Act22:相対したら、過呼吸になる、自信がある
あくとにじゅうに。
『始まりの街』の一角に『職人街』と呼ばれる場所がある。
読んで字のごとく職人のために整備された区画で、クラフト関連の設備が集まっている場所だ。
この職人街の中には一定間隔で特殊なポータルが設置されていて、そこから各プレイヤーの『工房』へと移動することが可能だ。
プレイヤー個々人が、それぞれの趣味に合ったカスタマイズを施して造り上げる『私設工房』。
このゲーム内でクラフターとして本格的に活動したければ、必要不可欠とも言える多くの機能を備えた施設だ。
ただし、高性能の施設を使うには、それなりの対価が求められる。
有り体に言えば、家賃が高いわけだが。
あくまでもゲーム内通貨での支払いだが、月額で結構な量が取られるので、私設の工房を構えられるのはコンスタントに他プレイヤーから依頼をされるようなレベルの、人並み以上にレシピを解放している職業クラフターに限られる。
とまあ、そんな工房が軒を連ねる中に、実は俺の工房も存在してる。
規模としては大きくないが、武器から防具、アクセに衣服となんでもござれなレパートリーが売りの、その工房の名は――
よろず工房『たくあん庵』
……前にも似たような導入を見たって?
そりゃそうだよ。
ほら、ドラマとかアニメとかで毎回お馴染みの導入パートってあるじゃん。
やっぱり、人の記憶に残るためには繰り返してなんぼだと思うんだよね。
◇◇◇
休日の朝。
俺の工房内には、ある意味でおなじみの男の姿があった。
「今日の夜、暇か?」
ログインして工房にやってくるなりそう問い掛けてきたのは、案の定[エッジ]である。
相も変わらず黒っぽいSFニンジャスタイルだが、虫系素材の打甲の禍々しさのせいで以前よりもビジュアルの中二病感が増している気がする。動画撮影のときのフルフェイスメット被った姿とか、完全に悪役のそれだったしな。
「まあ、基本的には暇だけど……なんかあるのか?」
「ああ。つってもリアルのほうだが」
工房のすみっこに積んである木製の椅子を適当に引っ張り出してきて、[エッジ]はカウンターの向かい側に座って言う。
「晩飯食いに行かねえか?」
「もちろん、構わないけど……珍しいな?」
大学の帰りにその辺で二人で食事をするのは珍しいことではないが、わざわざ休日の夜に、しかも事前に確認してまでというのは滅多にないことだ。
なんとなく唐突に思い付きで『なあ、飯行こうぜ』っていう連絡が飛んでくることはお互いにまれにあるが。
いつもと違うことをする、ということはいつもと違う背景があるのだろう。
[エッジ]は別に隠すでもなく答えた。
「うちの妹どもと飯食いに行くんだよ。んで折角だからお前も呼ぼうと」
「妹どもって……はるちゃんも来るの?」
「来るぞ。お前は暫く会ってないだろ」
はるちゃん、こと遥佳ちゃんは[エッジ]の妹だ。
俺、というか城戸家は旭の両親が存命だったころから家族ぐるみの付き合いがあったので、当然、俺も遥佳ちゃんとはそれなりに親しい。
もう一人の妹である明佳ちゃんとはゲーム内でしょっちゅう会うし、彼女は[エッジ]の自宅に殆ど住み着いているので、ヤツの家に遊びに行ったときなんかに会うことは然程珍しくない。
遥佳ちゃんと最後に会ったのはいつだっただろうか。
少なくとも、大学に入ってからは会っていないはずなので、かれこれ一年以上にはなるのだろう。
会いたいかと言われれば、そりゃあ会いたいが……。
「兄妹水入らずだろ。俺が居てもいいのか?」
「今更そんなの気にする仲じゃねえだろ」
そう言って[エッジ]はカラカラと笑っているが、うん、まあお前はそうだろうけどね。
俺だって[エッジ]に対しては今更なんの遠慮もしやしないが、遥佳ちゃんがどう思うかは別だろうに。
「言っとくが、お前も誘ったらどうかって言いだしたのは遥佳だからな」
「あ。そーなん?」
「ダメな兄貴とダメな妹が普段から世話になってるから、ちゃんとお礼を言っとかないと!だとよ」
「真面目だなぁ」
どちらかというと、お礼と言う名の小言を言われそうな気がするが。
主に明佳ちゃんを甘やかしすぎている云々、とかそういうの。
遥佳ちゃんの平坦な声で滾々と諭されるのも嫌いじゃないので、それはそれで楽しみだが。
あ。マゾじゃないです。
「なに食うの?」
「ラーメン」
「何故に?」
「食いたいものあるかって遥佳に訊いたら、『お兄さんが普段食べてるところに連れて行ってください』とか言うもんだからよ」
なるほど?
単なる興味本位でそう言ったのかもしれないが、遥佳ちゃんはちょっと頭が良すぎるので、何を言っても裏がありそうに感じてしまう。
まあ、実際に深慮遠謀あるのかもしれないが。
ともかく、となると圧倒的に大学の至近に所在するラーメン屋『天下三分』になるだろう。
俺とコイツが大学帰りによる場所と言うのが大抵ここで、うちの学生御用達のスポットである。
大学生のエネルギッシュな胃袋を満足させる、とにかく濃ゆくてボリューミィなメニューが売りだ。
花の女子高生(しかもお嬢様校)である遥佳ちゃんをそんな場所に誘っていいものか、と若干思わないでもないが、実のところ彼女は昔から俺などよりも余程健啖な女の子である。
この兄にして、あの妹ありという感じ。
遥佳ちゃんは武術自体はもう本格的にはやってないみたいだが、それでもそもそもの肉体の出来が俺などとは違うので、相応によく食べる。
思うに、[エッジ]の体捌きとか遥佳ちゃんの頭の切れとか、彼らは肉体がハイスペックな分だけ消費するエネルギーも大きく、非常に燃費が悪い印象だ。
ちなみに明佳ちゃんは見た目相応に食が細い。女の子らしくて大変結構である。癒しである。
「じゃあ、夕方にまた連絡するから、出られるようにしといてくれ」
「りょーかい」
そのまま流れで昨日のレイド動画とかの話などしていると、新たな来客があった。
工房のポータルから現れたのは、二つの小柄な人影であった。
「おはよーございまーす!」
「…………(ぺこり)」
手を上げて元気いっぱいに挨拶をくれたのが[アリア]さん。
夕日みたいな赤毛の『ハイエルフ』で、際立って小柄な体躯を目一杯に動かして、とにかくリアクション豊かな女性だ。
パーカーとジャケットを重ね着したミニスカートのコスチュームは俺がクラフトで作った物で、淡い配色とポップな意匠で女性プレイヤーから人気の高い『スカウトポプシー』という衣装だ。めちゃくちゃスカートが短いので、スパッツみたいなパンチラ対策品が欠かせない。
ちなみに使用クラスは初期近接職の『ストライカー』だ。
その後ろに続いて小さく会釈だけしたのが[Canaan]さん。
焦げ茶色の犬の『ワービースト』で、大雑把に一纏めにした長髪の毛量が凄まじいので、シルエットが矢鱈ともふもふしている。
おみ足が剥き出しの健康的なホットパンツに、対照的にガードの堅い厚手のジャケット。おそらく、ベースとなっている衣装は探検家モチーフの『フォレストシーカー』シリーズだろう。となれば、あのジャケットの下は黒のタンクトップに違いない。
首に引っ掛けた大振りのゴーグルはファッションのようにも見えるが、彼女のクラスを考えれば実用品だろう。
彼女の使用クラスは派生射撃職の『ガンナー』。
フィールドやダンジョンの種類によっては『豪雨』『降雪』『砂塵』等の悪環境が存在するので、視界を確保するためにゴーグルとかマスクとかを持ち歩いているプレイヤーも、熟練者の中では珍しくない。
二人はリアルの友人同士だということで、ゲーム内ではともに俺と[エッジ]のフレンドでもある。
とはいえ、このゲームのプレイ歴は全然違う二人で、[アリア]さんは初めて一月も経っていないくらいのこってこての初心者なのだが、[Canaan]さんは[エッジ]をして感嘆するレベルの技巧派の熟練プレイヤーだ。
「やあ。いらっしゃい」
「よう」
定型文を返した俺と、気安く片手を挙げた[エッジ]。
軽やかに跳ねる様に歩いてきた[アリア]さんは、椅子に座ったままの[エッジ]の目の前で止まる。
目の前と言うのが、本当に目と鼻の先まで近づいてくるのがこの人の特徴だ。
「なんか、[エッジ]さんが座ってると違和感ありますね!」
「いきなりどういう意味だコラ」
「あはは。だって[エッジ]さんって動いてないと死んじゃうみたいな印象ですし」
「俺は回遊魚か何かか?」
[エッジ]は微妙な顔になっているが、俺としては是非とも普段の行動を省みてくれと思う。
今日のコイツがここで大人しくしている理由とは、単に、このあと遥佳ちゃんとの約束があるからダンジョンに繰り出す時間が取れないだけである。要は、約束の時間までここで時間を潰す魂胆なのだろう。
「座ってるだけで面白いのは……稀有な才能。誇るといい……」
「履歴書に書いとくよ」
[アリア]さんの後ろから[Canaan]さんがぼそぼそと揶揄る。
声音は控えめだが、言っていることはキレッキレだ。
[アリア]さんはちょっと心配になってしまうくらいに距離感が近い女性だが、[Canaan]さんはちょっと心配になってしまうくらいの人見知りだ。
初対面の相手とはまずまともに喋れないと言っても過言ではなさそうだ。
実際、俺も初対面の時には泣かれそうになったし。
今でこそ怖がられることはなくなったが、仲良くなれたとは言いがたい。
[エッジ]のように気安い会話をしてくれるようになる日は来るのだろうか。
あの小さな声でぼそりと辛辣なツッコミを入れられたいものである。
あ。マゾじゃないです。
「ところで[エッジ]さん」
居座る気満々なのか、[アリア]さんも隅に積んである椅子を持ち出してきて[エッジ]の隣に腰を落ち着ける。
「動画見ましたよー動画!」
「耳が早いな」
「アンテナ張ってるのはわたしじゃなくてカナですけどね」
その[Canaan]さんはいきなり駄弁り出した友人にどうしたものかと視線をさ迷わせていたが、最終的にはとりあえず付き合うことにしたみたいで、何故か無音でこそこそと椅子を取りに行った。
たぶん、無意識的に目立たないように行動する癖がついてるんだろうなぁ。
「[エッジ]さん大学生さんだったんですねぇ」
「まあな。そんな気はしてただろ?」
「うーん。どっちかっていうと、もっと年上かと思ってましたね」
俺たちが在籍している大学は『白帝大』と言うのだが、件の動画を上げたチャンネルには『白帝大ゲーム同好会』の名が冠されている。ついでに言えば動画の概要欄にはデフォルトで同好会のブログ(会長が運営しているヤツだ)へのリンクが張ってある。
[アリア]さん的には動画の内容自体よりも[エッジ]の背景のほうに興味があるようだ。
わかるわかる。
だってあんな動画見せられたところで『なんかすごいんだな』っていう以上の感想なんて出てこないよね(決めつけ)。
余談だが俺は『いつもの[エッジ]だな』としか思わなかった。
「しかもびっくりしたんですけど、白帝大ってわたしたちの高校から結構近くなんですよ!」
「……うちの卒業生も結構居ると思う」
おや、と[エッジ]と顔を見合わせる。
それは確かにびっくりな偶然だ。
同時に、なんとなーく妙な予感がしていた。
「ちなみに[アリア]さん。学校名とか訊いてもいいかな?」
控えめに訊いてみると、彼女はこちらを信用してくれているのか、あっさり教えてくれた。
「『彩陵台高校』っていうんですけど」
その名を聞いて、俺と[エッジ]からなんとも言えないため息が漏れる。
俺たちのそんな反応に[アリア]さんはきょとんとして、[Canaan]さんは怪訝そうにしている。
「彩陵かぁ……それは確かに近いね」
「つうか、てことはお前ら、実は結構お嬢様だったりすんのか?」
[エッジ]の言葉に、[アリア]さんはヒラヒラと手を振って「そんなことないですよぉ」と返した。
何故か、[Canaan]さんはそんな彼女をしら~っと冷めた目で見ていたが。
「と言いますか、[エッジ]さん良くご存じですね」
確かにうちってお嬢様校ですけど、と[アリア]さんは少し不思議そうだが、なんのことはない。
「そりゃあ、うちの妹が通ってる学校だからな」
「ふぇえっ!?そうなんですかぁ!」
「そうなんですよ」
つまるところ、遥佳ちゃんが現在在学中で、ついでに言えば生徒会長を務めている高校こそが、その私立彩陵台高等学校なのである。
まあ、仮に遥佳ちゃんの件がなかったとしても、地元ではそれなりに有名な学校なので、名前くらい知ってはいたと思う。
とは言っても結局大したことは知らないのだが、彩陵台はもともとは『彩陵学院』という名称で、上流階級の子女をメイン層に据えた私立の女子校だったらしい。
少子化の影響で生徒数が減って経営難に陥り、つい五年前、今の名称に改めて男女共学校として再スタートした経緯を持つ。
それからは学費もわりとマイルドになったようだが、もとがもとなので、世間一般の金銭感覚から言ったらじゅうぶんに高いようだ。
「つまり……[エッジ]も、じつは……わりとお坊ちゃん?」
「そう見えるか?」
「まったく、見えない」
正直な感想に[エッジ]は軽く肩を竦める。
あまり吹聴すべきでない話だが、両親を早くに喪った[エッジ]たち兄妹が経済的にまったく困窮していない理由とは、彼らの生家である旭家というのがそもそも、不労所得だけで生計を立てられるような旧来の有力者の系譜だからだ。
その辺の事情には旭家が継承している古武術が大きく影響しているらしいが、詳細は流石に部外秘だろう。
彼らの祖父(旭家当主)本人はその経済力に関して『古臭い因縁や柵に囚われた豊かさ』だと腐していたので、良いことばかりではなさそうだが。
「ちなみにちなみにっ、わたしたち二年生なんですけど、[エッジ]さんの妹さんは何年生ですか?」
「三年生だな」
「わぁ!じゃあ先輩さんですね!」
ぽふっ、と両手を合わせて感動する[アリア]さんに、[エッジ]が爆弾を投下する。
「生徒会長やってんのが妹だから、まあ会う機会があれば仲良くしてやってくれ」
「「え”」」
ビシッと二人そろって石化する。
その動作があまりにもシンクロしていて、流石は親友同士と変な感心すら覚える。
[アリア]さんは恐る恐る[エッジ]を指差し、
「とゆーことは……旭生徒会長の、お兄さん?」
「おう」
「えええええええええっ!?」
そんなに驚くことか、と[エッジ]は笑っているが、驚くことだと俺は思うぞ。
普通の感性で言えば『すごい偶然もあるもんですねー』と感心して終わりだろうが、この場合は『あの』生徒会長の兄である、というのが問題なわけだな。
要するに、『あの』超人である遥佳ちゃんの家族を名乗ったから、こんなに驚かれているだけのことだろう。
俺にはその気持ちが良くわかるが、生憎と[エッジ]には理解できんだろうなぁ。
[アリア]さんたちの反応をどう捉えたのか、[エッジ]はもしかして、というような顔になる。
「二人とも、うちの妹と知り合いだったりするのか?」
「いえいえいえいえ!そんな、わたしたちが一方的に知ってるだけですよっ!」
「…………話したこともない」
まあそもそも学年も違うしな、と納得している[エッジ]はおそらく、本質をまったく理解できていない気がする。
「というか、畏れ多くて話しかけられませんよ!」
「それは大袈裟だろ」
「……相対したら、過呼吸になる、自信がある」
「いやいや」
[Canaan]さんには流石にもうちょっと頑張れよと言いたいところだが、わからんでもないのが正直なところだ。
かくいう俺とて、友人の妹で幼い頃から交友があるからこその関係性であって、そうでなければ、たぶん遥佳ちゃんは俺とは一生縁のない人種だったと思う。住んでる世界が違う感はんぱないし。
[エッジ]の顔面がどんどん不可解そうになっていくので、この辺でフォローしておこうか。
「といっても、遥佳ちゃんは[エッジ]のゲーム趣味にはあんまり肯定的じゃないからね。ゲーム内でお兄さんに会いましたよ~とかってのは言わないほうが良いと思うよ?」
睨まれちゃうからね、と俺が言うと[エッジ]も「それもそうか」と納得していた。
この辺が落とし所だろうと思って言ったのだが、[アリア]さんは「あの生徒会長に『ちゃん』付け……?」と別方面のショックを受けてしまったようだ。
「ちなみにコイツ、今日もこの後[さや]ちゃんと一緒に遥佳ちゃんと会う約束があるらしいよ?」
「よろしく言っといてやろうか?」
「けけけ結構です!」
「……勘弁してください」
「お、おう」
あまりにも迫真の拒否を食らって、流石の[エッジ]も素直に引き下がるしかなかったようだ。
俺は[アリア]さんたちの本名は知らないし、リアルの姿を知っているわけでもない。それはたぶん[エッジ]も同様だろうが、だとしても、例えばアバターの外見特徴とか、喋り方の癖とか、だいたいの体型とか、そういう僅かな情報からでも、遥佳ちゃんがその気になれば瞬く間に正体に辿り着くのは想像に難くない。
[エッジ]が雑談交じりに「そういえばゲームでお前と同じ学校の生徒に会ったぞ」とか言おうものなら、数日後には突然遥佳ちゃんが「兄が世話になっているようね?」などと言いながら現れ、そして[Canaan]さんが過呼吸で死ぬことになる(絶望)。
そりゃあ、必死で拒否るのもむべなるかな。
「ん?お客さんかな?」
と、その時PSIに反応があった。
この工房の主である俺は、誰か他のプレイヤーが工房のポータルを起動すればそれを察知できる。
俺の呟きに反応して[エッジ]たちは口を噤み、なんとなく全員で入口のポータルを見遣った。
一瞬後、輝くエフェクトとともにポータル内に人影が現れ、歩み出てきた。
「おや。一見さんかな」
現れたのはまたしても少女だった。
黒猫の『ワービースト』で、未成熟な肢体は中学生か、もっと幼くも見える。
黒い絹地のマフラーで口元を隠し、軽装の小手、脚絆を装備した、わかりやすい忍装束。
ただし、昨今のサブカル業界お得意の萌えアレンジが効いた忍装束は、当然の様に下半身の布地ががっつり削減されていて、和装の下に着ているインナーウェアのボディスーツが露出している。黒装束の中に浮き出す健康的な白いふとももがとても眩しい。
あのセクシーな忍装束は『月下飛影』という名のコスチュームで、[さや]ちゃんの『姫具足』ほどではないが、かなりレシピ解放難度の高い逸品だ。
ちなみに俺は作れない。
俺のレシピ解放の道標である[さや]ちゃん的には『あのハイレグはNGです!』とのことだ。
ネコミミニンジャの少女の名は[ヨルハ]。
もしかしなくても、先日の『六道窮鬼』戦で[エッジ]と肩を並べた『EF』所属の女の子であった。
「……おじゃまでしたか?」
俺たち全員の視線を一斉に浴びた[ヨルハ]ちゃんは、少しだけ腰が引けたようだった。
「いやぁそんなことないよ。いらっしゃいませ」
そう言った俺の後に続けて[エッジ]が「よう」と片手を挙げると、[ヨルハ]ちゃんははにかむように微笑して、工房内に入ってきた。
自己紹介をしあう[ヨルハ]ちゃんたちを眺めつつ、ううむと内心で呻る。
こっそりと[エッジ]にプライベートチャットを飛ばす。
『またちっちゃいお友達が増えたようだな?』
『図らずも』
『やっぱお前、なんかそういうオーラとか出てんじゃないか?』
『わりと否定できなくなってきたな』
最近の[エッジ]からは間違いなく、背がちっちゃい女の子だけを惹き付けるオーラとか、フェロモンとか電波とかが出ているのだ。
[アリア]さんと[Canaan]さんは背こそ低いが歴とした高校生ということで、同年代(少し下)と言えなくもないが、[ヨルハ]ちゃんはおそらく中学生。つまりはモノホンのちっちゃい女の子である。
ここでポイントが高いのは、彼女が[さや]ちゃんの知己でないという点だ。
[さや]ちゃんの知己であれば、それは自身の縁故というよりかは『妹の友人』というカテゴリーとなってしまう。
ちっちゃい妹の友人がちっちゃいのは当然なのだ。妹を介さずにできたちっちゃい友人だからこそ、ロマンがあると言えよう。
ちなみに、どれくらいの年齢までならアリかというと、紳士諸兄それぞれの持論があるだろうが、俺の持論を言うのであれば圧倒的に理想は12歳だ。だが14歳までならビジュアル次第ではアリだ。[さや]ちゃん(14)はもちろんアリだ。だが15歳、てめーはナシだ。年齢制限にR15という区分があるように、15歳以上とはもう純心では居られない歳なのだ。残念ながら。
紳士諸兄であれば当然かの古典小説『ロリータ』には目を通していることだろうが、ロリコン、ゴスロリ等の語源となった同書のヒロイン『ロリータ(本名ドローレス)』もまた登場時の年齢が12歳であったことはあまりにも有名だ。12歳未満はまだ子供であり、15歳以上は既に女性なのだ。なればこそ――、
『その中間である12歳から14歳の少女こそが真の女の子であり(早口)』
『その辺にしておけ』
『止めてくれるな[エッジ]、俺は今、真理を探究している』
このまま[エッジ]に俺が見出した崇高なる宇宙の真理を教示してやっても良かったのだが、お客さんである[ヨルハ]ちゃんたちをほったらかしにしておくわけにもいかないので、自重することにする。
『プライベートチャットで良かったな。オープンで垂れ流してたらBANされる勢いで気持ち悪かったぞ』
『真理が弾圧されることは往々にしてある。それは歴史が証明しているからな』
『ちなみに、ちっちゃい妹の友人がちっちゃいのは当然じゃない。それは[クロエ]が証明しているからな』
『それは盲点だったわ』
『ガバガバじゃねえか』
傍目には俺と[エッジ]が無言で睨み合って、唐突に[エッジ]が疲れ果てたように見えたことだろう。
[アリア]さんなんかは不思議そうにキョトンとしているが、[Canaan]さんにはだいたいの見当がついているようで、こころなしかジト目だ。
俺が『なにを話してたんですか?』と訊かれるのを今か今かと待っていると、彼らはアイコンタクトを交わして頷き合ったかと思うと、
「ところで[ヨルハ]はなにしにここへ?」
「あっはい。じつは――」
と、まるで俺が存在していないかのように会話し始めた。
成程。放置プレイか。それもまた悪くない。
「今日は、おにーさんにおねがいがあってきました」
「俺に?」
はい、と[ヨルハ]ちゃんは頷く。
フレンド登録をしていればフレンドリストからログイン状況と現在位置が確認できるので、それで[エッジ]の場所を確かめてここを訪れたのだろう。
余談だが、フレンド関連のシステムの一つに『フレンドメッセージ』というものがある。
これはプレイヤー各人が設定可能な短いコメントのことで、このコメントは他のプレイヤーがフレンドリストを確認した時に表示される。例えば、俺が設定したフレンドメッセージは、[エッジ]や[Canaan]さんがフレンドリストを確認した時に、俺の名前の欄に一緒に表示されるわけだ。
この機能はわりとプレイヤー個人の性格が出るところで、そもそも設定しない人も居れば、毎日ログインするたびに書き換える人も居る。離席する際にその旨を記載したり、あるいはパーティーメンバー募集に使ったりする人も居る。
んで、[エッジ]の場合はなにを記載しているのかと言うと、そのフレンドメッセージを利用して俺の工房の宣伝をしてくれているわけだ。
そんなこんなで[エッジ]のフレンドになったプレイヤーたちが、そのメッセージを見て、この工房を訪れたりそのまま常連になってくれたりするのだ。
[エッジ]にお願いがあって来たのだという[ヨルハ]ちゃんは、何故か[Canaan]さんと[エッジ]の間に視線を行き来させて言い淀む。
座っているだけで面白い男が腰を上げ、「まあ座れよ」と椅子を譲っても、立ち尽くすばかりだ。
プライベートチャットで会話している風でもないので、一体どうしたのだろうかと見守っていると、ややあって意を決したように口を開く。
「あの、おねがいの前に……わたしはおにーさんとおねーさんにあやまらないといけません」
突然のその言葉に、名指しされた[エッジ]と[Canaan]さんは不思議そうに顔を見合わせた。
全然心当たりがなさそうな反応だが。
「この前、『緑堕の森殿』で、『ガイアマンティス』のレイドがはっせいしたときのことです」
「ん、ああ……」
いつです?と[アリア]さんが小声で問いかけ、[Canaan]さんが「[エッジ]と、会った日……のこと」と返す。
あの時か、と俺も思い至る。
俺が[エッジ]に虫系素材の収集を依頼したときの話だろう。
[ヨルハ]ちゃんはまるで教師に怒られる学生のような雰囲気で、直立したまま俯き加減に言葉を続ける。
「あのとき、じつはレイドがはじまる前から、わたしはおふたりのことを見ていました」
「え…………?」
「前からって、いつからだ?」
「お二人が、『ヴェノムホーネット』とたたかっているときからです」
[エッジ]たちは当時のことを思い出すように難しい顔をして少しだけ考え、互いに確認する。
「だそうだが、気付いてたか?」
「……まったく(ふるふる)」
「だな。レイドのときに[ヨルハ]が参加してたのは覚えていたが……」
「自分は、なんなら……それも、知らなかった」
まあ、『緑堕の森殿』といったら決して見通しのいい場所ではないらしいし、[ヨルハ]ちゃんの使用クラスである『ニンジャ』はレーダーマップにも映らないので、こっそり隠れていればまず見つからないだろう。
で、あるのだが、俺は[エッジ]の態度に少しだけ違和感を覚える。
見られていたことに気付いていなかったのは確かなようだが、[エッジ]はそのこと自体には別に驚いていないように見えるのだ。
それを問うてみると、[エッジ]は実になんでもないように答えた。
「[ヨルハ]に見られてたこと自体は知ってたからな」
「そうなのか?」
「ああ。まさかそんな前から見てたとは思わなかったが」
いったいどういうことなの、と混乱が深まった様子の[Canaan]さんに睨まれ、[エッジ]は肩を竦める。
「動画見たなら知ってるだろうが、[ヨルハ]が兄貴と協力して投剣で足場作ってたろ」
「そういえば……うん」
「あれ、お前の真似らしいぞ」
「は?」
聞いた情報から推測するに、過日、パーティーを組んで『緑堕の森殿』で素材収集をしていた[エッジ]と[Canaan]さんは、その道中でのエネミーとの戦闘中、件の『六道窮鬼』レイド動画で見られたような、バインドバレットを利用した急造の足場を利用していたのだろう。
十中八九、[エッジ]のやつがいたいけな[Canaan]さんに無理やりやらせたに違いない(確信)。
アイツはこと戦闘行為が絡むと途端に頭がおかしくなって無茶をするからな。
で、どういうわけかそれをこっそり見ていた[ヨルハ]ちゃんが、言ってしまえばその戦法をパクったわけだ。
もちろん、別に特許でもなんでもないので戦法を真似すること自体はなんにも問題はないのだが、
「それで、[ヨルハ]が謝りたいのは、隠れて見ていたことか?」
「はい……ごめんなさい」
そう言って[ヨルハ]ちゃんは俯き気味に頭を下げ、[エッジ]はそれを何とも言えない顔で見ていた。
[Canaan]さんは未だに瞳を白黒させているし、[アリア]さんは心配そうにことの推移を見守っている。
難しい話だ。
[ヨルハ]ちゃんの行為がなんらかのルールに違反しているかというと、そんなことはない。
『ニンジャ』というクラスのステルスは公式に実装されている機能なのだから、それを使って何が悪いのかという話だ。
だが、ルール違反ではないが、マナー違反ではある。
盗み見る、という行為が倫理的に褒められたことでないのは敢えて言うまでもあるまい。
神妙に静観するフリをしながら、俺は[エッジ]にこっそり話しかけた。
『真面目な子だな』
『ああ。ほんとにな』
当然のように、微塵もそんな素振りを周囲に悟らせずに[エッジ]が言葉を返してくる。
コイツが難しい顔をしているのは、単に落としどころを考えているだけだろう。
なにせ、間違いなく、[ヨルハ]ちゃんが盗み見ていた行為自体にはまったくもって思うところなど無いのだろうから。
そもそも[Canaan]さんは気付いていなかったようだし、[エッジ]も先のレイドでの会話から察していたにも関わらず、特に言及するつもりもなかったのだ。コイツの心境的には『あ。そーなの?』くらいにしか思っていなかったに違いない。
ところが、[ヨルハ]ちゃんが自分から謝罪をしてきたので、どうしたものかと初めて考えているのだ。
『ちゃんと『許す』と伝えてあげるべきだと思うぞ』
『……そうだな』
[エッジ]としては、別にわざわざ謝るようなことじゃないぞ、と言ってしまいたいのだろうが。
俺は気にしてないからお前も気にするな、と言われたところで、気にしてしまう真面目なたちだから[ヨルハ]ちゃんはわざわざ謝りに来たのだ。
ならば、彼女がちゃんと『許された』のだと、納得して彼女自身を許してあげることができるようにしてやるのが年長者の務めだろう。
彼女がしたことと言えば、結局はただ単に『見た』というだけだ。物証は無く、[ヨルハ]ちゃんの自己申告だけ。つまりは彼女が黙っていれば別に誰にも責められないし、迷惑もかけない。にも関わらずこうして謝るというのは、要するにこの子は『叱って欲しい』のだろう。
悪いことをした、と自分でそう思っているから。
[エッジ]は鼻から小さく息を吐いて、口を開いた。
「まあ、確かに褒められたことじゃあないな」
「一歩間違えたらストーカーだしねぇ」
俺の言葉に[ヨルハ]ちゃんがビクりと肩を揺らし、それを見た[アリア]さんがこちらに非難がましい視線を送ってくる。
追い詰めたらかわいそうでしょ!とでも言いたげだ。
へいへいすみませんね、と口パクしつつ肩を竦めると、その態度がまた気に障ったのか、ぷっくりと頬を膨らませて睨まれてしまった。可愛いんだが(凝視)。
いや、茶化していい雰囲気じゃないのはわかっているが、だが[エッジ]だけに任せておくと重苦しくなりすぎるのだ。無表情の[エッジ]に無言で見下ろされてるって状況マジで怖いからね?
案の定[ヨルハ]ちゃん泣き出す一歩手前の顔してるし。
腕を組んで仁王立ちの[エッジ]が、[ヨルハ]ちゃんを見下ろして重々しく口を開く。
「…………反省してるか?」
「はい……」
「……もうしないか?」
「はぃ」
俯きがちになりながらもしっかりと答えた[ヨルハ]ちゃんの言葉を聞き、[エッジ]は嬉し気に口元を緩めた。
「よし。なら許す」
「!!」
びっくりした表情で顔を上げた[ヨルハ]ちゃんと視線が合うと、[エッジ]は不器用ながらも笑って見せる。
それを見て、[ヨルハ]ちゃんの顔にもじわじわと安堵が広がっていく。
そして後ろでは[アリア]さんも安堵の溜息を吐いていた。
まあ、[エッジ]にしては頑張ったほうだろう。
天性のシスコンであるあの男は、いわゆる『妹系』の女子に非常に弱い。すぐに妹を甘やかしたくなってしまう、あれはもはや一種の病気なのだ。それを思えば、あの破壊的『妹力』を誇る[ヨルハ]ちゃんに厳しい態度をとる、というのは相当に精神力を使う行いだったのではなかろうか。
「あー……だが、」
おもむろに、いかにも拙そうな顔をする[エッジ]。
それから思案気に腕を組み、
「俺は許すんだが、もしかしたら、[Canaan]は許してくれないかもなぁ」
「!!」
ちなみに、今の「!!」は[ヨルハ]ちゃんではなく[Canaan]さんである。
[エッジ]のいきなりの発言に『なに言いだしたのお前!?』とでも言わんばかりの形相で、凄まじい反応速度で振り向いたのである。
「あ……」
「俺は男だから、覗き見されても大して気にしやしねぇが、犬のおねーさんは一応女性だから、俺よりもそのへん気にするだろうしなぁ」
「いちおうって、言うなし……!」
げしっ!と[エッジ]の脚にローキックが入るが、蹴られた当人は楽しそうにニヤニヤしているだけだ。
[ヨルハ]ちゃんはというと[エッジ]に許してもらえて喜色満面の状態から一気に冷や水をぶっかけられて、深刻な面持ちに戻ってしまっている。
その彼女の瞳に見つめられて[Canaan]さんが「うっ」と怯む。
「ほぉら。カナ?」
[アリア]さんが椅子から下りて、座り尽くす[Canaan]さんの背後に立ち、その両肩にポンと手を置いた。
「[ヨルハ]さん、謝ってますよ?カナも言うべきことがあるんじゃないですか?」
「え?……だって、[エッジ]が……もう、許したって…………」
「[エッジ]さんが許したから許すんですか?違うでしょう?」
あわあわと挙動不審な[Canaan]さんの両肩を押さえつけて、にっこりと笑った[アリア]さんが穏やかな口調で諭し始める。
改めて言うまでもなく、ハイレベルな人見知りである[Canaan]さんはなるべくなら初対面の相手と会話したくないので、これ幸いと[エッジ]の尻馬に乗っかって乗り切ろうとしたわけだが、[アリア]さんの眼にはそれが不誠実に映ったらしい。
にこにこと可憐な意味を浮かべているにも関わらず、謎の威圧感がある。
どうやら、この場で一番大人だったのは[アリア]さんのようだ。
[エッジ]?いやアイツは[Canaan]さんをいじめて楽しんでただけだろう(確信)。
さあ行け!とばかりに背中を押されて、[Canaan]さんは立ち上がって[ヨルハ]ちゃんと向き合うことを余儀なくされた。
「あ、あの…………」
「はい」
「え、えと……その……」
「はい」
言うまでもないが、滅茶苦茶挙動不審でおろおろしているのが[Canaan]さん(年上、許す側)であり、静かな表情で神妙に言葉を待っているのが[ヨルハ]ちゃん(年下、謝る側)である。
というか、相手年下の女の子だよね。それでこれって、彼女は果たしてちゃんと日常生活を送れているのだろうか。それこそ、リアルで[エッジ]のようなのに遭遇したら心臓止まってしまうのではなかろうか。
流石に、遥佳ちゃんと相対しただけで呼吸器がおかしくなると豪語しただけのことはある(?)。
「自分は、あなたが見てたこと……気にしない、わけじゃ、ない……」
たっぷり時間をかけて決意を固め、ぼそぼそとだが話し始める。
もの凄く視線が泳いでいるのはご愛嬌だろう。
「だから、その……もう、しないでほしい」
「ごめんなさい。もうしません」
「ん。…………謝ってくれた、から……許す。許します」
そこまでやっとこさ言い切って、[Canaan]さんは凄まじい疲労感の籠ったため息を吐いた。
[ヨルハ]ちゃんを許してあげるだけの一連のやり取りで、およそ一週間分くらいは体力を消費したように見える。
許してもらえて笑顔になった[ヨルハ]ちゃんのキラキラした瞳に正面から見詰められて、まるで浄化されるのを恐れるような謎の挙動で防御態勢を取るあたり、なんというか真性である。
よくできました、とばかりに[アリア]さんが[Canaan]さんと[ヨルハ]ちゃんの頭を撫で、[ヨルハ]ちゃんは恥ずかしそうに俯きながらもその黒猫の尻尾で喜びを表現し、何故か[エッジ]が[Canaan]さんにひたすらゲシゲシと脹脛を蹴られる。
俺はおそらく居ないことになっているようなので、頑張って気配を消しておくことにした。
と、そう言えば、
「ところで[エッジ]。時間はいいのか?」
「ん?ああ、そうだな……そろそろ落ちるか」
[ヨルハ]ちゃんの疑問の視線に対して、[エッジ]がこの後所用があるのでログアウトすることを説明する。
「俺にお願いがあるって話だったが……」
「あ、いえ。じゃあまたこんどにします」
「そうか。悪いな」
そう言うと[エッジ]は俺に「んじゃ後でな」とだけ告げてあっさりとログアウトしてしまった。
なんの名残もなく惜しみなく綺麗さっぱり消えるあたりがアイツである。
俺はともかくとして後ろの女の子たちにはもうちょっと気ぃ遣えよと思わなくもないが、まあ無理か。
その女の子たちはというと既に次の話題で盛り上がっていたわけだが。
「よぉし![ヨルハ]さん、一緒にダンジョン行きませんか!」
「あっはい、わたしでよければ」
「わたし、ざこざこルーキーなので、レベル上げ手伝ってください!」
「わかりました」
「カナも手伝ってね?」
「ん……とーぜん」
きゃいきゃいと(若干一名が)騒ぎながら工房の出入り口のポータルへと向かって行く少女たち。
そろそろ、言ってくれてもええんやで?
――あ、もしよければ、[†TAKUAN†]さんもご一緒にどうですかっ?
的なセリフをぉ!!
「あ、」
ポータルの手前で[アリア]さんが思い出したように足を止め、ふわりと振り返った。
さあ俺を誘うがいい。準備は万端である。
彼女はにっこりと笑って、
「お邪魔しました!失礼しますねっ!」
そして誰も居なくなった。
…………。
あっるぇ~?
あくとにじゅうに。えんど。
本日の諦観。
犬「ところで…………[†TAKUAN†]は誘わなくて、よかったの……?」
アリア「そう思ったなら、自分で誘えば――――無理か。カナだし」
犬「うん」
猫忍「(今日いちばん自信ありそうな返事だ……!)」




