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俺は読んでいた本を閉じ、ふぅーと長く息を吐いた。
はっきりと全文読んだわけじゃ無いけど、サキがこれだけを参考に昨日のアレを子供を作る行為と思っているならたぶん勘違いだ。
俺は胸をなでおろした。
後はそれをサキに伝えるだけだが……そういえばシアと一緒に学んでると言ってたが彼女も同じ認識なんだろうか。
「サキ、これってシアも読んでるのか?」
「いえ、姫様にもお勧めしてるのですが、どうにも読んでくださらなくて。とても為になる素晴らしい本なのですが」
シアの事を聞くと、サキは少し寂しそうな顔をした。
まあこれって大衆小説みたいな物だし趣味が分かれても仕方ないよな。
「じゃあ一緒に勉強するときは何を教科書にしてるんだ」
「そうですね……二人同時に見ても分かりやすい絵付きの本が多いです」
振り返って棚を見ながらサキが言う。
参考書といって小説が出てきた。
だからそれも学校で使うような物じゃなく、イラストか写真付きの雑誌なんじゃないか。
「そっちの奴にも昨日のやり方が書いてあったのか?」
「そちらは主に誘い方など──あっいえ、これ以上はお教えできません」
顎に指をあて記憶を探るサキだったが、急に慌てて口を閉じた。
「ん? なんでだ?」
「貴方様といえど私と姫様のすべてをお話しする訳にはいきません!」
「うーん、まあそれもそうか」
確かに何でもかんでも話すのは家族でもおかしいもんな。
それもかなりデリケートな話だし。
「あのクロウ様、そろそろ私は朝食の支度をしなければいけないのですが」
「あっごめんな朝から。それで結論なんだが、昨日言った俺が知ってる方法の物が正しいと思うんだ」
「なんの事ですか?」
サキは首をかしげる。
今何のために本を見せてもらってるか言ってなかったっけ?
「子供の作り方の話し。昨日のアレじゃたぶん作れないよ」
「どういうことですか」
「どういうも何も」
真面目な顔でどこが違うのか聞いてくるサキ。
俺はとても困った。アレのやり方を説明するなんて恥ずかしくてしょうがない。
なるべくソフトな言葉を選んで説明すること数分、なんとかざっくりとした大枠を彼女に理解してもらえた。
「なら私は昨日あんな啖呵を切っておいて大言だったというのですか!?」
何度も頷きながら話を聞き、気になる点も全部遠慮なく俺に質問したサキは会話が途切れると頭を抱えた。
長い金髪が机の上に広がる。
怒った姿はもう何回か見たが、恥ずかしがって騒いでるサキを見るのは初めてだ。
「まあ昨日の部屋でのことはシア達は知らないわけだし、大丈夫じゃないか?」
「ダメですよ! きっと聞かれます。いえ、姫様に知られるのはまだ良いのです。問題はリノにまでこの事が知れたらと思うと」
慰めの言葉をかけてみるが彼女は頭を振るばかり。
そうか、リノも昨日反対してたし夜の話しを聞いてくる可能性が高いのか。
「ごまかせば良いじゃないか。今口裏合わせの内容考えようぜ」
「……リノは変に感が効く子です。騙そう、隠そうとすればすぐバレます」
「じゃあどうするんだ? 後は素直に言うしかないだろ」
「…………記憶を奪います」
イヤイヤと頭を振っていたサキが顔を上げた。
「は? なんて言った?」
「二人はまだ眠っているはず。今強襲し昨夜の記憶を消します」
物騒なことを言ってサキは拳に魔力を纏わせる。
「いやいやそれはダメだろ。ちょっと待てって」
「待てません! こうしてる間に二人は起きてしまう」
座ったまま翼を広げ、今にも飛び立ちそうなサキ。
俺は彼女が飛び上がるよりも先に席を立って彼女の両肩を抑えた。
服の上からでも彼女の体が汗ばんでいるのがわかる。
それほど焦っているということだ。
下に押さえつけようとする俺と飛ぼうとするサキの力が拮抗し机や椅子が震える。
「俺が考えておくから! なっ! だから待てって」
「クロウ様が? いえダメです、自分の勘違いなのだから責任を取って記憶を回収します!」
「もう他人の記憶なんだから勝手に奪う方がダメだろ! 俺に任せろって」
「ですが! これでは姉としての尊厳が!」
「俺はお前らの家族なんだろ。良いから任せろ」
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「ではクロウ様、お願いします」
「朝ご飯楽しみにしてるよ」
なんとかサキを説き伏せ、キッチンへ向かわせる事に成功した。
後はシア達がサキに会う前に何か理由を考えるだけなんだが。
そもそも何をごまかせばいいんだっけ?
サキの暴走があまりにも酷かったせいで彼女的にどこがダメなポイントだったかを聞いてない。
『張り切って準備をしておいて実はやり方を知らなかった』
これが恥ずかしいと思う理由で良いんだよな。
これを誤魔化さないで言っても、馬鹿にもされない言い訳を考えないとダメなのか。
サキが置いて行った小説を読みながら図書室で考えていると、扉が開いた。
「誰だ? シア? リノ?」
「あら、クロウ。どうして朝早くからこんな場所に?」
扉を開けて入ってきたのはシアだった。
彼女は着替えを済ませ、数冊の本を抱えていた。
「俺はサキに本を紹介してもらったんだよ。シアこそどうしたんだ?」
「部屋に置いていた本を読んでしまったから他の本を取りに来たのよ。あら、それサキのお気に入りの本ね」
「分かるのか? サキはシアがこの本を読まないって悲しんでたが」
「知ってるわよ。本だけなら私の方があの子より読むもの。その本はちょっと退屈なのよね」
そう言いながら、シアは持ってきた本を棚にしまい。
別の本を抜き取るとそれを持って俺が座るテーブルに置いた。




