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「さあここから上がるっすよー。さあ入ってっす」

「入れって像しかないじゃないか」


 長い長い廊下を歩き、何度か曲がった後リノが立ち止まった。

 そこは、魔物の胸像がいくつも並んだ部屋だった。

 大きめのものから手のひらサイズまで様々な像が台に乗せて並べてある。


「ちっちっち、クロウっち。ダンジョンには隠し通路は必須っすよ?」


 とりあえず入れと言われたので部屋に入り、一番近くにあった猫の像を見ていると、リノが口でちっちとリズミカルに言いながら部屋の奥へと歩いて行った。

 隠し通路? そっか、住んでるのはリノ達でも監督が作ったんだまともな仕掛けくらいあるか。

 それを頭に入れて見たらこの部屋はあからさまに怪しい。

 こんな変な像が並んだ部屋は何か隠してあるに決まってる。


「へー普通のダンジョンっぽい設備も有ったのか。このダンジョン」

「ええ!? なんだと思ってたんっすか!? どこを見ても全部立派なダンジョンっすよ!」

「そうか? ここまでは綺麗に掃除されたお城でしか無かったが」

「綺麗にするのはリノ達の趣味っす! えへん!」


 どことなく監督に似た(大きさを含め)胸像前で胸を張るリノ。

 あの像が隠し通路を出現させる鍵なのか。

 自分に似せた像をスイッチにするなんて恥ずかしいことを堂々とするのが監督らしい。


「じゃあこの親分さんを、よいしょっと! さあ行くっすよ」


 リノが像の背中をなでると、スコン! と乾いた音が像の中から鳴った。

 その音に反応するように部屋のあちこちからガコンガコンと重たい何かが動き、ハマる音。

 そして像の背部、リノがいるすぐ後ろの壁の一部が床下に沈んでいき、隠し階段が見えた。


「こういう大きな装置が動いてるのっていいよな」

「……そうっすか? リノは面倒だなーって思うっす。──あっ親分さんと姫っちには内緒っすよ今の!」


 ガコガコ装置が言い始めてだいたい5分程で壁が全て下がりきり通れるようになった。

 俺はこういう大きな装置が好きなのでゆっくりと動いている様子を見るのも苦ではない。

 でも、リノは違ったようでさっきまでの元気さは潜み、少し苦笑いしながらその様子を見ていた。

 今日初めて来た俺は物珍しさが有るけど、ここに住んでいて毎日使う側からしたらこの遅さは気になるんだろう。


「じゃあ行くっす! そんなに長く無いけど暗いから気をつけてっす」


 階段には足下と顔の高さにロウソクがついていて、リノが言うほど暗くはなかったが、螺旋状になっていて閉塞感が強かった。


「ああ。……あっそう言えばリノ」

「なんっすか? クロウっち」

「上の階って入口に有った階段からは行けないのか?」


 俺が入ってすぐに見えた大階段。

 下からでは上階の様子は見えなかったが、リノはそこから降りてきたんだし二階はあるはずだ。


「んーあっちは違うっす。罠とかが有って、危ないんすよ。まあ、まだ実際動かしたことはないんすけど」

「ふーん。時間稼ぎの偽ルートってことか」


 一番最初に通った大きな門が冒険者達の入口で、入ってきたらまずあの階段を登らせて罠で消耗させる。

 その後隠し階段を探させて少しでも有利な状態で相手を迎えるってところか。


「んぇ? 違うっすよ。もし冒険者さんが来たらみんなあっちで頑張るっす! こっちはお風呂とか皆の部屋しかないっす」


 違ったらしい。

 リノが言うにはダンジョンとしての機能は向こうに全てあり、こっちは居住空間だとか。


「じゃあなんでこんな風に隠してるんだ? 少しでも迷ってくれた方がいいだろ?」

「リノもそう思うんすけど、親分さんがダメだって言ってたんす。姫っちも嫌だって」


 横に並んで階段を登るリノが口を尖らせる。

 彼女は堪える事が苦手で素直に一直線な女の子なんだろう。


「ダンジョンの考え方も色々あるんだな」

「そうっすよ。ダンジョンをやるのは難しいんす」


 難しい事を言っている風に深くうんうん頷く彼女と一緒に螺旋階段をクルクル回り二階に着いた。


「うわっ雰囲気全然違うなここ。こんなダンジョン初めて見るわ」

「うへへっちょっと恥ずかしいっすね。ここら辺は姫っちの趣味っす」


 階段を登りきると広く明るい場所に出た。

 歩いた感覚的にここは、二階を超えて三階だと思う。

 そこでまず目に付いたのがピンクの花柄の絨毯だった。


 階段から出た先はエル字の廊下になっていたのだが、そこの白い床石のほぼ全てがピンクの敷物に隠されていた。

 下の階もダンジョンというよりは綺麗なお城だったがここはもう完全にお嬢様の屋敷だ。


「あああああああ!」

「リノ? 急にどうしたんだ?」


「こっちっすー」と左の廊下を指差しリノが歩こうとした瞬間、彼女は大きな声をあげこっちを振り返った。

 そして焦ったように両手をパタパタと振って何があったのか話し始めた。


「忘れ物したっす! リノ、下の部屋にまだ用があったんすよ!」

 リノの青白い顔がより青ざめている。そんなに重要な物を忘れたんだろうか。

「忘れ物? じゃあ取りに行くか?」


 俺はリノの荷物回収に付き合おうとした。

 別に階段の往復なんて疲れないし。

 しかし、下の階に降りようと階段の方に向き直った俺をリノが掴んで止める。


「ダメっすよ。クロウっちは姫っちにすぐ会わなきゃ! だって親分さんに生ものだから急げーって言われたっす。でも急いで取りにも行かなきゃダメなんす」


 俺を監督の娘に会わせるのを優先すべきか、自分の忘れ物を取りに戻るのを優先すべきか。

 リノは「うーうーどうすればいいっすか」と悩み始めた。


「じゃあ部屋だけ教えてくれたら俺が先に行っとくよ。どこなんだ?」

「でも、リノはクロウっちをちゃんと配達する責任が……」

「ここまで連れてきてくれたんだし良いだろ」


「え? そうっすか? わかったっす。姫っちはここを左にいって角を曲がって二つ目の部屋にいるっす」

「左行って曲がって二つ目な。わかった。じゃあリノまたな」

「はいっす! リノも早く行くから待ってて欲しいっす」


「バイバイっすー!」と手だけを振り、こちらを見ずにリノは駆け下りていった。


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