燻る日常
1話目
悲しみが身体を駆け巡る。言葉で書くと簡単だけど、体験するとこんな感じなんだね。
「あなたは、私。私は、彼」
授業中に、紡ぐ言葉。
「これは、古代の私たちの先祖が残したと言われる、最期の言葉です」
「何故、この言葉が最期に残っているのか?今でも、学者が様々な研究を行い何種類かの解釈の仕方がありますが……」
人類はある時、転換期を迎えたとされている。それが、21世紀の歴史。
「では、折原さん。その中でも有力候補とされている解釈を答えなさい」
画面越しに教師が私の名前を呼ぶ。
「はい、その言葉は私たちの原型と考えられています。その為、その時代のある人が今の状態の道筋が見えた初めてで最期の言葉かと」
「素晴らしい。満点の解答ですね。ただし、それは今現在の最も真実に近いと言われていることを忘れずに」
「では、次の問題ですが……」
続いていく下らない授業を見つめる。
不意に感じた視線に気づき、ため息を吐きたい気持ちを抑えながら教師の話に集中するふりをする。
「異常なし。以上。ココロここにあらず、我々は1つなり」
宙に浮いたドローンが私の評価を終え、別の人を審査しに行く。
この評価で、今後の人生がどうなるかが決定してしまう。故に、手は抜くことが出来ない。いや、してもいいが、その後が碌な事にならないってことは歴史が証明している。
「ふぅ、早く終わらないかな。人生」
ぶるぶるっぶるぶるっ。画面越しの教師のデバイスが振動する。
「おっと、もう時間ですか。本日の歴史の授業を終了致します。皆さん、勉学を怠らないように、損した人生を送りたくなければ。では、解散」
消えるデバイスの画面。先程まで歴史の授業を映していた画面に、私の顔が映る。
顔を上げ、部屋を視界に入れると同時に授業風景から私室へと模様替えをする。
幼少期の頃は、この認識の切替をスムーズに出来ずに混乱したが、今ではお手の物だ。
「さて、昼食の時間ですか」
今の人類に残った機能。それは共有機能。ある程度、近しい距離に人がいれば、感覚や感情を共有してしまう。
「だからとはいえ。ここまで、互いに距離を取る必要はないのに」
ガランとした食堂へ足運ぶが、響く足音は複数ある。その内の1つが私に近づく。
「やっふう!オリちゃん、元気してる?」
馴れ馴れしく近づくのは、彼女の叔母の育ち方が影響したものかもしれない。
「……元気だけど。気になるなら、現実で
会えばいいじゃん。ユカもそんな虚無で会わないでさ」
ホログラムで苦笑いを浮かべるユカ。
「や〜。いつにも増して辛辣だね、オリちゃん。でも現実で会うのって怖くない?」
「そんなの会ったところで、互いに感情の共有して考えてる事が何となくわかるだけじゃん」
「ほっんとう〜に、オリちゃんってぶれないよね。今時、その共有を大した事ないってスタンスで貫くのは。私は怖いよ」
ユカはビビリだ。いや、彼女だけじゃなくて人類が全体的にビビリだ。
「残念よね。一昔前だったら、私のような考えの人々が大勢いたのにね」
「まあ、ね。でもしょうがないとは思うけどね。……うん。少し勇気出して今度こそ、オリちゃんに会うよ」
出た。ユカの口癖。ただ本当に勇気を出して会うつもりは毎回あるようだけど。
「今度は会えるといいけど。期待しないで、待ってるよ」
「うっ。それは言わない約束だよ。でも、そろそろ会っても大丈夫かなとは思ってるから!」
苦笑いしながらも、拳を握り宣言するユカ。
それから、ホログラム越しとはいえ、一緒に昼食をとる。
こんな感じが、私の今の日常。ある程度は満足している日常で、変えたいとも思っている日々でもある。
読んで頂きありがとうございます。
書きたい事をこの物語でつらつらと描けたらいいなと思っていますので、宜しくお願いします。
読んで不快でなければ!
次も読んでもらいたいです。