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掌編小説集10 (451話~最新話)

ある方法

作者: 蹴沢缶九郎

ある男が、ビルの高層階からエレベーターに乗り込んだ。男は自分の降りる階である一階のボタンを押し、自分以外に誰もエレベーターに乗り込んでくる者がいない事を確認すると、『閉』ボタンを押した。ドアが閉まり、完全に密室となったエレベーターは、男一人を乗せ、ゆっくりと下降を始めた。

ドアの対面が外の風景を見渡せるガラス張りになっている訳でもないエレベーター内で、男は何をするでもなく、暇潰しにドアの右側上部にある、階の位置を示すデジタル表示器を見た。表示器の示す数字は一定の速度で減り、それはエレベーターが下降している事を表していた。

「早く着かないものか」、男がそんな事を考えていた矢先だった。ガクンと大きな揺れが室内に起こり、突然エレベーターが下降速度を早めたのだ。自身の身に何が起きたのか、あり得ない重力を体感しつつ男はすぐさま悟った。


「エレベーターが落下している」


エレベーターに何が起こり、何が原因でそうなったのか、エレベーターについて詳しい知識を持ち合わせていない男に到底わかるはずもなかったが、ただ一つ言える事は、このままでは助からないという事実だった。

階の位置を示す表示器は、「30…27…24…」と数字を減らし続け、それはさながら死へのカウントダウンのようだった。

そんな最中、男の脳裏にふとある妙案が思い浮かんだ。それは、以前どこかで聞いた、


「もしエレベーターが落下したら、着地の瞬間にジャンプすれば助かる」


という方法だった。そんな方法で果たして助かるのか、男は半信半疑だったが、その間にも表示器は、「15…12…」と確実に一階に迫り数字を減らし続け、自身の置かれた状況、助かる為に他に案も浮かばない男にとって、迷っている時間はなかった。


「やるしかない」


男は決意を固め、手すりを握って立ち上がると、じっと表示器を見つめ、その時が訪れるのを待った。


「9…7…5…」


(まだだ。まだ早い)


「4…3…」


(…あと少し)


「2…」


(今だ!!)


表示器の数字が「1」に変わるかという瞬間、男はありったけの力を足に込め、重力の鎖を断ち切るかの如くエレベーター内をジャンプした。男のタイミングは申し分がないほど完璧だった。

だが、現実は冷酷だった。デジタルの表示器が示す数字は「1」で止まったまま、エレベーターは落下を続けていたのだ。

ジャンプし終えた男は何が起こったのか理解出来ぬまま、エレベーターを轟音と衝撃が襲い、男の意識はそこで途絶えた。


エレベーターの表示器は不具合から誤った数字を表示し、表示器が示す階数を信じた男は、それに従いジャンプしたのだった。

しかし、実際に男がジャンプした階は五階付近であり、仮に男が、エレベーターが一階に着地するタイミングでジャンプ出来ていたとしても、そんな方法で助かるはずもなく…。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごい面白いです。 死を目の前にして真剣に足掻いているのですけど、その内容もタイミングもズレているのが、なんと言っていいか、残酷だけどプッと吹き出してしまう面白さがありました。 こういうの…
[一言] ども。 表示の故障とは思いませんでした。 地下があるのだろうと。 あと安全装置などツッコミどころは多数ありますが一つだけ。 落下だと、無重量状態になると床を蹴ることは難しく、せめて手すりな…
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