『色とりどりの世界』33.実験
月草が歪んだまま書き進めたら、違和感が隠せなくなりました。
本編との整合性が取れなくなったので、ここで展開を練り直すことに。
練り直した結果が、現在の『色とりどりの世界』です。
「んで?実験って何すんの?」
邪魔な書類を机の端に寄せて、隣に座って向かい合う。
「次代の誓言のペナルティーについてです。しばらく動かないでくださいね」
言って、一度深呼吸をして集中する。
「これから十分……いえ、五分の間オレはあなたを殺さないし殺させません。月草優也の名において誓言します」
言葉と共にあらわれた魔方陣に、指先を護衛用のナイフで傷つけて血を垂らす。
「失礼しますね」
抵抗される隙も与えずに彼の手を取って、まだじわじわとにじみ出る人差し指の血を魔方陣に触れさせる。
「完全誓言」
ぱしっと音を立てて小指の爪ほどの大きさに圧縮された魔方陣が心臓の上に焼き付く。
「……っ……くぅっ!」
目の奥がチカチカと明滅するような、激しい痛みを奥歯を噛み締めてやり過ごす。
同意のない完全誓言はこんなにも負荷がかかるものなのか。
よくもまあこんなものを次代はしたものだ。
「ちょっ、お前何してくれてんだ!」
「期限付きですから大丈夫ですよ。……それにしてもオレの能力じゃ十分もたないみたいですね。やっぱり『殺させない』が縛りきついんですね……」
十分と言ったとたん術が破綻しそうな気配がした。五分しかないのだ。時間は無駄にできない。
「大丈夫じゃないだろが!完全誓言なんて面倒なもんおれにかけてどうすんだ!」
「……ですから実験ですよ。心配しなくてもオレは今後あなた以外の人と完全誓言できなくなっても困ることはありません」
まだ何か言いたげな彼の唇を人差し指で軽く押さえた。
「大丈夫です。……少しの間、動かないでくださいね」
実際、この機会に確認したいことがある。
彼の左手首をつかんでゆっくりと力を込めていく。
「痛えよ」
「すみません。少し我慢してください」
彼が眉を寄せて歯をかみ締める。
骨や腱が傷付かないぎりぎりまで力を込めた。
……だが、誓言に変化はない。
彼の手を放し、立ち上がってもらう。
正面からそっと抱きしめた。
腕の中の温度に、身勝手に高鳴る鼓動に苦笑する。
「……おい」
「動かないでくださいね。危ないですから」
万が一にも彼が動けないように頭と肩を固定する。
袖口に隠していた小さなナイフを逆手に持って、彼の延髄に向かってまっすぐに引いた。
ナイフが彼の首に到達する前に、バチッと胸から火花が散って、激痛が心臓を襲う。
「……っ!うあっ!」
あまりの痛みに体を支えていられない。
彼を巻き込んでそのまま床に倒れこんだ。
「おい!月草!」
大丈夫だと言いたいのに痛みで声が出せない。
「何があった!月草ぁっ!」
彼の声がみっともなくひっくり返るのを聞いて、こんな時なのに嬉しくなる。彼の顔を見たいのに、痛みで勝手に出てくる涙のせいで視界がぼやけるのが残念だ。
……死ぬ気はないけれど、今なら死んでも構わないなと思ってしまうオレは相当この人に狂っている。
書いてから時間を空けて、本編というガイドラインと照らし合わせてずれていないか確認する作業が必要だと痛感しました。
一度投稿したものなので、ここにしまっておきます。