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 一瞬幻聴かと思った。

 まさかそんなうまくいくわけがない。

 運が良くてもノマオの中。それくらいの事を思っていた。


「……シアなのか? 本当に?」


 俺は少し疑りながら話しかけた。


「嘘ついても仕方ないでしょ? それより貴方何してるの」

「何って」


 何してるって動けないんだよ。

 さっきみたいな頭以外の感覚が無いというのとは少し違うが、体が何かにはまって身動きが取れない。

 俺の体を拘束しているのは温かくてソフトな肌触りの物。

 この感触、どこかで感じたことが有るような。


「クロウ。リノが困ってるわよ、退きなさい!」

「リノ!? ごめん!」


 ああそうか、これはリノの服の中だ。


「うー重いっす……クロウっちまたっすかー?」

「……悪い。動けないから引っ張ってくれないか」


 退けと言われても体がまたいう事をきかないんだ。

 俺はリノの服に頭を突っ込んで彼女を押し倒しているらしい。

 以前リノと二人でドラゴンを倒した時と同じ状況だ。


 前の時は、リノがポータルカードを服の中にしまっていたせいでそうなったんだっけ。


「わかったわ。サキ、そっちを持ってちょうだい」

「はい──!? 酷い怪我。姫様、先に回復をしてあげた方が良いのでは」


 俺の腰辺りを掴んだサキが驚きの声を出す。

 服の下が見えたのかもしれない。


「そうね。先に回復をした方が良さそう。サキ、怪我の個所を調べて」

「はい姫様」

「……リノは先にボタン取れば引っ張らなくても出れると思うんすけど」


 背中に温かい物を感じる。

 シアが能力を使ってくれているらしく、すぐに体に活力がみなぎってくる。


「クロウ、まだ体は痛む?」

「すっかり良くなったよ。このまま眠りたいくらい」

「うぇー!? リノは退いてほしいっすよ!?」


「今外すからもう少し我慢していろ……よしっクロウ様、外れましたよ」

「ありがとう……ってここどこなんだ?」


 少し名残惜しかったがリノの胸から顔を上げる。

 俺達が居たのは石レンガを積んで作った廊下の一角だった。

 すぐ後ろは行き止まりでゲートが置いてあり、反対には窓のない長い廊下が続いている。


「ここはテントの横に有った建物の中よ。それよりクロウ、貴方何を持ってっるの?」

「持ってる? あっこれか」


 シアに聞かれて俺は自分の手を見た。

 ゲートに入るときには何も持っていなかったはずだけど。

 そう思っていたが、俺の手からは紙が一枚はみ出していた。


 指を広げて見ると、それは以前リノに渡したポータルカードの残骸だった。

 使いきりのカードアイテムであるポータルカード、これは既に一回使用したのでただの紙でしかない。

 リノがこのカードを持っていたお蔭でつながったのか?


 すぐ横にあるゲートに引き寄せられたのが、こちらに混線したのかもしれない。

 人を運ぶ力は無くなっても、ゲートとポータルは元になる素材が同じなので誘導先だけこちらになったんだろう。


 これのおかげで帰ってこれたのかもしれないな。


「ありがとな。リノ」

「う? なんのことっすか? よくわかんないっすけど、クロウっちが無事で良かったっす」

「サキが貴方が危ないって言うから心配したわ。生きて会えてよかった」


「すいません。早とちりしてしまったようで」

「いや、助かったよ。俺ももう帰りたかったところだし」

「そうなの? 決勝は……あっ」


 シアが何かを察したように自分の口を押えた。

 何を察したのかはだいたいわかったので俺は首を振る。


「いや負けたわけじゃ無いって。さっさと帰ろうぜ」

「大会はいいのですか?」

「それは行きながら話すよ」

「えーもう帰るっすかーもうちょっとお祭り見たかったっす」


 落ち着けるダンジョンに帰ろう。

 俺がそういうとリノ以外の二人は頷いてくれた。

 ここに居たらいつオリアスが出てくるかわからない。


「居たぞ! こっちだ! 他の奴も集めろ!」


 だが少し遅かったようだ。

 廊下の向こうから複数人の男の声が聞こえてきた。

 何かを探している。もしかしなくてもオリアスの部下だろう。


 俺がもっと離れた場所や別の世界に行く可能性だってあるのによくこんな近くを探してたな。

 狙った相手を感知できる能力でも有るのかもしれない。


「……騒がしいですね。何かあったのでしょうか」

「ここ立ち入り禁止だったんじゃない?」

「怒られるっすか!?」


 シア達は近づいてくる声も気にせず、むしろ出口はそっちだと近づいていく。


「いや俺を探してるんだと思う。無理やり突破するから少し離れててくれ」


 俺は慌ててシア達の前に出て、彼女らを遮る様に手を横に伸ばした。

 そして少し下がるよう言う。

 道具はほとんど無いが、怪我はシアが治してくれた。手下くらい何とでもなるはずだ。


「シア!?」


 だが、遮ろうとした俺の腕をシアが掴んで止める。

 そしてシアはサキとリノに声をかけた。


「よくわからないけどあいつらを倒すんでしょ? サキ、リノ」

「わかりました」「任されたっすよ!」


 呼ばれた二人は俺の前に出る。


「待てって! 危ないから二人とも後ろにいてくれ」

「クロウっち出口の道知ってるんすかー?」

「それに傷は癒えたとはいえ疲労までは抜けていないはずです」


 サキはジャケットを脱ぎ、リノはズボンのポケットから幅の広い二振りのナイフを取り出す。




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