランデイル王国に向かう事が出来ます。今からヘリに乗ってグランデイル王国に迎えば、我々の方が先に辿り着く事も出来るでしょう。ただし、ヘリに乗れる人数は限られていますので、少数精鋭で向かう事になると思います」
いきなり食堂に現れたレイチェルさんが、先にアパッチヘリについての詳しい説明をみんなにしてくれた。
レイチェルさんの後ろには、コンビニの守護騎士であるアイリーンと、そして花嫁騎士であるセーリスも付き従っている。
あの破天荒なヤンキー娘のセーリスが、レイチェルさんの後ろで大人しくしている事に俺は驚いた。
やっぱり守護者の中にも、絶対的な格付けが存在しているらしい。
コンビニの守護者の中では、レイチェルさんがアイリーンやセーリスを従える、上司のようなポジションになるみたいだ。
「おお……それは凄いな! そのヘリコプターに乗って、すぐにでも俺をグランデイルの王宮に向かわせてくれないか、彼方!」
杉田が懇願するように、俺に頼み込んできた。
まあ、当事者である杉田を向かわせるのは当然だけど、杉田1人に任せる訳にはいかない。だから今回は、誰を一緒に行かせるのかが大事になってくるな。
「杉田には、自分のお嫁さんを救出する役目があるから向かって貰うとして。でも、さすがに1人で行かせる訳にはいかないからな。杉田を援護する為のメンバーを選んで、一緒に行って貰おうと思うんだけど……」
俺がそう提案をすると、レイチェルさんの後ろから突然――大声で叫んでくる声が聞こえてきた。
「よっしゃー! それなら絶対にアタシの出番じゃん! 敵の攻撃を防げる、『鋼鉄の純潔』の能力を持つアタシが行けば完璧だし、ついでにアタシが、グランデイル王国を壊滅させてきてやるから任せてくれよ、マイダーリン!」
ドヤ顔で花嫁騎士のセーリスが、自信満々に俺に救出チームへの参加を猛アピールしてきた。