57 祭りの前奏
みんなで挨拶をし、俺はサキが取り分けてくれた野菜炒めを口に運んだ。
ジャキッジャキッ
一口噛む毎に口の中で元気のいい音が鳴る。
野菜の固さとか柔らかさじゃなく、こんがりとした揚げ物の衣だけを食べている気分だ。
炒めただけのように見えるけど実は揚げてあるのか?
味自体はちょっと焦げて香ばしいという事以外は問題は無い。
ソースの辛さと自然の甘みが丁度いいバランスだ。
「……どうっすか?」
自分はまだ食事に手を付けないでリノが俺に感想を聞いてきた。
リノの声に釣られてシアとサキも俺の顔を見てくる。
「美味しいよ。この……揚げ物?」
最初の言葉は本心の物。後半は自信が持てず恐る恐る。
リノは最初喜んだが、後半部分を聞いてきょとんと首を曲げた。
「あげ? 油は使ってないっすよ」
「ああいや、違う違う。食べさせてあげたいって言ったんだ。シアもサキもまだこれ食べて無いだろ? うまいから早く食えよ」
俺はリノが言葉の意味を解く前に慌てて取り繕った。
揚げ物じゃなかったのか。危ない。
リノが反応する前にサキが胸の前で指をクロスさせてくれたので気づけた。
「そうね、頂くわ。サキ貴女は?」
「私は教えながら味見をしましたので、私の分まで食べてあげてください」
サキが自分の分も食べていいと言うので、俺はシアにも断わりその料理を大皿ごと俺の前に動かした。
これだけでお腹がいっぱいになりそうだが頑張るしかない。
「それにしても」
ジャギッジャギッ
「どうしたの?」
野菜の塊を飲み下し、俺は喋るために口を開いた。
妙な食感の野菜を黙々と食べていては顎が疲れる。
適度に会話をしながらじゃないとこの山は崩せそうにない。
「こんなに野菜を食ったの久々な気がする。こっちでは監督たちに連れられて肉肉肉だったしなあ」
「あっ……」
一言喋って次の塊を口に放り込む。
俺は食べるのに集中していてサキが小さく息をのんだことに気づかなかった。
「これ……全部お肉なんすけど」
「──っぐふ! あっお肉なのか。そっか……肉、美味しいもんな」
リノに言われて料理を見るが短冊切りになった緑や赤、黄色の物体はどう見ても野菜にしか見えない。
これが肉!? だって噛んだらザクザクいうぞ。
「野菜かお肉かもわからない出来なんすか」
「美味しいのは美味しいんだぞ! ほんとに!」
「でも何食べてるか分からなかったんすよね」
「それは……ごめん」
その後、美味しいと思って食べたのは本心だとしつこく伝え続け、なんとかリノにも笑顔が戻った。
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「あっそうだリノ! 今度俺と一緒に来ないか?」
「んー? どこか行くんすかクロウっち」
料理をなんとか食べきり、みんなで食後のお茶を飲んでいたときの事。
俺は監督から言われた情報を思い出したのでリノ達に伝えることにした。
それは俺の工房が完成し、二人が帰る直前のやりとり。
『クロウ、一応材料は少し用意してやった。だが足りねえだろ?』
工房の隅に置かれた魔法石やらの道具の素材を指して監督が言った。
『うーん。そうですね……新しい物に挑戦したらかなりの数失敗するだろうし。材料代きついっすね』
俺もその素材の山を見ながら答えた。
『ガッハッハ! だろ? それでだ。これを見ろ』
『なんすかこれ。チラシ?』
監督は笑いながら、ポケットからくしゃくしゃになった紙きれを一枚出して俺にくれた。
回想終わり!
そうやって監督が俺にくれたのがこの【激レア魔法石争奪トーナメント】のチラシ。
なんでもノマオでは年に一度数日間にわたって開催される大規模なお祭りがあるらしい。
チラシの内容はその祭りの一企画で、様々な世界の魔法素材が商品のバトルトーナメントが行われるという内容だ。
その世界に一つしかない素材などもふんだんにバラまかれるとても凄いイベントなんだとか。
「明後日からナクチュ地区ってとこでお祭りが有るらしいんだ」
俺がチラシを広げながら祭りというワードを出すと、リノサキの二人は「あー」と納得して頷いた。
「もうそんな時期っすか。リノ達行った事ないんすよねー」
「街中どころかこの時期に合わせて、普段ノマオに居つかない奴らも大勢来るんです。人込みに紛れたくないので見に行こうとも思いませんでした」
リノもサキもあまりピンと来ていない様子でお茶を飲んでいる。
「そっか。じゃあ今回も無理か? 俺は商品が欲しいから一日だけ見に行くが」
商品が取れるかは別として単に世界に一つのお宝ってのを見たい。
みんなが行くならそれ以外の部分も見て回りたかったんだが。
そういえばシアが静かだ。
二人が乗り気じゃないならシアも祭りには行かないのかな。
「シアはどうする? し、シア?」
彼女の方を見た俺は驚き思わず二回名前を呼んでしまった。
シアはなんだか興奮した様子でチラシをじっと見ている。
強く握り過ぎて破れそうになってるほどだ。
怒っているのか? なんだか体が震えてるぞ。
シアは声を掛けづらい雰囲気で、俺はサキに視線で助けを求めた。
だが、サキもシアの反応に驚いた様子で。
それになんだか、やってしまったとでも言いたげに額に手を当てて首を振っている。
「ねえクロウ」
「なっなんだ?」
「これお祭り? って書いてあるけど。それってあのお祭り? ねえねえクロウ、それってあのお祭りよね!?」
「い、いや俺は知らないが」
「お祭り! 毎年やってたの!? 私知らなかったわよ! なんでサキもリノも教えてくれなかったの!」
「じゃ、じゃあシアは──」
「行くわよ!」
シアが行くなら自分らも、とリノとサキも同行することになり結局みんなで一緒にお祭りを回ることになった。




