表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/86

67 悪魔神官ベネクス

『さあ魔界のヒーローベネクス対生贄クロウの試合開始だ!』

 カーーーーーーン!


 実況の声と同時に試合開始のゴングが鳴った。


「てやあああああああ!」


 剣を上段に構えベネクスが突っ込んで来た。

 ベネクスはステージ中央で喋っていたので最初から俺までの距離はいくらもない。


 キンッ!


 振り降ろされたベネクスの攻撃を剣で受け止め、そのまま鍔迫り合いになる。

 向こうに突進の勢いがあったので最初押されたが、その勢いを殺してからは俺の力が少し上回っていた。

 俺の顔付近まで迫った刃もずいぶん遠くまで押せた。


「っつ!」


 余裕ができた俺は剣ごとベネクスの体を弾き飛ばし距離を取った。

 息を吐き、今のやり取りを頭の中でかみ砕く。


 その結果一つの疑惑にたどり着く。

 まだ一発しか攻撃されていないが……こいつあんまり強くないんじゃないか?


 剣を振り下ろすスピードも走る速度も遅い。

 単純な速さだけなら今日出てきた魔物の中で最低クラスだ。


『まずはファーストコンタクト! ベネクスの苛烈な攻撃にクロウはたまらず逃げだす!』


 俺が距離を離すと、実況は嬉しそうに囃し立てた。

 遠くから見ていたら俺がただ逃げた様に見えるんだろう。


「うまく逃げたな。だがいつまで持つかな?」


 だが、近くで見ていたどころか実際ぶつかり合っていたベネクスまで同じような事を言い出した。

 会場を盛り上げなければいけない実況がそういうのは分かるが、ベネクスはなんだ?

 まだまだ手加減をしてるのか?


 俺はベネクスのそんな反応を見て、油断しかけた事を反省した。

 そうだよな。

 こんな自信満々で出てくる奴が弱いわけがない。


「救済の一撃を喰らえ……キューズド!」


 油断を反省し集中力を高めた俺に、技名を叫びながらベネクスが攻撃を仕掛けてくる。

 大きな声で叫んでいるが、動き自体はさっきと同じくただ剣を振り下ろすだけ。

 その対処もさっきと同じ、剣で軽く受け止める。


『クロウ、これも辛うじて受け止めるーーー!』

 受けじゃ強さが測れないな……俺からも攻めよう。

 俺はもう一度ベネクスの体を弾いた。


「ッな! やるな!」

「お前はそうでもないな」

「なんだとっ!?」


 俺は、剣を弾かれ体のバランスを崩したベネクスとの距離を縮める。

 そしてお返しとばかりに剣を振り下ろした。


 キィン!


 俺の剣を体を反らして受けたベネクス。

 今度は最初から俺の力の方が強い。剣がジワジワとベネクスの体に迫る。

 剣同士が削れ甲高い音を響かせる。


 やっぱりこいつ強くない。

 このまま倒せるんじゃないか?

 油断するなと自分に言い聞かせたばかりなのに、俺はもう勝てそうな気になっていた。


『おーーーーっと!? ベネクスどうしたーーー! 押されているぞ!?』

「っち、お喋りからすめ。……やれ!」

「なんだっ!?」


 実況に悪態をついたベネクスが、俺の背後に向かって何か命令した。

 何かが動く気配が有る。


 ジャリジャリという足音を殺そうとしたが、消しきれていない音が聞こえる。

 誰かいる?


「油断したな! はっ!」

「あっ……」


 背後に気を取られすぎた。

 意識が後ろに行った瞬間、ベネクスが剣を横に薙いだ。

 その横薙ぎに俺の剣が巻き込まれ、俺の体もわずかに右にズレる。


 幸い体には当たらなかったが、ベネクスには逃げられてしまった。

 相手と同じ攻撃で追い詰めたら、返し方もそっくり同じ方法を真似された。


『ベネクス! 危機を脱出ーーーーー! バトルは俄然面白くなってきたあーーーーー!』


 ベネクスは俺と反対側のステージギリギリまで逃げていた。

 倒れた魔物を盾に何かをしている。


 あいつかなり離れたな。なら今のうちに状況を確認しておくか。

 ったく後ろに何がいるっていうんだよ。


 未だに背後から聞こえるジャリジャリという足音。

 さっきまでは試合中に係の魔物が来るなんてことは無かったのにな。


「っはあ!?」


 後方を見た俺は思わず呆れた声を出してしまった。

 俺の背後ではこの試合の直前に倒したイカタコの魔物が起き上がって歩いていた。


 その体にはさっき俺がかけたジュースの色がまだ残っている。

 別の魔物が新しく出てきたのではなく同じ魔物だ。

 復活したのか? 


 元気になったのは良いがあいつこっち来ないよな?

 イカ魔物はステージの上をただずりずり歩いている。

 もしかして俺の方に来てるのか?


 その魔物はすり足で移動しているせいで一歩の幅がとても狭く、全く前進しているようには見えない。

 だが、その顔は俺を見ているし、タラりと伸ばした触腕も俺を指している。


 カシャーーーーーーーン!


 負けを宣告された魔物が俺に向かってくる理由を考えていると、遠くから金属の塊が落下したような音がした。


「今度はなんだ!? っち、そっちもか……」


 ステージの反対側では、斧にもたれ掛かってリカンパが立ち上がろうとしていた。

 そういえば、リカンパが居るところはベネクスが隠れた場所だ。

 あいつはどこに……居た!


 ベネクスを探してステージ上を見回すと、ベネクスはまた魔物の陰でしゃがみ込んでいた。

 剣を魔物の胸に刺して呪文を唱えているようだ。

 もしかして復活させてるのか?


 倒れた魔物を介抱せずにステージ上に放置していた理由がこれか。

 なら止めないと。


 今起き上がった魔物が2体。倒れた魔物はまだ6体も居る。

 ただでさえ広くないステージだ。

 俺含めて10人も乗って戦おうとしたら身動きなんか取れないぞ。


 ベネクスを止めるため走りだそうとした俺の体にヌルっとした触腕が絡みついた。


『戦士の無念を力に変える! 悪魔神官ベネクスの奥義炸裂だーーーーー!』

「「「「うおおおおおおおおおおお!」」」」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ