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53 工房建設

 

「おいクロウ、ゲート開ける手伝いしろ」

「いいっすよ。どこに繋げればいいんすか?」


 監督がテレビモニタの様な薄い黒の板を持ってきた。

 それは離れた特定の地点同士を物理的に繋げる魔力ゲート。

 異世界からこのノマオに出入りするためにも使われるこれは様々な応用品が作られている。


 以前俺が使った使い切りのゲートカードもその内の一つ。

 今回監督が持ってきたこれはダンジョン内限定で使える省エネタイプだ。


 同じダンジョン内にただ置いて魔力を流せば、いつまでもその二点を繋げ続ける。

 しかし問題点として大きさがとても小さい。


 馬鹿みたいな体をしている監督やチャンプさんは論外として、普通の人型体形の俺でも通るのは一苦労だ。

 だが、それでも細長い木材や袋に入った重たい石膏せっこうを運ぶのに重宝する。


「この階段の裏だ。そこにお前の工房を作ってやる」

「工房!? マジっすか! ありがとうございます」


 工房というのは魔力の込められた道具を作ったりする場所の事。

 俺が龍と戦わされた時に使った物は全部チャンプさんの工房で一緒に作った。

 作り方はだいたい覚えているので、設備さえあればまた同じような物を作ることが出来る。


 俺の工房を作ってくれると聞いて、俺は顔がにやけるのを抑えきれなかった。

 だって作りたい物のアイデアはいくらでもある。


 ただ他人の工房をいつまでも占領してるのは気が引けたからあれだけしか作れなかった。

 こんな近くに工房が出来たら一日中でも篭っていられる。


「なんだ今日はクロウの部屋を作りに来たのね」


 俺が喜んでいると、シアはつまらなそうに鼻を鳴らした。

 ここは彼女のためのダンジョンだなので、今日監督たちが来た理由がシアの為だったとしても俺は不満も文句もなかった、


 だがシアはこれ以上どんな部屋を求めていたんだろうか。

 建物に入るものの大半が有ると思うんだが。


「お前にも今度新しい部屋作ってやるからいい子で我慢してくれよ」

「私は別に……催促するつもりは無いわ」

「ガッハッハ! わかってるわかってる。俺が作ってやりてえんだよ」

「それならいいけど」


「じゃあ俺向こうに行ってきますね」

「おう頼んだぞ」


 俺はシア達親子の微笑ましいやり取りを見ながらゲートを持ち上げた。

 サイズが縦横1メートルくらいのゲートは重さが3キロ程で持ち運ぶのは簡単だ。


 足元が滑る石なのでうっかり転んで割らないよう気を付けながら走って運ぶ。

 簡単に階段裏と言っても裏に回る為の廊下は50メートル以上もある。


 直線の廊下を走り抜け、右へ曲がる。

 ここを左に曲がると寝室の有る二階へ行く階段が隠された部屋だ。


「ここら辺でいいかな」


 俺は右に曲がった後少し歩き、ゲートを床に置いて魔力を込めた。

 ゲート同士を繋げるのにはけっこうコツがいる。

 繋げるための端末が二つしか無いとしても魔力を入れただけでは接続されない。


 言葉では伝えづらいのだが、もう一つのゲートが有る方向を意識して、

 暗闇の中、部屋の電気ヒモを探して手を伸ばす感覚で魔力を強める。

 そうするといつの間にかもう一方のゲートと繋がるのだ。


「あ、あー。もしもーし。聞こえますかー?」

『おぉう! ばっちしダ。見えるかぁ?』

「はいオッケーですチャンプさん」


 魔力が繋がった黒い板に声をかけると、そこからチャンプさんの声が聞こえた。

 そしてブゥンと機械的な音が鳴り、向こうの様子が映った。


「一度そっちに行きますね」

『わぁかったぁ』


 俺はゲートに頭を入れ、体全体を通した。


「うん問題ないっすね」


 体をパンパンと叩いて立ち上がり、何もおかしい場所が無いことを確認する。

 監督に終わったことを伝えると、監督はグッと親指を立てニッと笑う。


 ちなみに、大きな木材やらは俺じゃ持てないので、開通を確認するとチャンプさんは資材を受け取るために向こうへ歩いて行った。


「よおしっんじゃあ、やるか」

「はーい。あっシアはどうする? まだ見てるか?」


 向こうで作業をするためゲートへ入ろうとしたら、監督の隣にいるシアと目が有った。

 そういえばシアはまだ見てるのか?

 これから俺たちは忙しくなるし、監督はシアに作業を手伝わせないだろうから彼女は暇になるはずだ。


「ううん上に戻るわ。お父様あまりクロウに無理を言わないでよね」

「おいおい父ちゃんよりクロウの心配か?」

「当然よ。私の旦那様なんだから。クロウ、私もゲートで向こうに行くから手を貸してちょうだい」


 俺に可愛くウィンクしてそんなことを言うシア。

 彼女はスッと俺の方に腕を伸ばし、手を引いてエスコートしろと無言でアピールしてくる。


「はいはい。仰せのままにお姫様」

「はい、は一回。それにもっと嬉しそうに言いなさい。それじゃあお父様、また後で」


 俺は腰を屈めてゲートをくぐってしゃがんだまま腕と頭だけ監督たちの方へ出す。

 伸ばした腕でシアの手を握り、彼女が転ばないようゆっくりと自分の方へ導く。


「きゃっ!」「おっとっと」


 シアがゲートを潜る瞬間、彼女は足を滑らせたようでゲートから勢いよく飛び出してきた。

 しゃがんだ俺の胸に飛び込んできたシアを抱き留め、彼女を抱きしめたまま俺は立ち上がる。

 立ち上がると彼女はすぐ俺から体を離し。


 一瞬だったが確かに感じられたシアの温かく柔らかな感触と甘い匂い。

 これだけでこれからの作業を頑張れそうだ。


「クロウっ私が転んだのがそんなに楽しいわけ?」

「いや幸せだと思っただけ。シアいい匂いだし」


「!? へ、変なこと言わないで。私は上で待ってるから早く終わらせなさいよ」

「本も読まなきゃダメだからな」

「そうよ。一日も期限は伸びないんだからね」


 シアは何度か頷くと二階へ戻っていった。



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