54 魔物式掘削方
『クロウ! くっちゃべってねえでどけ! 荷物で潰されても知らねえぞ』
シアと話していたら監督に怒られてしまった。
なので急いでゲートの前を開け、荷物受け入れのスペースを確保する。
「オッケーっす。チャンプさんまだみたいなんで軽いのから寄こしてください」
『おーう。待ってろ……ほれ落とすなよ』
ゲートから監督の赤くて太い腕がニュッと伸びてきた。
その手にちょこんと乗った魔法石。
置く場所に困る貴重な物を一番に寄こしたな。
魔法石は人の頭ほどの大きさで、丸い本体に金属の輪が嵌められその輪から細い足が5本生えている。
俺はそれを来た方向とは逆でなるべく遠いところに置いた。
『次行くぞ! 遅れんな!』
「了解」
その後も連続で魔法石が9個送られてきた。
後でミスが無いようそれらを全部まとめて一か所に固めると、ようやくチャンプさんが到着した。
「監督ゥ、おォれも着いたぞォ」
『よおしっじゃあ交互にやるからな。壊すなよ!』
「チャンプさん、俺こっちに小さいの置くんでゲートの反対に大きいの置いてもらえます?」
「んんゥ? あァあいいぞ」
壁に貼りつくように置いたゲート。
それから左の方に俺が置いた魔法石。
右は今チャンプさんが歩いてきた方。
俺はチャンプさんに資材の置き場を左右で分けようと提案した。
広い場所ならまとめてもいいが、スペースに限りがある廊下で一か所に全部まとめると、小さい物が見えなくなり事故に繋がるかもしれない。
チャンプさんにそれを伝え左右で分かれて荷物を受け取る。
外からダンジョン内に運ぶよりはずいぶん早く作業は終わった。
監督が入り口からここまで歩いてくる間、俺は青い大きなオークと二人のんびり座って待っていた。
「チャンプさん」
「なァんだ?」
待ってる間に俺はチャンプさんにリノの事を聞いておこうと思いたった。
このままリノと仲良くなっていけば、いずれはチャンプさんとも家族になるんだし。
「俺……えーっとなんて言えば良いんだろう」
「あァあ? おめえ大丈夫かァ?」
チャンプさんの私生活なんて今まで聞いたことないからな。
子供の話しも彼から聞いてないのに、あんたの娘はいただいた! なんて言ったら下手したら殺されるだろ。
「監督から俺がなんでここに住むことになったかって聞きました?」
「そォんなことかァ。監督ゥのむかァしからの願いだァからな」
「願い? シアの事っすか?」
「そォうだ。ゴォラの娘とリノもなァ。クッククッ! あァいつらがこォんな小さいこォろからの話しだァ」
チャンプさんは笑いながら「こんなに小さい頃」と太い指で宙をつまむ。
俺は彼の口からリノの名前が出て少しほっとした。
もしかしたらかなり仲が悪いのかと心配していたから。
「どんな話しなんすか?」
「クッハハハハハハ! おォめえが、酒ェ飲みに付き合ったらァ。嫌ァになるほど聞かされる」
「内緒じゃないなら今教えてくれても良いじゃないっすか」
「ダぁメだ。本人かァら聞けェ」
監督が来るまで何度も聞いたが結局チャンプさんは教えてくれなかった。
昨日ダンジョンで聞いた話とはまた違う話なんだろうか?
凄く気になったが監督が来てしまった。
本人にも聞いてみたんだが、帰ってきた反応はチャンプさんとほぼ一緒で、
素面で言う事じゃねえとしか答えてくれなかった。
これで休憩は終わり。そしていよいよ俺の工房作りが始まる。
監督が廊下の壁をドンドン拳で叩いて歩いていく。そしてある場所で止まった。
そこを指でトントンと更に叩き、ここだと一言呟く。
「ここにするか。チャンプ! 壁開けてくれ」
「おォう。まァかせろ」
こちらを振り向いて監督が言うと、チャンプさんは持ってきた作業道具から一つ機械を取り出した。
それは刃の無いチェーンソーの様な物で壁を切るための道具だ。
「深ァさはどォうする?」
「あーそうだな。階段まで届かねえくらいでギリギリまで広くしてくれ」
「わァかった!」
チャンプさんはその機械を監督が指で叩いた場所に当てる。
そして魔力を込めてスターターロープを引く。
ゴウン! ゴウン! ゴウン!
チャンプさんが力いっぱい紐を引く度機械から爆発音が響く。
中に仕込まれた魔法石を反応させ動力を作り出しているのだ。
ゴウン! ゴウン! ゴウン! ゴッゴッゴッゴゴゴゴゴ!
何度も紐を引くと機械の音が変わった。
爆発音から振動音になる。
それ以外にも変化が有った。
機械を当てた壁から切りくずが飛び散り始めた。
顔に大きな保護ゴーグルをつけたチャンプさんが粉に塗れていく。
「クロウ、粉砕機の準備しろ」
「はーい」
チャンプさんの作業が始まると、監督が俺にも指示を出す。
今チャンプさんは廊下の壁を切り取っている。
それは切り終わったら抜き出すのだが、大きくて邪魔になる。
そこで使うのがこの粉砕機だ。
形はタイヤの付いた大きなクーラーボックスで、その蓋から太く長い管が伸びている。
この管に出たゴミを入れると全部まとめて細かく砕いてくれるという機械だ。
管の太さは直径50センチくらい。
そして蛇腹の管は伸ばしたり曲げたりすることが出来る。
俺はゴーグルを付けてからチャンプさんの横に機械を運ぶと、管の横にあるスイッチを押した。
掃除機の様な吸引音がし始める。
場所を開けてくれたチャンプさんの代わりに壁に粉砕機の管を当てると、ズボッズボッと大きな塊が吸い込まれていった。
手ごたえが無くなるまでそのまま管を抑えていると、少しずつ反応が鈍くなってきた。
「はいオッケーっす」
「よしっ次だ」
管を取ると、俺ならなんとか這って入れそうな穴が出来ていた。
奥がどこまで行ったかは暗くてわからない。
チャンプさんがその周辺をドンドン切っていく間、俺は粉砕機の袋を交換する等の手伝いをした。
そのまま黙々と作業をし、粉の詰まった袋が20を超えたあたりで監督からストップがかかる。
壁が有った所には、俺どころか監督がジャンプしても大丈夫なほど広い空間が出来ていた。
「ちょっと広すぎじゃないっすか?」
「緩衝材入れるからこれでいいんだよ。んじゃあおめえら少し休んでろ」
監督は俺たちに休むよう言うと、大きな布を持って中へと入っていった。




