ついでに使えなくなった青柳の一場面
これは11話を書いている頃には思いついていたのですが、話の流れ上使えなくなったものです。
状況としては、黄樹に殺されかけていない→主人公が青柳に告白(?)もしていない→主人公が異世界からきたことを青柳が知らない状態です。
お互い好意はあるのにすれ違ったまま、完全誓言のやり直しを先代及び親戚衆の前で行っているという場面です。
「色付き同士の方が自然だって、このバカの目を覚まさせてやって下さい」
ずっと考えてた。青柳の誓言を覆す方法。完全誓言は相手の死によってしか解除できない。『殺さないし殺させない』に当てはまらない死に方は何か。
病死、老衰、不慮の事故。
高位の色付きが反射的に振り払ってくれれば、殺すつもりがなくても死ぬだろう。これなら事故死だ。
「だめだよ」
聞き慣れてしまった声。
先代に向かって走り出した二歩目がふさふさした毛皮に遮られた。
「他の女をあてがって、遠くに行こうとなんてしないでよ。苛々して……殺したくなる」
そっと、壊れ物を扱うように青柳の両手が顔を下から包み込む。慎重に触れられているのはわかるのに、息がうまく吸えない。
……苦しい。
青柳の胸からぱちぱちと弾ける青白い光。ぱたぱたと私の頬に降ってくる雫。
「誓言、が……」
「うん。心臓痛い」
まばたきのたびに涙をこぼしながら、息がかかりそうな距離で青柳が下手くそに笑う。
「どこかになんて、行かないで」
小さい子供のように言うから泣きたくなる。
青柳を解放できるのは今しかないのに。
「バカ……」
ぶつりと音がして青柳の手の温度が遠ざかる。
視界が暗くなって、ああ死んでないといいなと思った。
*
「ありがとう。歯止めが効かなくなるところだった。それ、ご褒美に食べていいよ」
使役獣はくわえたままの手を青柳の前にぷっと吐き出した。
「どうしたの?大分すかすかでもけっこういい魔力つまってると思うけど?」
不思議そうに首をかしげる青柳の側頭部を藍色の長い尻尾が叩く。
「え、何?けっこう痛いんだけど」
ふんと呆れたように鼻息を吐いて、彼女の髪に鼻面を寄せる。
「……あぁそうか。これ見たらまた泣いちゃうもんね。月草、君って治癒できたっけ?」
「できませんよ!治癒専門職呼んできますから動かないでくださいよ」
まだ設定が固まりきっておらず、治癒専門職とか言っています。
青柳の不安定さがけっこう好きなのですが、主人公が自分から死のうとすることに対して違和感がどうしてもぬぐえず、使わないことにしました。
なんとか生かせないかと練り直したのが本編25『その終わり』です。
ちなみに本編34『青柳の部屋で2』での会話の「俺の腕食いちぎってでも~」という台詞はこの場面が念頭にありました。