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 全ての作業が終わると監督たちは娘に挨拶もせずに帰っていった。

 静かになった出来立ての部屋で俺は本を読むことにした。


 ここ数日、外に出ているとき以外シア達とずっと一緒にいたし一人で落ち着きたかった。

 いくら可愛くて性格もいい子達だからと言って、出会って一週間も立たないのに四六時中同じ空間に居たら疲れてしまう。


 座り心地のいい椅子で読むのはシアから借りた本。

 元の言語は分からないが、変換されて頭に入ってくる文章はとても素直な物だった。


 内容はとある架空の『華の国』を舞台にその国のお姫様と旅をしていた他国の王子様の出会いとロマンスの物語。

 悪い魔法使いが国を乗っ取ろうと謀略を巡らすが、王子の機転で救われるというストーリーラインだ。


 恋愛物はドラマや漫画でもあまり得意なジャンルでは無かったのだが、

 異世界の人が更に違う世界をイメージして書いたそれは、恋愛要素を抜きにしても面白かった。


 分厚くて三日じゃ読めないと思ったのだが案外スラスラページをめくれてしまう。

 このページを読んだら一度休もう。

 そう頭の中で決めて読むのだが、もう一ページだけ、あと一ページ。

 とついつい手を止めるタイミングを失い、長いこと読みふけってしまった。


「クロウ? お父様? まだ作業は終わらないの?」


 俺の読書を止めたのは作業を見に来たシアだった。

 部屋が完成した後俺は一度上に行ったのだが、その時は三人とも居らず俺は本だけを持って下へ戻ってきていた。


「クローウ? って終わってるじゃない。教えなさいよね」

「ごめん。シアから借りた本が面白くて集中してた」

「それならいいけど……それでどこまで読んだの?」


 シアが俺の後ろの回って手元を覗き込んでくる。

 首筋に彼女の息がかかってくすぐったい。


「まだ全然進んでないよ。王子様が魔法使いの金儲けを暴くとこ」

「あーそこね! その後のお姫様が可愛いのよ。早く読み進めなさい」


 シアも本が読めるよう軽く持ち上げると、それを確認した彼女は興奮した様子でぺちぺちと俺の頭を叩き始めた。

 彼女が左手で俺の顔を抱きながら右手で叩くせいで彼女の体がギュッと押し付けれ、柔らかな物も後頭部に当たる。


「ちゃんと読むから叩くのやめろ。それに用が有ったんじゃないのか?」

「あっそうだったわ。夕飯の準備ができたの。だからお父様達もと思ったんだけど」


 シアはそう言って体を離した。

 監督たちを探しているんだろう。


 それにしてももう夕飯の時間なのか。

 窓も時計も無いから時間の間隔が狂ってしょうがない。


「二人は作業終わったらすぐ帰っちゃったよ。酒飲みに行くんだってさ」


 俺はシアに二人の行方を教えながら本を机に置いて立ち上がる。

 シアの方を振り返ると彼女はガッカリした表情をしていた。


「どうした?」

「二人も一緒に食べると思って料理を作り過ぎたわ。クロウ、その分たくさん食べていいからね」


 作り過ぎた? 今日もシアは料理を手伝ったのか。

 そういえばさっきリノも居なかった。

 きっと今日も張り切って手伝ったんだろうな……今日の空腹具合はいつもと同じくらいだが。


「シア」

「なに?」


 俺は先に部屋から出ようとしたシアを呼び止める。

 首を傾げながら振り向いた彼女に俺は、とびきりの笑顔でどや顔をした。


「俺は昨日よりも腹減ってるからそれでも足りないかもな」

「……? ふふっ期待してるわ。私ももっと料理の練習がしたいもの、おかわり作れって言ってもいいからね?」


 ────────────



 二階に上がり、シアの部屋ではなく食堂に行く。

 食堂ではリノとサキが一緒に座って待っていて、俺たちが入るとサキは微笑んでくれたが、

 リノは俺たち二人だけと気づいて落ち込んでしまった。


 二人の前のテーブルには既に料理が並んでいて、品数も昨日より3つほど多い。

 それだけ頑張って作ったんだろう。


「リノ、今日も料理手伝ったんだって?」


 俺は二人の所へいき、腰を下ろしながら話しかけた。

 リノは上の空で無反応だったが、サキに背中を叩かれるとようやく俺を見た。


「クロウっち……リノいっぱい頑張ったっすよ。今日は火も使ったっす」


 リノは声にも元気がなく、喋りながら何度もため息をつく。


「へー、どれがその料理なんだ?」

「これっす」


 リノはたくさん並んだ料理のうち、少し焦げ目が目立つ野菜炒めの様な物を指した。

 材料も不揃いな感じだ。

 切るところから全部リノがやったのかな。


「シア、もう食べてもいいか? 腹減ってさ」


 俺は隣に座ったシアに確認を取る。

 一応彼女がここの主なのだから、彼女が良いというまでは料理に手を付けない。


「もちろん。サキ、リノ二人とも良いわよね?」

「ええ冷める前に食べるのが良いと思います」


 シアとサキはすぐに頷いたが、リノは唇を曲げたまま。


「リノは?」

「リノだってせっかく温かい料理したんすから、温かいうちに食べてほしいっすよ」


「なら早く食べようぜ。もう取ってもいいか?」

「クロウ、挨拶くらいしなさい」


 俺が料理に手を伸ばそうとしたら、シアに手を叩かれた。

 だが、サキが代わりにリノが作った炒め物を皿に取ってくれた。


「クロウ様、私が取りましょう」

「サキ! 貴女まで! もう」


「なら早く挨拶してくれよ。ありがとサキ」


 俺は皿を受け取ってサキに礼を言う。

 うん。いい匂いだ。


「……はぁ。じゃあほら手を合わせて」

「「「いただきます!」」」


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