66 戦いの中弛み
『なっななななんとーーーー! 生贄、人間・クロウ! まさかの八連勝!』
「「「ブーーーーー!」」」
俺は深く息を吐きながらその音を聞いていた。
体中についた傷がジクジク痛む。
一人目の首狩りなんとかを倒したと思ったら連続で次の奴が現れ、そいつを倒したらまたその次。
今は8人目の魔物を倒したところだ。
そいつはイカの様でタコの様な、変な魔物だった。
疲れた。喉が渇く。
アイテムを多く作ってきたのは正解だった。
自分の魔力だけでやりあっていたら動けなくなっていただろう。
だが、その頼りのアイテムもほとんど底をついた。
回復系のアイテムを用意しなかったのもダメだな。
これはいったい何時まで続くんだ。
実況も客もまだまだ元気で俺を煽り続ける。
本当に死ぬまで続くんじゃないか。
少しでも動けるうちに逃げるか?
『おまえら! 泣くんじゃない! 散っていった戦士たちの無念は! 次こそきっと晴らされる!』
「「「「うおおおおおおおおおお」」」」
俺は舞台下にいくつかある出入り口を見た。
出入り口はどこも厚い金属の檻で閉じられ、無理やり突破は出来そうにない。
ならどうにか飛んで客席に行こうか。
客席は高い壁の上にある。
だが高いとは言っても何十メートルもあるわけじゃ無い。
頑張れば登れる範囲だ。
俺はパーティーグッズとして作った水星石のカードを切りながら脱出法を考えた。
このカードは水の代わりに甘ったるい果物ジュースが出てくるというだけの物。
リノに飲ませてやろうと思って作った。
ゴクッゴクッゴクッ
疲れてる体に甘い飲み物がしみ込んでいく。
劇的な回復とはいかないが精神的にはだいぶ楽になる。
「ふぅ……」
ずいぶん飲んだけどまだ出てくる。
これは結構いい物だな
口元を手の甲でぬぐい一息つくと、実況がまた何か騒ぎ出した。
『なんという不謹慎! こんな非道が有ってよいのだろうか!?
生贄、人間クロウ! まさかのリラックス! それも戦士の横で!』
「殺せ!」「毒沼に沈めろ」「休ませるなー!」
「俺にやらせろ!」
「うるせえな。休むのも俺の勝手だろ」
『なんという口の悪さ! ここまで態度の悪い生贄が今までいたか!? いや居ない!』
「「「「ブーーーーーー!」」」」
普通に話す程度の声量で悪態をついたのだが、実況や客席にも声は届いてるらしくすぐブーイングしてくる。
ならヒール役にとことん乗ってやろう。
俺は余っていたジュースを横に倒れていた魔物にかけてやった。
最後に戦ったイカタコの魔物だ。
ファイヤで熱いと言って倒れたし冷めて幸せだろ。
「嫌ならさっさとこいつらを退かせよ! いつまで寝かせてんだ」
それなりに大柄の魔物が8体そのまま放置されている。
こいつらを片付けるとしたらどこかの出入り口が開くだろう。
そこから出てってやる。
半透明なジェル状の体にジュースが染み込みオレンジ色に染まっていく。
誰かが止めるまでやるつもりだったのだが、結局ジュースが空になるまで誰も止めはしなかった。
『戦士たちの亡骸を弄ぶ姿はまさしく勇者気取り! 自分が正義とでも言いたいのか!』
「「「「ブーーーーーー」」」」
ダメだな。
声だけ怒ったふりで全く片付けようとはしない。
というかさっきから死者と言っているが倒れた魔物はどれも生きている。
このイカ魔物だって呻いてるし。
『ここで朗報だー! 勇者気取りをぶっ殺す! 悪のヒーロー登場だー!』
「「「「うおおおおおおおおおおお!」」」」
次の試合が始まったか。
まあインターバルが長くて少し休めただけで良しとしよう。
『悪魔神官ベネクス!』
「「「「おおおおおおおおおお!」」」」
現れたのは普通の人間だった。
緑色の修道服を着ている男だ。
男は少しやせ型で柄にドクロの飾りがついた長い剣を持っている。
魔物要素は帽子からはみ出ている二本の角。一般的な悪魔イメージのヤギ角だ。
人型の魔物は嫌だな。
戦いづらいのはどんな敵でもそうなんだけど、人型だと普通の人間に攻撃してる気分になって嫌だ。
「私は宣言する」
おっ? 何か言い出したぞこいつ。
舞台袖から足音をコツコツ鳴らして歩いてきた男はステージの中央で立ち止まった。
そして俯きながら芝居がかった口調で男は静かに語りだす。
「ここに散った同胞たちの仇を討つと」
「生きてるがな」
俺は思わずその声に反応してしまった。
お前の足元の奴だってピクピク震えてるぞ。
助けてって言ってるし。
「卑怯な人の手により罠にはめられ、辱められた恨みを晴らすと」
「今罠にはまってるのは俺じゃないか?」
大会の予選って聞いてきたのに休みなしで何時間戦わされてるんだ。
これが罠じゃないっていうなら罠なんて存在しない。
「はぁ……黙って話を聞くという教養すら持っていないのか。救いがたい」
「さっきまで黙ってたよ。お前も黙って聞いてほしかったんなら来るのが遅かったな」
今の休憩前までは緊張してたし怖かったから喋る余裕も無かった。
でも一息つけたおかげで軽口を言うくらいの余裕は出てきた。
「私はベネクス。そんな救いがたい気様の魂をも救う者だ」
ベネクスは剣を俺に突きつける。
俺も剣を作りマネして構えた。
「救ってくれるなら魂じゃなく今の状況をどうにかしてほしいんだが」




