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58 準備

 カチャカチャ。コポコポ。シューシュー。グツグツ。


 祭りの前日。

 俺は完全に一人で過ごしたいと三人に伝え工房に篭って大会の準備をしていた。


 黙々と続けた作業の手を休め、体を伸ばしながら俺は苦笑いをした。

 真剣に戦いの準備をしている事がおかしかったからだ。


 数日前までは自分から荒事に混ざろうなんて思わなかった。

 やっぱりダンジョンに連れていかれた事が大きいのかもしれない。


 明日参加するのは死ななければどこまでもセーフ、刃物重火器持ち込みなんでもありルールの大会だ。

 しかも異世界中の魔物達が集まるお祭りだという。

 優勝は出来なくても健闘はしたい。


 その為に今俺はルール上許された持ち込み可能なアイテムを作れるだけ作ろうと頑張っている。

 監督が置いて行ってくれた素材は今回で全部使いつぶすつもりだ。


 魔力を与えると水が湧き出る【水星石】を砕いて粉にし、川の水を浄化して作った【聖水】でまとめる。

 ある程度力を込めて練り上げたらクッキー生地の様に麺棒で伸ばす。

 薄い定規ほどの厚さまで伸ばし、持ちやすいサイズにカット。


 これを乾燥棚で乾かせば簡単にどこでも水が出せるマジックカードになる。

 ちゃんとした手順で加工すれば、形は効果になんの影響も与えない。

 だから自分が使うときしっくり来る形であればなんでもいい。


 俺は同じ要領で火を噴く【火星石】、雷を出す【木星石】、ポータルやゲートの元になる【冥王石】等を砕いた。

 その全てをカード状に加工し、棚へ並べ終えたころ、工房の扉が叩かれた。


「誰だ? 入っていいよ」

「失礼しますクロウ様。昼食をお持ちしました」


 扉を開け入ってきたのはサキだった。

 片手にサンドイッチが乗ったトレーを持っている。


「ありがとサキ。もう昼なのか……なら急がないといけないな」


 俺はサキからトレーを受け取り、乾燥棚をチラッと見た。

 カードの調整時間有るかな。


 カードは乾ききったら微調整が必要だった。

 今でも魔力を与えれば何もない空間から水や火を出せるがしょせんそれだけ。

 カードの中に指向性を組み込まなければちょっと便利な使い捨て道具の域を出ない。


 乾くのに数時間かかって、その後種類ごとに打ち込みが必要だろ?

 それで今が昼間……ギリギリか?


「これは明日の準備なのですか?」

「ああ。どれくらいの人が参加するか知らないけど出ると決めたんだ。やれるだけの準備をしなきゃダメだろ?」


 俺がサンドイッチを咥えたまま後のプランを考えていると、サキも棚の方を見た。

 彼女は棚に近寄り、段に並んだカードを興味深げにまじまじと眺める。


「これは……例えば私やリノでも使うことが出来る物なのですか?」

「誰でも使えるよ。あっ魔力はある程度必要だけど。でも竜人的にはこういうのもダメなんだろ?」


 サキ達竜人は己の体以外を戦闘に用いることは無い。

 その代わりに膨大な修行で自身をイジメ抜き鍛え上げるのだ。


「ええ。戦いは己の体のみで行う物ですから。……しかし興味は有るのです」

「そっか使わなくても知識として知るのは大事だもんな」


 剣がダメでも料理では包丁を使ったりするだろうし、普段使いならセーフなのか。

 俺は棚から今日一番最初に作ったカードを一枚抜き出し、サキに渡した。


「クロウ様、これは?」

「使ってみて。怪我とかはしないから安心して」


 彼女に手渡したのは【金星石】のカード。

 もちろんコードの入っていない素の状態の物で、効果は──


「こ、こうですか?」


 腕をいっぱいまで伸ばしてカードを体から離し、恐る恐るサキがカードを発動させようとした。

 魔力の発動に合わせ、彼女の長い髪に隠れた翼が広がる。


 カッ!!!


 サキが魔力を放ったその瞬間、薄暗い部屋を眩い光が照らした。


「っ!? め、目が!」


 事前に手で目を隠した俺の耳にサキの叫び声が聞こえた。

 あれを直接見たらしばらく目が見えないだろうな。


 光が弱まり俺は手を下げてサキを見た。

 サキが驚いた拍子に怪我でもしたら俺が嘘つきになってしまう。


 サキは何故か目を閉じたままファイティングポーズをとっていた。

 翼も出しっぱなしだし、それにまだ黄金色に輝いている。


「さっサキ?」

 俺は彼女を刺激しないようそうっと肩に触れようとした。

 だが、


「っ! そこだっ!」


 ──ヒュッ!

 サキは俺の顔めがけて拳を振り抜いた。


「なんでだ!」

「はっ!」

「やめろって」


 俺が反応するとサキは的確にその場所を殴ってくる。

 取り押さえようにも動きが早くて全然つかめない。

 喋らなくても足音で攻撃してくる。


 サキが我に帰る頃、俺の体中かすり傷まみれで。

 避け疲れて床に倒れ、息も絶え絶えな状態だった。


「っは!? すみません。つい癖がでてしまいました」

「癖って……」

「視覚を奪われるとつい音を頼りに攻撃してしまうのです」

「……なら仕方ないな」


 恥ずかし気にうつむいてそう言うサキに対し俺は乾いた笑いしか出なかった。

 変ないたずらをするのはやめよう。

 俺はそう心に誓った。


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