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「さあ!」


 俺の首を締めつけるオリアスの指。

 ただ一呼吸息をすることすら出来ず、俺は口から泡のようなよだれが垂れるのも止められなかった。

 腕を振って抵抗しようとしたが、ドロドロとしたオリアスの体は俺の手じゃ掴めないし殴れない。


「……あっ……ぅ」


 息が、限界だ。


「おっと悪い悪い。嬉しくなっちまって絞め殺すところだった」


 意識が飛ぶ。

 そう思った瞬間、オリアスが指を緩めた。


「はぁっ! はぁっ、はぁっ……」

「大丈夫か?」


 オリアスは床に倒れ必死に息をする俺のすぐ横に立ってわざとらしく心配した様子を見せた。

 何が欲は無いだ。人の苦しむ姿に喜びやがって。


「はぁっはぁ……お前は、俺がお前を倒せると思ってるのか」


 やっと呼吸の乱れが収まってきた俺は、顔を上げオリアスを睨む。

 死にたいなら俺に関わらず勝手に死ね。

 それとも何か俺じゃなきゃダメな理由が有るのか。


「さあな。お前が俺を殺せるならそれでいいし、殺せなくてもどうでもいい」

「……俺に殺して欲しいんじゃないのかよ。もっと大事に扱え」

「ああ? 自惚れんなよ」


 オリアスの腕がまた俺の首まで伸びる。

 だが今度は巻きつくのではなく、太い二本の指で首を挟んだ。

 息が出来ないことよりももっと直感的な痛みが俺を襲う。


「……ぅ」

「俺は他人の成長を見て喜ぶ趣味はねえよ。今、全力で抗え」

「ぐっ……勝てるわけが無いだろ」


「だから知らねえよ。だが善戦はできるはずだ……お前はもう一体王を殺してるだろ?」

「え?」


 今度は何を言い出すんだ。

 俺はボスなんて鎧のあいつくらいしか知らないぞ。

 でもあれはランク9だろ。


「まあ見た方が早えな。下見ろ」


 オリアスに促され、俺は足元を見た。

 足元のどこが地面かも分からなかった空間に画像が映っていた。

 それは上空から取られた様なアングルで、見る角度を少し変えると画像内の角度も変わる。


 ガラス張りの床から下の階を見ているような気分だ。

 映っている物がここのすぐ下に有ると言われても納得できる。

 画像は古い石造りの神殿を撮った物で、ひび割れた柱や床以外には大きなドラゴンと人間が一人だけ映っていた。


 その人間は俺に背中を向けていて、倒れたドラゴンに剣を突き刺している。

 ドクンッ

 その背中を見ていると俺は不思議な胸のざわめきを覚えた。

 俺はゆっくりとその人間の顔が見える位置まで移動する。


「これは……俺? でもこんな場所見覚えが無い。それに……横に有るのはなんだ」


 薄々どころか背中を見た瞬間に確信めいたものを感じていた。

 着ている物にも、持っている物にも、居る場所にも。

 どれも記憶に無いが、それは自分なのだと心が認めてしまった。


「そいつの名はヴィーヴル・ドラゴネット。俺と同じく王の一人だった奴。そしてお前が殺した王だ」


 いつの間にか隣に来たオリアスが耳元で囁く。

 このドラゴンがランク10の王。


 全長10メートル以上は有りそうな巨体。

 全身に纏う眩く輝くウロコ。

 透き通る透明な角。


 そして、額に刺さった大きな剣と傷口から流れる虹色の血。

 こんなドラゴンを俺が倒したのか。


「動かすぞ? 特等席は確保したかぁ?」

「……………………」


 俺はオリアスの問いにも答えずそのドラゴンを見ていた。


「上映前から夢中なようだな。ハッハッハ」


 パチンッ!

 オリアスが指を鳴らす。

 すると、画像が映像に変わった。


 映像の中の【俺】が喋る。

『蛇龍ヴィーヴル……これで終わりだ』


 その【俺】は全身に深い傷を負い、鎧も体もボロボロだった。

 顔色は近くに転がっている柱と同じくらいに青白くなっている。


『シャーーッハッハ! 見事だわっぱ

 床に倒れたドラゴンが【俺】を上顎に乗せたままわずかに口を動かす。

『褒美をやろう……そこな盃を持ちて寄れい』


 ドラゴンは崩れた柱の下敷きになっている木箱の方へ舌を伸ばした。

 その箱に褒美というのが入っているのだろうか。


『どこだ?』

【俺】はゆっくりと振り返り、ドラゴンの舌を確認して柱と箱を見る。

『そこだ……早く取って参れ』

『ああ……あれか。断る』


「え?」

 俺はその映像を見ながら思わず声を出していた。


【俺】は箱を確認しドラゴンの上から降りる素振りを一度見せた。

 だが実際には降りず、それどころかドラゴンに刺さった剣を抜いてもう一度深く刺した。


『なぜ……じゃ』


 ドラゴンの疑問ももっともだろう。

 普通ならここはボスから宝を受け取り無事帰ってハッピーエンドな場面だ。


「クハハハ! これだから人の求める欲をわからねえ奴はダメなんだ」

「お前は何を考えていたかわかるのかよ」


 知り合いが死ぬ所が映っているというのに、オリアスはのんきに感想を述べていた。

 仲間意識は持っていないんだろうな。


「ああわかるさ。今のお前だって分かるはずだ。同じ人間なんだから」

「この時の俺が考えていたこと?」


 なんだ? 怪我が深いから動きたくないとかそういう事か?

 疑問に答えるように映像の【俺】が口を開く。


『死ぬ奴からわざわざ褒美を貰わなくても好きなだけ持って帰るさ』

『シャーハッハッハッハ! それはそうだ。わらわを打ち滅ぼして宝の一つでは釣り合いが取れぬ、な。だが! 代償は貰う。好きなだけもって行くが好い!』

『お前はこれ以上俺から盗むのかよ……ってもう死んでやがる』


 ドラゴンは高笑いと呪詛の言葉を残して動かなくなった。

【俺】はドラゴンの死を確認すると、その場に崩れ落ちた。

 俺は床に顔を付けて凝視したが、【俺】の胸は動いているようには見えない。


「おい! 俺死んだぞ! どうなってる」

「生きてるからお前がいるんだろ。何言ってんだ。それよりここからだ」


『おーう! ヴィーヴル。頼まれたメンテに来たぜー』


【俺】とドラゴンが倒れている部屋に誰かが入ってきた。



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