55 完成! 自分だけの工房
監督が持って行った黒い布は対魔力繊維で編まれた保護シート。
床や壁に先に張ることにより、それ以上先へ魔力が漏れていかないようになる道具だ。
広い横穴全体の床や壁に布を貼り、杭を打って固定する。
床も壁もデコボコだが気にしない。
少し休んだ俺たちもその手伝いをし、布貼りはすぐに終わる。
白い石がむき出しだった空間を黒い布が一面覆った状態は何となく作業が進んだ感が出ていい。
「全部貼ったな? んじゃあ固めるぞ。枠は八割でいいな」
「了解」
枠というのは空間に対しての部屋の大きさの事。
今回それが八割という事は残りの二割分は壁として部屋を補強する空間になる。
建材の中から片手で掴める太さの鉄骨を選んで部屋に運び入れ、壁や天井にそって組み合わせていく。
だいたい形が出来上がれば、その鉄骨と元々の壁との隙間を埋めるように緩衝材を詰め込む。
「よしっ流してくれ」
「はーい」
監督に言われ、俺は練ったコンクリートの様な物を機械で壁の鉄骨へと流していく。
部屋の反対ではチャンプさんも同じ作業をしていて、壁を互いに半周ずつ固めてた。
天井までの高さは4メートルくらい有る。
なので上部へ塗るために俺は台を使い、一か所ずつそれを動かしながらの作業だった。
あらかた塗り表面をコテでさっと撫でたら、また別の機械を部屋に近づける。
長いコードが二本伸びた大型発電機の様な機械で、コードの先から特殊な魔力を出す。
入り口付近へその機械を運ぶと、俺は入り口両サイドの壁へそのコードを刺した。
「固めますよー?」
「チャンプ! そっちはどうだ」
「おォーういいぞォー!」
「クロウ! やっていいぞ!」
俺は機械のメインスイッチ前に立って部屋の中の監督に声をかけた。
これを使うと壁はゲル状から一気に固まってしまう。
その時に生き物が触れていると体まで固まって大変なことになる。
監督たちの返事をちゃんと聞いてから俺はスイッチを入れた。
ジュッ!
スイッチを入れた瞬間、熱せられたフライパンに水滴が落ちたような音がした。
俺はその音を聞くとすぐにスイッチを切る。
固める作業はこれで終わり。
この一瞬でドロドロだった液体は監督がハンマーで殴っても壊れない強固な壁になった。
同じ要領で床と天井も固める。
部屋の熱が冷めるのを待ってから、壁床天井全ての表面を大きなやすりで磨く。
どこも滑らかになれば部屋作りはお終いだ。
ここまで来れば内装なんてすぐ済む。
道具を作るための器具を置く机と棚を組み立てて並べるだけ。
「……こんなもんだな。クロウどうだ?」
「最高ですよ! ありがとうございます! 監督、チャンプさん!」
最後の釘を打った金づちを床に置いて監督が俺の方を見た。
聞かれた俺は作業中もずっと見たていた部屋をもう一度じっくりと見まわし、笑顔で監督に礼を言った。
「ガッハッハッハ! ならいい。しっかり俺の姫様の為にこの部屋活かして見せろよ」
「へへっ任せてください! このダンジョン守って見せます」
笑顔の俺に監督もニカッと笑顔で笑い返してくれる。
ここまでの物を用意されたら俺だって気合が入る。
今すぐにでも道具制作を始めたくてウズウズするくらいだ。
「クぅロウ! こォこの道具はァ俺が選んだ物だァ。こゥれだけあァりゃあなァんでも作れる」
「見たこと無いのが沢山有るんですが説明書って有るんですか?」
俺が機械を弄っていると今度はチャンプさんが来た。
俺はいくつかの装置を指さし、彼に使い方を聞いた。
ここには大きな装置が8個並んでいるが触ったことの有るものは3つしかない。
使ったことが有るのは次の物。
1つ目、様々な魔法石を砕いて中に封じられていた魔法を取り出すことが出来る機械群。
透明なカバーで覆われた石臼みたいな物で、ハンドルを回すと魔法石の粉が出てくる。
その粉に刺激を加えると石に入っていた魔法が解き放たれる。
用途としては形を自由に変えられるので弾丸等に加工しやすい。
2つ目、術コードをキーボードで打ちながら紙に魔力を送りマジックカードを作る機械。
ブラウン管モニタの様な大きなガラスが特徴の機械。
付属品として分厚い魔法大全という辞典が有り、そこに書かれた魔法ならばどんな術でも再現ができる。
ただし難点として、キーボードのキー数も術コードも信じられないくらいに数が多い。
文字を読めるとしても打つのがとても面倒で嫌になる。
3つ目、魔力を注入させ物質を変化させる機械。
これは比較的簡単に使える機械だ。
形は漏斗の付いた花瓶。
使い方は下の瓶に魔力を付与したい道具を入れて上から魔力や薬品を注ぐだけ。
それでお手軽にエンチャントできる。
「おォう? ぜえェんぶそこに書ァいてある。読ォんでおォけ。知ィらねえで使ったらパアアン! 爆発するぞ」
「爆発はいやっすね……読み切ってから触ることにします。どれですってあれ?」
爆破は昨日体感したししばらくは味わいたくない。
説明書は大事にしよう。
そう思ってチャンプさんが指す方を見ると、さっきシアに渡された本よりも厚い物が機械の数だけ有った。
絶対こんなに書くこと無いだろ……
電化製品もそうなんだがどうせ使い方なんて適当で大丈夫だって。
後で少し触ってみるか。
「クロウ! 読まずに触ってダンジョン消滅なんかやってみろ。死んでも蘇らせて殺すぞ? ガッハッハ!」
「は、はっはは」
俺の考えを見透かしたように監督が釘をさす。
さっきみたいに笑ってるが今は目が全然笑ってない。
このおっさんなら多分きっとやるんだろう。
俺が新しい機械を触るのはだいぶ遠い未来のことだな。
威圧するような監督の笑い声に、かき消されそうな愛想笑いをすることしか出来なかった。




