第百一話 禁断の地の軍隊
「店長、大丈夫ですか……!?」
俺が手を震えさせながら、その場から全く動けなくなっている事を心配して。アイリーンがすぐそばに駆け寄って来てくれた。
同じように地面に膝をつき、全身をブルブルと震えさせている女神教の枢機卿。その側には身長5メートルを超える、巨漢のハンマー男ドトールが心配そうに駆け寄ってきている。
「枢機卿様、しっかりして下さい! もうすぐ他の魔女候補生達もここに駆けつけます。そうすれば、すぐにでもコンビニの勇者を抹殺出来ますから。どうか、どうかお気を確かに!」
「………コンビニの勇者ですって? コンビニの勇者なら遠い昔に魔王となり、この世界を滅ぼしてそのまま勝手に死んでいきましたよ。無責任にも、この私をこの世界に1人だけ残して彼は消えていきました」
ミランダ領の深い森の奥では、俺と女神教のリーダーである枢機卿の2人が、なぜかお互いに全身を震えさせながら。その場で共に固まってしまうという、謎の状態がしばらく続いていた。
それぞれの主人に付き従う、コンビニの守護騎士であるアイリーンも、枢機卿に忠誠を誓う女神教のハンマー男も。今の不思議な状況に困惑して、近くで狼狽える事しか出来ないでいる。
そんな謎の状況を打破するように、この緊迫した場所に真っ先に駆けつけて来たのは……。
「彼方く〜ん! 大丈夫〜! 生きてる〜?」
能天気な声を響かせて、うちのコンビニチームの空気読まない担当の玉木の声が遠くから聞こえてきた。
そして巨大なキャタピラーが稼働する轟音と共に、コンビニ戦車がこの場に姿を現す。
コンビニの屋上には、ティーナと玉木が立っている。森でうずくまっている俺の姿を見つけると。2人ともすぐに屋上から飛び降りて、こちらに駆け寄って来てくれた。
「彼方様! 大丈夫ですか、お怪我はありませんか?」
この辺りは、戦車隊からの砲撃が降ってこない場所とはいえ、まだ完全に安全が確保された訳ではない。そんな危険な森の中だというのに。
ティーナと玉木は、平気な顔で俺のすぐ側にまで駆け寄ってきた。
震えている俺の体を、心配そうにティーナは全身で抱きかかえてくれて。一方の玉木は、腰から2本のナイフを颯爽と取り出すと……。
「彼方く〜ん! 後の事はレベルアップして、少しだけ強くなった暗殺者の勇者である私に全部任せてね! 敵はあそこに立っているデッカい熊みたいな男の人と、あともう1人。あそこでうずくまっている黒いローブを着た女性が敵でいいの〜?」
俺の正面に背を向けて立ち、自ら敵と戦おうとする玉木。
いつもはあまり積極的に戦闘をしようとしない玉木が、今日は両手にナイフを持ち。率先して俺を守ろうと意気込んでくれていた。
きっと自分の能力のレベルが上がった事を、俺に自慢したかったんだろうな。でも、今は……玉木に、あの枢機卿とだけは戦わせてはいけないと、俺は本能的に思った。
「……た、玉木! そいつは敵じゃないんだ! 何て言ったら良いか分からないけれど……そう! お前にはまだ絶対に勝てないくらいに、強くて危険な相手なんだ。だから今、そいつと戦う事だけはやめてくれ!」
俺自身、まだ心の中の整理が全然出来ていなかった。
目の前にいる女神教の枢機卿という存在について。俺は上手く玉木に説明が出来なくて、混乱してしまう。
だけど、今はまだ説明出来なくても、玉木と枢機卿の2人が戦う事だけは止めないといけないんだ!
そんな俺と玉木のやり取りを見た枢機卿が突然――発狂するように絶叫した。
どうやら玉木の姿を見た枢機卿の精神状態は、完全に崩壊してしまったらしいな。
「………ぶげぇ、ぐぎゃぐぎゃ……!? あひ………ぐぼぉら………ふははは。私がもうひとり………いるぞ!? おかしい………な!」
「す、枢機卿様!? 大丈夫ですか! お、お気をたしかに……!」
「何なに〜!? 一体、何なのよ〜、彼方くん!? あの黒い女の人、何だか様子がおかしいよ〜? きっと落ちている毒キノコでも拾って、こっそり食べちゃったんじゃないの〜!?」
玉木と枢機卿が、不思議そうにお互いを見つめ合っている中。コンビニ戦車からは今度は『狙撃手』の勇者である紗和乃が、玉木達に気付かれないようにコンビニの裏口からそっと外に出てきた。
「彼方くん、大変なのよ! 小笠原さんと藤枝さんの2人が重症なの! 緑魔龍公爵との戦いで、2人とも大怪我を負ってしまったの。早く治療してあげないと、このままだと2人とも大変な事になってしまうわ!」
「――何だって!? それは大変だ! 紗和乃、向こうの装甲車の中に香苗と杉田の2人がいる。急いで2人と合流して、みんなの治療をして貰ってくれないか!」
「えっ、美花ちゃんがここにいるの!? それはラッキーだわ! 回復術師の美花ちゃんなら、きっと小笠原さん達の傷を治す事が出来るもの。了解よ! すぐに装甲車ごと2人を回収して、みんなの治療をお願いしてくるわね!」
紗和乃は駆け出すようにして、コンビニから装甲車の方へと向かっていく。
そんな紗和乃の後ろ姿を見送った後で、俺は改めて女神教の枢機卿の方へと向き直った。
相変わらず枢機卿は1人で頭を抱えながら、その場で激しく苦悶の声をあげて続けているようだ。
苦しむ枢機卿の姿を黙って見つめていた俺と玉木の前に、今度はアイリーンが突然、間に入るように割り込んで剣を構えた。
「――店長、また新手の敵がやって来ます! どうか注意をして下さい!」
アイリーンが警戒するようにと俺に呼びかけてくれたのと、ほぼ同じタイミングで……。
2人の人影が、森の木の上から高速の速さで飛び降りると、枢機卿の元に近寄っていく。
「枢機卿様、大変ですかにぃ! クルセイスが反乱を起こしたですかにぃ!」
「枢機卿様、ミランダの森に集結していた魔女候補生達が、クルセイスの親衛隊の襲撃を受けていますかにぃ。既に多数の候補生達が、命を落としたという報告もございますかにぃ!」
枢機卿の側に駆け寄ってきたのは、先程俺とアイリーンと戦っていたカニのハサミを持った少女達だった。
枢機卿に緊急事態を報告するカニ少女達の声は、周囲に響き渡るくらいに大きかったので、その内容は離れて立っている俺の耳にもハッキリと聞こえてきた。
何だって、クルセイスが反乱だって?
……という事は、先程の白い鎧の騎士達は、やはり女神教の魔女候補生達を狙って襲ってきたいう事なのか。
あのカニ少女達が、無事にここまで辿り着いているという事は、先程戦っていた白い騎士達を彼女達は全滅させて、ここにやって来たのだろう。
やはり実力的には、カニ少女達の方が一枚上手だったらしいな。
しかし、おそらく今……このミランダ領の森の中では俺達の見えない所で。女神教の枢機卿に仕えている者達と、グランデイルのクルセイス配下の者達とで、大きな戦いが幾つも起きているのかもしれない。
クルセイスの思惑は謎だが、女神教とグランデイル王国は完全に仲違いをしたのは間違いなさそうだ。
今回、女神教の枢機卿は俺を抹殺しに来たみたいだけど。グランデイルのクルセイスは、そんな女神教の連中をどさくさに紛れて始末しようとしていた、という事なのだろうか?
でもそれは、何でなんだ? クルセイスにとってそれは何のメリットがある?
そして女神教を敵に回しても、勝てると思えるだけの秘策がクルセイスにはあるという事なのだろうか?
それぞれの勢力の思惑と目的が、訳が分からない状態になっているけれど。とりあえず今は、みんなと無事に生き延びる事を最優先にすべきだと俺は思った。
カニ少女達の報告を聞いた枢機卿は、呼吸をゆっくりと整えると。
しばらくして、静かにその場で立ち上がる。
「一度、ここから撤退します………。皆に伝えて下さい。生き残った者は、魔王領のパルサールの塔に集結するようにと。体制の立て直しを図ります。裏切り者のクルセイスを始末する為にも、女神教の総力を結集するのです」
先程までだいぶ混乱して、取り乱した様子だった枢機卿だが、どうやら落ち着きを取り戻したらしい。
彼女の元には、少しずつ女神教の配下の者達が集まって来ている。その数は、いつの間にか10人を超えていた。
冷静さを取り戻した枢機卿は、集まった配下の者達に次々と指示を与えていく。
そして黒い影に包まれた枢機卿は、巨漢のハンマー男や、カニ姉妹達を引き連れて。ゆっくりと森の奥へと引き返して行った。
どうやらグランデイル王国のクルセイスの反逆により、奇襲を受けた形となった女神教は、いったん体制の立て直しを図るつもりのようだ。
今回はコンビニの勇者である俺の抹殺は、とりあえず保留にする、という事なのだろう。
アイリーンは最後まで警戒体制を強めて、撤退する女神教徒達をずっと睨みつけている。
あのカニ少女達を含め、魔女候補生達がたくさん集まっているこの状況下では――。もし、またこの場で敵に総攻撃をされたら俺達は確実に負けてしまうだろう。
ここは枢機卿の撤退の意思が変わらぬように。俺達はその後ろ姿を静かに見守る事しか出来ない。
途中、枢機卿は一度だけこちらを静かに振り返ると。
真っ直ぐに俺の方だけを見つめて。小さく――何かを呟いたように見えた。
「………くん………」
その小さな呟きは、俺の耳にはよく聞き取れなかったけど。
枢機卿は明らかに俺だけに何かを伝えたくて、言葉を呟いた事だけは理解出来た。
やがて枢機卿と女神教徒達の一団は、森の奥へと去っていき。その姿は完全に見えなくなる。
アイリーンも俺も、ようやく肩の力を落として一息をつく事が出来た。とりあえずはこれで、いったん危機は去ったと考えて良さそうだな。
「ねえねえ、彼方く〜ん! あの黒いローブの女の人は一体誰だったの〜?」
俺の身を守るようにずっと身構えていた玉木が、不思議そうな表情で俺に尋ねてきた。
「ん? ああ……アイツは枢機卿といって、女神教のリーダーみたいな存在なんだ」
「枢機卿〜? ふ〜ん、そうなんだ〜。ふむふむ、なるほどね〜!」
玉木がずっと首を傾げて、何かを考えるような顔をしていたので。俺は恐る恐る玉木に尋ねてみた。
「ど、どうしたんだよ……玉木? 何か、枢機卿について思う事でもあるのか?」
俺はゴクリと唾を飲み込むと。少しだけ冷や汗が、額から流れ落ちるのを感じた。
きっと何か俺が返答に困るような内容を、玉木が口にすると事を、内心恐れていたからかもしれない。
でも、玉木が発した返答は、俺の想像していたものとはちょっとだけ違う内容だった。
「うん。あの黒い女の人の姿が、周囲の空気と同化して少しボヤけて見えていたでしょう? 実は私も暗殺者の能力がレベル3に上がって、『陽炎』っていう新しい能力を手に入れたのよ〜。でね、あの黒い女の人の状態が、その新しい能力の効果にそっくりだったの。自分の体が黒い影に包まれて、存在が他者から視認しづらくなる所とか」
「そ、そうなのか……玉木は暗殺者の能力のレベルが上がったのか。それは本当に良かったな! 玉木は自分の能力のレベルが上がらない事を気にしていたものな」
「うん。ありがとう〜、彼方くん! これで私も1人前の勇者の仲間入りだからね。これからは嫁の私を、もっともっと頼りにしてくれていいんだからね〜!」
フフンと鼻息を荒くして、ここぞとばかりに形の良い胸を張る玉木。
アハハ……。俺もそんな玉木の姿を見て、ついつい苦笑いを浮かべてしまう。
そうだよな。
玉木はやっぱ、こうでなくっちゃな。
なんて言ったって、俺達コンビニチームのムードメーカーであり。クラスのみんなから慕われている、心の優しい副委員長だものな。
『ぐへへ………かなた………く…ん……』
―――!?
急に俺の頭の中に、もう1つの玉木にそっくりな声が聞こえてきたような気がして。頭に激痛が走り、再び俺はその場に倒れ込んでしまいそうになる。
「か、彼方様……大丈夫ですか!?」
ティーナがとっさに俺の肩を支えてくれた。
「ハァ……ハァ……」
呼吸が苦しい。手足が震えて力が入らない。
俺はティーナに体を支えられながら、ゆっくりと呼吸を整えて落ち着きを取り戻す。
「ああ、もう大丈夫だ……。ありがとう、ティーナ。まずはいったん、みんなでコンビニに戻ろう。今は怪我をしている仲間の治療が先だからな」
俺とティーナ、そして玉木とアイリーンはゆっくりと歩きながら、コンビニの中に戻ろうとする。
ちょうど、その時だった――。
””ドガーーーーーーーーン!!!””
突然、大きな爆発音が鳴り響き。周囲の木々が大爆発の爆風で、大きく吹き飛ばされていく。
「な……今度は一体、何だ!? また戦車からの砲撃か? 枢機卿が去ったから――俺達に向けて、あの黒い戦車からの砲撃を再開してきやがったのか?」
ミランダ領の広い森の中でも、枢機卿が潜んでいたこの辺りにだけは、戦車隊からの砲撃は無かったはずだ。
それはおそらく、戦車隊の砲撃を枢機卿が操っていたから、自分達がいる場所には攻撃をしないように調整をしていたのだと思う。
だが今は――その実行犯は、この場所から遠くに立ち去っている。という事は、黒い戦車隊による大砲撃をこの辺りに向けて、また堂々と行えるという訳なのか。
「彼方様……! この砲撃は戦車からのものではありません。アレをご覧になって下さい!」
俺はティーナが指差している方向を見て、思わず絶句してしまう。
「おいおい、一体、何なんだよ……アレは!?」
このミランダ領の広大な森林地帯の上空に、大きな『黒いヘリコプター』の群れが、びっしりと空を埋め尽くすかのように飛んでいた。
「あれはまさか、ヘリコプターなのか? それも軍隊とかで使用する攻撃用の『アパッチヘリ』じゃないか!」
そのアパッチヘリが一体……合計で何台、空を飛んでいるんだ?
まるで黒い鳥の大群が空を飛んでいるかのように、ヘリの大群は隙間なく密集して空を埋め尽くしている。
地上の戦車隊なんかより遥かに数が多いぞ。たぶん、数百機近くは空に浮かんでるんじゃないのか?
黒い戦車の次は、今度は黒いヘリコプターかよ。この世界には、一体どれだけ俺達の世界の近代兵器が存在しているんだ?
そのうち巨大空母とか、爆撃機とか、ステルス戦闘機なんかも出てきたりしないだろうな?
しかも俺が驚いたのは、それだけじゃない。
「……あのアパッチヘリ達。もしかして、黒い戦車を攻撃しているのか?」
――そう。
上空を埋め尽くすように飛んでいる、真っ黒に塗装されたヘリ達は、何と地上にいる黒い戦車を真っ先に攻撃しているらしい。
地上の戦車隊と、空の攻撃ヘリの部隊とではあまりにも相性が悪過ぎる。ましてその総数も、上空のアパッチヘリの方が遥かに戦車隊よりも数が多い。
地上で先程まで、最強の攻撃力を思うがままに誇っていた戦車達は、今度はなす術もなく。ヘリによる空からのミサイル攻撃を受けて、次々と破壊させられていく。
そんなどこか現実離れをした光景を、俺達はしばらく惚けながらぼーっと見つめていると。
「――店長、危ないです! 早くコンビニの中に入って下さい!」
突然、アイリーンの大きな叫び声が耳に聞こえてきた。
そして黒いアパッチヘリ達の攻撃に見惚れていた俺は、目前に迫っている危機にやっと気付いた。
「ヤバい……! あのヘリ達、今度はコンビニに向けて攻撃を仕掛けてくるつもりだぞ! みんな、急いでコンビニの中に避難するんだ!」
地上の黒い戦車隊を全滅させたアパッチヘリ達が、今度は上空を旋回して。一斉に俺達がいるコンビニ戦車に向けて近付いてきていた。
まさかコンビニもキャタピラーが付いていて、戦車っぽい形をしているから、攻撃をしかけるつもりとかじゃないだろうな?
それとも近代的な装備を持っている兵器になら、何でも反応して、自動で攻撃を加えてくるのか?
俺もティーナも、装甲車を回収してきた紗和乃も、急いでコンビニの店内に避難をした。
逃げている途中で転んで、足を擦りむいた玉木は、アイリーンが高速移動をして無事に回収する。
ちょうど、俺達全員がコンビニの中に避難を終えたそのタイミングで……。
””ズドドドドドドドドドーーーーーン!!!!””
凄まじい爆音と轟音と、世界が上下逆さまにひっくり返るんじゃないかと思えるような大きな振動が、コンビニの店内に襲いかかる。
「うおおおおおぉぉぉーーーっ!! これはやっべえぇぇぞおおぉぉ! マジでヤバ過ぎだろおぉぉぉ!!」
「きゃああああああああああああーーーッ!!」
外には無数の黒いアパッチヘリが、コンビニを取り囲んでいる。そのヘリ軍団が、一斉に空からミサイル攻撃を加えてきていた。
あの黒い戦車でさえも一撃で破壊する攻撃ヘリのミサイルが数百発も、コンビニの外壁に集中的に撃ち込まれているんだ。
こんなに凄まじい爆音が続いたら、耳の鼓膜が破壊されてしまうかもしれないぞ。
「か、か、彼方く〜ん!? コンビニは大丈夫なの!? 何だか物凄い爆音と衝撃がず〜っと続いているんだけど〜?」
「と、とりあえずは、まだ大丈夫だろう! 俺のコンビニの外壁は超強化合金シャッターで覆われているからな。だからこれくらいのミサイル攻撃なら、多分あと数分は持ってくれるんじゃないかな?」
「あと数分って何なのよ〜!? それから先はコンビニはどうなっちゃうのよ〜〜!」
「ちょっと静かにしてくれ、玉木……! 俺だって今、必死に打開策を考えてるんだからさ!」
俺が集中出来ないのは、玉木の声がうるさいからなんかじゃない。むしろ、外でバンバンと鳴り響いてくるミサイルの爆撃音があまりにもやかましくて。頭の中がおかしくなってしまいそうだった。
いくら合金製の強化シャッターでも、こんなミサイルを雨のように降らしてくる爆撃を凌げるはずがない。
こちらから反撃しようにも、屋上の地対空ミサイルの装備なんて、とっくに壊されてるし。
コンビニを移動させて逃げようにも。キャタピラー部分が大破していて――コンビニはもう、動かす事さえ出来ない状態になっていた。
もちろんコンビニには、自動修復機能があるから。いつかは勝手に復元するだろうけれど。その前にコンビニの地上部分は、完全にヘリのミサイルで破壊されてしまうかもしれない!
「彼方様……とにかくまだエレベーターが動くうちに、皆さんで地下階層に避難をしましょう! ここに残っていては危険です!」
「そ、そうだな……ティーナ! みんな、いったん地下のコンビニホテルにまで避難しよう!」
俺とティーナと玉木。そして、紗和乃と香苗とアイリーンに、意識を失っている杉田を含めた合計7人は……急いで倉庫にある、地下降下用のエレベーターに乗り込もうとする。
エレベーター前に慌てて駆けつけた俺達は、エレベーターの呼び出しボタンを押して。
更なる絶望に打ちのめされる事になった。
「彼方く〜〜ん!? エレベーターのボタンを何度押しても何も反応しないよ〜!」
「何だって!? ――玉木、俺に貸してみろ!」
――カチカチカチカチ。
俺はピンポンダッシュでイタズラをしまくる、近所迷惑なガキのように。ひたすらエレベーターの呼び出しボタンを連打しまくってみたが、何も反応は無かった。
エレベーターは動き出す気配も、大きな扉が開く様子もない。
「クソッ! ミサイルの攻撃を受け過ぎて、外壁が歪んでしまったのか? それともエレベーターのモーターが完全に故障したのか? よりにもよってこんな時に地下に降りられないなんて……!」
これはヤバい。割とマジで詰んでしまったかもしれないぞ。もう少し時間をゆっくり貰えたなら、打開策が頭に浮かんできたかもしれないけど。
でも俺達には、あまりにも時間が無さ過ぎた。
きっとあと少しで、俺達がいるコンビニの地上部分は、アパッチヘリのミサイルで粉々に吹き飛ばされてしまうだろう。
『――ピンポーン! コンビニの勇者のレベルが上がりました』
「――うぉ!? このタイミングでレベルアップなんて、神かよッ!!」
この最悪な状況でまさかの、久しぶりのレベルアップ音が聞こえるなんて。ヤバ過ぎだろう!
コンビニに地下階層が追加されてから、俺はしばらくずっとレベルアップしていなかった。それが……まさかこの状況でくるとは夢にも思わなかったぜ。
すかさず俺は、コンビニに追加された新能力を確認してみる事にする。
頼む……この最悪な状況を脱する事が出来る、新しい装備がコンビニに追加されていてくれよな!
「――能力確認!」
名前:秋ノ瀬 彼方 (アキノセ カナタ)
年齢:18歳
職業:異世界の勇者レベル15
スキル:『コンビニ』……レベル15
体力値:12
筋力値:12
敏捷値:12
魔力値:2
幸運値:12
習得魔法:なし
習得技能:異世界の勇者の成長促進技能レベル2
称号:『破滅の勇者』
――コンビニの商品レベルが15になりました。
――コンビニの耐久レベルが15になりました。
『商品』
医療用品セット
手術用品セット
医療用機器グッズ
が、追加されました。
『雑貨』
回転寿司用の皿
おしぼり
湯呑み茶碗
箸置き
高級箸
が、追加されました。
『耐久設備』
地下6階 回転寿司店
地下7階 結婚式場
地下8階 病院
地下9階 農園
異世界ATM
コンビニ支店 1号店
輸送機能付き大型アパッチヘリ 1機
戦車8台 装甲車8台
コンビニの守護機兵 200体追加
花嫁騎士
が、追加されました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「――枢機卿様、あの空を埋め尽くしている黒い鋼鉄の箱は一体何なのでしょうか?」
女神教の枢機卿達一行は、ミランダ領の森の中を無事に抜け出す事に成功し。
帝国が引き連れてきた魔王遺物である黒い戦車隊が、次々と空からのミサイル攻撃で破壊されていく光景を見つめながら。その様子を静かに丘の上から観察していた。
「………あれは、ヘリコプターという物です。あの兵器も遠い昔に、コンビニの能力を持つ私の知り合いが所持していた兵器です。つまりは、魔王遺物の一つなのです」
「魔王遺物!? 帝国の地下の他にも、まだ眠っている魔王遺物が存在していた、という事なのでしょうか?」
「………それは分かりません。あの空を飛ぶ魔王遺物は一体、どこから飛んできたのか。誰か分かりますか?」
枢機卿は小さな声で、部下達にそう尋ねた。
「かにぃ〜。枢機卿様。あの黒い空飛ぶ箱は北にある『禁断の地』から飛んできたと、部下達が確認をしていますですかにぃ」
「禁断の地ですって………? そうですか。そうするとあの黒いヘリの大群は、もしかしたら『レイチェルさん』の差し金かもしれないという訳なのですね」
枢機卿は遠い北の空を見つめて、小さく笑う。
「………ふふ。まだ、レイチェルさんがこの世界で生き残っていたなんて。魔王の谷を守っていたアイリーンさんと同じで、体を機械化して生き残り続けていたという訳なのでしょうか? もしそうなら、それは実に面白い事ですね………」
「――枢機卿様?」
普段は感情を滅多に表に出さない枢機卿が、小さく笑い声をあげた事に、配下の者達は驚愕する。
ついさっきも、コンビニの勇者と出会った枢機卿の様子は明らかにおかしかった。
女神教に所属するほとんどの者達にとって、今日は枢機卿の意外な一面を何度も見る事の出来る、とても珍しい日であった事は間違いなかった。
黒いローブを着た枢機卿は、空を埋め尽くす黒いヘリの大群を見つめながら。誰にも聞こえないように、小さく独り言を呟く。
「………レイチェルさん。私をこの世界で一人ぼっちにしないという約束だけは、ちゃんと守ってくれていたのですね。私は今日、不思議な事に『もう1人の彼方』くんと出会いましたよ。それは、とても興味深い事でした。だからきっと、これからもこの世界では、沢山の不思議な事が起きるのでしょうね………」




